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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第2章 【学園生活と日常】
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第88話 『アクシデント』

「陛下と将軍はライバルだったのです」

「そうなのか?」

「ええ、学生時代の名残ですね」


飛び出して行った父上と将軍。

三つ編み眼鏡の父親が懐かしそう。

いや、懐かしがってる場合じゃないよ!

怪我する前に早く止めなきゃ!


はらはらしてると、心配は無用と言う。


「心配ご無用。彼らは猛将ですので」

「猛将か。議長はどうなのだ?」

「私は差し詰め、知将でしょうか」


恥じ入るように彼は非力を示した。

知将。それもまた国の要だろう。

父上と将軍、そして国会の議長。


彼らがボクの国を治めている。

誰もが安心出来るように守っている。

この余興も若者にそれを示す為のもの。


さりとて、猛将達は、やり過ぎだった。


「どうした将軍!腕が鈍ったかっ!?」

「なんの、まだまだ!ぬぉおおっ!!」


木刀なのに火花を散らす2人。

つば迫り合いをしながらバチバチと。

観客は大盛り上がり。後には引けない。


その横で教育係が手当てを受けている。

奴の手に黒髪ロングが包帯を巻く。

どうやら火傷を治療しているらしい。


大丈夫かな。心配だな。

あんまり酷い怪我じゃなければいいな。

首を伸ばして、その様子を眺める。


包帯を巻き終え奴が手を開いて閉じる。

動作に問題はなく、平気そう。

それを見て、一安心。しかし、その時。


事件が、起きた。


「余の力を思い知るがいいっ!!」

「ぬぅっ!? 某が受けて立つ!!」


距離を取って、力を溜める父上。

将軍も同じく必殺の一撃の構え。

それを見て、国会の議長が慌てた。


「いけません!身を低くして下さい!」

「危険なのか?」

「ええ、昔から無茶をなさる方達です」


議長に促されて、身構える。


父上の、国王の渾身の一撃が放たれた。

上段から振り下ろされた剛剣。

なんと、教育係と同じく発火した。

下段から迎え打つ将軍の返し技。

それは、オレっ娘と同じく燕返し。


燃える剣と神速の3連撃が、衝突。


その衝撃で、闘技場が、割れた。

もちろん比喩ではなく。パックリと。

父上と将軍はたしかに真なる猛将だ。


「と、闘技場が割れたぞっ!?」

「本当にやり過ぎる方達ですね」

「やり過ぎなんてものじゃない!」

「ええ、そのせいで何度も問題が……」

「現在進行形で大問題だ!!」


観客席から悲鳴があがる。

見ると、衝撃の余波でガレキが飛んだ。

それは一直線に教育係の元へ。


危ない! 逃げて!!


咄嗟にそう叫ぼうとするが間に合わず。

放物線を描いてガレキが落下。

教育係が下敷きになる、その間際。


「やれやれ、お戯れが過ぎますよ」


火傷をしていない片手でガレキを粉砕。

もうもうと立ち込める砂埃。奴は無事。

教育係は、無傷で難を逃れた。


それを見て、ほっと一息。

しかし、教育係の背後に被害者が。

ナース姿の黒髪ロングが倒れていた。


「ッ!? 姫君、あとは頼む!!」

「あっ! ちょっと!?」


姫君にあとを任せて現場に向かう。

息急き切って駆け寄る。

教育係が彼女を抱き起こしていた。

呼吸を整えることなく、無事を問う。


「黒髪ロングは無事か!?」

「衝撃で気を失ったようです」

「だ、大丈夫なのか……?」

「倒れた際に怪我をしてなければ……」


不安げに見つめていると目を覚ました。

ぼんやりとしている黒髪ロング。

徐々に焦点が合って、ボクに気づいた。


「デ、デンカ様……?」

「ああ、良かった。大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫……痛ッ!」

「ど、どこか痛むのか!?」

「あ、足を挫いてしまったようで……」


黒髪ロングが足を挫いてしまった。

教育係が状態を確認する。

しばらく観察して、所見を述べた。


「骨には異常はないようですね」

「そ、そうか。それなら良かった」

「……お守り出来ず申し訳ありません」


教育係は悔しげに謝罪した。

そんなことはない。守ってくれた。

ガレキの下敷きにならずに済んだのだ。

教育係を責めるつもりなど毛頭無い。


ボクが怒りを燃やしているのは父上だ。


「陛下っ!いい加減にして下さいっ!」

「うぐっ……す、すまん」


心配そうに様子を窺っていた父上。

キッと睨みつけて、きつく叱った。

ボクが父上を叱るなんて初めてだ。


父上も面食らったらしく。

ボクの剣幕に驚いた表情を浮かべて。

素直に頭を下げた。国王の謝罪だ。


「ほら、親父もちゃんと謝れ」

「も、申し訳ない!!」


娘のオレっ娘に促されて将軍も謝罪。

会場からはどよめきの声が。

この2人を謝罪させた事に衝撃が走る。


さすが殿下の妃候補とか。

これは本命間違いなしとか。

将来のお妃様万歳!とか。


なんか誤解が加速した。

ボクがボクの将来のお妃様とか。

それをついて弁明している暇はない。


「教育係」

「はい、デンカ様」

「黒髪ロングを医務室に運んでくれ」

「かしこまりました」


命じると、奴は彼女を抱き上げる。

その抱き方に、思わず目を見張る。

教育係は彼女をお姫様抱っこした。


黒髪ロングも驚いたようで。


「あ、あの、この抱き方は流石に……」

「力を抜いて、お気になさらずに」

「あぅ……あ、ありがとうございます」


真っ赤になって照れる黒髪ロング。

そのまま、医務室へと運ばれた。

確かに足に負担のかからない抱き方だ。


けれど、なんだろう。

ボクが命じたのに、胸が痛む。

こんな時なのに、緊急事態なのに。

どうして、こんなにもやもやするのか。


たぶん泣きそうになっていたのだろう。

父上がそれを見て、頭を撫でてきた。

諸悪の根源は父上。怒りは収まらない。

思わずむっとすると、また謝罪をした。


「本当にすまなかった」

「陛下は、はしゃぎ過ぎです」

「お前に良いところが見せたかった」

「ボクは陛下を尊敬しています」


そんなに張り切らなくていいのに。

とはいえ、父上とは舞踏会以来だ。

だから、ついやり過ぎたのだろう。


けれど、そんなことをしなくても。

ボクは父上を尊敬している。

そう伝えると父上は優しく微笑んだ。


「お前の叱り方は妻とそっくりだ」

「そ、そうなのですか……?」

「うむ。その服装も相まって驚いた」


懐かしそうな父上。

今ボクは学園の女子制服姿。

学生時代の母上を思い出している様子。


しかし、叱り方まで似てるなんて。

ボクは覚えてないけれど。

なんだか気恥ずかしい。照れる。


そんなボクに、父上は告げる。


「教育係が言っていた通りだったな」

「えっ?」

「お前はとても成長した」

「も、勿体無きお言葉……」

「次の舞踏会では変装しなくていい」

「変装なしで、舞踏会に……?」

「うむ。楽しみにしておるぞ」


そう言い残して、国王は去った。

そんな父上からの思わぬお言葉。

次の舞踏会には変装なしで行ける。

つまり、ボクは表舞台に立つ。


それは嬉しいけれど。

やっぱり不安はあって。

堪らず教育係に縋りたくなるのだが。


奴は今は居ない。

そのことを思い出して切なくなる。

また、もやもやが溢れてきた。


これは嫉妬。嫉妬だろう。間違いなく。

奴は怪我人を運んだだけなのに。

しかも、ボクが命じて運ばせたのに。


どうしてこんな気持ちになるのか。


ブレザーのポッケに手を入れる。

そこには教育係へのプレゼントが。

ピアスの入った小箱を無意識に弄る。


これを渡せば嫉妬も薄れるだろうか。

それとも、余計に強まるのだろうか。

ボクにはわからない。不安が渦巻く。


そんなもやもやした気持ちのまま。


波乱の武道会は、閉幕した。


ボクの教育係は、まだ戻らない。

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