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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第2章 【学園生活と日常】
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第81話 『初めてのセッション』

「教育係」

「はい、如何しましたか?」

「詳しく説明してくれ。意味不明だ」


教育係の奇策に困惑するボク。

生徒会選挙に勝つ為に人気を取る方法。

バンドを組んで演奏すれば良いと言う。


はっきり言って、意味がわからない。


そんなボクに奴は偉そうに解説をした。


「生徒達の前で歌って演奏するのです」

「それで選挙に勝てるのか?」

「ええ。間違いなく、勝てるかと」


自信満々に断言する教育係。

生徒達の前で歌って演奏するだと?

それで何が伝わると言うのだろう。


「具体的にはどうするつもりだ?」

「投票日の演説に代わり演奏をします」

「ステージ上でやるつもりなのか?」

「ええ、ゲリラライブをするのです」


投票日の演説。それは最終演説だ。

全校生徒が一同に会するその場。

そこでゲリラライブをすると言う。


馬鹿馬鹿しすぎて何も言えないボク。

しかし、桃色髪の姫君は乗り気だった。

鳶色の瞳をキラキラさせて飛びついた。


「すっごく、面白そうだわ!」

「お気に召しましたか?」

「ええ、それでいきましょう!」


あっさりと教育係の提案を受け入れた。

いやいやいや! おかしいよこの姫君!

困り果てたボクは召使いに視線を送る。


けれど、彼も彼で、おかしな男だった。


「よっしゃ! 燃えてきたぜ!!」

「召使い……お前はそれでいいのか?」

「ああ! だってよ、考えてもみろって」

「何がだ?」

「図書館にエロ本置くより楽しいだろ」


図書館にエロ本置くことは忘れろ。

呆れつつも、一理あると思った。

確かに、ライブは楽しそうだ。


それを傍観者として眺めるだけならば。


「ボクは楽器を演奏出来ないぞ?」

「では、ボーカルを担当しますか?」


ボクは楽器を弾けない。大問題である。

ヴァイオリンやピアノすら習ってない。

習おうとはしたのだけど、無理だった。


ボクには音楽のセンスはなかった。

音楽担当の講師が根を上げる程に。

そんなボクにボーカルを勧める教育係。

ボーカルか。それなら頑張れるかも。


ちょっとやる気が出てきたぞ。

そんなボクに待ったをかける声が。

桃色髪の姫君が、物申してきた。


「その子ばっかりずるいじゃない!」

「ふむ。ではオーディションをします」


教育係はオーディションを宣言した。

とはいえどうすれば良いかわからない。

どうすれば良いのか、奴に尋ねる。


「何をすれば良いんだ?」

「歌を歌って貰います」

「何を歌えば良いんだ?」

「では、簡単なこの曲を歌って下さい」


そう言って、教育係が歌い始めた。

それは誰もが知る童謡の一部。

もちろん、ボクでも聞いたことがある。


それにしても、教育係は歌が上手い。

澄み切った美声に、思わずうっとり。

もうこいつが歌えばいいんじゃないか?


桃色髪の姫君も感心して、張り合った。


「なかなか上手いわね」

「お褒めに預かり、光栄です」

「じゃあ、今度は私が歌うわね!」


すぅっと息を吸って、歌声を披露。

桃色髪の姫君も極めて歌が上手い。

しかも、なんか歌い方が可愛い。

身振り手振りなんかも天才的な可愛さ。


召使いが狂ったように褒め称えた。


「姫さん可愛いよ! よっ!世界一!」

「銀河一の間違いでしょ?」

「銀河一! いや、宇宙一!!」


宇宙一との賞賛を浴びる姫君。

確かに、それだけの魅力があった。

アイドルとして天性の才能を垣間見た。


そしていよいよ、ボクの出番となった。


「それでは殿下、どうぞ」

「ああ……よし、歌うぞ」


若干緊張しながらも歌ってみた。

そのうち何だか気持ち良くなってきた。

目を閉じて、情感を込めて、熱唱する。

歌うって、いいな。とっても楽しいな。


そんな感動に浸りながら、歌い切る。

すっきりして目を開けると、そこには。

何だか気まずい表情を浮かべた3人が。


姫君は目を逸らしてこちらを見ない。

召使いは口の端をピクピクさせて変顔。

教育係は放心状態で、固まっていた。


えっ? なに、その反応。

もしかして上手すぎてびっくりした?

いや〜参ったなぁ。なんて照れてると。


「殿下」

「ん? どうかしたか?」

「殿下はとても可愛いです」

「そ、そうか……ふふっ。良かった」


教育係が褒めてくれた!

やばい。にやけが止まらない。

両頬に手を当てて喜びを噛み締める。


そんなボクの肩に、そっと手を置き。

いつになく、真剣な表情を浮かべて。

教育係が、こんな風に諭してきた。


「可愛すぎるのでやめておきましょう」

「えっ?」

「殿下にはギターを担当して貰います」

「ええーっ!?」


なんかボーカルから外された。

可愛すぎるからって、なんだよ。

まあ、今回の主役は姫君だしね。

ボクが立候補する訳じゃないもんね。


そのやり取りを聞き姫君達はひそひそ。

物は言い様ね、とか。

ありゃ落選間違いなしだ、とか。

なんか失礼なことを言っている。


だけど、それはひとまず置いておこう。

問題はボクに任された楽器だ。

ギターなんて、ボクには絶対無理だ。


「ギ、ギターなんて、無理だよ!」

「大丈夫ですよ。秘策がありますから」


意味深な教育係。秘策があると言う。

こんな時は大抵ロクなことにならない。

問いただそうとすると、予鈴が鳴った。


昼休みが終わり、午後の授業が始まる。

会議は中断となり、教室に戻ることに。

その道すがら、桃色髪の姫君が告げる。


「今晩、あなたの離宮にお邪魔するわ」

「ボクの離宮に? どうして?」

「当然、バンドの練習をするからよ!」


画してその日からバンド活動を始めた。


「では、練習を始めましょう」


ボクの離宮に集合した姫君と召使い。

教育係が仕切って、練習開始。

彼らはそれぞれ楽器の素養があった。

それぞれの役割は、こうだ。


ドラムス担当、教育係。

ベース担当、召使い。

ギターボーカル、桃色髪の姫君。


もうこれだけで完成している。

だって姫君がギターボーカルだし。

ボクは必要ないような気がする。


けれど、教育係はボクに役割を振る。


「殿下にはエアギターをして貰います」

「エアギター?」

「ギターを弾いてる振りをして下さい」


なんだ、それ。ギターを弾く振り?

そんなのおかしいってか、恥ずかしい。

ボクだけ振りとか、やめてよね。


けれど、ギターを弾けないのは事実だ。

弾けないボクには選択肢はない。

仕方なく、受け入れざるを得なかった。


というか、そもそも楽器はどうする?

今から買い集めるつもりだろうか。

しかし、教育係は、抜かりがなかった。


「では、こちらのお部屋にどうぞ」


奴の案内で、とある一室に踏み入れる。

するとそこには、沢山の楽器の数々が。

ボクの離宮なのに、知らなかった。

屋敷にこんなスタジオがあるなんて。


「へぇ。大した設備ね」

「ああ、いいもんを揃えてるな」


姫君と召使いがしきりに感心している。

どうやら良い楽器が揃っているらしい。

いつの間に、そんな楽器が離宮に?


疑惑の視線を向けると、奴は答えた。


「私の楽曲制作の為に集めました」

「楽曲制作?」

「ええ、ドライブの際に流す曲です」


なんと。あれはこいつが作ってたのか!

たまにセンスの良い曲が流れていた。

まさか、教育係が作ったものとは。


「今回演奏する曲も私が作った物です」


そう言って、教育係が楽譜を手渡す。

姫君と召使いはそれを見てふむふむ。

TAB譜なんてボクには全然わからない。


だが、姫君達はお気に召したようだ。


「へぇ。素敵な曲ね」

「ああ、タイトルは?」

「殿下へのラブソングでございます」


タイトルは、ボクへのラブソング。

それを生徒達の前で演奏するのか。

めちゃくちゃ恥ずかしいのだが。


一通り譜面読み終えて、練習開始。

まずは教育係が作ったテープを流す。

所謂、デモテープという奴だ。


それを踏まえて、意見を取り交わす。

テンポの速さや、歌詞の内容について。

作詞作曲を手がけた奴が意見を汲む。


良い意見は取り入れ。

譲れないところは却下。

そうして曲の編成は進んでいった。


ボクは当然口出し出来ない。

エアギターの為に曲を聞いていた。

けれど、見ているだけでワクワクした。


編成を終え、いよいよセッションへ。


ピカピカのドラムセットの前に座る奴。

マイクとギターを携える桃髪の姫君。

ベースを腰に低く下げる召使い。


ボクもギターを下げて棒立ちする。

なんだかめちゃくちゃ緊張してきた。

別に、演奏するわけではないのだけど。


「ワン、ツー、スリー、フォー!」


教育係がスティックを鳴らして、開始。

設置されたスピーカーが鳴り始める。

それに合わせてボクは弾く振りをする。


でも、これがなかなか難しい。

ただ振りをするだけなのに。

上手く出来ないでいると肩を抱かれた。


桃髪の姫君が歌いながら合わせてくる。

そのリズムに乗って身体を揺らす。

するとなんだか良い感じになってきた。


ドラムの正確なリズムが。

ベースの心地良い重低音が。

姫君の可愛らしい美声が。


全てが一つに溶け合って。

混じり合って。ボクを包み込む。

楽器の音が、姫君の声が。


全身の細胞が全て活性化する感覚。


これが陶酔感という物か。

ボクは初めての感覚に打ち震える。

ギターを弾く振りをしながら。


やがて、曲が終わり、一拍の静寂。

お互いの顔を見渡して、頷き合う。

興奮した口調で、召使いが口を開いた。


「なんか、すげー良くないか?」

「ま、私が歌ってるから当然よ!」

「正直侮ってましたが……感服です」


口々に互いを褒め合う3人。

ボクはなんだか気まずい。

だって、ボクは弾いてないもの。


そんなボクの心中を察して。

教育係がこちらに歩み寄る。

そして、優しく笑って、頭を撫でてきた。


「殿下も可愛かったですよ」

「ええ、なかなか良かったわ」

「弾いてないのは丸わかりだけどな!」


なんか、褒められた。

召使いは貶してきたけど。

彼は教育係に怒られている。


でも、それでも、嬉しかった。


「これから毎日練習をしましょう!」


姫君が気合いと共に拳を突き出す。

それにボクらも拳を合わせた。

そして、おお!と声を合わせる。


なんか、バンドって、いいな。

ボクは今日、バンドの楽しさを知った。

それから、特訓の日々が、始まった。


「では殿下、弾いてみて下さい」

「わ、わかった」


その晩、教育係からコードを教わり。

見よう見真似で弾く振りをする。

けれど、そう簡単には上手くいかない。


リズムを合わせるだけで、ひと苦労だ。


「正確さを気にしてはいけません」

「うぅ……難しいよぅ」

「ちょっと、失礼しますね」


教育係がボクの背後に回る。

手を取ってギターのコツを教える。

密着しながら、リズムを伝えてくる。


なんか、すっごく、ドキドキする。

教育係の手が、身体が、触れてる。

湧き上がる高揚感。高鳴る心拍数。


やっぱり、バンドは良いものだ。

ふわふわと、にこにこするボク。

すると、教育係はボクの耳元に囁く。


「楽しいでしょう?」

「うん! すごく楽しい!」

「私もすごく楽しいですよ」


まともにギターも弾けないけど楽しい。

そんな風に思わせる教育係の手腕。

本当にこいつは大した奴だ。優しいし。


あっ。調子に乗って尻を撫でてきた。

けれど、今日だけは許してやろう。

教わっているのだから授業料代わりだ。


ボクの教育係は、教え上手な奴である。

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