Aランクの実力
なんとか書けた…。
戦いが始まり5日ほど経っていた。
現在、冒険者組は最初こそ全員で対応をしていたのだが、今では交代制にしてコーネがいる時に他の冒険者達も戦わせ、あとはライド達が抑えるという風に戦っていた。
5日間の攻防により、そこらの冒険者は新米ほど精神などが疲弊して脱落していった。
それを蔑むものもいるだろう。
しかし、熟練ほどそれを笑うことも蔑むことも無かった。
何故なら、熟練とて性格が様々にも関わらず疲弊して一々構っている暇がないのだ。
そう、熟練でも疲れているのにその一方でサボるものも時折いる。
そう言ったのは大抵の場合はある程度の金の稼ぎ方を知って手を抜く馬鹿だ。
そのせいで時折死者が出ることもあった。
その度にライドとギルドマスターは歯がゆい思いをしながら無慈悲に作戦を立てて命令していく。
そこで自分達に一番危険な役割を押し付けるのは効率より犠牲者をより少なくしようとした結果だろう。
「そろそろ決めにかからないと俺たちはともかく他が潰れるな…」
ライドは休憩時間にギルドマスターと一緒に戦況を見ながら考えていた。
現在、アリユリとクドー、一部のコーネが休む前に支援をした冒険者が戦っていた。
「Aランクの魔物一体につき約一時間…
それで現在確認しただけでの残りは約300…」
ギルドマスターの言葉にライドは黙り込む。
圧倒的な戦力差をここまで減らすのにかなりの時間をかけている。
時折くる優希の戦い余波と最初の突撃によりかなりの数が削れたが、それでもまともに相手取れる数ではない。
今こそ上手く均衡を保たせているがそれもあと一日持つかどうかだ。
「なら、いっそ一度崩してしまうか?」
「いや、それはそれで危険が伴う」
ライドの意見を即座にギルドマスターは否定する。
確かにライドの言ってることは間違いではない。
しかし、それに失敗したら?
簡単にこちらの休んでいるなんの補助も受けていない冒険者に被害がいくだろう。
「しかし、他には無いのも確かだ。
相手がBランク程度の脅威ならばそれで一瞬でケリがついているはずだが今更希望を言っても仕方ないだろう」
否定したことだがと付け加えて言いながらギルドマスターが言うがやはりお互いに沈黙してしまう。
ライドとて自分で言った意見で勝てるなんて微塵も思っていないのだ。
「はぁ、ならこれはどうだ?
今から俺たちが一人ずつ半日ほど戦う。
そう、Aランクとしての実力を見せる時だ。
あんたも出て頑張ればギリギリ二週間目まで持たせられるかもな」
確信も確証もない。
ギルドマスターとてAランクである。
しかし、二人して自分達の実力を過信していない。
むしろ、魔物の方が強い可能性も考えている。
一人で全力で戦うのは一番勝てる可能性が高いように見えるがこれも賭けである。
実際、Aランクになると複数人で行動することが少ない。
本気を出せば味方を巻き込んでしまう可能性があるからだ。
故にライド達、Aランクパーティでは本気を出すときは上手く前後などの入れ替えを行なっているのだ。
「…それしか…無いのか?」
Aランクにとって広いとも狭いとも言えない戦地で仲間と戦うのは憚られる。
しかし、サーポートが無いのも辛い。
そんな考えが二人の中にあり、余計に思考の海に呑まれていく。
そして、休憩時間の終わりになるギリギリまで悩んで実行することを決意した。
*************
戦地は大荒れで交代のタイミングすら掴めないほど魔物達は猛攻を続けてきていた。
ライドはそれを見て大きく深呼吸をする。
「全員!
一度撤退だ!」
ライドはそう言って自身が今まで制限してきたスキルを発動させる。
『身体能力強化LV5』
約10倍ものの自身の強化…それはあの場所にいたゴブリンに匹敵するほどの実力。
あの大陸で戦ったお陰かライドはLV4からLV5にまで上がっていた。
普段はLV2にとどめている分、明らかな違いをライドは感じ取っていた。
動きなどはあのゴブリンと比べればお粗末もいいところお粗末である。
ライドは軽く弱めの魔物を屠る。
そして、撤退している冒険者に追撃をしようとしている魔物達を叩き斬る。
轟音が響く。
ライドは一瞬の戸惑いを見せる。
あまりの手応えの無さに疑問を感じていた。
そう、一歩だった。
たった一歩踏み入れた人外の領域の差というのは絶大なものだとライドは認識した。
しかし、あの場所で生き残るにはそれでもいや、あまりにもまだ弱すぎたのだ。
それでも、今ここにいるAランクの魔物のスキルはまだ達人レベルが大半、時折一つだけレベル5の人外にライドと同じように片足突っ込んだ程度が少なからずいることは確か…。
要するに互角に近い戦いが繰り広げられたのだ。
お互いに全力のぶつかり合い、魔物はライドにどんどんと群がりそれに対応してライドも一匹一匹時間をかけて殺す。
そうしているうちに弱めのが減り、残りは約100体の魔物が控えていた。
ライドはそれを見て一歩引いてしまう。
(今ならわかる。
こいつらは全部俺と同格かそれ以上だ…。
やっぱり一人でやっていたよかったわ)
ライドは笑う。
自分をAランクへと至らしめた真の力を解放する。
『炎纒砲雷LV2』
その瞬間、轟音と光が辺りに響き渡る。
地は焼け焦げ、無数の雷の塊が落ちていく。
ライドの姿は炎と雷を纏っていた。
『炎纒砲雷』とは一種のユニークスキルである。
実際、落ちているのは雷だけでは無い。
大量の炎が雷の如き速度で落ちているのだ。
二種の力を一纏めにした究極の力…。
炎と雷を纏い、雷電の如き速度と力を手に入れると同時に炎と雷を砲撃のように撃つ能力である。
だからと言って優希のように地形を破壊するだけの威力を持つことはできない。
それでも、今のライドの力はSランクにも引けを取らない力になっていた。
そこからは一方的とは言えでも今のライドに強いAランクを一瞬で貫く力は出せずに半日近く時間をかけて3、4体の魔物を潰した後に魔力切れにより撤退をした。
「アーグ…ここは任せた」
ライドはそう言うと何とか休憩所に戻り倒れる。
ライドを撤退を追おうとする魔物達は謎の影により阻まれてある一定以上追うことができていなかった。
「『有質量影』」
ボソリと呟きが聞こえる。
それに反応して耳がいい魔物は声の方向、すぐ後ろに飛びかかる。
しかし、その魔物はバランスを崩して転ぶ。
その場所にはアーグが立っており短剣で魔物の足にほんの少しの傷を作っていた。
それは決して魔物が転ぶような傷ではなくあくまで切り傷程度…。
しかし、その足からは黒い何かが魔物の傷口から足を引っ張っており魔物のバランスを崩す要因となっていた。
何とか魔物は立ち上がる。
もしも、その魔物がもっと頭が良かったなら仲間を呼ぶなりなんなりしようとしていただろう。
そう、他のAランクの魔物は一切こちらに意識を向けていないことに気がついたかもしれない。
それはアーグのスキルによる効果だった。
『有質量影』
物質に鑑賞できるような質量のある影を作り出すスキルでレベルに応じて重さや形状変化、硬さなどを変化させることができる。
今現在、魔物達が阻まれている壁とはこれによって出来た壁である。
『認識阻害・強制認識』
自身への認識やそれ以外の認識を逸らす。
要するにアーグ自身への認識を弱めているのだ。
それともう一つ、応用で相手に対して強制的に自分や別のものを認識させることができるスキルである。
それを利用してアーグは上手く一対一を現在作り出していた。
『付加』
物体へあらゆる状態を強制的につける能力。
本来、強化などに使うスキルだがアーグは違った。
相手に影を纏わりつかせる為に使ったりする呪い付加と呼ばれる使い方をしていた。
それとは反対に影に斬撃などを付加するなどといった使い方もしている。
ただし、触れてないと出来ないなどと制約がある。
場合によっては傷を付けないと付加できないこともあるがアーグはそれらを上手く利用していた。
そうした理由もあり現在完璧な一対一で一匹の魔物をアーグは追い詰めていた。
魔物はそれに気づかずに飛びかかり、アーグに傷を付けられる。
次は別の足が切りつけられ、影が足を貫いた。
絶叫が響き、魔物は仰け反る。
しかし、それで終わりならばアーグはあくまで一対一のギリギリAランク討伐可能なBランクで終わりだろう。
Aランクとなし得る何かがアーグにはまだある。
「思った以上にタフだな…」
アーグが舌打ちをする。
魔物の傷はすぐに再生していくと同時に付加された影を吹き飛ばしていた。
「でも、俺が作り出すだけで終わりだと思っていたのか?」
アーグはそう言って嗤う。
魔物は怒り狂ったような表情で襲いかかる。
それが間違いだった。
突如として真っ黒なものが魔物の周り現れる。
アーグの腕には黒い何かが纏わり付いている。
『精霊召喚』
エルフのみが知るとされている秘術の一つ。
精霊の使役と召喚である。
アーグはハーフとは言えでも精霊召喚の手法を持っている。
それ自体ならエルフなら珍しくも何ともない…。
しかし、精霊にはそれぞれの相性がある。
風や火、水といった形で召喚できる精霊が変わる上に召喚方法も変わってくる。
故に必ずしも精霊の召喚と使役ができるとは限らない人の中では廃れてきていたが、エルフなら基本属性のうち1つくらいなら絶対に召喚できるので今となってはエルフのみが知る秘術となっていた。
だが、ハーフの場合はそれは変わってきていた。
アーグの場合は基本属性の召喚ができなく、たった一つの特殊な属性だけの使役と召喚ができたのだ。
「貫け」
影が魔物の腹に向かって伸びる。
それを避けようと魔物が動くが何かに阻まれたかのように動きが止まる。
そして、そのぶつかったと思われる場所から黒い影が滲み出す。
そして、魔物を逃がさんと周りにどんどんと黒い影が現れていく。
その一つ一つが魔物を貫こうとするが簡単に弾かれてしまい、一向に決定打とはなり得ない。
「あんまり使うとこの後に生じるから使いたくないんだけどな〜」
アーグはこの状況を見て諦め半分のその言葉を投げると指を軽く鳴らした。
瞬間、辺りは暗く染め上げられた。
「『影世界』」
足止めしていた魔物を含めてその黒い世界に閉じ目られていた。
そこにあるのは影のみ、動くもの全てがシルエットとなり、姿の見えない空間が広がる。
隔絶された世界の誕生をさせたのだ。
『あら、久しぶりこんな魔力を使ったかと思えばかなり焦ってるわね』
そんな空間の中でアーグに話しかける少女がいた。
少女は鏡のような黒に反射した髪でで少し露出の多い服を着ており、その場に溶け込むような半透明な少女…。
しかし、アーグにはそんな余裕はなく苦笑いをすると走り出した。
『全く、これを使う時はいつも余裕を無くしちゃって…たまには構ってくれてもいいのに…』
少女は拗ねたようにアーグの背中を見送ると気を引き締めたように目を瞑る。
『まぁ、彼も本気な訳だから仕方ないか…。
私も彼に使役された精霊としてこの空間の維持に集中しようかな…彼のに力も前とは比べ物にならないからそれに合わせて影を上手く壊さないようにさせないと…』
少女はそう呟くと影に溶け込んで消えていった。
アーグはというと影の中で魔物のシルエットを探していた。
よく目を凝らして探し、アーグは走り続ける。
そして、ようやく見つけた魔物に対してすぐに切りかかる。
魔物とぶつかり合う…その瞬間、お互いに拮抗…いや、僅かにアーグが押しており魔物のシルエットの一部を切り落とす。
絶叫も響かない…ただ、魔物のその反応だけで明らかな動揺が見て取れるほどまでに魔物は警戒を露わにしていた。
アーグはそれを見てより攻め込む。
それに対して魔物は防戦一方…いや、それ以前に避けることしかできていなかった。
魔物の攻撃がアーグにぶつかるが一切効かないどころか寧ろ魔物の方に被害が行く始末であった。
その秘密はこの影世界にあった。
この世界は精霊の空間魔法とアーグの影による融合によって出来た影でできた世界。
その名の通り生物を影に変える世界であり、この世界では全てアーグの作った影を基準となっていた。
しかし、この世界ではアーグの方に影を偏らせることはできずにその者の質量に応じた影が配分される。
更に言えばスキルなどは使えなくなり、唯一使えるのは自分の今持つ影くらいだった。
要するに大きい魔物などの方が必然的に強くなるのだ。
だが、その影というものが勝敗を分けていた。
アーグ自身はよく影を使った戦い方をしている…故の違いが生まれるのだ。
簡単に言ってしまえば通常状態なら影の攻防力共に同じで引き分けるいや、影の量の多い魔物が勝つ。
しかし、その前提条件が違えば?
例えば影の密度が変われば?
そう、アーグは自身の影の一部を薄めて一部分に影を集中させているのである。
その経験の差が今の状況を作り出していた。
何度か魔物も攻撃をしてくるがアーグは軽くあしらい攻撃の手をより激しくしていく。
そして、アーグの影によって出来た刃によって魔物の影の首が落ちた。
その瞬間、魔物の影がこの影の世界から消え去った。
これは魔物が死んで生物ではなくなったことを意味していた。
アーグの影はそれを見た後、また走り出した。
「ここからは自分の残り魔力の勝負だ。
後、五体は刈る!」
アーグの言葉響かずに誰も聞かなかった。
しかし、そう決意したアーグの何もない顔にはたしかに目が光っていたよう気さえするほどの気迫があった。
所々変な気もしますがきっと気のせいです、はい。
主人公視点はもう少し先かなぁ…本来ならもう一人くらいは入れたかったんですけど…。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
おもしろいと思っていただけたなら幸いです。




