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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第2章 【学園生活と日常】
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第90話 『姫君と召使いの作為』

「女性関係を清算して下さい」

「は?」


晴れて教育係と恋人関係になった翌日。

恋人になっても特に変わった事はない。

もちろん、内心はウキウキではあるが。

いつも通り、教育係のクルマで登校。

学園に着き降りようとするとこの発言。


奴はボクに、女性関係の清算を求めた。


とはいえ、なんのことかわからない。

助手席に座りなおして、聞いてみる。

教育係の発言の意図を。


「意味がわからないから説明してくれ」

「殿下は私の恋人となりました」

「そうだな」

「その旨を妃候補達にお伝え下さい」


妃候補にボクらの関係を伝える。

それ自体はやぶさかではない。

むしろ、言われずとも話すつもりだ。


しかし、それが女性関係の清算なのか?


いまいち腑に落ちずに首を傾げる。


そんなボクに教育係は念を押してきた。


「ちゃんと全員に伝えるのですよ?」

「ああ、わかった」

「では、私は所用がありますので」

「えっ? 学校、サボるの?」

「黒髪ロングの見舞いに行って来ます」


教育係は学校をサボる模様。

黒髪ロングのお見舞いに行くらしい。

それならば、咎めることは出来ない。


ボクはクルマから降りて、奴を見送る。


「黒髪ロングによろしく頼む」

「はい、かしこまりました」

「……なるべく、早く帰って来てね?」

「ええ、放課後までには戻ります」


つい、そんな甘えたことを口走った。

でも、いいよね。恋人なんだし。

恥ずかしいやら、寂しいやら。


そんな情けないボクを教育係が手招く。


「ん? どうしたの?」

「行ってらっしゃいのキスです」


無警戒に運転席に寄ったらキスされた。

不意打ちだった。教育係の奴め。

半眼で睨みつけても、奴はどこ吹く風。


「女性関係の清算の件をお忘れなく」


それだけ言い残して、奴は走り去る。

取り残されたボクは唇をごしごし。

奴の感触が残っていて、くすぐったい。


その後、気分上々で、教室へ向かった。


「三つ編み眼鏡」

「はい、なんですか?」


教室に入ってすぐに声をかけた。

丁度、1人で席に着いていた委員長。

三つ編み眼鏡に、最初に伝えよう。


「教育係と恋人になった」

「へっ?」

「実はボクはあいつが好きなんだ」


きっぱり告げるとポカンとされた。

眼鏡がずれている。直してやろう。

くいっと眼鏡を持ち上げてやる。


すると、三つ編み眼鏡が我に返った。


「えっと、デンカちゃん」

「なんだ?」

「教育係さんへの好意は知ってました」

「なんだとっ!?」


これは驚き! 彼女はエスパーか!?

びっくり仰天していると、笑われた。

ころころ笑う三つ編み眼鏡。くやしい。

何故か、見透かされていたようだ。


悔しがるボクに、彼女は祝辞を述べた。


「あの、その、おめでとうございます」

「あ、ありがと」

「今度、お祝いのケーキを焼きますね」

「それは本当かっ!?」

「ええ、楽しみにしていて下さい」


祝いのケーキを焼いてくれるらしい。

目をキラキラさせて喜ぶボク。

そんなボクに彼女は優しく微笑んで。


「ですから、お傍に居させて下さい」

「当たり前だ! ずっと一緒だ!」

「ありがとうございます。大好きです」

「えっ?」


さらっと三つ編み眼鏡が告白してきた。

ぎょっとすると、彼女は涙目になった。

慌てたように、ボクに尋ねてくる。


「あ、あの、迷惑……でしたか?」

「いや、そんなことはないけど……」

「それなら安心しました」

「で、でも、ボクはあいつが……」

「それでも、構いません」


きっぱり構わないと言う三つ編み眼鏡。

ボクが教育係を好きでも構わないと。

普段気弱な彼女の強い意思表示。

面食らって、ボクはたじたじ。


「意外と……意思が強いのだな」

「ここ最近、ちょっと強くなりました」

「そうか。それは良かったな」

「はい!デンカちゃんのおかげです!」


そう言ってにっこり笑う三つ編み眼鏡。

最初の印象からは考えられない表情。

いつもおどおどしていた彼女の成長。


ボクのおかげだと言われた。

それが、なんとなく、嬉しい。

気恥ずかしくてはにかむと彼女が囁く。


「これからも、お菓子を食べて下さい」


断われる筈も、なかった。


「オレっ娘」

「あん? どーかしたか?」

「教育係と恋人になった」

「ふーん」


昼休み、オレっ娘にも伝えた。

彼女は特に興味なさそうな感じ。

予想外の反応に戸惑う。怒ってるの?


そんなボクにオレっ娘はデコピンした。


「痛いっ!? な、何をするっ!?」

「オレに気を遣う必要はねーよ」

「別に、そんなつもりは……」


額を押さえてしどろもどろなボク。

それを見て、長嘆を漏らすオレっ娘。

そして、言い聞かせるように語る。


「オレの気持ちは変わらないぜ?」

「ど、どういう意味……?」

「オレは何があってもデンカが好きだ」


八重歯を光らせて爽やかに告白された。


「で、でも、ボクはあいつが……」

「んなこと知ったこっちゃねぇ」

「そ、そう言われても……」

「オレが誰を好きになろうが自由だ」


そう言えば、そんなことを言っていた。

それがオレっ娘の信条らしい。

ならば、とやかく言うことは出来ない。


「また今度夜這いに行くからよろしく」


それだけは勘弁して貰いたいものだ。


「デンカ様、首尾はどうですか?」


放課後、奴が教室に現れた。

開口一番に首尾を問う教育係。

生徒会室に向かいながら、会話する。

ボクは目を逸らしつつ、結果を伝えた。


「一応、伝えることは伝えた」

「清算は出来ましたか?」

「いや、それでも構わないと……」


ありのままを報告すると、奴はため息。

やっぱりか、みたいな。呆れてる。

教育係はじと目でボクを非難した。


「デンカ様の女ったらし」

「ひ、人聞きの悪いことを言うな!?」

「黒髪ロングも似たような反応でした」

「そ、そうだったのか……?」

「ええ、それでも構わないと」


どうやら清算は失敗らしい。

けれど、どこかほっとしている。

ボクが好きなのは教育係。

それは変わらない。間違いない。


だが、妃候補達も好きだ。

それは恋愛感情とはたぶん違うけれど。

このままの関係でいたいと思う。


しかし、それで奴が嫉妬するならば。

それは恋人として清算しなければ。

だからボクは、教育係に尋ねる。


「妃候補達と仲良くするのは嫌か?」

「いえ、彼女達はデンカ様に必要です」

「でも、お前が嫌なら、ボクは……」

「デンカ様。一つだけ言っておきます」


教育係がこちらを見つめて、諭した。


「恋人がモテるのはとても嬉しいです」


その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。

そんなボクに奴はただしと付け加える。

教育係は悪戯っぽく、忠告をした。


「隠れてコソコソはしないで下さいね」

「ああ、肝に銘じておくよ」

「くふっ。ならば良しとしましょう」


苦笑すると、奴は意地悪そうに笑う。

くっくっくっと、肩を揺らす教育係。

その耳に、何やら見覚えのある宝石が。


そこで、気づいた。ピアスだ。

ボクが昨日あげた、ルビーのピアス。

それを、教育係が付けていた。


「教育係! それ、どうしたの!?」

「病院で穴を開けて来たのですよ」

「そっか! うん! 似合ってる!!」

「お褒めに預かり、光栄です」


誇らしげな教育係。

見舞いのついでに開けてきたのか。

なんて仕事の早い奴だ。偉い!


黒髪からチラリと覗く赤いルビー。

格好良いし、可愛い。完璧だ。

目論見通り、教育係にぴったりだ。


「これで私はデンカ様の恋人です」

「うん! お前はボクの恋人だ!」


いちゃいちゃしながら、生徒会室へ。

ガチャリと扉を開けると、姫君の姿が。


「来たわね」


どうやら、ボクらを待っていたらしい。


そして、背後でバタンと扉が閉まった。

召使いが、扉の前に立っている。

彼はにやりと笑い、口を開いた。


「どうやら、上手くいったみたいだな」


言いながら、耳を指し示す彼。

ピアスのことを言っているようだ。

ボクは世話になった彼に感謝を述べる。


「おかげ様で、恋人になった」

「そいつは結構。めでたいな」


ヘラヘラと拍手をする召使い。

口調は穏やかだけど、どこか不穏だ。

訝しんでいると、教育係が口を開いた。


「貴方……何を企んでいるのです?」

「おっと。それは姫さんに聞きな」


どうやら何かを企んでいるらしい。

姫君に視線を向けると、目が合った。

鳶色の瞳が、こちらを射抜く。


桃色髪の姫君は、ボク向けて告げた。


「やっぱり、あなたは私と結婚なさい」


それは以前終わった話だ。

許嫁だった桃色髪の姫君。

しかし、それは無効となった筈。


どうして、今更むし返すのか。


「その教育係とは結婚出来ないわ」

「えっ?」

「身分が違い過ぎる。だから、提案よ」


呆気に取られるボク。

姫君はそんなボクに嗜虐的に微笑み。

そして、現実を突きつけた。


ボクと教育係の身分差を。

言われて愕然とした。

ボクは王位継承者で。

教育係は、ただの教育係。


どんなに好きでも、結婚は出来ない。


愕然としていると、姫君がこう唆す。


「私と結婚して、皆で暮らしましょう」

「み、皆で暮らす……?」

「ええ、あなたの妃候補達も一緒に」

「お前は……何を言ってるんだ?」

「それが、皆が幸せになれる方法よ」


皆で一緒に暮らす。

それは文字通りの意味だろう。

姫君と結婚すれば、それが実現する。


しかし、その為に結婚していいのか?

結婚とは、そんなものなのか?

それしか幸せになれる方法はないのか?


思案に耽るが、答えは出ない。

桃色髪の姫君の提案を拒否出来ない。

ボクはどうしても、奴と結婚したい。


思わず頷こうとすると教育係が止めた。


「お待ちください、殿下」

「でも、教育係……」

「姫君は我らを利用しようとしてます」


何やら物騒なことを言い出した。

利用だと? 何のことだ?

眉をひそめると、召使いが舌打ちした。


「あーあ。バレちまったら仕方ねぇ」

「どういうことだ、召使い」

「いや、俺らも似たような状況なのさ」

「似たような状況……?」

「ああ、身分差をどうにかしたくてな」


あっさりと、召使いが白状した。

そもそも騙すつもりはないらしい。

口ぶりからして説明する気だった様子。


「俺も姫さんと幸せになりたいんだよ」


だから頼むと、召使いは頭を下げた。

なるほど。それが狙いだったのか。

その為に彼はボクを後押しした。


自らと同じ身分差を作り出す為に。


それが、召使いと姫君の、作為か。


「姫君」

「なに?」

「ひとつ聞きたいんだが……」

「ええ、構わないわよ?」

「結婚したあと、王家はどうなる?」


それが気になった。

ボクは唯一の後継者だ。

姫君もまた、隣国の後継者。


その2人が結婚したら。

王家はどうなってしまうのか。

立場的にそれを聞く義務があった。


「それぞれの国を統治すればいいわ」

「そんなことが可能なのか……?」

「ええ、真なる同盟相手になるのよ」


家族としてね、と彼女は付け足した。


家族。家族か。それなら悪くない。

悪くはないけれど。良くもない。

だって、結婚は好きな人としたいから。


「姫君はそれでいいのか?」

「うつけと居られるなら、構わないわ」

「好きでもない相手と結婚しても?」

「いえ、私はあなたのことが好きよ?」

「へっ?」

「今は特別ないとこだと思っているわ」


特別ないとこ。なんだそれ。

それは恋愛感情ではないだろう。

だけど、温かい言葉だ。家族愛か。


それもまた、ひとつの愛情の形だろう。


しかし、当然、納得は出来ない。


「ボクはまだ13才だ」

「ええ、そうね」

「成人するまで時間をくれ」

「わかったわ。でも、断言しておく」


猶予を要求すると、それを承諾した。

桃色髪の姫君は勝ち誇った表情をして。

偉そうに腕を組み、断言をした。


「きっとあなたは私の元に来るわ」


桃色髪の姫君は、そんな予言を告げた。


「教育係」

「はい、なんでしょう?」

「恋とはいろいろと大変なのだな」


その日の帰り道。

車内でしみじみとそう呟く。

今日は本当に疲れた。


恋人になって初日からこれだ。

恋とは思ったよりも、茨の道らしい。

げんなりしていると奴が苦笑を漏らす。


「それもまた、恋の良さかと」

「そんなものか」

「はい、そういうものです」


屋敷に着いて、教育係が身を乗り出す。

何をされるかはわかっている。キスだ。

それで、幸せな気持ちになる。単純だ。


前途は多難だけれど。

きっと楽しい日常が待っている。

教育係と一緒ならば怖くない。


奴の赤いルビーのピアスを眺めながら。

ボクはそう思っていた。実際そうだ。

楽しい日々はあっと言う間に過ぎ去り。


姫君や妃候補達に振り回されながら。

ボクは教育係と幸せに過ごし。

そして数ヶ月後、思い知ることになる。


楽しいことの分、辛い目に遭うのだと。


それをボクは、まだ知る由もなかった。

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