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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第2章 【学園生活と日常】
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第77話 『超常現象』

「なんだか映画らしくない映画だな」

「それがこの映画の最大の特徴です」


教育係の罠に嵌められ。

仕方なく、ボクはホラー映画を鑑賞中。

三つ編み眼鏡はソファですやすや。


ホラー映画と聞いて身構えていたが。

思っていた物とは少々違っていた。

拍子抜けするほど、穏やかな出だしだ。


超常現象を題材にしたこの作品。

何が超常現象かと言えばさもありなん。

それは登場人物の身に起こる怪異現象。

所謂、ポルターガイストだ。


それを定点カメラで撮影しようと。

そんな試みを登場人物達はしていた。

教育係曰く、ありがちな展開らしい。


しかし、カメラには何も映らない。

小さな異音がマイクに拾われるばかり。

正直ボクは、がっかりしていた。


「全然怖くないな」

「そうですか?」

「ああ、幽霊の姿が映らないからな」


しばらく観続けても、幽霊は現れない。

ホラー映画なのに、お化けが出ない。

ホラーは苦手なボクでも、がっかりだ。


なんだか眠くなってきた。

すっきり飽きて、あくびをする。

そんなボクに、奴がこんな囁きをする。


「目に見えないからこそ、怖いのです」

「えっ?」

「さあ、続きをご覧ください」


その後。

ボクは奴の言葉の意味を。

思い知ることとなる。


「うひゃあっ!?!!と、扉がっ!?」

「ええ、古典的な手法ですね」


映画の中で部屋の扉が突然開いた。

登場人物が起きて、扉を確認。

しかし、何も変わった様子はない。


気圧の影響だろうか。

いや、でも、あまりに突然すぎる。

けれど、幽霊の姿は見えない。


目に見えないからこそ、怖かった。


教育係が言っていた意味を理解した。

その後も凄まじいラップ現象が続く。

こんな部屋で寝なきゃいいのに。


映画に対して身も蓋もない思いを抱く。

けれど、登場人物は頑なだった。

結局、幽霊に取り憑かれる羽目となり。


衝撃的なラストで、物語は幕を閉じる。


具体的な描写は割愛する。

だって、すっごく、怖かったんだもん。

半泣きどころか、号泣するくらい。


だが、教育係曰く、ありきたりらしい。


こんなありきたりがあって、たまるか。


「うぅ……怖かったよぅ」

「おやおや、あんなに強気だったのに」

「う、うるさいうるさいうるさいっ!」


ガクガク震えるボクを奴は揶揄う。

むきになって怒鳴り散らす。

すると、奴はボクの手を指し示した。


「そろそろ手を離してくれませんか?」

「えっ?」


言われて、気づく。

ボクは知らぬ間に奴の手を握っていた。

それも、がっちりと、指を絡ませて。


慌てて離そうと思った。

けど、怖いから。離したくなかった。

そんなボクを見て奴はにやにや。


恥ずかしいけど背に腹は代えられない。


「……今日は手を繋いで寝る」

「くふっ。全て、計画通りです」


どうやらこれが目的だったらしい。

完全に奴の思惑に乗せられてしまった。

だけど、これくらいなら、許容範囲だ。


手を繋ぐのは、ボクとしても嬉しいし。


その日はそのまま、眠りについた。

そしてこの日から。

ボクは超常現象に苛まれることとなる。


1日目。


ホラー映画を観た翌日。

その日は普通に就寝。

映画のことなどすっかり忘れていた。


しかし、その晩。

やはり、映画の余韻があったのだろう。

夜中に、ふと、目が覚めた。

右隣には教育係がすやすや寝ている。


「むにゃむにゃ……殿下のおぱんつ」


取り憑かれている様子はない。

当たり前だ。だって映画は作り話だし。

教育係のアホな寝言に一安心。


気を取り直して、寝ようとすると。


ひた……ひた……ひた……。


扉の向こうから、何やら足音が。

まるで裸足で歩いているかのような。

そんな足音が扉の前で、止まる。


息を飲んで、耳を澄ませる。

しばらくすると、立ち去ったようだ。

ひたひたと、足音が遠ざかる。


止めていた息を、吐き出す。

なんだ、今の足音は。幻聴か?

そうだきっと幻聴だ。お化けじゃない。

自己暗示をかけて、気持ちを整理。

だけど、このままじゃあ、寝れない。


だから、ボクは教育係の手を握る。

こ、ここ、怖かった。怖かったよぅ。

その手を胸に抱いて、眠りについた。


2日目。


その日は最初から手を繋いで寝た。

教育係は不思議そうな顔をしてた。

昨日のことは、話してない。

だって、びびりと思われたら、嫌だし。


そして、深夜。

またもや、ふと、目が覚めた。

そんな自分に腹が立つ。


朝まで寝てれば良かったのに。

けれど目が覚めてしまった。

ならば、昨日の検証をしよう。


今日、あの足音が聞こえなかったら。

やっぱり気のせいだったのだろう。

幻聴だと思って、忘れよう。きっぱり。

そう思って、耳を澄ませる。


すると、また、あの足音が。


ひた……ひた……ひた……。


今日もボクの部屋の前で止まった。

しばらく、動かない。そこにいる。

目に見えないけど、気配がした。


息を潜めて、様子を伺う。

すると、部屋の扉が、音も無く開く。

ほんの少しだけ、扉が、開いた。


きゃあああああああああああっ!?!!


そんな風に叫べたらどんなに楽か。

けれど、喉から悲鳴は出てこない。

だってボクは今、息を止めているから。


お願いだから早く居なくなってっ!?


切実に願いつつ、固く目を閉じる。

その願いが通じたのか。

部屋の扉が、閉じる気配がした。


よ、良かったぁ……帰ってくれた。


ほっと安堵して、長嘆する。

繋いだ教育係の手を手繰り寄せる。

今日もこいつはすやすや寝てる。

ボクがこんなに怖い目に遭ってるのに。


思わずその手を囓ろうかと思った。

けど、我慢。だって、はしたないもの。

囓るのはやめて、頬ずりをしてみる。

教育係の体温で気持ちが幾分落ち着く。


そこで、奴が寝言をほざく。


「殿下のお尻は柔らかいですぅ……」


どうやら、頬を尻と感違いしたらしい。

そんな教育係に呆れて笑みが漏れる。

なんだか、さっきのことが夢ようだ。


そうだ。きっと夢だ。

ボクは夢を見ていたのだろう。

そう自己暗示をかけて、眠りについた。


3日目。


その日は寝る前に奴の手に頬ずりした。

特に意味はないが、願掛けとして。

教育係はとっても機嫌が良さそうだ。


そして、深夜。

ボクは三たび、目を覚ました。

右隣から、不審な音が聞こえる。


くちゅ……くちゅくちゅ……くちゅ。


水音のような、不思議な音。

右隣には教育係が寝ている。

様子を伺うと、何だか苦しそうだ。


「んっ……あっ……はっ……ふっ……!」


奴の荒い吐息が、耳朶をくすぐる。

何をしているかわからないが喘いでる。

そんな奴を見て、ボクは思い至る。


もしかして、憑依されているのか?

それは大変だ。由々しき事態である。

今すぐ起こすべきだろうか。


だが、憑依されているまま起こしたら。

ボクもくちゅっと、されてしまうかも。

そう思ったら、怖くて起こせなかった。


しばらくして、音が鳴り止んだ。

満足げな教育係の寝息が聞こえてくる。

どうやら悪霊は去ったようだ。


しかし、今の対応は不味かった。

教育係を起こすのを躊躇ってしまった。

もしも、奴がお化けに乗っ取られたら。


それは、絶対に、嫌だ。

教育係は、ボクの、教育係だ。

悪霊なんかに、渡してなるものか!


次に憑依されたら必ず起こそう。

ボクは固く誓って、目を閉じる。

挽回の機会は、すぐに、訪れた。


うとうと、眠くなってきた、その時。


むくりと、教育係が身を起こす。

繋いでいた手を、奴がそっと離した。

そのまま、どこかに行こうとする。


ああ、駄目だ。つれていくな。

引き止めなきゃ。引き止めるんだ。

先ほどの決意を胸に、ボクは叫んだ。


「行っちゃ駄目だ! 教育係っ!!」

「はい?」


教育係はきょとんとして、振り返った。

びっくりしたような、奴の表情。

どうやら、取り憑かれてはいない様子。


だけど、念を押して、引き止める。


「お願いだから、行かないでくれ」

「先程、イッたばかりなのですが……」


どこにっ!?

教育係は何処に行ったんだ!?

まさか、あの世に行ったのでは……?


そんな恐ろしい想像をして、恐怖する。

そんなボクを不思議そうに見つめる奴。

大丈夫だ。教育係は戻ってきた。

ならば、もうどこにも、行かせないっ!


「もうどこにも行くなっ!!」

「おやおや、それは困りましたね」


涙目で縋り付くと、奴は困った様子。

しばらく、よしよしと撫でてくれた。

だいぶボクが落ち着いてから口を開く。


「殿下、私は行かなければなりません」

「だ、駄目だっ!ボクの傍にいろっ!」

「ふむ……ならば一緒に行きましょう」

「えっ?」


ポカンとするボクに、行き先を告げる。

それは、予想外の、行き先だった。

教育係が行きたかった、その場所とは。


「私はトイレに行きたいのですよ」

「ト、トイレ……?」

「はい。おしっこが、したいのです」


ボクの教育係は。


おしっこが、したいらしい。

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