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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第2章 【学園生活と日常】
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第96話 『別れ』

「殿下、ご決断を」


離宮に戻るなり話し合いが開かれた。

議題は今後の方針について。急務だ。

オレっ娘と教育係が積極的に発言した。


2人は打って出るべきだと主張した。

舞踏会には貴族の家族も出席している。

家族を人質に取られ貴族は言いなりに。

すぐに政治の中枢と軍を掌握される。

その為、早急に手を打つ必要があった。


けれど、当然リスクがつきまとう。

もちろん戦闘は避けられないだろう。

オレっ娘が手勢を集めても数は少ない。

集まってもそれは学園の風紀委員達だ。

その上、人質の生命が脅かされる危険。


オレっ娘と三つ編み眼鏡の父親も。

恐らく、真っ先に殺されてしまう。

オレっ娘はそれでも構わないと言う。

軍人にはその覚悟は出来ていると。

とはいえ父親が死んでいい筈もない。

三つ編み眼鏡は黙って俯いていた。

彼女の父は国会の議長。軍人じゃない。


その強硬論に対して。

桃色髪の姫君は棚上げを提案した。

離宮を放棄して隣国に亡命せよと。

桃色髪の姫君の国へ逃げ延びろと。


しかし、それは見捨てるということだ。

国を捨て、他国へ亡命する。戦闘回避。

確かに、人質は犠牲にならないだろう。

結果的に、彼らを救えるわけではない。

青髪の支配を黙って見過ごす。つまり。

この国を彼らに差し出すということだ。


教育係とオレっ娘はもちろん大反対。

メイドと三つ編み眼鏡は沈黙を貫く。

よって、最終的に決めるのはボクだ。


そしてボクの考えはどちらでもない。


「ボクがウィッグを被って出向く」


そう告げると、全員が目を見開いた。

何をするつもりかは伝わったようだ。

皆の認識を肯定する為に話を続ける。


「青髪の狙いは変装したボクだ」


青髪は変装したボクに執着している。


「彼に正体を告げて、説得してみる」


彼の前で正体を暴露して説得を試みる。


「ボクの代わりに人質を解放を求める」


それはきっと難しい交渉となる。無謀。

正体を暴露したら間違いなく殺される。

それでも構わなかった。別にいいさ。

とにかく人質の為に動き、そして死ぬ。

それさえ出来れば、あとは悔いはない。


これ以上の犠牲は出したくないし。

このまま隣国に逃げる訳にもいかない。

青髪に何を言われようとも。それでも。

ボクは人質の救出に命を懸けて、死ぬ。

それが逃げた王位継承者の義務だろう。


それにこれはボクの願いでもある。

死にたい。死にたかった。すぐに。

父上が死んだ悲しみに耐えられない。

だからボクは、自殺志願を口にした。


それを受け教育係が口を挟むより早く。

オレっ娘がボクの胸ぐらを掴んできた。

彼女は八重歯を剥き出しにして吼えた。


「そんな無謀な作戦認めねぇぞっ!!」

「策は多い方がいい。ボクは捨て駒だ」

「なんだと?本気で言ってんのか!?」

「ああ。ボクが死んだらあとは頼む」

「何故殿下が死ぬのが前提なんだよ!」


オレっ娘は目尻に涙を浮かべている。

彼女のそんな顔は見たくない。だけど。

それでもオレっ娘が死ぬよりはマシだ。


青髪の一派と戦闘になれば沢山死ぬ。

議長も将軍も、もしかしたら彼女も。

教育係だって……死ぬかもしれない。

それを見せられて敗北したボクも死ぬ。

そんな絶望的な未来よりはマシだろう。


だからこそ、ボクは皆に懇願する。


「頼むからもう、誰も死なないでくれ」


誠心誠意心を込めて頭を下げる。

この事件は全て、ボクの責任だ。

これ以上犠牲者を増やしたくない。

これ以上誰かを殺したくなかった。


そんなボクの願いを受け、オレっ娘が。


「オレだって殿下に死んで欲しくない」


ポツリと、悲しげに、怒ったように。

こちらの胸ぐらを引き寄せて、呟く。

それに対して、ボクは当たり前に返す。


「ボクはもう……死にたいんだ」

「ッ!? ばっかやろうっ!!!!」


オレっ娘の張り手が一閃。強い衝撃。

そのまま床に転がる。動けない。

彼女を傷つけた。八つ当たりのように。

報いを受けて、ゴミのように這い蹲る。


これがボクに対しての相応しい対応だ。

教育係とオレっ娘の忠告を無視した罰。

皆も思う存分、殴って蹴って構わない。

オレっ娘に殴られて、気が楽になった。

自分の愚かさと醜さを、罵って貰えて。

それだけで、罪悪感が薄れた卑怯者だ。


「もういい! 勝手にしろッ!!」


怒鳴り散らして退室するオレっ娘。

床に転がったまま、後ろ姿を見送る。

その若草色のドレスを目に焼き付けた。


「私も……為すべきことを為します」


続いて、三つ編み眼鏡も退室した。

引き留めることなど出来なかった。

きっとやり取りを見て失望したのだ。

三つ編み眼鏡の橙色のドレスを見送る。


「私達はしばらくロータリーで待つわ」

「まあ、気が変わったら言ってくれ」


桃色髪の姫君と召使いも退室。

彼女らはしばらく待つらしい。

けれど、そこまで時間はない。

今は黒髪ロングが時間を稼いでいるが。

夜が明ければ襲撃されるだろう。

青髪の手先が現れるのも時間の問題だ。


そして、ボクの考えは、変わらない。


「教育係」

「はい、なんでしょう?」

「ボクを王宮まで送ってくれ」


床から起き上がり、支度を始める。

学園の制服を着て、カラコンを付け。

薄桃色のウィッグを被れば、完了だ。


至る所を痛めたので、手間取る。

顔を顰めて、服を脱ごうとするが。

そっと、背後から抱きしめられた。


振り返らずとも誰かはわかる。奴だ。


「教育係」

「……はい、如何しましたか?」

「これじゃあ、着替えられない」

「……殿下は、死なせません」


振り返らずともわかる。泣いている。

ボクを抱きしめて、震える奴の腕。

声は濡れて、鼻をすする音がする。

そんな教育係に、ボクは言い聞かせた。


「お前のおかげで、ボクは楽しかった」

「殿下……」

「だからもう、悔いはないんだ」


教育係には様々なことを学んだ。

もともと死んでいたような軟禁生活。

それに潤いを与えて生かしてくれた。

そしてなにより、恋人になってくれた。


しかし、悔いがないというのは嘘だ。

出来たら、奴と子供を作りたかった。

それは叶わぬ夢。だから、感謝する。


「ありがとう、教育係」


すると、教育係が真剣な口調で尋ねた。


「殿下……最後に一つ聞かせて下さい」

「なんだ?」

「誰も死なせないことが望みですか?」

「ああ、それがボクの望みだ」

「わかりました。私にお任せ下さい」


奴がそう言った瞬間、力が抜けた。

首筋に鋭い一撃を受けた。手刀だ。

床に崩れ落ちる前に、抱きとめられる。


ゆっくりとその場に降ろされた。

朦朧とした意識で教育係を見上げる。

奴はボクの傍に立ち、優しく囁いた。


「私ならばその願いを叶えられます」

「な、なにを……言って……?」

「私は黒髪の一族の末裔ですので」


黒髪の一族。何度か耳にした単語だ。

しかし、それがどのような意味なのか。

問いただそうにも、口が回らない。

混濁した意識の中で声だけが聞こえた。


「メイド、あとは頼みましたよ」

「教育係様……どうか、ご武運を」


薄れゆく意識と、遠ざかる奴の靴音。

その狭間で、ベッドの下に手を伸ばす。

結局妃候補には渡せなかったピアス達。

それでも、教育係に渡せたのは僥倖か。


「私は絶対に、殿下を死なせません」


ボクの教育係はこの日から姿を消した。

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