第83話 『今日から副会長』
「あんた今日から副会長だから」
「えっ?」
姫君が生徒会長に当選した翌日。
登校したボクに辞令が下った。
会長から直々に副会長に任命された。
当然、訳が分からずに困惑する。
「ボクが、副会長……?」
「ええ、頼んだわよ」
どうやら聞き間違いではないらしい。
役員の任命権は会長にある。とはいえ。
いやいや。いやいやいや。これは酷い。
ようやく選挙が終わったのに。
ボクは引き続き、姫君に巻き込まれた。
そして被害者はボクだけではなかった。
「そっちの教育係は書記と会計よ」
「やれやれ、致し方ありませんね」
教育係は書記と会計。一人二役の大役。
すんなり引き受けた。それでいいのか。
視線で問うと、諦めたように奴は諭す。
「殿下1人では心配ですからね」
「教育係……ありがとね」
「微力ながら、お手伝いをします」
なんて良い奴なんだ。教育係は優しい。
思わず泣けてきた。近寄って抱きつく。
そんなボクの頭を撫でる教育係。
そこで召使いがヘラヘラと口を挟んだ。
「いや〜悪いなぁ。よろしく頼むわ」
「お前は役員にならないのか?」
「俺はうつけだからな。役立たずだ」
なんだこいつ。自分だけ楽しやがって。
憤りを感じて、召使いを睨む。
ヘラヘラする彼に、姫君が告げた。
「何言ってんのよ。あんたは庶務よ」
「へっ? 庶務ってなんだ?」
「要するに、パシリのこと」
「はあ!? そりゃないぜ姫さんっ!」
ざまあ見ろ。召使いは庶務に任命。
これからはパシリとしてこき使おう。
じゃないと、割に合わないし。
「という訳で放課後に時計塔で集合ね」
言うだけ言って、姫君達は去った。
生徒会室じゃなく、時計塔に集合。
首を傾げつつもボクらはそれに従った。
画して、生徒会活動が、始まった。
「この部屋を生徒会室にするわ!」
そう宣言したのは以前来た一室。
時計塔の上層階の眺めの良い部屋。
青髪に襲われかけた、因縁の部屋だ。
「そんな勝手が許されるのか?」
「会長になったんだから当然よ」
「いや、いくら会長と言えども……」
「眺めの良い部屋の方が良いじゃない」
ボクの忠告にそんな我儘を返す姫君。
まさにやりたい放題だ。不安だ。
けれど、彼女なりに考えがあるらしい。
「この部屋なら学園を見渡せるしね」
なるほど。確かにそれは間違いない。
学園を俯瞰することは重要かも。
会長として真面目に取り組むらしい。
異論を引っ込めると姫君は鼻を鳴らす。
そしてさっさと本題に入った。
それは、直近に迫ったある催しの話題。
「最初の仕事は、武道会の運営よ!」
武道会。それは学園の一大行事。
生徒達の力が試されるイベント。
話には聞いていたが運営に携わるとは。
王立学園は貴族や高官の子らが通う。
彼らは何かしらかの武術を備えている。
そんな生徒が切磋琢磨する為に。
武道会を開き、互いの武術を競い合う。
それが、武道会の概要である。
「さて、何から手を付けましょうか」
「まずは出場者の受付からですね」
教育係がやるべきことを示す。
奴はこの学園の卒業生。そして元会長。
武道会について誰よりも詳しいだろう。
「受付が終わったら試合順を決めます」
「トーナメント式でいいのよね?」
「ええ、くじ引きで決めましょう」
スラスラとホワイトボードに書き記す。
それにふむふむ頷く桃色髪の姫君。
ボクはそのやり取りを眺めるだけ。
召使いもあくびをしながら傍観してる。
だいたい話がまとまってきた。
しかし、ここで思いも寄らぬ提案が。
桃色髪の姫君が爆弾発言を投下した。
「優勝者にはご褒美をあげましょう」
「ご褒美だと?」
「ええ、あなたとのデート権とか」
「はあっ!?」
姫君はボクを景品にするつもりだ。
よりによって、ボクとデートする権利。
そんなの困る。断じて抗議しよう。
それよりも早く、教育係が口を挟んだ。
「そんなことは到底認められません」
「あら、盛り上がると思うけど?」
「ならば、貴女が景品になりなさい」
よし。よく言ってくれた。偉いぞ。
教育係の正論に姫君はしばし一考。
そして、あっさりと、それを飲んだ。
「じゃあ、私も景品になるわ」
「どうぞ、ご勝手に」
「もちろん、その子も一緒よ」
「は?」
「優勝者にどちらかを選ばせるのよ」
姫君も景品に名乗りを上げた。
そして優勝者に選ばせると言う。
どちらかと、デートする権利を。
「おいおい姫さん。正気かよ?」
「私は正気よ。うつけは黙ってて」
「いや、だけどよ……」
「なら、あなたが優勝してみなさいよ」
堪らず割って入った召使いをばっさり。
さすがに彼も心中穏やかではない様子。
そして、姫君は教育係を挑発してきた。
「優勝すれば心配は杞憂になるけど?」
「わかりました。受けて立ちましょう」
ええっ!? 受けて立っちゃうの!?
なんて負けず嫌いな奴だ。教育係め。
だけど、こいつなら優勝出来るかも。
だって、ボクの教育係は最強だ。
負けるところなんて想像もつかない。
こいつが勝てば、何ら問題はない。
その自信を示すように。
教育係が自信満々の笑みを浮かべる。
きゅんときた。うん。格好良い。
それはまさにおとぎ話の王子のようで。
まるでボクが囚われの姫君のようで。
是非とも救われてみたいと思った。
そんな熱い視線を交わすボクら。
それを見て桃色髪の姫君は鼻を鳴らし。
そうはいかないとばかりに忠告する。
「言っとくけど私の召使いも強いから」
「こらこら、ハードル上げんなっての」
「いいから勝ちなさい!わかった!?」
「へいへい。善処しますよっと」
姫君が絶大な信頼を寄せる召使い。
確かに彼は手強そうだ。きっと強い。
ヘラヘラしながら目が笑ってない。
教育係と召使いの視線が火花を散らす。
「つーわけで、ま、お手柔らかに」
「手加減するつもりは一切ありません」
「なら、こっちも本気出すしかないか」
思えば、両者の本気は見たことない。
教育係はいつも余裕で切り抜けるし。
召使いはヘラヘラして底が見えない。
不謹慎かも知れないけれど。
この2人の闘いが楽しみだ。
もう、今からゾクゾクしてきた。
桃色髪の姫君も満足げな表情。
全て、思惑通りと言ったところか。
確かに、武道会は盛り上がるだろう。
「では、両者の健闘を祈りましょう」
そうして、その日の会議は終わった。
「そう言えば、あれからどうなった?」
「あれから?」
「恋の進展はあったのか?」
帰り際、召使いが尋ねてきた。
ボクだけに聞こえるように、進展を。
それに対して、素直にボクは返答する。
「いや、相変わらずだ」
「なんだよ、意気地なしだな」
「だって、ガードが固くて……」
「情けねぇ。必勝法を伝授してやるよ」
なんと。キスに必勝法があるのか。
それはとてもありがたい。興味深い。
ボクは目を輝かせて、耳を傾けた。
「意中の相手に贈り物をやってみろ」
「贈り物?」
「ああ、それでころっと落ちる筈だ」
「ほ、ほんと……?」
「本当さ。あとは流れでやっちまえ」
意中の相手への贈り物。
それでころっと落ちるらしい。
俄かには信じ難い。だが、しかし。
確かに、贈り物は嬉しいものだ。
それはボクにも覚えはある。
きっと、奴も喜んでくれる筈。
そう言えば、そろそろ1年が経つな。
教育係と出会って、1年の月日が経つ。
時期的に、丁度良いかも。今しかない。
それに武道会というのも好都合だ。
教育係が優勝したら贈り物を渡す。
それなら不自然さもない。完璧だ。
試してみる価値は、大いにあった。
「わかった。やってみる」
「おお。上手くやれよ」
召使いは本当に優秀なアドバイザーだ。
なんだかモチベーションが上がった。
武道会の日が待ち遠しい。
その日、ボクも決戦を挑もう。
そうしてボクは、決意を固めた。
ボクの教育係を、今度こそ落とそう。




