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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第3章 【奴の居ない日々】
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第97話 『母上が死んだ日』

ボクの意識を手刀で刈り取った教育係。

奴はそのままどこかに立ち去った。

そのヒールの音がとても寂しく響いた。


そして取り残されたボクは悪夢を見た。


前回と同じ幼少時の記憶。

しかし、今回はかなり鮮明だ。

隣には母上が居て、父上が騒いでいる。


今は亡き、父上。涙が出そうだ。

これが夢だとはとっくに気付いている。

だって父上は死んでしまったのだから。

そして母上もまた、これから死ぬ。


これは、母上が死んだ日のことである。


その日はボクの誕生日だった。

舞踏会ではなく、パーティが開かれた。

父上は酔っ払ってべろんべろん。

母上はそんな父上を介抱していた。


今日はめでたい!がはは!なんて。

笑いながらボクの頭を撫でる父上。

幸せだった。平和だった。しかし。


そんな平和なひと時が終わりを告げる。


酔った父上の背後から凶刃が迫る。

いち早く気づいたのは母上だった。

呆気に取られるボクを置き去りにして。


父上を庇って、母上が刃を受けた。

深々と刺さるナイフ。鮮血が滴った。

母上の足元に広がる血溜まり。

ボクは恐慌状態で駆け寄った。


その間際暴漢は母上に何かを囁かれた。

すると、狂ったような悲鳴を上げて。

凶器のナイフを捨てて、逃走した。


ナイフが床に落ちて、硬質な音が響く。

それで我に返った父上が素早く命じる。

絶対に逃がすな!と。衛兵が追跡した。


立ち尽くす父上。泣きじゃくるボク。


母上は、最期にボクの頭を撫でて。

そして動かなくなった。もう二度と。

死んでしまった。そして悪夢が始まる。


父上の報復は速やかだった。

暴漢は他国の要人。すぐに戦線布告。

同盟国である隣国も参戦した結果。

間もなく、殺人犯の国を、滅ぼした。


父上はボクを何度も戦場に連れ出した。

そして目の前で他国の兵士を殺した。

よく見ていろと、これが報いだと。


次々兵士は運ばれて、死体の山となる。


目の前に広がる凄惨な光景。吐いた。

ボクは何度も父上を止めた。何度も。

母上が死んでしまった悲しみはわかる。

けれど、虐殺に意味を見出せなかった。


父上は殺した分だけ乾いていった。

足りぬと、まだ足りぬと、うわごとを。

そしてついに、要人の処刑に踏み切る。


まず殺されたのはその国の国家元首。

断頭台で首を落とされた。ゴロンと。

ボクは泣き喚いた。生首と視線が合う。

そして、ボクと同じように泣く子供が。


その子は国家元首の子供だった。

ボクよりも年は上だろう。背が高い。

目の前で親を殺されて錯乱した様子。

豪雨と雷鳴の音に悲鳴が混じる。地獄。

まさに、地獄だった。紛れもなく。


殺人犯もまた斬首を見せられ、狂った。


殺してくれと、何度も訴えてきた。

しかし、父上は取り合わない。

苦しんで死ねと、冷酷に告げた。


次にその殺人犯の妻の首が飛んだ。


その生首を父上は彼の前で踏みつけた。

父上は鬼だった。まさに狂気の沙汰だ。

殺人犯の子供達の悲鳴が響き渡る。


そして、国家元首の子供の番となる。


泣き喚く子供を断頭台に連れていく。

血に濡れたギロチンの刃の下に固定。

死にたくないと何度も叫ぶ、子供。


そんな!? 子供まで殺すなんてっ!!


もう、見過ごせなかった。飛び出した。

父上の前に立ちはだかり、説得する。

しかし、父上は聞く耳を持たない。

だからボクは、初めて怒声を上げた。


『殺したって母上は生き返らない!!』


幼少時のボクのか弱い叫び。届いた。

父上の目が泳ぎ、膝を折った。懺悔。

頭を垂れて、父上はボクに謝った。


まるで、母上に怒られた時のように。


『もう、やめよ? 父上』

『ああ……余が、間違っておった』


処刑は終わり、悲しみが残った。

暗雲とふりしきる雷雨。そして罪人達。

全てがモノクロの悪夢が、終わった。


「うぅ……こ、ここは……?」

「殿下!? 目が覚めたのですね!?」


目を開くと、低い天井が見えた。

室内にしては低すぎる。車内か。

小刻みに感じる振動。移ろう風景。

それなりに高そうな車内。屋敷の車か。

ボクはクルマで移動しているらしい。


そして泣きそうなメイドが居た。

ボクに覆い被さり、涙を落とす。

頬を拭うと、自分の涙も感じられた。


「おっ! 目が覚めたか。大丈夫か?」

「あなた、すっごくうなされてたわよ」


運転席から召使いの声がする。

助手席の姫君が鳶色の視線がこちらに。

うなされていたらしい。悪夢を見て。

恥ずかしいところを見られてしまった。


ぼんやりとした羞恥を感じつつ。

状況の把握に取り掛かる。どこだ。

ボクはクルマでどこに向かっている?


「どこに行くんだ?」

「私の王宮よ。もう国境は越えたわ」


目的地は桃色髪の姫君の国の王宮。

つまり、ボクは亡命したのか。

もう国境は越えたらしい。国を出た。

ならば、今更後戻りは出来ないだろう。


「よく国境を越えられたな」

「ああ、検問されてて大変だったぜ」


召使いがヘラヘラと語る。緊張感皆無。

しかしやはり検問をされていたようだ。

当たり前だ。ボクが逃げたのだから。


「どうやって検問を抜けたんだ?」

「丁度よく、テロリストが襲来してな」


召使い曰く。

検問を強行突破しようとしたら。

丁度よくテロリストが颯爽と現れて。

その騒ぎに紛れて出国したらしい。


「薄緑色の髪のテロリストに感謝だな」


薄緑色の髪のテロリスト。間違いない。

オレっ娘が逃がしてくれたのだ。

彼女の事を思い出して、胸が痛む。

張られた頬がジンジン痛む。切ない。

大丈夫かな。捕まっていないだろうか。

切実に、オレっ娘の身を案じていると。


「心配すんな。委員長は強いからよ」


召使いが安心させるように嘯いた。

彼女は確かに強い。ボクより遥かに。

なにせ教育係と渡りあった程だ。

きっと無事だろう。しかし、心配だ。


そんなボクを見かねた召使いが。


「とりあえず、それを読んどけ」


パサッと書類をこちらに放った。

目を通すと、それは悪夢の事件の物。

詳細な資料を読み、現実を知る。

ただの夢ではなく、史実であると。


「こんな資料をどこで……?」

「姫さんの荷物と一緒に図書館でな」


なるほど。一度学園に立ち寄ったのか。

王立学園の時計塔内部の図書館。

そこならば、詳細な資料があるだろう。

けれど、何故これをボクに渡したのか。


「そろそろ、過去と向き合いなさい」


姫君が真剣な表情でボクに告げた。

過去に向き合えと。もう逃げるなと。

父上の暗殺もこの事件が関係している。

だからこそ、悪夢の事件に向き合えと。


ならば、ボクが尋ねるべきは、一つだ。


「黒髪の一族とは、なんのことだ?」


ざっと資料に目を通しても書いてない。

この資料とボクの記憶には欠落がある。

黒髪の一族。教育係と召使いの共通点。

それを明らかにすることが最優先だ。


しばらく、車内は沈黙に包まれた。

銀髪メイドは何も知らない様子。

桃色髪の姫君は敢えて語らないつもり。


よって、黒髪の召使いが、口を開いた。


「それじゃあ、ちょっと昔話をするか」


召使いは語る。ボクの知らない物語を。

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