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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第2章 【学園生活と日常】
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第93話 『王の心構え』

「おお! 我が子よ、よくぞ来たな」

「お久しぶりです、父上」


王宮に到着し、まずは父上に謁見。

厳しい顔つきを柔和に和ませて。

国王たる父上は嬉しそうに微笑んだ。


「ふむ……また成長したようだな」

「殿下の成長は目を見張るばかりです」


しげしげとボクを眺めて感心する陛下。

教育係は鼻高々に持ち上げてくる。

面と向かって褒められるとこそばゆい。


「時に我が子よ」

「はい、父上」

「お前は王の役割を知っておるか?」


父上の問いかけ。王の役割とは何か。


ボクの国は王制ではあるが民主主義だ。

選挙によって国民から議員を選出。

立法は国会の議決によって行われる。

行政は国会議員の総意に基づく仕組み。

軍は将軍の管轄で政治には関与しない。


そんな中で、王は何をするか。

その役割は長い年月で移り変わった。

遥か太古は全てを担っていた。

立法も行政も軍も、王の領分だった。

しかし、今は違う。国民の力が強い。


よって、王には裁定権のみが残った。

あらゆる決議は王によって下される。

国会の議決によって定まった法の承認。

行政における最終決定の承認。

そして、軍事力の行使の承認。


とはいえ、それは形だけだ。

全ては決定済みの案件。承認するだけ。

なので、王の役割としては意味が薄い。


王にはもっと重要な仕事がある。

他の誰にもこなせない重大な役割。

産まれついて定められた使命。それは。


「裁くことです」

「そう、それが王の役割だ」


裁判などにおいて罪を定めること。

それが現在の王の役割だ。

もちろん、法は国会で定められる。

国民から選出された陪審員も存在する。

そして過去の判例に基づき罪を定める。

王の独断で人を裁くわけではない。

けれど、王のみが人を裁く権利を持つ。


何故そうなったかと言えば簡単だ。

人は人を裁けない。裁きたくない。

例えば重大な事件は死刑に処される。

それは言い渡す側にも負担が大きい。

だからこそ、王の役割として残った。


人の上に立つ者に、委ねられた。


もちろん、逆に恩赦とか特赦もある。

これも独断で決められるものではない。

国民議会の審議が必要だ。それでも。

それもまた、王の特権と言えよう。


「王はあらゆる事柄を裁定するのだ」

「あらゆる事柄……?」

「うむ。それが事後報告であってもだ」


父上はその裁定が全てに及ぶと言う。

言われてみれば、なるほど。確かに。

国会の議決の承認も、そして交付も。

行政の方針の承認も、そして結果も。

軍事力の行使の承認、そして結末も。

事後報告であっても王の役割と言える。


「よって、王には決断力が必要なのだ」

「決断力ですか?しかし、決定権は」

「無論決定権はない。だからこそ、だ」


そねほとんどが事後報告で行わる治世。

君臨はしても統治はしない現代の王制。

それでも、決断力が必要なのだろうか。


首を傾げて真意を伺うと、王は諭す。


「決めることが重要ではないのだ」

「それは、どういう意味ですか?」

「決定を受け入れ、見届ける心構えだ」


決定を受け入れ、見届ける心構え。

それこそが、王としての決断力。

ボクにはまだよくわからない。

けれど、父上はよく噛んで言い含める。


「要するに、後悔してはいけないのだ」

「……まだボクにはよくわかりません」

「焦らずとも時が来ればわかるだろう」


そう言って、父上はボクを手招いた。

傍に寄ると大きな手の平で頭を撫でる。

目尻にシワがよって優しげな眼差しだ。


「さあ、今宵はお前が主役の舞踏会だ」

「そう言われると、緊張します」

「楽にしろ。お前は1人ではないのだ」


父上に促されて顔を上げる。

そこには教育係とメイドの姿が。

2人とも父上と同じく優しげな眼差し。


そうだ、ボクは1人じゃない。

会場には妃候補達がいるだろう。

桃色髪の姫君や召使いだっている。


それを思い出し、緊張が和らいだ。


「それでは、会場に向かうとしよう」


玉座から父上が立ち上がり、移動する。

その背中につき従い、舞踏会の会場へ。

安心させるように奴が手を繋いできた。

メイドもウキウキした表情を浮かべる。

ボクも精一杯虚勢を張り、会場に入る。


「皆の者! よくぞ来てくれた!!」


父上の大音声が響き渡る。

一斉にこちらに集まる視線。

国王を通り越してボクに刺さる。


髪と瞳の色を見て会場が騒めく。

あの方はもしかして、とか。

そうだ、そうに違いない、とか。

大きくなられた、とか。

そんな呟きが口々に客から漏れる。


それらの声に応えるように王が告げた。


「この者こそ14才になった我が子だ!」


紹介に預かり、一歩前へ。

ゆっくりと来場客に向けて一礼した。

すると、割れんばかりの拍手と歓声が。


その群衆の中には見知った者もいた。

微笑んで拍手する三つ編み眼鏡。

指笛を吹き鳴らして冷やかすオレっ娘。

腕を組んで片頰を釣り上げる姫君。

ヘラヘラ気のない拍手を送る召使い。


そして、会場の片隅には黒髪ロングも。

父親と一緒に、目立たぬ位置で佇んで。

それでも誰にも負けずに大きな拍手を。


皆と視線を交わして片手を挙げる。

それだけで会場内は熱狂に包まれた。

それを制して、国王が開催を告げた。


「それでは、存分に楽しんでくれ!」


画して、華やかな舞踏会が始まった。


とはいえ、すぐに踊れるわけではない。

ボクと国王の前には長蛇の列が。

皆、挨拶しに来ていた。正直多すぎる。


ぎこちなく挨拶に応えるボク。

教育係は直立不動。メイドはそわそわ。

その銀髪メイドの気持ちはわかる。

ボクだって早く自由になりたい。

けれど、挨拶も立派な義務である。


と、思ったら、陛下が喚き散らした。


「ええい!堅苦しい挨拶などいらぬ!」


こらこらこら。何言っちゃってんの!?

ぎょっとすると、更に喚く父上。

行列を追い払うように皆に告げる。


「皆、沢山飲み、食い、踊り、騒げ!」


そんな暴言と共にワインをぐびり。

口の端から溢れてもおかまいなし。

がははと笑い、次々飲み始める。


傍にいた国会の議長は苦笑を漏らす。

将軍は腹を抱えて大笑い。無責任だ。

ともあれこれで本日は無礼講となった。


この際だ。ボクらも楽しむとしよう。


「さて、教育係」

「はい、なんでしょう?」

「ボクと踊ってくれないか?」


恭しく手を差し伸べる。

最初に踊る相手は決まっていた。

教育係がボクの手を取り返答する。


「はい、よろこんで」


奴を引き連れて会場の中央へ。

それを見て楽団が音楽を奏で始める。

銀髪メイドが不満そうに愚痴を零す。


「私も殿下と踊りたいですぅ!」

「では、次はメイドと踊ろう」

「わーい! ご飯食べて待ってます!」


メイドをあしらって奴と向かい合う。

教育係は頬を膨らませていた。レア顔。

そしてこちらの耳元で不満を囁く。


「殿下はメイドに甘すぎです」

「よいではないか、今日ぐらい」

「今は私だけを見て下さい」

「ああ、もちろんさ」


熱を孕んだ教育係の視線。

ボクも似たようなものだろう。

気分が高まり、高揚する。


今年はボクのリードでダンスをしよう。


教育係を引き寄せ、ステップを踏む。

奴に触れている箇所が熱い。

時にゆっくり、時に激しく。

教育係をくるくる回してみたりして。


ああ、楽しいな。幸せだな。

ボクは今、とても幸せだ。最高だ。

もう、このまま時が止まればいいのに。


つい、本気でそんなことを思う。

なにせ棚上げした問題が山積みなのだ。

身分違いの教育係と結婚する方法。

姫君の提案に乗って偽装結婚をするか。

それ以外にはどんな方法があるだろう。


例えば、教育係に爵位を与えるとか。

うん、それはいいかも。可能かも。

けれど、それには特別な理由が必要だ。


それに、男爵や子爵では心許ない。

もっと上の伯爵以上の爵位をどうにか。

その為には、なんらかの勲功が必須だ。


それは、国を救うレベルの勲功。

そこで、ふと閃いた。良い方法がある。

ボクが妊娠すれば、大手柄じゃないか!


跡継ぎ問題の解決。それは急務だ。

それを教育係が解決すれば。

奴は爵位を得て、子供も出来る。

鶏が先か卵が先かなんてどうでもいい。


さっそく今晩あたりに奴に交渉して。


そんな事を考えていたら見透かされた。


「殿下、いやらしい顔になってますよ」

「そ、そんなことないよっ!?」

「失礼。身の危険を感じましたので」

「うぅ……教育係の意地悪」


どうにもこいつはガードが固い。

なんとか舞踏会の最中に崩したい。

今はひとまず、ダンスを楽しんで。

そのあと、ゆっくりと策を練ろう。


ボクは教育係の隙を、虎視眈眈と狙う。

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