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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第1章 【軟禁生活と日常】
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第38話 『禁断症状』

「おはようございます、殿下」

「ああ、おはよう、教育係」


舞踏会から一夜明け。

ボクはいつものベッドで目を覚ます。

すぐ右隣には教育係。

すっかりこいつの定位置である。


あまりにいつもの光景すぎて。

なんだか昨日のことが夢みたいだ。


「……昨日ボクは外に出たのか……?」

「はい。赤いドレスをお召しになられて」


教育係が余計なことを言う。

昨日の自分の格好を思い出して赤面する。

あんな格好、二度と御免だった。


そんなボクの心中を察して奴が囁く。


「とてもお似合いでしたよ」

「お前の主観は当てにならん」

「では、誰に褒めて欲しいのですか?」


そう言われると……困った。

こいつの他に褒められて嬉しい人物。

そんな者は……居なかった。


「……お前がそう言うなら、いい」

「くふっ。殿下はわかりやすいですね」


してやったりな教育係。

その意地悪で優しい微笑み。

ふと、昨日の奴のエスコートが蘇る。


ボクをクルマに乗せて、太ももを触り。

父上と謁見して、尻を触り。

帰りの車内でも、太ももを触られた。


あれーっ?

なんか触られた記憶しかない!?


「教育係」

「はい、なんでしょう?」

「お前は近頃触りすぎだ」

「はい、それが私の仕事です」


いやいやいや!

何勝手に仕事にしてんだこいつ!?

そんな教育係が居てたまるか!


「これからは少し控えろ」

「くふっ。全面禁止ではないのですね」

「全面禁止にするか?」

「殿下の御心のままに」


言葉の上では素直な奴だ。

それならお望み通り全面禁止にするか。

そう思ったボクに、奴は囁く。


「身体への接触は重要でございます」


なんか、突然『授業』が始まった。

ベッドに寝転んだまま、奴は語る。


「接触が少ないと人は不安になります」

「何を馬鹿な……」

「本当のことでございます」


教育係の戯言を鼻で笑うボク。

しかし、奴の口調は真剣そのもの。

だが、俄かには信じ難かった。


「触れられないと、どうなると?」

「禁断症状が出ます」

「ええっ!?」


びっくりした。

漏らすかと思った。

まさかそんな深刻なものだとは。


だけど、やっぱり俄かには信じ難い。


「少し、大袈裟ではないか?」

「いえ、全く大袈裟ではございません」

「いつもの冗談だろう?」

「では、冗談ではないと証明します」


そう言って、教育係は身を起こす。

ベッドに1人取り残されるボク。

途端に何やら寒くなってきた。

思わず、奴の寝ていた場所に手を伸ばす。


そしてそれを、見咎められる。


「くふっ」

「あっ、いや、これは……」

「殿下は大変わかりやすいですね」


嘲るようなおかしな笑い声。

ボクはむっとして、むきになる。

もう、教育係のことなんて知らないっ!


「おや? 如何なされましたか、殿下」

「うるさいっ!話かけるなっ!」

「そうですか。では、朝の支度をします」

「ふんっ!勝手にしろっ!」


プリプリ怒るボクの脇で奴はゴソゴソ。

何をしているのかと、横目で見る。

すると、奴の手には靴下が。


「お、おいっ!!」

「はい、如何しましたか?」

「なんで勝手に靴下を履くんだ!?」

「先程、話しかけるな、と」


教育係が勝手に靴下を履こうとする。

互いの靴下を履かせ合うのが日課なのに。

ボクは堪らず胸がきゅっと痛くなる。

慌てて、前言を撤回する。


「……さっきのは冗談だ」

「おや? そうでしたか」

「もう勝手に靴下を履くな」

「では、あらかじめご報告します」

「えっ?」


ボクの懇願を受け入れた教育係。

しかし、またおかしなことを言う。

訳がわからず困惑するボク。


奴は勝ち誇ったように、宣言する。


「今から靴下を履きます」

「は?」


何言ってんだこいつは。

勝手に履くなとさっき命じたのに。


いや、待てよ……?

先に報告をしたのなら、いいのか?

それは『勝手』ではないのかも。


ボクは全てを察して冷や汗を流す。

このままでは朝の日課が消滅する。

だめだだめだだめだ!そんなの嫌だっ!


震え声で慌てて教育係を止める。


「ちょ、ちょっと待って!?」

「どうかされましたか?」

「それはボクが履かせる!」

「ですが、殿下は接触を控えろと……」

「取り消す!取り消すからぁ!?」


この日、ボクは禁断症状を思い知った。


「それでは、よろしくお願いします」

「うむ。任せろ」

「殿下は履かせるのが上手ですね」


気を取り直して靴下を履かせるボク。

そうしていると先程の不安が消え去る。

どうやら教育係の言葉に嘘はないらしい。


だからこそ、ボクは苦言を呈する。


「教育係」

「はい、なんでしょう?」

「お前は仕事を理由にボクに触るのか?」


教育係は接触を自分の仕事だと言った。

確かに、これは奴の仕事かもしれない。

そう思うと……たまらなく悲しかった。


「殿下」

「ん?」

「先程の言葉は取り消します」


教育係はあっさり前言を撤回した。

それに、ほっと安堵するボク。

思わず頬がほころぶ。


それを見て、奴は呆れた笑みを漏らす。


「殿下はわかりやすいですね」

「お前もな」

「もっと私の気持ちを知って下さい」


そう言って、ボクに接近する教育係。


近い。顔が近い。

しかも、目を閉じてる。


ボクは堪らず奴を引き離す。


そして、足を突き出した。


「今度はボクの番だ」

「くふっ。かしこまりました」


奴は照れ隠しに突き出した足を手に取る。


そのまま靴下を履かせようとして……


おや?と、首を傾げた。


「殿下」

「どうした?」

「御足に靴擦れが……」


言われて見ると、確かに小指の脇が赤い。

慣れないヒールで靴擦れしたらしい。


昨日は気を張っていて気づかなかった。

だけど、指摘されると痛みを知覚した。

なんとも身体とは正直である。

気の持ちようとはよく言ったものだ。


「絆創膏を貼って差し上げます」

「ああ、ありがとう」


どこからともなく取り出した絆創膏。

それを奴は優しく靴ずれ箇所に貼る。


貼り終えると……


ちゅっと、足にキスをした。


「ふあっ!?」

「どうしましたか、殿下」

「お、おお、お前っ!?何してんだ!?」

「殿下の御足が可愛くて、つい」

「おかしいっ!おかしいからっ!?」

「ちっともおかしくありません」


そう言って、奴は片目を瞑る。


そしてボクの望みの言葉を口にする。


「私がしたくてしたのですよ」


ボクの教育係は急所をつくのが上手い。

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