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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第2章 【学園生活と日常】
88/111

第87話 『決勝戦』

「さて、いよいよね」

「ああ、大一番だな」


決勝戦の準備が整った。

あとは試合開始時刻を待つのみだ。

いつの間にか隣に姫君が座っている。

鳶色の瞳を爛々と輝かせて、そわそわ。

ボクも似たようなものだろう。


そんなボクの隣から感慨深い声が。


「よもや、あの2人が闘うとはな」

「父う……陛下、召使いをご存知で?」

「うむ。かなりの手練れらしい」


父上も実況ブースにやって来た。

どうやら召使いは有名人らしい。

少々意外だが、別段驚きはない。

ボクは召使いに救われた経験がある。


青髪に襲われた際、彼に助けられた。

一切気配を感じさせずに不意を突いて。

召使いはそれが出来るくらいの実力者。


そんな彼が、ボクの教育係と闘う。


「悪いけど、うつけが勝つわ」

「いや、絶対に教育係が勝つ」


それぞれの主人たるボクらは睨み合う。

姫君は召使いの勝利を疑っていない。

ならば、ボクだって教育係を信じよう。


あいつには勝って貰わないと困る。

プレゼントを既に用意したのだから。

勝って、教育係に贈り物を渡すのだ。


バチバチと火花を散らすボクと姫君。

そこで、ポンと手を叩く音。

振り返ると、そこには国会の議長が。


「お初にお目にかかります、デンカ様」

「こ、こんにちは」

「私の娘がお世話になっております」


恰幅の良い亜麻色の髪の国会の議長。

挨拶と共に深々と頭を下げてきた。

面食らっていると、彼はにこにこ笑う。


そして唐突に……爆弾発言を口にした。


「そろそろ御心は決まりましたかな?」

「えっ?」

「私の娘を妻に迎えて頂きたいのです」


藪から棒に娘を押し売りしてきた。

これにはボクもたじたじ。困る。

そして、三つ編み眼鏡は激昂した。


「お父さん! 何言ってるの!?」

「いや、奥手なお前の後押しを……」

「いいから余計なことしないで!」


娘に叱られる国会の議長。

楽しそうに高笑いをしている。

どうやら、冗談だったらしい。


ほっと胸を撫で下ろすと肩を叩かれた。

そちらに視線を向けると将軍がにやり。

薄緑色の瞳を悪戯っぽく輝かせている。


「某の娘もよろしく頼みますぞ!」

「よ、よろしくと言われましても……」

「娘に何かご不満がお有りですか?」

「いや、その、ボクはまだ13才で……」

「今から手をつけて貰いたいのです!」

「て、手をつける……?」

「お若いのだからご遠慮なさらずに!」


何というか、豪快な武人って感じだ。

手をつけるの意味は全然わからない。

しかし、手をつけたら後に引けなそう。


そこで、国会の議長が口を挟む。


「何人囲ってもよろしいのですよ?」

「か、囲う……?」

「ですが、正妻は是非とも私の娘を」

「お父さん! いい加減にして!!」


またもや娘に怒られる国会の議長。

物腰柔らかなユーモア溢れる人らしい。

囲うの意味は例の如くわからない。

だけど、やっぱり後には引けなそうだ。


ワイワイ騒いでいると、咳払いが。

桃色髪の姫君が呆れた眼差しをしてる。

なんだかゴミを見るような目だ。


「随分モテモテなのね」

「モテモテ? なんのことだ?」

「それはさて置き、始まるわよ」


素っ気なく、姫君が顎をしゃくる。

試合開始の時刻が迫っていた。

教育係と召使いが向かい合っている。


「お前と闘うのは久しぶりだな」

「ええ、幼少の時以来ですね」

「悪いが、手加減はしねぇからな」

「ふん。一度も勝った事がない癖に」

「あの頃とは比べものになんねぇよ」

「それはこちらも同じです」


それで話は終わりとばかりに。

教育係は静かに目を閉じる。

精神を統一して、再び目を開ける。


その時、ちらっとこちらを見た。

思わずドキッとして、あたふた。

教育係は優しげな笑みを浮かべている。


「が、頑張れ、教育係……!」


迷った末に、頑張れと小さく囁いた。

それは奴に伝わったようで、頷いた。

まるで心が通じ合ったみたいで嬉しい。


ちなみに、姫君と召使いも同じように。

彼がにかっと笑い、姫君が頷く。

ふんと鼻を鳴らして、腕を組む。

負けたら承知しないわよと言うように。


会場の熱気も最高潮。

ガヤガヤと騒がしい。

試合開始まであと10秒。

騒ぎ声が徐々に静まる。

皆、呼吸を止めて、試合開始に備える。


緊迫した空気を切り裂くように。

試合開始のブザーが鳴り響く。

その瞬間、決勝戦が、幕を開けた。


「さあ! 始まりました決勝戦!」

「ああ、始まったな」


三つ編み眼鏡が実況開始。

マイクに向かって美声を放つ。

聞き役のボクは相槌を担当だ。


「先に動いたのは教育係さん!」

「一瞬で間を詰めたな」

「これまで召使いさんは逃げてました」

「けれど、今回は逃げないようだ」


一合目の木刀の衝突音が響き渡る。

上段の教育係の振り下ろし。

下段から召使いが受け止める。

いや、受け流した。力勝負は避けた。


いなされて前のめりになる教育係。

するりと背後を取りにいく召使い。

しかし、教育係はそれを読んでいた。


強烈な肘鉄が彼の顔面を襲う。

しかし、召使いはそれを受け止める。

肘を手のひらでガッチリキャッチ。

それすらも読んでいた教育係。

そのまま回転するように裏拳を放つ。

召使いは飛び退き、間合いを取った。


その一例の流れは無駄がなくスムーズ。

まるで、一流の武道家の組み手の如く。

事前に打ち合わせをしてるような流れ。


もちろん、打ち合わせはしていない。

その証拠に、双方息が上がっている。

けれど、召使いの方が幾分か余裕そう。

これまで力を出さなかった分の差だ。


教育係は準決勝でオレっ娘と闘った。

その死闘による疲弊が見て取れる。

それを好機と見た召使いが仕掛けた。


「随分くたびれてんな!うらぁっ!!」

「ふん。まんまと引っかかりましたね」

「なにっ!?」


袈裟斬りの振り下ろした召使いの木刀。

それをふわりと教育係の木刀がいなす。

柔よく剛を制す。真下から切り上げる。


召使いの木刀が宙に舞う。

空中で回転して教育係の元に。

それを掴んで、勝ち誇る奴。


「勝負ありですね」


やった。教育係が勝った。

わざと隙を見せて勝利を掴んだ。

思わず歓声をあげそうになる。

しかし、召使いが不敵な笑みを漏らす。


「おいおい。勝負はこれからだぜ?」

「潔く負けを認めなさい」

「まだ俺は負けちゃいない」

「仕方ありません。痛い目を見なさい」

「御託はいいから、来いよ」


降伏勧告に従わない召使い。

イラついた教育係がトドメをさす。

二刀を構え、腰を落とし、踏み込む。

一瞬で接敵して、左右から斬り込む。


しかし、召使いは身を屈めて回避。

その瞬間、チャリと彼の鎖の音が。

首輪から伸びる鎖が木刀に絡みつく。


「くっ……身動きが……!」

「形成逆転だな」


二刀を振るったことが仇となった。

両手を封じられた教育係。

その様子を嘲笑う召使い。

正面で向き合いながら、彼は詰った。


「なんだよ、弱くなったな……お前」

「私は、弱くなってなど……」

「弱いよ。そして何より甘すぎる」

「なんだと……?」

「だからやめとけって言っただろ?」

「……黙れ」

「ガキのお守りなんざ、やめちまえ」

「黙れぇぇええええええっ!!!!」


召使いが教育係の逆鱗に触れた。

激怒した奴の咆哮が会場に響き渡る。

ビリビリと肌が震える。気迫が伝わる。

流石の召使いもびびったらしく。

拘束していた鎖がほんのすこし緩む。


その隙に、片腕を引き抜く教育係。

しかし未だにもう片腕は囚われたまま。

召使いの優勢には変わりない。


両者は睨み合い、口撃を交わし合う。


「私が甘いと言いましたね?」

「ああ。甘くて弱い。てめぇはザコだ」

「私はザコではありません」

「いや、ザコだ。そして、臆病者だ」

「臆病者……?」

「ガキの好意にびびってんだろ?」

「そうですか。貴方の差し金ですか」

「親切心だよ。余計な世話だったか?」

「ええ、馬に蹴られて死になさい」

「へっ。この状況で、よく言うぜ」


いくら口撃しても召使いは優勢のまま。

余裕の笑みを浮かべて、へらへら。

片腕で拘束した時点で勝ったつもりだ。


「ならば、今こそ見せましょう」

「何をする気だ?」

「甘くない私の、本気の力を」


それを覆すべく。

教育係は秘策を。秘奥儀を。

今この時の為に、解き放った。


「終の秘剣……炎刀、熱烈丸」


ブォンッ!と、片腕を振り払う。

すると、持っていた木刀が着火。

炎が刀身を包み込む。燃える木刀だ。


「な、なんだよそれっ!?」

「科学的には空気摩擦。愛の炎です」

「おかしいだろ!? 名前も変だし!」

「熱烈丸の可愛さが理解出来ないと?」

「理解出来ないし、したくもねぇ!」

「やれやれ。なんとも嘆かわしい」


空気摩擦で発火したらしい。

それを愛の炎と呼ぶ教育係。

無理矢理すぎる。名前も無理矢理。

酷いネーミングセンス。でもすごい。


いや、本当に、めちゃくちゃ、すごい。


すごいすごいすごい!!

本当に剣から炎が出たよ!

信じられない。教育係はすごい。

でも、あれって熱くないのかな?


と、思ったら、やはり熱いらしく。


「柄まで燃える前に決着をつけますよ」

「決着って、どうするつもりだよ?」

「こうするのです。えいっ」


無造作に、燃える剣を鎖に接触。

きょとんとする召使い。その数秒後。

彼を首輪を押さえて苦しがる。


「あっち! 熱い! なんだよこれ!?」

「鉄の熱伝導率は極めて高いのですよ」

「お前だって片腕が熱いだろ!?」

「ええ。ですから、早く降参なさい」

「わかった! 降参するからやめろ!」

「くふっ。これにて私の勝ちですね」


そこで試合終了を告げるブザー。

召使いが降参して、勝者は教育係。

なんとも呆気ない結末となった。


ちょっとずるい気もするが、勝った。

一応、木刀を燃やしたのは実力だ。

ブーイングもなく、拍手喝采。

奴の勝利だ。会場も大いに湧いた。

そりゃあ燃える剣だもん。憧れだよね。


鎖から解放された奴が木刀を一振り。

すると、炎は消え、消し炭に。

手に付いた煤をぱんぱんと払う。


黒ずんだ手をこちらに掲げてくる。

ボクも手を振って答える。格好良い。

やばい。素敵すぎる。勝ったよ。

勝った。つまり、計画通り。やった!


これで、プレゼントを渡せる!


ウキウキなボクとは裏腹に。

桃色髪の姫君はどんより。

むすっとして、悔しそうだ。


「ぐぬぬ……うつけの馬鹿」

「そう言うな。彼は強かった」


一応、フォローしておく。

途中まで優勢だったことは間違いない。

しかし、召使いは詰めが甘かった。

いや……もしかしたら。

わざと煽ったのかもしれない。


彼はわざと教育係を怒らせた。

そして本気を出させて、負けた。

思えば、最後の降伏も不自然だ。


召使いの首輪は、革製なのに。


鎖の熱が革にまで伝わるだろうか?

あれが演技だとすればそれはきっと。

ボクの計画の成功を後押ししたのか。


そう考えると、辻褄が合う。

それを知ってか知らずか。

姫君は大層ご不満らしく。

悔し涙を流しながらも、彼を讃えた。


「ま、うつけにしては上出来だったわ」

「姫君は優しいな」

「たまには優しくする時もあるわよ」

「今日はたまたまか」

「ええ。たまたま、格好良かったから」


素直じゃない桃色髪の姫君。

けれど、その微笑みは優しげで。

視線の先の召使いは照れ臭そう。


なんだか見せつけられてしまった。


そんなラブラブな2人をよそに。

何やら父上が試合を見て大興奮。

将軍とひそひそ密談を交わしている。


「うむ。良い試合だったな」

「血湧き肉踊る闘いでしたな」

「どうだ、将軍。余と一戦交えるか?」

「ふむ。それは良い余興ですな」


いやいや! 余興も何も終わったから!

そう突っ込む暇もなく、父上が動く。

実況ブースから会場に降り立った。

観客がどよめく。国王の言葉を待つ。


衆目を集めた父上が高らかに告げる。


「諸君らに余の力を見せよう!!」


父上……無茶しやがって。

げんなりするボク。沸き立つ観客。

そこにオレっ娘の父親が登場。

さぞ、熱い展開だろう。ボク以外には。


【国王 VS 将軍】


ボクの父上は、目立ちたがり屋で困る。

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