第62話 『銀髪メイドの大サービス』
「教育係」
「はい、如何しましたか?」
「弁当を忘れてしまったようだ」
ある日の昼休み。
鞄を開いたボクは愕然とした。
弁当箱の包みが、ない。
どうやら屋敷に置いてきたらしい。
「では、今日は学食に致しますか?」
「……仕方ない。そうするか」
がっくり項垂れるボク。
銀髪メイドの甘い卵焼きが食べれない。
1日の楽しみなのに。
仕方なく、食堂に向かうことにする。
すると、教室の入り口に人だかりが。
何やら女生徒の黄色い声が聞こえる。
可愛いとか、どこから来たの?とか。
「なんだろう?」
「はて? 迷い猫でしょうか?」
首を傾げつつも、そちらへ向かう。
すると、そこには迷いメイドの姿が。
生徒に囲まれて、おろおろしている。
「メイドちゃん、何しに来たの?」
「あ、あのっ、忘れ物を届けに……」
「忘れ物?」
「は、はいっ、お弁当を……」
メイドはお弁当を抱えていた。
それは紛れもなく、ボクのお弁当。
儚げな印象の銀髪メイドがそこにいた。
「銀髪メイド」
「あっ!殿、じゃなくて、デンカ様!」
声を掛けるとほっとした様子。
すたこら、こちらに駆け寄ってきた。
そしてボクの背後に隠れるメイド。
意外と彼女は人見知りらしい。
「デンカちゃんのメイドさんなの?」
「ああ、ボクのメイドだ」
「そっかそっか〜会えて良かったね!」
同級生達もすんなり受け入れてくれた。
良家の子女が多く通う王立学園。
それぞれメイドを雇っているのだろう。
ひとまず、忘れ物を受け取ろう。
「弁当を届けに来てくれたのか?」
「は、はいっ! どうぞっ!!」
「わざわざ、ありがとう」
「えへへ、お役に立てて嬉しいです!」
感謝を告げると、はにかむメイド。
けれどボクの背から出ようとしない。
騒ぎが収まってもびくびくするメイド。
いくら人見知りでも、怯えすぎだ。
それを不審に思って、尋ねる。
「何故そんなに怯えてるんだ?」
「えっと、あの……じ、実は……」
「どうした?」
「今……下着を身につけてなくて……」
ん? 今、なんて……?
ボクは幻聴を聞いたのだろうか?
そうだ、幻聴だ。幻聴に決まってる。
銀髪メイドは忘れ物を届けに来た。
実に優秀なメイドだ。メイドの鏡だ。
そんなメイドが下着をつけてないなど。
そんなことは、ありえない。
「銀髪メイド」
「な、なんでしょう?」
「よく聞き取れなかったんだが……」
するとメイドは恥ずかしそうに囁いた。
「……ノーパンノーブラなんですよぅ」
ノーパンノーブラ。
つまり、パンとブラがノー。
すなわち、メイドは下着をつけてない。
いや、しかし、まさか、そんなこと。
念を押して、確認しておこう。
「それは、マジか?」
「はい、マジです!」
キリッと返答して頷くメイド。
そう言えば、銀髪メイドは変態だった。
失念していた。ボクのメイドは変態だ。
だからって、こんなことありえるのか?
驚愕を禁じ得ないボク。
こめかみに冷や汗が流れる。
そんなボクの代わりに教育係が叱る。
「まったく、何をやってるんですか」
「ご、ごめんなさぃ……」
怒られてしょぼんと肩を落とすメイド。
教育係は腕を組んで彼女を見据える。
そして見透かしたように、尋ねた。
「またくちゅっていたのですか?」
「うぅ……申し訳ありません……」
くちゅっていた?
なんだそれは。初めて聞く単語だ。
指摘されたメイドは顔が真っ赤。
くちゅくちゅと何か関係あるのか?
以前、教育係は大人の嗜みと言った。
メイドはそれを嗜んでいたらしい。
「昼間からはしたないですよ」
「ど、どうしても我慢できなくて……」
顔を覆って恥ずかしがるメイド。
そして、言い訳を口にした。
「でもその後、忘れ物に気づいて……」
「くちゅり終えて弁当を見つけたと?」
「は、はぃ……その通りですぅ……」
くちゅり終えて、弁当を見つけた。
まったく意味がわからない。
けれど、くちゅったおかげらしい。
ならば、褒めてやるべきだろう。
「銀髪メイド」
「は、はいっ! な、なんでしょう?」
「お前がくちゅってくれて、助かった」
「へっ? あ、どういたしまして……」
「だから、気にしなくていい」
メイドにそう言い聞かせる。
ボクも気にしないことにする。
どうせ聞いても教えてくれないし。
褒められたメイドは嬉しそう。
ボクも微笑んで、彼女をねぎらう。
すると、教育係が不満を口にした。
「デンカ様はメイドに甘すぎです」
「そう言うな、お手柄なのだから」
奴の文句を軽くあしらう。
そして、メイドに提案する。
「メイド、授業を受けてみないか?」
「えっ? よ、よろしいのですか?」
「せっかくだから学園生活を味わえ」
「は、はいっ! 有り難き幸せっ!!」
画して、メイドの体験入学が始まった。
「くぅ……くぅ……むにゃむにゃ……」
弁当を食べ終え、午後の授業。
メイドの甘い卵焼きは今日も美味。
それはいい。それはいいのだが。
「メイド……起きろ」
「むにゃむにゃ……やんっ、えっち」
授業開始10分でメイドは熟睡。
やはり高等科の授業は難しかった様子。
しかも、おかしな夢をみているようだ。
時々喘ぐのはやめて頂きたい。
「まったく、仕方のないメイドですね」
見かねた教育係が動く。
すっと、音も無く忍びよる魔の手。
おもむろに、彼女のささやかな胸に。
そして、服の上からぎゅっとつねった。
「ひゃうっ!……むぐっ!?」
「授業中は、お静かに」
堪らず飛び起きるメイド。
その口を即座に塞ぎ、悲鳴を阻止。
恐ろしいほど、手慣れている。
教育係の傍で居眠りするのは厳禁だ。
「居眠りした罰です」
「むぐっ!?……んっ……ふっ……!」
そのまま胸を揉みしだく教育係。
銀髪メイドはされるがまま。
ボクは周りに気づかれないかひやひや。
しばらく揉んで、眉をひそめる教育係。
そんな奴を不審に思い、尋ねる。
「どうかしたのか?」
「メイドが……成長してます」
「えっ?」
メイドが成長している?
思わず彼女に視線を向ける。
しかしぱっと見、変わった様子はない。
「どこが成長してるんだ?」
「胸です」
聞くと、どうやら胸らしい。
メイドの胸が成長している。
それは、由々しき事態だった。
無乳のボクらを差し置いて。
勝手に成長するなど言語道断!
同士たる教育係はメイドを解放。
そして息を荒げる彼女に詰問する。
「何故、胸が成長しているのですか?」
「そ、そう言われても……」
小さな声でやり取りを交わす2人。
ボクは聞き耳を立てて秘訣を探る。
教育係がむすっとして、問いただす。
「毎日くちゅっているからですか?」
「ま、毎日はしてませんよぉっ!?」
「私は毎日しているのにっ!!」
メイドの言い分に、教育係がキレた。
当てつけのようにまた胸をつねる。
メイドは再び口を塞がれ、悶絶。
ボクは周りに気づかれないかひやひや。
その時。
「っ……んぐっ!?」
メイドが、ぶるりと身を震わせた。
何やら青い顔をしている。
そしてスカートの裾を押さえている。
そんな彼女を不審に思い、尋ねる。
「どうかしたのか?」
「お、おしっこ……!」
「えっ?」
「おしっこが……漏れそうですっ!」
本日2度目の驚愕。
メイドはさらなる高みに上った。
それは、ついこの間、体験した領域。
禁断の、『おしっこゾーン』である。
「せ、先生っ!……むぐっ!?」
「わぁっ!?ちょっと待って下さい!」
ボクはすぐさま、迷わず挙手。
教師にトイレを告げようとした。
けれど、メイドがボクの口を塞ぐ。
この緊急時に、一体何の真似だ?
「メイド、何をするっ!?」
「だって、恥ずかしいですっ!」
「間に合わなくなっても知らんぞ!!」
小さな声でひそひそ怒鳴り散らす。
もしも、メイドが漏らしたならば。
間違いなくボクの品性が疑われる。
そんな特殊な趣味を持っていると。
いつもそんなプレイをしていると。
そんな誤解は断じて受け入れ難い。
焦るボク。
メイドは涙目で打開策を提示した。
「ふ、太ももをつねって下さいっ!」
「は?」
「意識を逸らすのですっ!」
意識を逸らす。
つまり、尿意を忘れる為に。
その為に、太ももをつねろと。
なるほど。
それは名案かも知れない。
納得して、ボクがつねるよりも、早く。
「それでは、つねりますよ……えいっ」
「ひぅっ!?」
教育係が先んじて、メイドをつねった。
ぎゅっと、思いっきり。
何故か……太ももの、内側を。
これにはメイドもびくっとなった。
口を押さえて悲鳴を押し殺すメイド。
そして、か細い声で、おねだりした。
「あぅ……お、お胸もっ……!」
「やれやれ……欲しがりさんですね」
「んあっ!?」
なんだ、これ。
何なんだ、こいつらは。
ボクはもう、ついていけない。
さっと視線を逸らして、見ないふり。
こうはならないことを、固く誓う。
ボクは今日、尿意の恐ろしさを知った。
2人の戯れは授業が終わるまで続いた。
「ふぅ〜すっきり爽快ですっ!」
何とか耐え切った銀髪メイド。
授業の後に、すぐさまトイレへ。
どうやら間に合ったらしい。
キラキラした笑顔を浮かべている。
額の汗を拭う仕草。
まるで、ひと仕事終えたような様子。
けれど彼女の本来の仕事は残っている。
「あ、そろそろ夕食を作らないとっ!」
学園の時計塔の時刻を見て慌てる彼女。
トイレからそそくさと下駄箱に向かう。
見ると外には屋敷の車が停まっていた。
ずっとメイドを待っていたらしい。
「それではお帰りをお待ちしてます!」
「ああ、なるべく早く帰る」
手を振る彼女に、手を振り返す。
メイドはにっこり笑って踵を返す。
そして車へと向かう、その最中。
ぶわっと、一陣の風が吹いた。
それに伴い、捲れ上がるスカート。
彼女は今日、下着を身につけていない。
小ぶりだが、形の良い尻が露わになる。
久しぶりの銀髪メイドの生尻。
ボクの隣に立つ、教育係の怒気。
そんな奴の苛立ちに気づかないメイド。
くるりと振り返り、小さく舌を出す。
「今日は……大サービスですっ!」
もちろん、その後。
教育係に怒られたのは語るまでもない。
ボクのメイドは、サービスをしすぎだ。




