第43話 『裏切り者には搾乳を』
「でーんーかっ! あーそーぼっ!」
「いーいーよっ!」
部屋の扉の向こうから響く声。
間違いない。オレっ娘の声だ。
ボクは大きな声で返事を返す。
「へへっ。来ちゃった」
ガチャリと扉が開きオレっ娘登場。
今日はいつもと装いが違う。
無地の黒Tシャツに短パン。
これはいつもと大して変わらない。
違うのは、上着だ。
ミリタリージャケットを羽織っている。
足元には黒のブーツ。
仕上げに、制帽を斜めに被っていた。
今日の彼女は軍服風だった。
「その格好はどうしたんだ?」
「へへっ。どーよ? 似合う?」
「うん。似合ってる」
「ありがとー!!」
素直に似合うと言うと彼女は破顔した。
ダブルピースで喜びを表すオレっ娘。
褒めて良かったとボクは思った。
「お!オレのパーカー着てんじゃん!」
「ああ、せっかく貰ったからな」
「似合ってるぜっ!!」
「ありがとー!!」
たまたま今日はパーカーを着ていた。
彼女の誕生日プレゼントの赤いパーカー。
オレっ娘はニッコリ笑って褒めてくれた。
そしてテンション高めにハイタッチ。
そのままぎゅっと手を繋ぐ。
ボクも彼女も前髪は全開だ。
彼女がおでこをくっつけてきた。
ボクも負けじと、おでこをグリグリ。
クリクリの薄緑色の瞳にボクが映る。
ボクはヘラヘラ笑っている。
オレっ娘もヘラヘラ笑う。
ボクらはとっても仲良しだった。
「ぐぬぬ……負けていられませんね」
その光景を見て悔しそうな教育係。
奴はいそいそとヘヤゴムを取り出す。
そして、手早く前髪を結い上げる。
一体何の対抗意識なんだか。
呆れていると、オレっ娘が口を開いた。
「そう言えば聞いたぜー?」
「ん? 何をだ?」
「うちの学校に編入するんだろ?」
にやりと笑うオレっ娘。
ボクは驚いていた。
編入の件は極秘中の極秘の筈。
それなのに何故知っているのか。
首を傾げていると、彼女は説明した。
「オレの家が将軍家だって知ってる?」
「ああ、知っている」
彼女は将軍家の娘だ。
代々ボクの国を守っている将軍。
ボクの国の軍隊のトップである。
それと、何か関係あるのだろうか?
「実は親父が陛下に呼び出されてさ」
「父上に?」
「そう。学園の警備を強化しろって」
ボクの父上がそんなことを。
学園の警備を将軍に打診って。
ちょっと過保護すぎるんじゃないか?
「んで、親父も乗り気だったわけ」
「の、乗り気だったのか……」
「だけどそこの教育係が要らないって」
教育係を顎でしゃくって彼女は言う。
ボクはちらりと奴を振り返る。
すると奴はコクンと頷いて肯定した。
「殿下をお守りするのは私ですから」
またもやよくわからない対抗心。
完全に教育係の業務外だと思う。
呆れて半眼を向けると奴は言い訳した。
「殿下の学園生活を有意義にする為です」
ふむ。なるほどな。
そう言われると、納得せざるを得ない。
ボクだって警備兵に囲まれたくない。
せっかくの学園生活を楽しみたかった。
そこで、オレっ娘が結論を述べた。
「んで、オレにお役目が回ってきたのさ」
「お役目?」
「殿下の警護を一任されたってこと!」
そう言って八重歯を見せて笑うオレっ娘。
ボクの警護を一任されたらしい。
その際に編入のことを知ったわけか。
ボクは納得して、彼女に告げる。
「そういうことなら、よろしく頼む」
「へへっ。任せておけって!」
照れ臭そうに笑うオレっ娘。
腕っ節はともかく、信頼に足る娘だ。
いや、腕っ節も期待していいのか?
一応、将軍の娘だし。
ボクは握手をするべく右手を差し出す。
すると、オレっ娘はガッチリ握る。
その力が思いのほか強くて驚くボク。
腕っ節はともかくとか言ってごめん。
内心で謝罪しておく。
そんなボクに、彼女は紙袋を差し出した。
「そうそう! これあげるっ!!」
「これは……?」
「へへっ。入学祝いだぜっ!!」
「あ、ありがとう」
入学祝いと言って差し出された紙袋。
面食らいつつも受け取ると、軽い。
一体何が入っているのだろうか?
「中を見てもいいか?」
「ああ! 見てみろよ!」
尋ねると、悪戯めいた笑みを返された。
その意味がわからず困惑するボク。
とりあえず、紙袋の中を覗き見る。
すると、なんと、その中には。
「こ、これは……!」
「オレのスパッツの詰め合わせだっ!」
中にはスパッツが詰まっていた。
色とりどりで種類も豊富。
紙袋の中はスパッツの楽園だった。
思わず紙袋に頭を突っ込みたくなるボク。
しかし、その前に確認しなければ。
「教育係」
「はい、如何しましたか?」
「これ、貰っていい?」
恐る恐る、教育係に許可を求めるボク。
この前はメイドにパンツ貰って怒られた。
だから、今回は事前に許可を取る。
そんな殊勝なボクの許可申請。
奴は暫し黙考して、口を開いた。
「仕方ありませんね。特別ですよ?」
「やたーっ!!」
許可が下りて大喜びのボク。
そんなボクを見て教育係はやれやれ。
そして、気になる言葉を付け加えた。
「学園生活に必要でしょうから、ね」
はて、何のことだろう?
ボクの学園生活に何故スパッツが?
全く意味がわからない。
こいつはいつも意味不明である。
とりあえず、それはひとまず置いておく。
どうせ聞いても答えてくれないだろうし。
そんな意地悪教育係に、ボクは提案する。
「教育係」
「はい、なんでしょう?」
「オレっ娘に褒美をやりたい」
思えばボクはいつも貰ってばかりだ。
オレっ娘に限らず、みんなから。
だから、お返しがしたかった。
そんなボクの意を汲んで、教育係が動く。
「でしたら、これは如何でしょう?」
「それは、もしや……」
「はい、ひらひらのワンピースです」
教育係が持ってきた褒美。
それはいつぞやのワンピース。
以前、ボクとメイドが着たものだ。
それをオレっ娘が着たらどうなるか。
少しばかり、興味があった。
「オレっ娘」
「あん? どーした?」
「このワンピースをやろう」
「はあっ!?」
ワンピースを差し出す。
すると、彼女は驚愕した様子。
気に入らなかったのだろうか?
「気に入らないか?」
「いや、そうじゃないけどさ……」
「ならどうしたんだ?」
「オレの趣味じゃないっつーか……」
歯切れの悪いオレっ娘。
やはり気に入らない様子だ。
しかし、無理強いは出来ない。
ボクは肩を落として諦めることにする。
「そうか……なら、仕方ないな」
「そ、そんなに落ち込むなって!」
「ワンピース姿……見たかったな」
「うっ!?」
諦めようにもなかなか諦め切れないボク。
そんなボクを見て、オレっ娘が怯む。
ボクは未練がましく、ポツリと呟く。
「きっと、似合うと思うけどな……」
すると、オレっ娘が降参した。
「わ、わかった! わかったよ!!」
「えっ?」
「ありがたく受け取ってやんよっ!!」
ワンピースをひったくるオレっ娘。
広げて見て、赤面している。
どうやら彼女は押しに弱いらしい。
ボクはもう一度、おねだりしてみる。
「いま着てみてくれないか?」
「へっ?」
「おねがい! ね? 着てみて?」
「ええっ!?」
両手を合わせてオレっ娘におねだり。
すると、彼女はうっと怯む。
そのまましばらく、お願いポーズ。
ややあって、オレっ娘が根負けした。
「き、着ればいいんだろ!着れば!!」
「やたーっ!!」
何だかんだで優しいオレっ娘に大感謝。
ボクはおねだりが成功して大喜び。
そのままオレっ娘を見つめる。
早く着てと言わんばかりに。
すると、彼女が扉を指差す。
「出てけ」
「は?」
「着替えるから出てけってのっ!!」
怒られて、すごすご退室するボク。
一緒に教育係も追い出された。
ボクの部屋なのになんでこんな目に。
「殿下はデリカシーが足りませんね」
教育係がぴしゃりと断じる。
ボクは項垂れることしか出来なかった。
しばらくすると、声が掛かった。
「は、入っていいぞっ!」
入室の許可が下りたので部屋に戻る。
すると、そこには……
「へ、変じゃない……かな?」
ワンピースの天使が、佇んでいた。
「ぜ、全然変じゃない!なあ教育係?」
「悔しいですが……大変お似合いかと」
慌ててそう返して、奴にも同意を求める。
教育係は悔しそうに同意した。
「な、なら、良かった……」
それを受けて、えへへと笑うオレっ娘。
月並みな表現ではあるがとても可愛い。
可愛いけど……なんか、違和感がある。
「教育係」
「はい、殿下」
「あれはボクの目の錯覚か?」
「いえ、私も自分の目を疑っています」
2人揃って目をゴシゴシこする。
そして再び、まじまじと見る。
視線が向かう先は……オレっ娘の胸部。
そこに……奇妙な膨らみが見て取れた。
「オレっ娘」
「ん? どーかしたか?」
「その胸はどうした?」
「ああ、これか? 別になんでもない」
「ちゃんと説明をしろ」
「サラシを外しただけだってのっ!!」
ボクの追求に頬を染めて白状した。
そして包帯のようなものを突きつける。
どうやら、それがサラシらしい。
サラシを外したオレっ娘。
ワンピースを突き上げる微かな膨らみ。
銀髪メイドよりも間違いなく小さい。
けれど確かに、微乳の持ち主だった。
「教育係」
「はい、殿下」
「これは裏切りだよな?」
「はい、ギルティーかと」
無乳のボクらは視線を合わせ、頷く。
それだけで教育係は我が意を得た。
懐からおもむろにある物を取り出す。
それはもちろん……搾乳機。
それを片手に、にじり寄る教育係。
「まさか、貴女が裏切るなんて……」
「お、おいっ! なんだよそれっ!?」
「これは搾乳機でございます」
「それで何する気だっ!?」
「無論、出そうな杭を打つのです」
教育係に追い詰められるオレっ娘。
普段は奴を止めるボクも今日は違う。
ただ黙して、粛清を見届ける。
オレっ娘の裏切りを、見過ごせなかった。
そんなボクらの迫力に慄くオレっ娘。
彼女は迷わず、逃亡を選択した。
「お、覚えてやがれよぉおお!?!!」
「待ちなさい!裏切り者っ!!」
さすが将軍の娘。
引き際は弁えているようだ。
教育係の追撃を振り切って、退室した。
「申し訳ありません。逃げられました」
「よい、次の機会を待て」
逃亡を許した教育係に許しを与える。
すると、奴は頭を下げて、笑った。
「くふっ」
「どうした?」
「ようやく教育の成果が現れましたね」
ボクの成長を喜ぶ教育係。
だけどボクは内心複雑だ。
だってこれはただの僻みじゃないか。
だからついつい、本音が漏れる。
「……ボクも搾乳出来るようになりたい」
しょげるボクに、教育係はにやり。
そして意地悪な提案を口にする。
「私が吸ってあげましょうか?」
「やめておく」
「は?」
「お前に吸われたら抉れそうで怖い」
「あ?」
ひぇっ。また怖い顔された。
意地悪に意地悪で返しただけなのに。
こいつは本当に怒りん坊だ。
びびるボクに、奴はすっと手を伸ばす。
その手はボクの胸に伸びて……突いた。
「えいっ」
「ぁんっ」
突いたのはボクのどんぴしゃ。
身体に電流が走り、びくっとなる。
そんなボクの敏感な部分を奴は摘む。
「うぅ……意地悪」
思わず涙目になって教育係を睨むボク。
奴は嗜虐的な笑みを浮かべる。
そして、ボクにこう言い放った。
「そのうちそれを舐って差し上げます」
ボクの教育係は、最近とても過激だ。




