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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第3章 【奴の居ない日々】
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第98話 『黒髪の一族』

「黒髪の一族は今は滅んだ王族だ」

「それはもしかして……」

「ああ、あんたの父親が滅ぼした国だ」


黒髪の一族。それは王族らしい。

ボクの父上が滅ぼした国の。

絶句していると彼は続きを語る。


「その国は三姉妹が治めていた」


長女は帝として君臨して。

次女は宰相の妻となり。

三女は国の暗部を取り仕切った。


仲睦まじい三姉妹。

強い絆で結ばれていた。

けれど性格はそれぞれ違ったらしい。


長女は生真面目な完璧主義者。

次女は心優しく、愛情溢れる人物。

三女は変わり者で、放蕩娘。


「その姉妹は表には出ない存在だった」


黒髪の一族は表舞台には出ない。

国民ですら彼女達をその目で見れない。

国の運営は議会と宰相が取り仕切った。

それくらい、高貴な血筋だったようだ。


「それもあって存在を隠蔽された」


母上の死によって引き起こされた戦争。

その終戦後、その存在は隠蔽された。

そもそもなかったことにされた。

だからこそ、記録に残っていない。


「三姉妹にはそれぞれ子供がいたんだ」


その子供こそが、一族の末裔。本題だ。

召使いは片手で運転、片手で頬杖。

クルマの窓枠に肘をつきながら。

極めてどうでも良さげに、続ける。


「ぶっちゃけると、その子供が俺達だ」


あっさりと告げられた真実。

いや、話の流れからわかってはいたが。

動揺を隠せないボクに彼は捕捉する。


「俺は三女の子供だ。変わり者だろ?」

「そ、そんなこと言われても……」

「そんなに気負う必要はないっての」


ことも無さげにヘラヘラと笑う召使い。

ボクは全然笑えない。当たり前だ。

父上が滅ぼした国の王族だなんて。

それはつまり、ボクは仇の子供となる。


「いやいや、あんたは関係ないよ」

「えっ?」

「俺の母ちゃんの仇は姫さんの母親だ」


さらっと爆弾発言を投下された。

思わず姫君を見ると、素知らぬ顔。

私は関係ないし。みたいな。いやいや!


動転していると、彼はカラカラ笑った。


「びっくりしたか?」

「びっくりも何も……複雑すぎて……」

「とりあえず、その話は置いとけ」

「あ、ああ……わかった」

「んで、次女の娘が黒髪ロングなんだ」


またもや平然と暴露する召使い。

次女の娘が黒髪ロング。つまり。

となるとその弟もまた、息子となる。

しかし、召使いは彼はまた別だと言う。


青髪の一族は代々宰相の家系らしい。

青髪はあくまでその青髪の一族の末裔。

黒髪の一族に末裔とは呼べないようだ。

なんでも髪の色で判断されるとのこと。


「あの青髪は相当恨んでたらしいな」

「どうして、彼だけが……?」

「黒髪ロングの父親が乱心したんだよ」

「乱心?」

「あの父親が、あんたの母親を殺した」


それは……なんとなく、わかっていた。

黒髪ロングの父親が何をしたのか。

彼がボクの母上を殺した。殺人犯だ。

彼によってあの戦争は引き起こされた。


その妻は一番残酷な処刑をされた。

父上が踏みつけた生首は次女の首だ。

黒髪ロングと、青髪の母親の生首。

そのこともあって恨みが深いようだ。


しかし、どうして。

ボクの母上を殺したのか。

戦争の引き金となったあの悪夢の事件。

その理由が、気になっていた。


「おっと、その先は荷が重いんでね」

「教えてくれないのか?」

「ああ、俺より詳しい人がいるからよ」


召使いはその先を差し控えた。

事件の詳細を知る人物がいるらしい。

あとで会わせるから待てとのこと。


そして召使いは、核心に触れた。


「そんで、最後の長女の子供だが」

「それが、奴なんだな?」

「ああ、あんたの教育係だ」


長女の子供はボクの教育係。

長女は帝と言っていた。国家元首だ。

つまり、その処刑をボクは見ている。

そして、あの時泣き喚いた子供こそが。


「そうか。ボクは仇の子供だったのか」


自分で言って、ショックを受ける。

ボクの父上が教育係の母親を殺した。

あの時の光景が蘇り、吐き気がした。


ボクは奴にとって親の仇の子供。

信じられない。信じたくない。

現実とはなんと、残酷なのだろう。


そんなボクに召使いは言い含めた。


「あいつの考えは誰にもわからない」

「だが……ボクの父上は……」

「昔は昔、今は今だ。俺はそう思うぜ」


昔は昔。今は今。召使いの考え。

だからこそ、姫君と共にいるのか。

しかし、教育係がどう思っているのか。


それを尋ねようにも、奴はいない。


「お前は黒髪ロングをどう思ってる?」

「えっ?」

「別に恨んじゃいないだろう?」


召使いに言われて、納得した。

ボクは黒髪ロングを恨んでない。

この話を聞いても、変わらない。

彼女の父親に対しては複雑だけど。

それでも今は憎しみは抱いていない。


だけど、それはボクの考えだ。

教育係は違うかもしれない。

奴がボクをどう思っているのか。

それが気になって、気持ちが落ち込む。


「どうして教育係になったんだろうな」

「……わからない」

「かなり苦労して仕事に就いたんだぜ」

「そう……なのか……?」

「ああ、その為に主席になったらしい」


教育係は苦労して仕事に就いた。

それはどのような意味を持つのか。

復讐の為か、それとも。わからない。


悩んでいると、姫君が口を開いた。


「くよくよしても始まらないわよ」

「ああ……すまない」

「シャキッとなさい! 情けない!」


叱咤されて、身をすくめる。泣きそう。

メイドが気遣うように肩をさする。

その優しさで、余計に泣きそうになる。


「まったく、そろそろ王宮に着くわよ」


呆れたように姫君が前方を指し示す。

真っ白で荘厳な城が見えてきた。

あれが姫君の住まう王宮らしい。

これからどうなるのか、不安だ。

そして何より、過去の遺恨が恐ろしい。


奴と会って、話したかった。切実に。


ボクの教育係は恨んでいるのだろうか。

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