第68話 『黒髪ロングのお部屋』
「はい、殿下。ミルクティーです」
「うむ。頂こう」
教育係に白ニーソを履かせたその日。
二度寝から目覚め休日を過ごしていた。
ボクは紅茶を飲んでくつろいでいる。
奴は二日酔いから立ち直ったようだ。
以前として、裸ワイシャツに白ニーソ。
そんな素敵な教育係が背後に控える。
美味しい紅茶を淹れてくれた教育係。
ボクは現在、奴の授業を受けていた。
今は教科書代わりの漫画を読んでいる。
その漫画で、気になる点を見つけた。
「教育係」
「はい、如何しましたか?」
「女の部屋は良い匂いがするらしい」
如何わしい表紙の漫画曰く。
女の部屋は良い匂いがするとのこと。
漫画の主人公が大変興奮していた。
「それは間違いないかと」
「そうなのか?」
「はい、殿下のお部屋と同じです」
教育係がそんな見解を述べる。
そう言われても自分ではわからない。
たまにベッドからメイドの匂いがする。
それは確かに、良い匂いと呼べた。
思えば、昨日泊まった桃色髪もそうだ。
あと、教育係も、良い匂いがする。
この漫画が言ってることは正しいかも。
しかし、やはり、確認はするべきだ。
だから、ボクは教育係に提案する。
「女の部屋に行ってみたい」
「ダメでございます」
教育係はにっこり笑って、却下。
笑顔だが、怖い。目の奥が笑ってない。
こいつはたまにこうして意地悪だ。
「ボクは行ってみたいんだ」
「女の部屋は危険がいっぱいなのです」
「そ、そうなのか……?」
「はい、食べられちゃいますよ?」
教育係が脅してくる。
た、食べられちゃうの?
それはとても怖い。食べられたくない。
だけど、ボクは負けない。めげない。
未知への好奇心がボクに勇気をくれた。
そこでふと、名案を思いついた。
「妃候補の部屋ならば問題あるまい」
ボクの妃候補。
三つ編み眼鏡。
黒髪ロング。
オレっ娘。
彼女らの部屋ならば危険はない筈。
だが、教育係はキッと眉を吊り上げた。
漆黒の黒髪が、怒りでぶわっと逆立つ。
「殿下は節操がなさ過ぎますっ!!」
「いや、まて、これには深い訳が……」
「ほう? どんな深い訳があると?」
ぷりぷり怒る奴をどうどうと宥める。
そしてボクは深い訳を、説明した。
「ニーソをおすそ分けしたいんだ」
桃色髪の姫君から貰ったニーソ。
それを妃候補達に履かせてみたい。
それがボクの真の目的だった。
その上、部屋の匂いまで確認できる。
完璧で非の打ち所がない計画である。
けれど教育係は納得してくれなかった。
「メインヒロインは作中に1人ですよ」
「いや、しかしだな……」
「殿下だけがメインヒロインですっ!」
「それは勘弁してくれ。頼むから」
何がなんでもボクを推したい様子。
けれど、メインヒロインなど御免だ。
ボクは、主人公で、ありたかった。
だから、ボクはありのままを告げる。
「教育係」
「なんですか?」
「お前はニーソがとても似合う」
「な、何を突然、仰るのですか……?」
真剣な表情で奴を褒めてやる。
すると、教育係の顔が真っ赤に。
勝機ありと見て、畳み掛ける。
「だが、比較対象が必要だ」
「ひ、比較、対象……?」
「ああ、そうだ」
「それに、どんな意味が……?」
「メインヒロインだと、証明する為だ」
誰が一番、ニーソが似合うのか。
それでメインヒロインが、決まる。
もちろん、ボクの中では決まっている。
それを、はっきりと証明したかった。
「ボクはお前が一番だと思っている」
「そ、それは至上の喜びですが……」
「お前のヒロイン力を、見せてくれ」
ボク自身、訳のわからない説得をする。
そもそも、ヒロイン力とはなんだ?
いやいや、さすがにこれは無理がある。
だから駄目元でお願いしてみたのだが。
教育係の眼に、メラッと炎が、宿った。
「それならば、やむを得ませんね」
「い、いいのか……?」
「殿下の信頼を裏切る事は出来ません」
おおっ!
なんだか知らないけど、助かった。
奴がボクの言うことを聞いてくれた!
嬉しくて小躍りしそうになるが、我慢。
努めて冷静に、ボクは振る舞う。
重苦しく頷き、教育係の健闘を祈る。
「ボクはお前を信じてるぞ」
「はいっ! お任せ下さいっ!!」
画して、ボクら妃候補の部屋に向かう。
「そろそろ、到着します」
「ああ、気を引き締めていこう」
お互いに制服を着用して。
教育係の運転で学園に向かう。
王立学園は全寮制の学校だ。
妃候補達は皆、寮で暮らしている。
学園に到着し、クルマから降りる。
珍しく教育係が厳しい顔をしている。
ボクの気を引き締めて、寮へと向かう。
その道すがら、最初の訪問者を決める。
「まずは、どなたから訪問しますか?」
「そうだな……黒髪ロングにしようか」
「ふむ。最初から……強敵ですね」
最初の訪問相手は黒髪ロング。
彼女は妃候補達の中でも一番淑やか。
きっと、ニーソが似合うだろう。
教育係は彼女を強敵と評した。
ボクとしても、同感だ。
だからこそ、最初に訪問すると決めた。
教育係の、ヒロイン力を、示す為に。
「この部屋でございます」
「では、ノックをしてみよう」
教育係の案内で、黒髪ロングの部屋に。
その扉を、コンコンと、ノックする。
すると、部屋の扉がガチャリと開いた。
「はい、どちら様ですか?」
「黒髪ロング、邪魔するぞ」
「で、殿下っ!?」
部屋から出てきた黒髪ロング。
部屋着用の藍色の浴衣を着ている。
靴下は履いておらず、裸足。
そんな彼女は、大変驚いた様子。
目を丸くして、口を押さえている。
まるでお化けでも見たような、彼女。
すぐに、はっと我に返って、お辞儀。
浴衣の襟元を正しながら、ぺこり。
こんな時でも、彼女は礼儀正しい。
そんな彼女を手で制して、謝る。
「突然の来訪を許して欲しい」
「い、いえ、お気になさらずに」
「部屋に上がっても構わないか?」
「は、はいっ! どうぞっ!」
許可を貰って、入室。
彼女の部屋はごくシンプルだった。
最低限の調度品が揃えてある。
椅子はなく、代わりに座布団が。
実に彼女らしい内装だった。
「綺麗な部屋だな」
「も、勿体無きお言葉でございます」
恐縮する彼女を手で制し、深呼吸。
彼女の部屋の匂いを嗅いでみる。
すると、仄かにお香の香りがした。
とても落ち着く、黒髪ロングの香り。
それを確認したボクは、検証に移る。
良い匂いなのは、わかった。
あとはニーソを履かせてみるだけだ。
「実は渡したい物があるんだ」
「渡したい物で、ございますか?」
「ああ。これを、履いてみて欲しい」
ボクは持参したニーソを手渡す。
それは厳選した、特別なニーソ。
白地に青い水玉をあしらった、ニーソ。
「こ、これを履けばいいのですか?」
「是非、履いてみてくれ」
「で、殿下の御心のままに……」
彼女はびっくりしていた。
けれど、素直に応じてくれた。
ぺこりとお辞儀をして、別室に。
その間に、ボクらは部屋を見て回る。
「本当に綺麗な部屋だな」
「ええ、実に整理整頓されています」
教育係も感心している様子。
キョロキョロと室内を見回す。
すると、気になる戸棚があった。
何故か、布が被せられている。
何だろうと首を傾げる。
何かを隠しているのだろうか?
そう思っていると、彼女が戻った。
「い、如何でしょうか……?」
水玉ニーソを履いた、黒髪ロング。
そんな彼女の装いは変わっていた。
ニーソがよく見えるような、服装に。
なんと、それは丈の短い、浴衣姿。
ミニスカートの様に足が露出してる。
柔らかそうな足に、ニーソが似合う。
なにより、浴衣とニーソの相性が良い。
丈の短い浴衣。そして水玉ニーソ。
その二つがあどけなさを演出していた。
「とても良く似合ってるぞ」
「あ、有難き幸せっ!!」
素直に褒めると黒髪ロングは嬉しげ。
その反面、教育係は悔しそうだ。
けれど、反論はない様子。
まだまだ1人目だ。
ここで焦る奴ではない。
ボクの教育係は圧倒的なのだから。
しかし、一応気を遣って話題を変える。
「時に黒髪ロング」
「はい、なんでしょう?」
「この戸棚は何なのだ?」
「あっ、それは……!」
気になっていた戸棚について尋ねる。
すると何やら慌てる黒髪ロング。
見られたくない物があるのだろうか?
ますます気になるが、詮索はやめよう。
突然訪問して、家捜しなど、駄目だ。
だから、それ以上の追求はよくない。
だが、黒髪ロングは戸棚に手を伸ばす。
そして、掛けていた布を取りさった。
そんな彼女に、思わず尋ねる。
「中を見ても、いいのか?」
「殿下に隠し事は、しませんから」
顔が真っ赤な黒髪ロング。
なんだかとても恥ずかしそう。
そんな様子に好奇心を刺激された。
ボクはゆっくりと、戸棚を開く。
すると、そこには……沢山の、人形が。
「に、人形……?」
「は、はい。フィギュアです」
黒髪ロングはフィギュアと呼んだ。
その人形はどれも可愛らしい物ばかり。
そんなフィギュアの1体に目が留まる。
「これは、桃色髪の姫君に似てるな」
「はいっ!私の大好きなキャラです!」
桃色髪の姫君に似た、フィギュア。
彼女と同じく桃髪で、鳶色の瞳。
勝ち気な表情も何処となく似ていた。
けれど、胸だけは、大きく異なった。
「この人形は、貧乳なのだな」
そう独りごちると、教育係が説明した。
「それが、自然の摂理ですから」
「そう言えば、そんな事を言ってたな」
「はい。古今東西、桃色髪は貧乳です」
いつだか教育係が言っていた。
その理由が、なんとなくわかった。
しかし、このキャラは何なのだろう?
首を傾げて、しげしげと眺めるボク。
黒髪ロングがキャラクターを解説した。
「それは人気アニメのヒロインです」
「アニメ……?」
聞き慣れない単語だ。
アニメとは何のことだろう。
そんなボクを見かねて、教育係が説明。
「アニメとは、動く漫画のことです」
「ま、漫画が動くのか?」
「はい。絵が動いて、喋るのです」
動いて喋る絵。
なんだそれ! 面白そうっ!
ボクは目をキラキラさせた。
それを見て、黒髪ロングがゴソゴソ。
戸棚から、何やら取り出した。
それを、ボクに差し出してくる。
「もしよければ、ご覧下さいませ」
「これが、アニメか……?」
「はい。映像が記録されています」
映像が記録されているらしい。
それは長方形の箱に入っていた。
箱の表には、さっきのキャラクターが。
それを見ただけで、心が踊った。
ボクは黒髪ロングに感謝を告げる。
「ありがとう。でも貰っていいのか?」
「はいっ! それは布教用ですのでっ!」
はて、布教用?
何のことだかよくわからない。
けれど、とにかく嬉しかった。
しかし、教育係が待ったをかける。
「設備を整えるまで暫しお待ち下さい」
「設備?」
「ええ、映像を再生する為の設備です」
それがないと見れないらしい。
仕方なく、ボクは黒髪ロングに返す。
そして、彼女と約束を交わした。
「設備が整ったら、一緒に観よう」
「はいっ!心よりお待ちしてますっ!」
眩い笑みを浮かべる黒髪ロング。
浴衣ニーソ姿の彼女の可憐な微笑み。
思わず、ボクは、見惚れてしまった。
今日、彼女の家に来て良かった。
浴衣の水玉ニーソを見れたし、何より。
この日、ボクは意外な一面を知った。
黒髪ロングは、アニメが好きらしい。




