第80話 『作戦会議と奇策』
「生徒会長に立候補するのか……?」
「ええ、そうよ!」
突然の立候補宣言。
堪らず尋ね返すと本気の模様。
冗談の類ではないらしい。
桃色髪の姫君が生徒会長、か。
うん。意外と似合うかもしれない。
気位の高さが生徒会長に向いている。
「そうか。頑張ってくれ、応援してる」
何気無く、そのように激励した。
ボクはどうせ他人事だと思っていた。
けれど、姫君は当たり前のように。
「それじゃあ、応援演説は任せたわ!」
ボクを選挙活動に、巻き込んだ。
「お、応援演説とは、なんだ……?」
「全校生徒の前でスピーチをするのよ」
「何を?」
「もちろん私の素晴らしさについて!」
何という無茶振り。めちゃくちゃだ。
だけど、もう応援するって言ったし。
でも、全校生徒の前でスピーチは嫌だ。
何とか逃れられないものか。
頭を抱えて悩んでいると。
召使いがボクに耳打ちをした。
「乗り掛かった船だろ?」
「うぐっ」
「姫さんのこと、頼んだぜ?」
完全に退路を断たれてしまった。
残された道はただ一つ。
ボクはお助けキャラの教育係に縋る。
「きょ、教育係っ! どうしよう!?」
「まったく面倒なことになりましたね」
「スピーチなんて困るよっ!?」
「ひとまず、この話は私が預かります」
情けないボクをよしよし撫でる教育係。
召使いはそれを見てにやり。性格悪い。
桃色髪の姫君はやる気に満ち溢れてる。
そんな姫君の肩がポンポン叩かれる。
するとそこにはオレっ娘の姿が。
一体、彼女が姫君に何の用だろう?
「なによ?」
「いや、流石にその格好は不味いって」
「そんなこと言われる筋合いはないわ」
「一応、オレは風紀委員長だからよ」
奇抜な姫君の格好を注意するオレっ娘。
もちろん、桃色髪の姫君は大反発。
気炎を上げて、我儘を吐き散らす。
「どんな格好をしようと私の勝手よ!」
「そんなことはこのオレが許さない」
「うっさいわね、引っ込んでなさいよ」
注意勧告に聞く耳を持たない姫君。
筋金入りのお姫様を納得させるべく。
オレっ娘は辛抱強く、こう諭した。
「生徒会長に立候補するんだろ?」
「ええ、それがなにか?」
「なら、生徒の見本にならなきゃな」
「ぐっ……!」
完璧な正論をぶつけられた。
これには姫君も納得せざるを得ない。
渋々、風紀委員長の言葉に従った。
「わかったわよ。着替えてくるわ」
「ああ、そうしてくれると助かる」
難なく丸め込んだオレっ娘。
大したものだ。流石、若様だ。
着替える為に、教室から出る間際。
姫君がボクに約束を取り付けてきた。
「昼休み、時計塔で作戦会議するわよ」
画して、選挙に向けた会議が開かれた。
「よりにもよって、この部屋か……」
「へへっ。なんだか懐かしいな」
ここは、時計塔の高層階。
作戦会議の場所に選ばれた一室。
それは青髪に襲われかけた部屋だった。
集められたのは、応援演説者の3名。
げんなりするボク。
ヘラヘラする召使い。
そして当然のようについてきた教育係。
そして学園を見下ろせる窓を背にして。
ヘンテコな格好から着替え終え。
立候補者たる姫君が、口火を切った。
「議題はどうやって選挙に勝つか、よ」
単刀直入な議題。
如何にして、選挙を制するか。
部屋のソファに座って会議が始まった。
「まあ、魅力的な公約は必須だよな」
召使いが意見を口にした。
魅力的な公約。確かにそれは重要だ。
有権者たる生徒達に利があるような。
そんな公約を掲げるのがベターだろう。
では、どのような公約が相応しいか。
選挙が初体験のボクにはわからない。
だから、言い出しっぺの召使いに問う。
「どんな公約が望ましいんだ?」
「図書館にエロ本を置くとか!」
「お前に聞いたボクが馬鹿だった」
召使いに聞いたのが間違いだった。
真剣な顔で自信満々に最低な発言。
よりにもよって図書館にエロ本など。
当然ながら、召使いは姫君に怒られた。
「あんた、真面目にやりなさいよ」
「俺は至って、すこぶる真面目だ」
「うつけはつくづくうつけで困るわ」
バシッと頭を叩いて却下。
召使いは本当にうつけ者だ。
こんなうつけは見たことがない。
「そもそも、公約なんて必要かしら?」
桃色髪の姫君がおかしなことを言う。
公約の必要性に疑問を持っている様子。
しかし、それがなくては選挙ではない。
「公約を聞いて投票するのだろう?」
「それが間違っているのよ!」
「は?」
「私が立候補するんだから当確必然よ」
いやいや、それはいくらなんでも。
確かに隣国の姫君とあって人気はある。
それに持ち前の容姿も可愛らしい。
けれど、そこまで甘くはないだろう。
「人気投票とは訳が違うだろう」
「いえ、似たようなものですよ」
今まで沈黙していた教育係が肯定した。
生徒会選挙は人気投票であると。
そう断言されると、根拠が気になる。
「何故そう言い切れるんだ?」
「私の時もそうでしたから」
「は?」
「私もこの学園の生徒会長だったので」
なんと。驚きの真実が明らかになった。
いや、あながちおかしくもないか。
なにせこいつは学園の首席だった。
今尚、衰えぬその人気を見れば当然か。
会長経験者の言葉にボクらは納得した。
「へぇ。あなた、生徒会長だったの?」
「ええ、昔のことですが」
「それなら人気を取る秘訣を聞かせて」
姫君が教育係に問いただす。
人気を取る秘訣。選挙の必勝法を。
すると奴は、勿体振って伝授した。
「人気を取る秘訣……それはすなわち」
「すなわち?」
「アイドルになるのです」
また教育係がおかしなことをほざく。
アイドル? なんだそれは。意味不明だ。
生徒会長とは何も関係ないではないか。
呆れるボクとは裏腹に。
桃色髪の姫君は前のめりで乗り気。
ワクワクした表情で説明を求めた。
「具体的には何をすればいいの?」
「そうですね……ではこうしましょう」
なんだか嫌な予感がする。
その不安が顔に出ていたらしく。
教育係は片目を瞑ってボクに微笑む。
「大丈夫です。私に全てお任せ下さい」
「嫌な予感しかしないんだが?」
「応援演説をしなくて済む方法ですよ」
「それは本当かっ!?」
応援演説をしなくて済む方法。
そんなものがあるなら是非もない。
ボクも身を乗り出して耳を傾けた。
そんなボクらに、教育係が提案する。
「我々でバンドを組み演奏するのです」
ボクの教育係は、奇策を打ち出した。




