表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第2章 【学園生活と日常】
85/111

第84話 『初めての喧嘩と仲直り』

「さあ、仕事を始めるわよ!」


桃色髪の姫君の掛け声で仕事が始まる。

直近に迫った武道会の準備。初仕事だ。

時計塔の新生徒会室に集まったボクら。

それぞれに役割を割り振られた。


「副会長には武道場に行って貰うわ!」

「行って、何をすれば良いのだ?」

「会場の準備の視察をしてきて」

「視察?」

「準備自体は風紀委員の仕事なのよ」


なるほど。それを視察すれば良いのか。

風紀委員相手ならボクでも平気そうだ。

なにせ風紀委員長はオレっ娘である。

彼女の仕事を手伝ってあげよう。


「では、私も……」

「あなたは私とお留守番よ」

「は?」

「出場申請用紙の仕分け作業よ」


さりげなくついて来ようとした教育係。

しかし、桃色髪の姫君に止められた。

奴は生徒会室で書類仕事らしい。


となると、ボク1人で視察か。

なんだか急に不安になってきた。

誰かついて来て貰いたいところである。


そこでヘラヘラと召使いが激励した。


「頑張れよ〜お前ら!」


ダラダラとソファに寝転がる彼。

労働意欲が微塵も感じられない。

これは余りに不公平ではないだろうか。


当然そんな怠慢は姫君が許す筈もなく。


「何言ってんのよ、うつけ」

「へっ?」

「あんたは風紀委員兼任でしょ?」

「えっ? そうなの?」

「ええ、だからさっさと仕事しなさい」


ほっぺをつねられて叱られる召使い。

実に良い気味だ。彼は風紀委員兼任。

つまり、会場の設営準備が仕事である。


ボクと彼は共に行動することとなった。


そこで教育係が強烈な不満を口にする。


「私も武道場の準備をしたいです」

「武道会に詳しい人が居ないと困るわ」

「申請の受付なんて誰でも出来ます」

「経験者がいた方が面倒が少ないわ」

「私は殿下の傍に居たいのです!」

「うるさい!黙って言うことを聞け!」


ぴしゃりと姫君に叱られる教育係。

むうと頬を膨らませた奴。レア顏だ。

とても可愛いけれど、一応釘を刺す。


「教育係」

「殿下もなんとか仰って下さい!」

「良い子にお留守番してるんだぞ?」

「殿下ぁ!?」


よしよしと駄々っ子教育係の頭を撫で。

召使いを引き連れて、仕事に向かう。

初仕事とあって、少々張り切りながら。


「では、行ってくる」

「ええ、頼んだわよ」


画してボクらは会場の設営準備をする。


「オレっ娘」

「おっ! 来たか。よろしくな!」

「ああ、こちらこそよろしく」


武道場に行くとオレっ娘は既に居た。

風紀委員達を指揮して作業していた。

武道場は丸い円形のコロシアムである。

観客席の掃き掃除や、拭き掃除。

やるべきことは沢山ありそうだ。


「まずは何をしようか?」

「ちょっとここに立っててくれ」

「ここに立ってれば良いのか?」

「ああ。んで、無線で指示をくれ」

「指示とは何の指示だ?」

「横断幕が水平かどうか知りたいんだ」


武道場には大きな横断幕が掲げている。

『王立学園大武道会』と記されていた。

それが曲がってないか無線で知らせる。

どうやらそれがボクの初仕事らしい。


「わかった。任せてくれ」

「よし。んじゃ、お前はオレを手伝え」

「へいへい。わかりましたよっと」


召使いを連れてオレっ娘は横断幕へ。

ボクの指示に従って、角度を調節。

何度か微調整をして、水平が出た。


「いや〜助かったぜ、デンカ」

「ぐあ〜もう腕が上がんね〜」


一仕事終えて彼女らが戻ってきた。

爽やかなオレっ娘。だらしない召使い。

対照的な2人に思わずほっこり。

助けになれたなら、来た甲斐があった。


この調子で、どんどん手伝おう。


「次は何をすればいい?」

「そうだな〜掃き掃除でもすっか!」

「俺ちょっと休憩していい?」

「いい訳ねーだろ! 働けーっ!!」

「ぐあっ!? 尻を蹴るなよっ!!」


すぐにサボろうとする召使い。

オレっ娘が一喝して尻に蹴りを入れる。

悶絶する召使いが喚く。あれは痛そう。


ボクらは3人で会場を箒で掃き始める。


しばらく黙々と掃いた。

あらかた綺麗になった。

そこでオレっ娘が休憩を告げた。


「よーし! ちょっと休憩だ!!」

『うす!』


風紀委員達から返事が返ってきた。

それぞれ思い思いに休憩を取る。

ボクらも観客席に座って暫しお休み。


隣でぐったりしてる召使い。虫の息だ。

そんな彼に少々聞きたいことがあった。

召使いの袖をくいくい引っ張り尋ねる。


「召使い、召使い」

「あん? どーかしたか?」

「贈り物の件なんだが……」

「ああ、そのことか。どうした?」

「何を贈ったら良いと思う?」


この前、彼が提案した贈り物作戦。

あれからボクはずっと悩んでいた。

教育係に何をプレゼントした良いかを。


しかし、召使いは、冷たい俺だった。


「んなこと俺に聞かれても困る」

「ええーっ!? そんなぁ!?」

「そのくらいは自分で考えな」


ぐぬぬ。なんて意地悪な奴だ。

仕方ない。奥の手を出そう。

これから彼もボクを無下に出来ない筈。


「お兄ちゃん、お願い」

「ふぉっ?」

「お願いお兄ちゃん。協力して?」

「ふぉぉおおおっ!?!!」


効いてる効いてる。効果は抜群だ。

よし、このまま押し切ろうと思ったら。

騒ぎを聞きつけて、オレっ娘が現れた。


「なになに? 何の話?」

「あっ、いや、これは、その……」

「良いから話してみろって」


押しの強いオレっ娘。

薄緑色の瞳をキラキラと輝かせて。

ボクの頬を突きながら追求してくる。

堪らず召使いに視線を向けるが。


「……あとで姫さんにも呼ばせよう」


なにやら良からぬことを企んでいる。

妄想に夢中で使い物にならない召使い。

ボクは仕方なく、オレっ娘に説明した。


「実は贈り物をしようと思って……」

「へぇ〜誰に?」

「きょ、教育係にあげたいのだが……」


そう言った途端。彼女の雰囲気が一変。

先ほどのニコニコ顏が引っ込み。

さっと能面の如き無表情に変貌した。


「あいつに贈り物だと?」

「あ、ああ。何が良いと思う?」

「爪楊枝でもあげればよくね?」


心底どうでも良さげに答えるオレっ娘。

いやいや、いくらなんでも爪楊枝など。

流石の奴でも間違いなく悲しむだろう。


なんとかアイデアを頂けないだろうか。


ボクはしぶとく、オレっ娘に尋ねる。


「つ、爪楊枝以外で何かないか?」

「あるにはあるけどさ〜」

「ほ、本当か!?是非聞かせてくれ!」

「んじゃ、一つ条件がある」

「じょ、条件……?」

「オレのことを、姉ちゃんって呼べ」


オレっ娘が提示した条件。

先ほどの会話を聞いていたのだろう。

姉ちゃんと呼べと言ってきた。


しかし、その程度なら安いものだ。

背に腹は代えられないのだから。

ボクは覚悟を決めて、彼女に囁く。


「ね、姉ちゃん」

「うひょー! たまんねー!!」


奇声を上げてゲラゲラ笑うオレっ娘。

とんでもなく恥ずかしいが、我慢だ。

ボクは辛抱強く、もう一度尋ねた。


「姉ちゃん……教えて?」

「仕方ねぇな! わかったよ!」

「あ、ありがとう!」

「贈り物で喜ぶ物……それはずばり」

「ずばり?」

「ピアスだ! ピアスしかない!!」


オレっ娘は断言した。

贈り物にはピアスしかないと。

ピアス。ピアスか。うん、良さそう。

一応、理由を聞いておこう。


「どうしてピアスなんだ?」

「成人祝いに貰うのが夢だから!」


どうやら個人的な夢だったらしい。

けれど、とても良いアイデアだ。

教育係も成人してるし、ばっちりだ。


あいつにボクの選んだピアスをあげる。

それを奴が毎日付ける。完璧だ。

確かに、これ以上の贈り物は、ない。


「よし、決めた。ピアスにしよう!」

「随分あっさり決めたな」

「悩んでても仕方ないからな」


悩みが解決して気分爽快なボク。

そんなボクにオレっ娘は呆れ気味。

そして妖しく八重歯を光らせ口を開く。


「そいつは結構。それで、デンカ」

「ん? なんだ?」

「もちろん、オレにもくれるよな?」

「何を?」

「ピアスだよ!決まってんだろーが!」


胸ぐらを掴んで催促してきた。

ぐわんぐわん頭を揺らされフラフラ。

だが彼女には普段から世話になってる。


そして何より今回の礼も兼ねて。

ボクはその要求を、受け入れた。


「わかった。プレゼントしよう」

「やたー!成人すんのが楽しみだぜ!」

「ちなみに成人までどのくらいだ?」

「今14才だから、来年だぜ!」

「わかった。覚えておこう」


来年、オレっ娘が成人したら。

ピアスをあげる約束を交わした。

とても嬉しそうだ。抱きついてきた。

ボクも抱き返すと頬ずりをしてきた。

すべすべのオレっ娘の頬が心地好い。


そんな場面を、目撃された。

もっとも見られてはならない。

ボクの、教育係に。


「デンカ様から離れなさいっ!!」

「うわっ!? 何すんだよ!!」

「それはこちらの台詞です!!」


いつの間にか背後に現れた教育係。

オレっ娘とボクを引き離す。

そのままいつも通り喧嘩が勃発。


しかし、何故ここに教育係が?

奴は生徒会室で書類仕事の筈。

それなのに、どうして武道場に?


それが気になって、教育係に尋ねる。


「仕事はどうしたんだ?」

「今日の分は終わらせてきました」


早っ!? なんて仕事が早い奴だ。

なんて感心している場合ではない。

だって、プレゼントのことは秘密だ。


この状況は、すこぶる不味かった。


「とにかく、帰ってくれ」

「そうだそうだ! 帰れ帰れ!!」

「何故、私を邪険にするのですか!?」


帰れと言っても素直には聞かない奴。

この時のボクはテンパっていた。

秘密が暴露することは絶対に避けたい。

だから、つい、思ってもないことを。

教育係に、言ってしまった。


「うるさい! 放っておいてくれ!!」


意図せず、怒鳴り散らしてしまった。

教育係の顔から血の気が引く。

そこでボクも我に返った。不味い。

奴に酷いことを言ってしまった。


慌てて謝ろうとした。

けれど、それよりも早く。

奴が目尻に涙を溜めて、怒鳴った。


「デンカ様の女ったらしー!!」

「お、おい! 違うんだ、これは……!」

「もういいです!もう知りません!!」


言うだけ言って教育係は立ち去る。

これにはボクもむっときた。

なんだよ。人の気も知らないで。

だいたいボクが一体、誰の為に悩んで。

誰の為にプレゼントを贈ろうと。


いや、だけど、流石に言葉が過ぎた。


やるせない苛立ちと。

酷いことを言ってしまった罪悪感。

すぐに素直に謝れば良かった。

だけど、ボクにだって言い分はあって。


こんなことは、初めてだ。

この日、ボクは初めて。

教育係と、喧嘩をした。


「デンカ……なんかごめんな?」

「いや、オレっ娘のせいじゃない」


申し訳なさそうに謝るオレっ娘。

彼女に責任を押し付けることはしない。

これはボクと教育係の問題だから。


そこでヘラヘラと召使いが取りなす。


「ま、とりあえず俺達も戻ろうぜ?」

「うん……わかった」

「デンカ、手伝ってくれてありがと」

「ああ、また何かあれば呼んでくれ」


召使いに促され生徒会室に戻る。

道中、彼はアドバイスをくれた。

ヘラヘラ笑って、召使いは断言する。


「こんな時は先に謝ったもん勝ちだ」


なんとも彼らしいアドバイス。

きっとこれまでそうしてきたのだろう。

先に謝ったもん勝ち。そうなのか。


よし。とにかく、謝ろう。

憤りはとりあえず置いておく。

先に仲直りをするのが先決だ。


「わかった。ちゃんと謝る」

「ああ、そうしておけ」


ぽんぽんと頭を撫でてくる召使い。

一応彼なりに気遣ってくれたらしい。

召使いは優しい男だった。


そして彼はガチャリと。

生徒会室の、扉を開いた。


「うぃーす! 今帰ったぞ〜!」

「あら、うつけ。遅かったわね」


覚悟を決めてボクも生徒会室に入る。

すると、姫君達は帰り支度していた。

教育係も荷物を纏めている。よし今だ。


「きょ、教育係、さっきは……」

「ふんっ」


なっ!? 鼻を鳴らしてぷいっとされた!

なんだよその態度は。頭にきたぞ。

ギリッと歯を食いしばって睨みつける。


そんなボクらを見て姫君達がひそひそ。


「どうしたのよ、あの2人?」

「ほっとけ。青春中だからよ」


ほっといてくれ! 絶対許さない!

何が先に謝ったもん勝ちだ。嘘だッ!

ボクは断じて謝ったりするもんか!!


こうして、ボクと教育係は意地を張る。


学園から帰る道中も。

離宮に戻ってからも。

夕食を食べる際も。


ボクらは一言も口をきかなかった。

食べ終えた後、奴はどこかに行った。

黙って、ふらっと、席を外した。

そんなボクらを不審に思ったようで。

給仕してくれたメイドが尋ねてきた。


「殿下、どうかしたのですか?」

「別に」

「喧嘩でもしたのですか?」

「あいつが悪いんだ」

「意地は張らない方が……」

「うるさい。放っておいてくれ」


ああ……また言ってしまった。

駄目だ。ついイライラしてしまう。

メイドに八つ当たりをしてしまった。


彼女はこの件には関係ないのだ。

きっと傷ついただろう。悲しいだろう。

罪悪感で押し潰されそうになる。


慌てて、ボクは謝ることにした。

早く謝らないと。一刻も早く。

そうしないと意地を張ってしまうから。


「ごめんね、メイド」

「いえ、私は気にしてませんよ?」

「でも、ボクは酷いことを……」

「何を言われても、放っておきません」

「えっ?」

「きっと、教育係さんも、同じですよ」


銀髪メイドはそう言って優しく微笑む。

噛んで含めるような、彼女の言葉。

何を言われても放っておかない、と。


「メイド、ごめん……ごめんね」

「大丈夫です。ずっとお傍にいます」


そう言われて、涙が出てきた。

メイドのエプロンに抱きついて、泣く。

彼女は何も言わずに、頭を撫でた。


しばらく泣いたら、すっきりした。

そして自分の愚かさが良くわかった。

やっぱり、今回はボクが悪い。


だから、教育係に謝ろうと思った。


けれど、奴はまだ戻らない。

夕食後に無言で退室してしまった。

きっと、怒っているのだろう。


ボクが怒らせたのだ。

呆れているのかも。

知らないと言われた。

もう、帰って来ないかも。


そう思ったら居ても立っても居られず。


「メイド、教育係はどこっ!?」

「きっとすぐ近くに居る筈ですよ」

「さ、探してくる!!」


部屋を飛び出して、廊下に。

キョロキョロと辺りを見回す。

そして奴はすぐに見つかった。

メイドの言った通り、すぐ傍に居た。


教育係は扉の横に座り込んでいた。

体育座りで、まるでいじけるように。

膝に顔を突っ伏して、泣いていた。


ボクはそんな奴の前にしゃがみ込む。

そして、なるべく優しく声をかける。

教育係が、泣き止んでくれるように。


「教育係」

「ぐすっ……殿下」

「さあ、部屋に入ろう?」


促すと教育係は顔を上げた。

涙で酷いことになっている。

せっかくの美人が台無しだ。


そんな奴は、涙ながらに心中を述べた。


「でも、私……私は……酷いことを」

「酷いことを言ったのはボクの方だ」

「で、殿下……?」

「だから、ごめんね、教育係」

「うぅ……殿下……ごめんなさぁい!」


ようやく、謝ることが出来た。

それにしても、驚いた。

まさか教育係も同じ事を思ってるとは。


感極まって抱きついてきた教育係。

そんな奴を支えながら部屋に戻る。

すると、メイドが恭しく一礼して退室。


もう大丈夫ですね、とでも言うように。

ボクのメイドはとても優秀だ。

素敵なメイドが居てくれて良かった。


内心で感謝しつつ、ベッドに向かう。

教育係がよちよちついてくる。

奴を先に寝かせて、ボクも横になる。


すると、教育係がおずおずと尋ねた。


「一緒に寝てよろしいのですか……?」

「廊下で寝て風邪を引かれたら困る」

「私は風邪など引きません」

「ボクが風邪を引いたら大変だろう?」


いつものふざけたやり取り。

にやりと笑うと、奴はくすくす。

横になったまま、笑い合った。


すると、眠たくなってきた。

そんなボクに教育係が尋ねる。

いや、蒸し返すと言った方が、適切か。


「オレっ娘と何をしてたんですか?」

「秘密だ」

「うぅ……反抗期は嫌です」

「心配するな。お前の為だから」

「私の為……でございますか?」

「ああ、だから……おやすみ」


もう眠気が限界だ。

ゆっくりと意識が薄れる。

その間際、額に柔らかな何かが触れた。


「おやすみなさいませ……殿下」


久しぶりの教育係のキス。

おでこだけど、とても嬉しい。

こんな特典があるなら喧嘩も悪くない。


こうしてボクは、教育係と仲直りした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ