第39話 『ギャップの力』
「ちーっす!」
「オレっ娘か。どうしたんだ?」
「殿下の顔を見に来たぜっ!!」
その日、突然オレっ娘が部屋に訪れた。
彼女はこうしてたまにやってくる。
よほど暇を持て余してるらしい。
「ボクの顔なんか見てどうするんだ?」
「ちょっと気になることがあってさ!」
そう言ってオレっ娘はボクに歩み寄る。
何やら目をキラキラさせている。
好奇心旺盛そうな薄緑色の目。
白い八重歯も怪しく輝いている。
何かボクに聞きたいことがあるようだ。
「どうかしたのか?」
「いや、実はこの前の舞踏会でさ〜」
突然の舞踏会の話。
ボクはなんとか動揺を隠し切った。
すまし顔でオレっ娘の話を聞く。
「舞踏会がどうかしたのか?」
「めっちゃオレ好みの子がいてさ〜!」
「ふむ。それは良かったな」
「赤い可愛いドレスを着た子でさ〜!」
「そ、そうか……」
むむ? なんか雲行きが怪しい。
赤いドレスというのが気になる。
あの日、ボクも赤いドレスを着ていた。
なんだか尋問されている気分だ。
冷や汗を流すボクを見て彼女はにやり。
そして、唐突に話題を変えた。
「んで、今日は赤いパーカーってわけ!」
「な、なるほど……似合ってる」
「ありがとー!」
先程とは一転、無邪気なオレっ娘。
ボクはホッと胸を撫で下ろす。
別にそこまで秘密という訳ではない。
彼女に知られたところで問題ないだろう。
ただ、なんとなく気恥ずかしかった。
追求から逃れたボクはオレっ娘を見やる。
申告した通り、赤いパーカー姿。
だぼっとした裾から細い脚が伸びる。
それを眺めているとつい勘ぐってしまう。
「オレっ娘」
「んー? なになに?」
「今日も短パンを穿いてないのか?」
「さあ? どーだろーな?」
ボクの問いかけをはぐらかすオレっ娘。
そう言われると気になって仕方ない。
すると彼女は、さらに接近してきた。
椅子に座るボクの膝にくっつく勢いで。
「穿いてるかどうか知りたいの?」
「し、知りたい」
「じゃあ、殿下の秘密も教えて?」
ここぞとばかりに尋問再開。
パーカーの裾がボクの膝をくすぐる。
オレっ娘はそのまま膝を跨いでくる。
「殿下の膝に座ろっかなー?」
「ど、どうぞ」
「殿下が答えてくれたら座るっ!」
すっかりボクは追い詰められた。
オレっ娘がボクの顎を掴む。
くいっと上を向かされる。
そして左右に振られる。
ボクの顔を観察しているようだ。
ひとしきり眺めて何やら確信した様子。
「ほら、早く白状しちまえよっ!」
「うぅ……実は……」
もはやこれまで。
パーカーの裾の誘惑には勝てない。
白状しようとボクは口を開く。
その間際、教育係が介入した。
「はい、そこまでです」
「あんだよっ! 邪魔すんなよっ!」
「殿下に意地悪出来るのは私だけです」
「独り占めすんなよなっ!!」
首根っこを掴まれ引き離されるオレっ娘。
ぎゃーぎゃー2人で言い争っている。
どちらにせよ、ボクは意地悪されるのか。
一応、ボクは『殿下』なんだけどなー。
自らの境遇を嘆くボク。
そんなボクにオレっ娘が何かを差し出す。
「そうだ! これ、殿下にあげるっ!」
「これは……?」
「オレとお揃いのパーカー!」
言われて広げるとそれはパーカーだった。
今日の彼女と同じ、赤いパーカー。
サイズが大きめなのは、わざとだろう。
「あ、ありがとう」
「へへっ! 誕生日プレゼントだぜっ!」
誕生日プレゼントだと彼女は言う。
あの舞踏会はボクの誕生パーティだった。
だから、贈り物をしてくれたのだろう。
それを両手で大事に胸に抱くボク。
すると、教育係が突っかかった。
「真似しないで下さい」
「誰もてめーの真似なんかしてねぇ!」
「私が先にプレゼントをあげたのです」
「へえ〜。何をあげたんだ?」
「ざ、雑誌を……」
「雑誌っ!? ショボすぎだろっ!?」
「だ、黙りなさいっ!」
「雑誌とかありえねー! ぷーくすくす」
そんな喧騒なんて耳に届かず。
ボクはプレゼントを眺めていた。
こういった服は着たことがない。
果たして、ボクに似合うだろうか?
そう思っていると、オレっ娘が口を出す。
「なんなら今着てみてよっ!」
「えっ?」
「着てみろっての!」
「で、でも……」
渋るボクに舌打ちをするオレっ娘。
そんな彼女は援軍を呼び寄せた。
「あんたも見てーだろ?」
「ええ、もちろんです」
「んじゃ、一時休戦ってことでっ!」
「やむを得ませんね。わかりました」
そう言って固く握手を交わす2人。
ボクの意思は関係ないらしい。
まったく、仲が良いんだか悪いんだか。
「じゃあ、オレらは席を外すぜ!」
「楽しみにしていますよ、殿下」
そう言って部屋から出て行く2人。
取り残されたボクは、覚悟を決めた。
しばらくして、2人が戻ってきた。
「おっ! なかなか似合うじゃん!」
「そ、そうか……?」
「ええ、なかなかお似合いですよ」
パーカーを着たボクを2人は褒めた。
嬉しいけど……ちょっと気になる。
『なかなか似合う』って何なんだ?
ボクの着方がおかしいのだろうか?
そう思っていると、2人が動いた。
「下は穿かない方がいいよな?」
「ええ、同感です」
「よしっ! 脱がすか!」
「はい。殿下、失礼します」
「うわぁっ!? な、何をするっ!?」
結託してボクに襲いかかる2人。
抵抗虚しく、ズボンを脱がされた。
それはもう、スポーン!と、一気に。
下着まで脱げると思った……ぐすん。
「おおっ! めっちゃ似合う!!」
「ええ、大変お似合いですよ」
しくしく泣くボク、ニコニコ笑う2人。
本当にこいつらは悪魔じゃなかろうか。
しかしまあ……似合ってるならいいか。
なんとか自分を納得させた健気なボク。
そんなボクに、オレっ娘が忍び寄る。
そして、後ろから思いっきり……
胸を鷲掴みにされた。
「ひゃあんっ!?」
「おー! やっぱぺったんこだな!」
「な、何をするっ!」
「へへっ。ついでにこっちも……」
「ふわああああんっ!?」
ペタペタ胸を触るオレっ娘。
ついでと言って尻まで触られた。
パーカーの裾を捲られて。
やばいこれ以上は……妊娠してしまう。
絶対絶命の窮地。
その時、再び教育係が介入した。
「そこまでです」
「またてめぇか!?」
「何をやってるんですか、貴女は」
「ちょっと確認してただけだよっ!」
呆れた教育係の問いかけ。
それに確認してたと答えるオレっ娘。
ボクは裾と胸を押さえて震えていた。
「殿下、大丈夫ですか?」
優しくボクの背中を撫でる教育係。
助けてくれたことは感謝する。
だけど、こいつも要注意だった。
「教育係」
「はい?」
「どさくさに紛れて尻を撫でるな」
「おや? これは失礼しました」
白々しい奴め。
恐らく『上書き』をしていたのだろう。
でも、どうせ妊娠するのなら……
思案に耽っていると、オレっ娘動いた。
「悪い悪い! お詫びにこれをやるよ!」
自らのパーカーの裾に手を突っ込む。
「とぉっ!」
鋭く下着を引き下ろす。
「ふっ!」
流れるように右足を引き抜く。
「せぃっ!」
気合いと共にもう片足を引き抜く。
「どんなもんだいっ!」
指に下着をかけてクルクル回す。
あっと言う間の、出来事だった。
「ほいっ! これやるから機嫌直せっ!」
そのままポンと下着を手渡される。
手のひらに伝わるオレっ娘の体温。
どうしても身体の奥がジンジンする。
感動と快感に打ちひしがれるボク。
そんなボクの耳元でオレっ娘が囁く。
「今日のは特別だからよ」
「特別……?」
「ああ、ぜってー驚くぜ?」
何やら意味深なオレっ娘。
怪訝に思いながらも下着を広げる。
すると、それは、なんと。
「……いちご、パンツ……だと……?」
白地に沢山の苺があしらわれていた。
まさかオレっ娘がこんな物を穿くとは。
完全にギャップにやられてしまった。
「感謝しろよー? 激レアだぜっ!」
「……激レア、か」
「きっと赤いドレスにも似合うぜっ!」
そう言って、快活に笑うオレっ娘。
どうやら完全にバレているらしい。
それでもそれ以上は追求しなかった。
オレっ娘はなかなか察しがいい。
それでいて気遣いが出来るらしい。
「んじゃ! そろそろ帰るぜ!!」
「ああ、プレゼント……ありがとう」
「ガンガン着て、穿いてくれよなっ!」
それだけ交わしてオレっ娘は帰った。
実に爽やかで、気持ちのいい娘だ。
「教育係」
「はい、なんでしょう?」
「いちごパンツで妊娠すると思うか?」
「しません」
不安になったボクの問いかけ。
教育係はきっぱり妊娠しないと言う。
それでもボクは心配だった。
「でも、もしかしたら……」
「では、私が穿きましょうか?」
「えっ?」
突然の教育係の提案。
言うが早いかいちごパンツを奪われる。
呆然とするボク。
すると、じろっと睨まれた。
「殿下、後ろを向いてて下さい」
「あ、ああ……わかった」
言われた通り、回れ右。
背後からは衣擦れの音が響く。
すぐ後ろで教育係が下着を穿いている。
しばらくして、トントンと肩を叩かれた。
それを受けて、振り返る。
「……如何でしょうか?」
燕尾服を脱ぎ捨てた教育係。
ワイシャツの女神が、そこにいた。
そして女神はくるりと後ろを向く。
おもむろにワイシャツの裾を捲る。
すると、そこには……
パツパツの、いちごパンツが。
「あの、殿下……?」
どのくらい見つめていただろう。
教育係の問いかけで我に返る。
我に返ったボクは奴に抱きついた。
「教育係」
「はい、どうしましたか?」
「今日はそのまま一緒に寝よ?」
「はい?」
「そのままがいい。ね? おねがい!」
「で、殿下がそう仰るのなら……」
「やたーっ!!」
そうしてボクはだぼだぼパーカー。
教育係はワイシャツいちごパンツ。
そのままボクらはベッドに潜り込む。
そして寝る間際、奴はこう囁いた。
「一晩経ったら、下着を返します」
ボクの教育係は上書きをするのが好きだ。




