第79話 『王族は変わり者』
「お邪魔するわよ!」
「ちーっす!」
ある日の夜。
夕食時に桃色髪の姫君が訪れた。
召使いも鎖をチャラチャラして入室。
彼女達の来訪は少し前に気づいていた。
あの甲高いバイクの音ですぐわかった。
だから姫君達の分の夕食も用意済みだ。
「よく来てくれた。夕食は食べるか?」
「いっただっきまーすっ!」
「はしたないわよ、うつけ」
席を勧めると、召使いが先に座った。
桃色髪は彼の頭を小突いてから、着席。
そうしてボクらは夕食を共にした。
「このビーフシチュー、美味しいわね」
「ああ、トロトロでよく煮込んである」
「えっへん!」
メイドの料理に舌鼓を打つ姫君達。
トロトロのビーフシチューに満足げ。
調理したメイドが得意げに胸を張る。
そんな姫君達に来訪の用向きを訪ねる。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「あら、用がないと来ちゃいけない?」
「そんなことはないが……」
「寮に居ると暇だから遊びにきたのよ」
どうやら単純に遊びにきた模様。
それに対して不満はない。大歓迎だ。
寮生活は退屈だと姫君は不満を漏らす。
ならば、彼女達を楽しませてやりたい。
ボクは教育係にアイデアを求めた。
「教育係」
「はい、なんでしょう?」
「何か、楽しい催し物はないか?」
「でしたら、アニメは如何ですか?」
黒髪ロングがくれた大量のアニメ。
それを鑑賞するのは確かに良さそうだ。
ボクもまだ観ていない作品も多いし。
すると、桃色髪の姫君が尋ねてきた。
「アニメって何?」
「簡単に言えば、動く漫画のことだ」
「ふーん。面白そうね」
「では、寝る前に鑑賞会をしよう」
画して、アニメ鑑賞会が、開かれた。
「なんかこの女の子、私に似てない?」
「ボクも似てると思っていた」
寝るだけの体勢となって、上映開始。
最初にアニメという物を知って貰う為。
まずは桃髪魔法少女のアニメを観せた。
メインヒロインに親近感を感じた模様。
そりゃそうだ。めちゃくちゃ似てるし。
だが、ある一点がお気に召さなかった。
「でも、私はこんなに貧乳じゃないわ」
「しかしこれはこれで良いではないか」
「まあ、魔法って概念は楽しめたけど」
「そうか。では、次は何を観たい?」
「そうね……これなんかどうかしら?」
魔法という概念は楽しんで貰えて様子。
そんな桃髪の姫君が次のアニメを物色。
そして、気になる作品を提示した。
それはボクも観たことがない作品だ。
そのアニメを教育係に手渡し、再生。
それは所謂、学園モノの作品だった。
学生のボクらにとって親しみ易い物だ。
このアニメの概要を簡単に説明しよう。
登場人物は4人の生徒会役員達。
メインヒロインは会長である。
その会長に振り回される主人公。
彼は副会長で、揉め事に巻き込まれる。
他のメンバーも曲者揃いで波乱万丈。
時に、学園の不思議を探索したり。
時に、生徒会役員でバンドを組んだり。
時に、ラブコメディを展開したり。
そんな、とても楽しいアニメであった。
そう言えばボクらの学園も選挙が近い。
そろそろ新しい生徒会長が選任される。
はてさて誰が新生徒会長になるのやら。
そんなことを思いながら。
しばらくボクらは観続ける。
そのうち、心地良い睡魔に襲われた。
最初に陥落したのは左端の召使い。
そして、右端の教育係も眠りに落ちた。
いよいよ、ボクも眠たくなってきた。
「姫君」
「なに?」
「悪いが、先に寝るぞ」
「ええ、おやすみなさい」
一言断って、瞼を閉じる。
姫君は夜通しアニメを観るらしい。
どうやら相当に、お気に召した様子。
気に入って貰えたようで、何よりだ。
その時不意に前髪を優しく撫でられた。
桃髪の姫君が慈しむように撫でている。
この感じ、覚えがある。母上の感触だ。
母上の姪に当たる姫君に面影を感じて。
ボクはゆっくりと、眠りについた。
「んん……あれ、姫君は……?」
「今朝早くに学園に戻りました」
翌朝起きると、既に姫君の姿がない。
どうやら学園に戻ったらしい。
先に起きていた教育係がそう説明した。
今日も学校があるのでボクも支度する。
「昨晩は楽しかったな」
「ええ。ですが、嫌な予感がします」
「嫌な予感?」
「はい。王族は変わった方が多いので」
なんだその言い草は。
ボクだって王族だぞ。
至ってまともであり変わってなどない。
むすっとして不満を露わにする。
そんなボクの足に靴下を履かせながら。
教育係は機嫌を取るように、囁いた。
「殿下は素敵な変わり者でございます」
おい。全然フォローになってないぞ。
素敵な変わり者って、なんだよもう。
ぷんぷん怒りながら、学園へ向かう。
「あら、遅かったわね。おはよう」
「ああ、おはよう……って!?」
登校したボクに挨拶をする桃髪の姫君。
そんな彼女の装いは一風変わっていた。
いや、変わり果てていた。驚天動地だ。
「ど、どうしたんだその格好はっ!?」
「どう? 魔法少女みたいでしょ?」
黒いマントを翻し。
片目に眼帯を付けて。
片足、片腕に包帯を巻きつけて。
身の丈ほどの杖を携えて。
桃色髪の姫君は格好良くポーズをした。
どうやらアニメに影響されたらしい。
明らかに、完全に。不審人物である。
クラス中の痛い視線を集めている。
どう考えても、どう見ても、変だ。
変だけど……ちょっぴり、少しだけ。
「か、かっこいい……!」
「でしょ?」
得意げに鼻を鳴らす桃色髪の姫君。
バサッとマントを翻して、ポーズ。
思わずパチパチと拍手をするボク。
「ああ……おいたわしや、殿下」
そんなボクらを見て教育係が天を仰ぐ。
これだから王族は……みたいな仕草。
教育係だって変態の癖に。なんだよ。
むくれていると、召使いがにやにや。
彼は上機嫌な様子で、耳打ちをする。
ボクにしか聞こえないように、囁いた。
「姫さんは影響されやすくてな」
「そうなのか?」
「ああ、だから馬鹿にされたりもする」
そう言えば、青髪が言っていた。
桃色髪の姫君を、うつけ姫と呼んだ。
その理由をなんとなく、察した。
だけど、そこまで馬鹿にしなくても。
そんなボクの気持ちを見透かして。
召使いが、姫君のことを擁護した。
「だけど、そんなところが可愛いのさ」
そうだ。それが姫君の可愛いさだ。
彼の言葉にコクコク頷き、同意する。
すると、召使いは人懐っこそうに笑う。
彼は彼女のそんなところが好きらしい。
「それでね、提案があるのよ!」
「なんだ?」
姫君に話題を振られて、向き直る。
彼女は桃色髪をバサッと振り払い。
そして、驚くべき提案を、口にした。
「私、生徒会長に立候補するわ!」
どうやら本当に、桃色髪の姫君は。
かなり影響されやすい女の子らしい。




