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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第2章 【学園生活と日常】
74/111

第73話 『アニメ観賞会』

「教育係」

「はい、如何しましたか?」

「屋敷に大きなトラックが来ているぞ」

「ふむ。ようやく荷物が届きましたね」


その日、帰宅するとトラックが玄関に。

教育係は荷物が届いたと説明した。

それが気になって、ボクは尋ねた。


「荷物とは何のことだ?」

「以前頼んでいた、設備でございます」


教育係はその荷物を設備だと言う。

それで、ボクはピンときた。

もしかしたら、あの設備かも知れない。


「それはもしや、例の設備か?」

「はい、映像再生用の設備です」


やっぱりそうか。

待ち望んだ設備の到着。

ボクは目を輝かせて教育係に命じた。


「では、黒髪ロングを呼んでくれ」

「はい、かしこまりました」


画して、黒髪ロングが召喚された。


「失礼致します、殿下」

「おお! よく来てくれた。 近う寄れ」


すぐにボクの部屋に黒髪ロングが来た。

楚々とお辞儀する彼女を手招く。

今日の黒髪ロングは丈の短い浴衣姿。

以前あげた水玉ニーソを着用している。


黒髪ロングは従順にボクの傍に寄る。

隣の椅子を引いて座るように促した。


「とりあえず、座ってくれ」

「はい、かしこまりました」


着座した彼女は室内をキョロキョロ。

それもその筈、現在設備を導入中だ。

教育係がせっせと機材を設置している。


「ず、随分と、大掛かりな設備ですね」

「ああ、教育係は妥協をしないからな」


妥協をしない教育係。

奴が選んだ設備は全て最高品質だ。

奴は映像機器に拘りがあるらしい。


映像再生用のプレーヤー。

音楽出力用のアンプ。

スクリーンに映す為のプロジェクター。

迫力のサウンドを奏でるスピーカー。


それらを次々と部屋に運び込んでいた。

そしてテキパキ開梱して、配線する奴。

淀みない手つきに、思わず感心する。

かっこいい。ボクの教育係は、素敵だ。


けど、見ているだけでは、申し訳ない。

ボクらも何か手伝うべきだろうか?

というか、是非とも手伝いたかった。


「教育係」

「はい、なんですか?」

「何か、手伝おうか?」

「いえ、結構でございます」


申し出てみたら手伝いは不要とのこと。

まあ仕方ないよね。邪魔したら悪いし。

自分を納得させつつ、落ち込むボク。

そんなボクに奴は優しく言い聞かせた。


「殿下はお客様の相手をして下さい」

「それがボクの仕事か?」

「はい、大切なお仕事でございます」


ふむ。大切なお仕事か。

ならば、それに専念することにしよう。

せっかく招いたお客様。

黒髪ロングを、退屈させないように。

それがボクに任された大切な仕事だ。


「それでは、黒髪ロング」

「はい、なんでしょう?」

「また絵を描いてくれないか?」

「お任せ下さいませ」


黒髪ロングは絵が得意だ。

そんな彼女に絵を描いて貰う。

ボク自身が働いてないのが悔しい。

けれど、退屈はしのげるだろう。


ボクは彼女に紙とペンを渡す。

そして、隣でワクワクしながら見守る。

そんなボクに黒髪ロングが尋ねる。


「どのような絵をご所望ですか?」

「作業中の教育係を描いてくれ」

「ふふっ。かしこまりました」


サラサラとペンを走らせる。

あっと言う間に、教育係が描かれた。

真剣な顔で作業中の奴。


奴は今スピーカーコードを剥いていた。

中の銅線を傷つけないように。

迅速かつ、精密な教育係の手つき。


ちらりと奴に視線を向ける。

すると、剥いた銅線を捩っていた。

それを見て、ふと思う。

なんだか、ちょっと……えっちだな、と。


いやいや、何を考えてるんだ。

でも、あんな風に捩られたら、なんて。

いけない妄想を掻き立てる教育係。


奴は何をしてても、エロく感じる。

それが顔に出ていたのだろう。

黒髪ロングが意地悪な視線を向ける。


「殿下、教育係様を見すぎですよ」

「い、いや、その、これは……」

「こんな顔をしていましたよ?」


またサラサラ絵を描く黒髪ロング。

奴を見つめるボクの姿が描かれた。

なんだか熱っぽい視線を送ってる。


そんな馬鹿な。

こんな物欲しげな顔なんかしてない。

これじゃあ、まるで。


「まるで、恋する乙女でございますね」

「うぅ……意地悪」


図星をつかれて、言い返せない。

優しげな笑みを浮かべる黒髪ロング。

その微笑みを見て、ふと思った。


彼女は、完璧なお姉ちゃんキャラだと。

この前の教育係との姉妹ごっこ。

あれは良いものだった。ならば。

黒髪ロングは姉として適任だろう。


だから、ボクは提案してみた。


「黒髪ロング」

「はい、どうしましたか?」

「お姉ちゃんって、呼んでもいい?」

「ぶっ!? げっふぉっ!?」


急にむせ出した黒髪ロング。

顔が真っ赤で、苦しそうだ。

背中を撫でてやると、落ち着いた様子。


そして、取り乱した訳を、説明した。


「あの、その、私には弟が居て……」

「ああ、そう言えば……そうだったな」


黒髪ロングには弟が居た。

ボクに襲いかかった、青髪の少年。

失言だった。藪蛇を突いてしまった。

黒髪ロングは未だに、気にしていた。

嫌なことを、思い出させてしまった。


とにかく、謝っておこう。


「不用意な発言をして、すまない」

「いえ、そんな……お気になさらず」


謝罪すると黒髪ロングはおろおろ。

そんな彼女に、何気なく尋ねてみる。

青髪の少年のその後が気になっていた。


「彼はあの後、どうだ?」

「大人しく、実家で過ごしています」


青髪の少年は実家にて軟禁されていた。

ボクを襲った、罪により。

所謂、禁固刑だ。更生の為の、軟禁。

ボクも長らく軟禁されていた身だ。

さぞかし、辛かろうと思う。

あの一件は、ボクにも責任がある。

だから、なんだか、居た堪れない。


それを察した様子の黒髪ロング。

慌てたように、言葉を付け足した。


「友達が時折訪ねてくれるそうです」

「そうか」

「ですから、どうかお気になさらずに」


ボクを気遣う黒髪ロング。

だが、きっと彼女が一番気にしている。

あの一件をまだ引きずっているようだ。


黒髪ロングは悪くないのに。

彼女には気にしないで欲しい。

だけど、なかなか言葉が見つからない。


すると、彼女は優しげに微笑んだ。

そして、少し切なげに、こう語る。


「先程は、嬉しかったです」

「えっ?」

「お姉ちゃんと、久しぶりに呼ばれて」


青髪の少年の姉である黒髪ロング。

それなのに久しぶりに呼ばれたらしい。

彼女は彼の、お姉ちゃんなのに。


それが、なんだか寂しそうだった。

それならば、ボクに出来ることを。

それを、してあげるべきだろう。


「今日はボクが弟役になってやる」

「殿下が私の弟……でございますか?」

「ああ、嫌か?」

「め、滅相もありませんっ!」


弟役を買って出たボク。

黒髪ロングは恐縮している。

せっかくのごっこ遊びだ。

固いことは抜きにして、楽しもう。


「お姉ちゃん、また絵を描いて」

「はいっ! 何を描きましょうか?」


ウキウキした様子の黒髪ロング。

なんだか今更ながら恥ずかしい。

それを誤魔化すように、お題を告げた。


「今度はちょっとえっちな絵を頼む」

「え、えっちな絵でございますか?」

「うん。スピーカーコードを使って」

「か、かしこまりました」


我ながら、とんでもないお題だ。

それだけテンパっていたのだろう。

けど、なんだよスピーカーコードって。

脳内の妄想が垂れ流しで、恥ずかしい。


失敗した。やってしまった。

後悔しても、後の祭りだ。もう遅い。

すぐにその絵は、完成した。


「出来ました」

「ふむ。どれどれ……ぶっふぉっ!?」


黒髪ロングが描いたえっちな絵。

それはちょっとどころではなかった。

スピーカーコードに縛られるボク。

そのボクの胸を吸う教育係。

つまり、ボクは奴に縛られていた。


スピーカーコードで、いやらしく。


「お気に召しませんでしたか?」

「い、いや、これはこれで、悪くない」


条件反射で、そう答える。だがしかし。

よくよく見れば、なかなか芸術的だ。

もちろん、色々と脚色過多ではある。

ボクと教育係の胸は盛り気味だった。

けど、そのサイズ感が最高に丁度良い。


まあ、もっとも。

教育係の胸は、盛り過ぎだけれど。


「ふむ。これは素晴らしい絵ですね」

「うわっ!? きょ、教育係っ!?」


噂をすれば、なんとやら。

振り返れば、奴がいた。

背後からボクの手元の絵を見つめる奴。


絵に描かれたボクの痴態を。

ボクの垂れ流しの妄想を。

ふむふむと、満足そうに眺めている。

口元にはにやりと笑みまで浮かべて。


「こ、これは違うんだっ!?」

「おっと。もっとよく見せて下さい」


慌てて絵を畳もうとするボク。

それを、ひょいと奪い取る教育係。

手を伸ばしても、もう届かない。


「これは額に入れて飾りましょう」

「や、やめてくれっ!頼むからぁ!?」


しばらくボクを揶揄った教育係。

必死に抗議をしたら絵を返してくれた。

そして、作業完了を報告した。


「設備の準備が整いました」

「よし。それではアニメを観よう」


そうして、アニメ観賞会が開かれた。


「黒髪ロング」

「はい、どうしましたか?」

「例のアニメは持ってきたか?」

「はい、もちろんでございます」


黒髪ロングからアニメを受け取る。

桃色髪の少女がヒロインのアニメだ。

見れば見るほど、姫君に似ている。

それを教育係に手渡し、プレーヤーに。

すぐに映像が再生された。


まず映し出されたのはオープニング。

ワクワクと高揚感が湧き上がる。

その映像は元より、音楽も素晴らしい。


天井に吊り下げられた、スピーカー。

部屋の隅に置かれたサブウーファー。

全方位の音が集まるのはベッドの上。


枕を何個も積み上げて、もたれる。

右に、教育係。

左に、黒髪ロング。

間に挟まれて、ボクはアニメに耽った。


「本当にキャラが動いて喋るのだな」

「はいっ!とっても可愛いですよね!」


まるで漫画の登場人物が動くように。

桃色髪の少女が、喋って動いている。

感心していると、黒髪ロングが大興奮。

鼻息荒く、アニメの説明を始めた。


黒髪ロング曰く。


この作品は魔法と剣のファンタジー。

主人公を取り巻く数々のヒロイン。

それらが織り成す、ラブコメディ。


それが、このアニメの概要だった。


「ふむ。魔法、か」

「気になりますか?」

「ああ、興味深い要素だな」


作中で表現される魔法の数々。

それに興味を惹かれた。

すると、教育係がこんな事を言う。


「殿下も30歳で魔法使いになれます」

「それは本当かっ!?」

「ですが、代わりに子を成せません」


30歳で魔法使いになれるらしい。

だが、子を成せなくなるとのこと。

それは困る。大きすぎる代償だ。


王位継承権を持つボクには。

到底、支払える代償では、なかった。


「魔法使いになるのは大変だな」

「はい、選ばれし者だけが至る道です」


ボクは今日魔法使いの偉大さを知った。


そのまま1話を観賞し終える。

魅力的なヒロインと、主人公。

何より壮大な世界観にすっかり夢中。


2話、3話と、連続視聴をした。


「面白いですか?」

「うん。とっても面白い」

「それなら良かったですっ!」


黒髪ロングがとても嬉しそう。

わからないことは何でも教えてくれた。

だけど、絶対にネタバレはしない。

黒髪ロングは良き解説者だった。


5話まで観て、異変に気付く。

右隣の教育係がやけに静かだ。

気になって、視線を向けると。


奴はすやすやと、眠っていた。


きっと、疲れたのだろう。

1人で設備を導入してくれた教育係。

あどけない寝顔の、働き者な奴。


黒髪ロングもそれに気付いたようだ。


「寝てしまいましたね」

「ああ、すっかり夜も更けてしまった」


時計を見ると、そろそろ就寝時間。

ボクもそろそろ寝よう。

そう思ったら黒髪ロングが暇を告げた。


「それでは私はそろそろ帰ります」

「泊まっていかないのか?」

「教育係様に、怒られちゃいますから」


黒髪ロングはしっかり者だ。

気遣いも出来る優しい女の子だ。

そんな彼女は置き土産を残した。


「こちらのアニメもご覧下さいませ」


ドサッと紙袋一杯のアニメの箱。

色々な作品が詰まっていた。

こんなに貰って構わないのだろうか?


尋ねようとしたら、先んじて言われた。


「それらは全て、布教用ですので」


黒髪ロングは、布教活動に熱心らしい。

とにかく、ボクは改めてお礼を告げる。

少しばかり、悪戯心を、込めて。


「ありがとね……お姉ちゃん」

「ふふっ。殿下は本当に可愛い妹です」


いつの間にか妹になってしまった。

まあ、この際どちらでも構わない。

黒髪ロングが嬉しそうで何よりだった。


彼女が帰った後。

寝る前にアニメの箱を眺める。

姫君に似た、桃色髪の魔法少女。

しかし、ある一点が姫君とは異なる。


桃色髪の魔法少女は、貧乳だった。

対して桃色髪の姫君は、巨乳である。


両者の差は、圧倒的。

巨乳の姫君のアドバンテージは大きい。

ボクだって劣等感に苛まれている。


けれど、このアニメを観て、思った。


「貧乳も……なかなか悪くないな」


この作品はボクの価値観を変えた。

それほどまでに魅力的な魔法少女。

まるで、それに、答えるかのように。


教育係が、こんな寝言を、口にする。


「貧乳は正義なのですよ……むにゃ」


ボクの教育係はあながち間違ってない。

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