Aランクの実力 2
外壁の外に突如出現した黒い球体が崩れ去っていく。
それはアーグの魔力切れを意味していた。
そうして、崩れていったところからアーグが倒れていた。
「やっぱり無茶したな」
ポツリとその言葉を吐いたのは刀を持った男、クドーだった。
彼はアーグの生み出した黒い球体の解除を見計らって近くまで来ていたのだ。
「アーグのあの空間でも4体がせいぜいか…」
「あれだけの魔法で4体…ですか?」
クドーの後ろには実力的にはそんなに高くない三人の冒険者がおり、そのリーダーが驚いたようにつぶやいていた。
「とりあえず、予定通りだ。
お前らはアーグを頼んだ」
クドーはそう言ってアーグの首根っこをつかむように服を持って三人の冒険者に渡す。
そのタイミングだった。
「クドーさん!」
一体の魔物がクドー達に襲いかかる。
丁度アーグを渡した時のためにクドーはひどく無防備な状態にある。
そう、誰もが間に合わないと思った。
「大丈夫だ」
その瞬間には魔物には一文字の傷ができていた。
絶叫を上げながら魔物は下がり回り込むように走り回る。
「す、すげー」
「驚いていないで早く行け。
邪魔になる」
「わ、わかった!」
クドーの一言に冒険者達は急いで街の方に向かって走り出す。
が、魔物はそこを狙って襲いかかる。
それは先程クドーが傷をつけたものだったが傷は浅いようで動きに淀みは無い。
「厄介だな」
クドーはそう言って刀を抜刀する。
それと共にもう一閃の傷が魔物に出来るが今度はそれで止まらない。
しかし、それによって魔物の動きを一瞬だけ遅らせることができて被害を無くした。
「早く逃げろ。
危うくお前達も斬りかねない」
「は、はい!
みんな行くぞ!」
クドーの言葉にいち早く反応したリーダーはクドーの動きに見惚れているほか2人を正気に戻して逃げて行く。
クドーは逃げて行く瞬間を見ながら刀を納刀、そして抜刀を繰り返して少しずつ魔物の表面を削って行く。
そして、ある程度の距離が三人とついた頃にクドーは抜刀した状態のままで構える。
そして、クドーは目を瞑った。
その時、運が悪くも複数体の魔物がアーグの空間に捕らわれた状態の副作用が治り、正気に戻り目先にいるクドーに襲いかかる。
しかし、それでもクドーは構えたまま動かなかった。
そして、魔物の攻撃がたどり着く瞬間、それは起きる。
クドーは軽く体を曲げて通すように刀を振る…いや、置くという方が正しいだろう。
力を抜き、体の動きだけで起きる力に逆らわず、それ以外の力は使わずに刀を添えることだけに意識をして振っているのだ。
それがクドーの持つただ一つの力。
それは刀を通す場所、力、向きなどの要因を完璧に把握して行うことにより絶大…いや、刀本来の斬れ味を作り出すことができる。
そして、刀は最小限の摩耗で長持ちをさせることができるのだ。
複数体の魔物の悲鳴が響き渡る。
しかし、残った魔物は再生能力もあるようで簡単には終わることはない。
しかし、依然としてクドーは目を瞑ったまま構える。
そして、正確に攻撃のくる位置、各魔物の位置、様子を見ているものの位置と把握をして、極力戦力を削るように満遍なく攻撃していく。
そこに焦りはなく、ゆっくりと戦う姿は余裕があるようにも見える。
しかし、クドーという男は元来より平凡な男であった。
他のAランクのようなユニークスキルは持っておらず己の研鑽により上り詰めたと言ってもいいものがあった。
その結果がいつしかクドー本人としてのユニークスキルとして現れていたのだ。
『心眼』
『明鏡止水』
その二つのユニークスキルがクドーの全てを表している。
『心眼』とは日本本来の意味なら物事の真実を掴むという意味である。
たしかにその意味合いもあるのだろう。
しかし、クドーの持つ力はその程度ではない。
読んで字の如く、心の目で見るような能力なのだ。
『空間感知』『気配感知』『魔力感知』『音源感知』『熱源感知』『光源感知』などなどと数多の感知系能力を融合させたスキルが心眼なのである。
そして『明鏡止水』。
これは一切の淀みのないものを表すスキル。
『精神統一』『自制心』『瞑想』『高速思考』『並列思考』『演算』などと言ってしまえば仙人が持つようなスキルである。
それらのスキルはクドーが剣術や刀術を習ってから独学でひたすら行ってきたことであり、クドーの努力の総体とも言えるものである。
故に今のクドーには必要な音以外全て聞こえず、目を開けなくても全て状況を理解できる。
そして、雑念が入らないが故に正確な動きが可能となっていた。
しかし、それにもデメリットはある。
現在、クドーは僅か数十分しか戦闘を行っていない。
しかし、それでもクドー本人の疲弊具合が半端ないのだ。
『明鏡止水』によっていくら疲れを感じなくなっているとは言えでも精神的には疲弊していく。
そして、精神的に体力が尽きればこれは終わる。
他にも敵味方の区別が付きにくいのだ。
色々な方面からいくら感知をできるとは言えでもとんでもない数の情報を同時に処理しなくてはならない。
いくら、『明鏡止水』が優秀とは言えでも限りが出てきて間違って仲間を斬ってしまう可能性があるのだ。
故にクドーは周りが離れるを待ってから戦った。
魔物はクドーに襲いかかるもクドーはそれを紙一重、要するに最小限の動きで避けて隙を見てもらい部分に刀をなぞる。
それを延々と続けた戦いを行い続けた。
数時間ほど経った頃。
クドーの力じゃ僅かに魔物には届かずにそして、少しずつであるが傷が増えてきていた。
クドーは僅かに舌打ちを漏らすが傷が治るわけでもない。
それでもクドーは一歩引かずに戦い続ける。
一瞬舌打ちをした際に起きた動きのムラもすぐに消えて刀を振るう。
何も考えずにひたすら…ひたすら、汗は大量に出て息は切れている。
ただ、疲れも何も感じない中でクドーは少しずつ体を摩耗させていく。
そして、それから二時間、クドーが戦い始めてから約半日と言ったところだろう。
クドーは精神的な疲労が溜まり、とうとうと膝をつく。
それと同時に魔物のブレスが迫ってくる。
クドーは反射的に転がり込みブレスを避けるが目の前には獣型の魔獣が一体、前足の一本を振り上げていた。
「グッ…!」
ここで初めてクドーは魔物の一撃をまともに受けて吹き飛ばされる。
クドーは何とかもがくが立ち上がることができない。
クドーの弱点はもう一つあった。
それは究極的な集中力によって疲れや痛みを忘れている。
故に自身の疲労具合や傷のひどさに気付かずに気が付けば限界という状態なのだ。
故にクドーは仲間の支援は必須、だが、クドーの技が諸刃の剣のようなもの故に仲間のいるところでは本気は出さない。
それがクドーの最大の弱点。
(どうする?どうやったらもう少し持たせられる?)
目の前に迫ってくる魔物を前にクドーはひたすら考えて立ち上がろうとしていた。
刀を握り直そうとするが力が入らずにクドーは刀を落としてしまう。
「時間は…」
最後の希望、クドーにとってそれに縋るしかなかった。
自分が耐える時間が終われば次はコーネが前線に立つ。
(それまで耐える…いや、刺し違える覚悟で行けば)
クドーは最後の力を振り絞って立ち上がり刀を構える。
最後の一閃。
クドーの今持つ技術や経験の集大成、故の最後のスキル。
『鏡天神楽流 刀術 改』
クドーの教わった鏡天神楽の流派をクドーが改良し、洗練させたことにより作られたスキル。
奥技『尖華 改』
その一閃がクドーの身を削る。
血を吐き、身体中から血が吹き出す。
しかし、それを代償とする力がこの奥技にはあった。
たった一撃の攻撃は二、三体の魔物を屠る。
そして、この奥技の名前の由来がクドーの体にはあった。
使い手本人から吹き出す血はあたかも華のようだと誰かが言い、奥技となった。
しかし、この技が使えるのは一度きり。
いや、むしろこの技を使えばそのものに後はない。
一撃必殺の究極奥技と称される技。
「…がはっ…はぁはぁ、何とか…削ったぞ」
クドーはそう言って意識を落とす。
そこに魔物が群がろうとした時、それは起きた。
無数の光がクドーを守るように集まってきたのだ。
魔物は気にせずにクドーに襲いかかる。
それと同時に光が魔物に向かって電撃を放つ。
威力は高く、魔物達を一瞬だけ硬直させる。
「どうですか、私の作った擬似精霊は?
補助魔法とは強くすることだけではないんですよ」
声がする。
それは硬直した魔物を縫うように聞こえてくる。
そして、その声の主はクドーのすぐそばに立つ。
そこにいたのはコーネだった。
「例えば…」
僅かな微笑を浮かべて杖を地面につく。
その瞬間、擬似精霊達は杖に集まり光をより大きくする。
そして、コーネが杖を軽く魔物に向けた瞬間、先程の電撃などとは比べものにならない雷が放たれる。
それは魔物達を確実に拘束して表皮を焦がしていく。
「持ち時間は5分…それまでにクドーを助ける」
コーネはそう言うと魔力を練り始める。
治癒魔法の行使のためにまずコーネはクドーに魔力を送る。
そうすることにより傷の箇所などを確かめるのだ。
それに掛かった時間は3分、それと同時に治癒魔法を行使する。
クドーの傷は少しずつ塞がっていくが必要な魔力を練りきれていないためか治りが遅い。
(あと1分もない。
擬似精霊を作るにしてもクドーが近くにいると…)
コーネは考える。
そもそもがコーネの隠してきたAランクとしての手札である『擬似精霊作成』は大量の魔力を必要とすると同時に周りに余波でその属性に合わせた波動が放たれるのだ。
それはコーネが全力で掛けた結界でも防ぐことは困難であり、術者であるコーネ以外の人は確実にその余波の影響を大きく受けるのだ。
さらに擬似精霊は本来の精霊とは違うため顕現できる時間が極めて少ないのもあり、使い辛いのである。
そうして、コーネが治癒を専念してる間に残り時間が10秒を切る。
(もう、間に合わな…)
コーネが頑張って魔力を焦って引き出そうとしたタイミングだった。
「ある程度…治った…俺……いいから…かり、逃げるから…安心…ろ」
クドーは意識を戻して立ち上がったのだ。
そして、ゆっくりと歩き出す。
「無茶よ!
骨が何本もいってる、それに身体中からの出血は体内でも起きてるのよ!」
コーネがそう叫んだタイミングだった。
魔物達の拘束が解けて襲いかかる。
コーネはすぐに自分とクドーに強化魔法を掛けて避ける。
しかし、クドーをかばう余裕はなくコーネは内心焦っていた。
「クドー!」
コーネはそう叫んでクドーがいた場所を見る。
すると、そこには刀で何とか応戦しているクドーの姿だった。
「安心…ろ。足手まとい…なるつも…ない」
クドーはそう言ってゆっくりと撤退をしながら襲ってくる魔物達の攻撃を刀で受けたり流したりしていく。
「もっと自分を大切にしてもらいたいものね」
コーネはそう呟くと吹っ切れたように微笑む。
そして、再び魔力を練る。
「私もたまには無茶しよっかな?」
その瞬間、コーネの杖に炎が付与される。
そして、その炎を極限までコーネが収束されると赤い光が辺りに舞い出す。
それの余波に何体かの魔物が燃え上がる。
クドーは規格外なことに余波を切ったようだ。
しかし、それでもクドーの体の一部が火傷しており、クドー顔が歪む。
「準備できたわね。
さて、ここからは逃げられると思わないこと」
コーネはそう言ってニッコリと笑う。
それを見たクドーは顔を引きつらせていた。
(やばい、あれはコーネのたかが外れてる…)
その瞬間、辺り一帯に炎の柱ができる。
それは先程コーネが作った赤い光から出ており、それこそが擬似精霊なのだ。
続いて風が吹き渡りクドーだけを吹き飛ばす。
「え?」
まさかのクドーもそんな雑な方法で撤退させられるとは思っていなかったのか怪我をしているのにもかかわらず呆然とした表情になっていた。
「さて、始めましょうか」
そう言ってコーネは炎の柱を風で渦巻かせる。
その炎は魔物達を巻き込み空に舞わせる。
そして、落下する魔物達は一瞬、動きを止める。
それは先程のクドーとの戦いやその前の2人の戦いの時に蓄積されたダメージが顕著に出た結果である。
それでも吹き飛ばされなかった魔物もいる。
それらの魔物はコーネに迷いなく飛びかかる。
しかし、コーネは簡単にも魔物の攻撃を防ぐ。
「知ってますか?
自身に補助魔法を掛けることは通常の補助魔法と比べて強く影響が出やすいことを」
そう言ってコーネは魔物を蹴る。
その際に火の擬似精霊を利用して爆発を起こす。
「本職には及びませんが私は器用貧乏なんですよ」
そう、コーネはライド達と会うまで『単独最強の付与術師』として名を馳せていたのだ。
それはたった1人の存在が回復、近接攻撃、遠距離攻撃、中距離攻撃、防御の全てをこなすことができたからに他ならなかった。
彼女は微笑む。
それは見ようによっては天使の微笑みだろう。
しかし、そこに擬似精霊の余波による破壊がなかったらの話だったりもする。
「さぁて、久しぶりに頑張りますよ!」
その瞬間、何十もの擬似精霊が魔物達に襲いかかる。
しかし、彼女はいたって冷静だった。
彼女だけで全ての魔物を殺すことができないと目に見えて分かっているからだ。
故に全力ではあるが魔力の使い過ぎに注意していた。
今の疑似精霊の攻撃は手加減無しだったのだ。
しかし、仮にもAランク上位の魔物である。
それをこの程度で一体も殺せるわけがなかった。
せいぜい言って傷を多少与える程度である。
(そう、それでいい。
例え再生してもそれは表面上の話…再生する際の消耗までは避けられないのだから)
治癒魔法などを使うからわかること。
回復や治癒にはエネルギーだけではなく肉体的な方面でも僅かに消耗している。
それは短期的に見ればすぐに治ってしまう消耗だろう。
しかし、今回のような長期戦ではその消耗ですら命取りになるといえるのだ。
故にコーネは一度も魔力を大量に削る魔法を使わない。
たしかに魔力を大量に消費すれば本職には及ばないが強力な魔法をコーネでも放つことができる。
しかし、それは継続的なものになることはない。
ただでさえ擬似精霊で使う魔力をコーネは使うわけにはいかないのだ。
その分、擬似精霊は与えた魔力と与えた命令に応じた持続的な働きを見せる。
先程の雷みたいに一気に魔力を解き放つことをしなければ基本的に自然拡散の量さえ気をつければ少量で長時間の攻撃の要となるのだ。
「さて、私がどれだけ相手を消耗させることができるかが鍵ね」
コーネはポツリと呟いて杖を構える。
この戦いが終えることを願ってコーネは全力で相手を殺しにかかる。
気が付けばこんな文字数に…ノリで書くと切り時が分からなくなって微妙な切り方をしてるような…。
後はイカリアとアリユリの二人の活躍の後に優希の活躍です!
因みに自分で書いててクドーが主人公の素質があるような気がしてならなかった…。
読んでいただきありがとうございます。
面白いなどと思って頂けたなら幸いです!




