第5話 『性感帯の力』
「まったく、何をやってるんだ貴様は」
「申し開きのしようもございません」
黒髪ロングが帰った後、説教した。
いつもと立場が逆だ。ボクが上だ。
実に気分が良い。最高の気分だ。
だから、ちょっと調子に乗った。
「どれ、お前の耳かきをしてやろう」
「は?」
「耳かきをしてやると言ったんだ」
そう言って、教育係から耳かきを奪う。
そしてポンポンと膝を叩いて促す。
「ほら、こっちに来て頭を乗せろ」
「殿下、お戯れはおやめ下さい」
「ボクは本気だ。早くしろ」
しばらく視線が交錯する。
教育係の漆黒の瞳が、ボクを見透かす。
酷く落ち着かない気持ちになった。
堪らず目を逸らす。
すると教育係はにやりと笑った。
形勢が、逆転してしまった。
「それではお言葉に甘えましょうか」
そう言って、ボクの膝に寝転がる。
サラサラの黒髪がくすぐったい。
今日ボクは半ズボンを穿いていた。
それが、ボクの敗因だった。
「殿下」
「なんだ」
「殿下の太ももがとても魅力的です」
「お、おかしなことを言うなっ!?」
つい、声を荒げてしまう。
こんな筈じゃなかった。
仕返してやろうと思ったのに。
これでは耳かきどころではない。
「味見をしてもよろしいですか?」
「へっ?」
「はむっ!」
「ちょっと!?」
突然太ももを噛まれた。
びっくりした。びくってなった。
なんなんだこいつは!頭おかしい!
「ふむ。実に美味ですな」
「黙れ」
「それではもう片足も……」
「やめてっ!やめてってばぁ!?」
調子に乗ったボクは、罰を受けた。
しばらく、膝を占領した教育係。
散々甘噛みして、すっきりした様子だ。
ボクは悔しくて、教育係の耳を噛んだ。
「はむっ!」
「ふぁっ!?」
へへんだ。ざまあ見ろ。
教育係の素っ頓狂な悲鳴。
録音してやりたいくらいだ。
耳を押さえて悶える姿に溜飲が下がる。
これで、ボクの勝ちだ。
しかし、こいつは負けず嫌いだった。
「はむっ!」
「うっひゃあんっ!?」
一瞬の気の緩み。
それが、命取りだった。
奴は悶えながらボクの耳を狙っていた。
さながら、猛禽類の如く。
それからしばらく格闘した。
しかし奮闘虚しく……
最終的に、ボクは屈服させられた。
「性感帯の力が身に沁みましたか?」
「……よく、わかったよ」
太ももの内側を噛むのはずるい。
思わず涙目になって睨みつける。
しかし、こいつは本当にずるかった。
「よろしい。殿下はとても優秀ですね」
慈しむように教育係は頭を撫でてくる。
口の端に格好良く微笑みを浮かべて。
そんな風に褒められたら、怒れない。
ボクの教育係は本当にずるい奴だった。