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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第1章 【軟禁生活と日常】
38/111

第37話 『舞踏会』

「ひ、人がいっぱいだ……!」

「舞踏会ですからね、当然です」


大広間に踏み込むと大勢の人の群れ。

思わず回れ右をして帰りたくなる。

そんなボクの手を引く教育係。

堂々と胸を張って歩いている。

ボクも奴と同じように貧相な胸を張った。


「な、なんかすごく注目されてるぞ」

「それだけ殿下が可愛いのでしょう」


すれ違うたびに振り向かれる。

中には指を指すものまでいる。

教育係はそう言うが、やはり不安だ。


「や、やっぱり似合ってないんじゃ……」

「大丈夫です。自信を持って下さい」


そんなことを言われても困る。

年配の人達がなんかひそひそ言ってる。

もしかして正体に気づかれたのでは。

もう不安で吐きそうになってきた。


「何かお食べになりますか?」

「いや……結構だ」

「そうですか。こんなに美味しいのに」


そんなボクと対照的に教育係はモグモグ。

広間に出された料理を食べる。

ボクは手持ち無沙汰で周囲を眺める。


すると、見知った顔がいた。


「教育係」

「はい、なんですか?」

「三つ編み眼鏡がいた」

「彼女の父君が国会の議長ですからね」


そういえば、そうだった。

三つ編み眼鏡の傍に佇む恰幅の良い男。

彼がボクの国の国会の議長なのだろう。


「教育係」

「はい、なんでしょう?」

「オレっ娘もいるぞ」

「彼女の父君は将軍ですから当然です」


そうだった。あいつの父親は将軍だ。

オレっ娘と同じ薄緑色の髪の男。

その傍にズボンを穿いたオレっ娘が居た。

つまらなそうに欠伸をしている。


「黒髪ロングの姿が見えないな」

「彼女の場合は少々特殊でして」

「あいつについての資料は少ないな」

「ええ。しかし、すぐに来られるかと」


黒髪ロングは探しても見つからない。

他の者と違って、彼女の資料は少ない。

良家の出身であることは確かだろう。


その時、ボクは鋭い視線を感じた。


「教育係」

「はい、如何しましたか?」

「あの、桃色髪の女の子……」

「ああ、隣国の姫君ですね」

「なんかすごい見てくるんだが」

「髪の色が似ているからでしょう」


隣国の姫君とやらの視線が痛い。

そう言えば、今のボクは薄桃色髪だ。

だからって、あんなに見られても。


堪らずボクは視線を逸らした。


「そろそろ陛下がお見えになります」

「そうか」

「噂をすれば、お出ましになられました」


そう言われて、広間の上座を見る。

丁度、父上が入ってくるところだった。

それに伴い辺りの喧騒が静まる。


「皆の者!よくぞ集まってくれた!」


父上の大声が広間に響く。

皆、国王の言葉に耳を傾ける。


「余の世継ぎも今年で13才となった!」


そう言われて、本日の趣旨に気づいた。

この舞踏会はボクの誕生祝いらしい。

きっと毎年開催されているのだろう。

当のボクはちっとも知らなかった。


「いずれ皆の者にも見せよう!!」


その言葉にあからさまに周囲が落胆する。

今年もボクが来ないと思ったようだ。

いや、来てるんだけどね?


「それでは存分に楽しんでくれっ!!」


父上はそう言って挨拶を締めくくった。

上座に置かれた椅子に深々と腰掛ける。

すぐに国王への挨拶をしに客が群がる。


「私達も並びましょうか」

「そうするか」


ボクらも大人しく列に並ぶ。

先ほどよりは視線を感じない。

皆、父上への挨拶で忙しそうだ。


「むっ!おおっ!そこの者!近う寄れ!」


しばらく並んでいると声が掛けられた。

父上が嬉しそうに手招きをする。

まだまだ他にも客がいるのに。

それらを無視してボクらを呼んだ。


「楽しんでおるか?」

「は、はいっ!とても新鮮です!」

「そうか。それは良かった」


たったそれだけ。それだけの短い会話。

それだけで、親密ぶりが周囲に伝わった。


いや、だって親子だからね?

そんなことは周りは知る由もない。

また客がひそひそ囁き始める。


誰かに似ているとしきりに言われる。

それで気づいた。

きっとボクが母上に似ているからだろう。


父上も似ていると言っていた。

だから父上と歳の近い者は驚いたのだ。


そう考えると、腑に落ちた。


「では、楽しく踊って来い」

「はいっ!失礼します!」


そう言われてボクは解放された。

そそくさ人混みから脱出する。


「陛下は殿下にメロメロですね」

「ボクはとても恥ずかしい」


ぐったりするボクを揶揄う教育係。

父上にも困ったものだ。

しかし、愛情を感じられて嬉かった。


その時、会場の楽団が演奏を開始した。


「いよいよ始まりましたね」

「ボクは上手く踊れるだろうか……」

「また太ももを触りましょうか?」

「それはもうやめろっ!」


衆人環視でそんなことをされたら大変だ。

ボクは警戒心を露わに距離を取る。

教育係はそんなボクに手を差し出す。


そして、恭しく一礼した。


「私と踊って下さいますか、レディ」


奴の口元に浮かぶ格好良い微笑。


断れる筈も……なかった。


「……ゆっくりだからな」

「くふっ。かしこまりました」


そうしてボクらは踊り始める。

教育係はリードするのが上手い。

ボクは奴に身体を預けてされるがまま。


右に左に引かれ、回される。


ボクらに周りの視線が集まる。


それをボクはこいつのせいにする。


教育係が素敵だから、みんな見るのだ。


そう思うと、なんだか気分が良かった。


まるで夢のようなひと時。


それは突然……終わりを迎えた。


「ん? どうしたんだ?」

「どうやら来たようですね」


周囲のざわめきに首を傾げるボク。

すると、教育係が何やら指指した。

その方向に視線を向けると……


「黒髪ロングじゃないか」

「ええ、ようやく来られたようです」


広間の入り口に佇む黒髪ロング。

今日は藍色のドレスを身に纏っている。

そんな彼女の表情は冴えない。


周囲の客達の雰囲気がおかしい。

何やら険悪なムードだった。

コソコソ陰口が聞こえる。


よくもおめおめと、だとか。

罪人どもめ、だとか。

奴らのせいで、だとか。


とにかく、すこぶる雰囲気が悪い。

ボクは眉を顰めて周囲を見据える。


そして、気になる人物を見つけた。

黒髪ロングの隣に立つ初老の男。

彼を何処かで見たことがある。

一体どこで見たのだろう?


思案に耽っていると、事件が起きた。


「この人殺しっ!!」


1人の客が罵声を浴びせた。

それに触発され、周りの客も口を開く。


「よく殿下の誕生パーティに来れたな!」

「貴様のせいで軟禁状態だぞっ!!」

「わかっているのかっ!?」


その罵声でなんとなく察する。

この人物があの事件の関係者だと。

それを理解して、動悸が激しくなる。


「大丈夫ですか、殿下?」

「……大丈夫じゃない」

「それでは会場の外に出ましょう」


ボクの異変に気づいた教育係。

会場から出ようと提案した。

それに従って、飛び出したくなる。

それでも、逃げる訳には、いかなかった。


「教育係」

「はい、なんでしょう?」

「黒髪ロングを……助けるぞ」


そう言うと、奴は目を見開いた。


そして口元に微笑みを浮かべて、頷く。


「かしこまりました」

「よし、行くぞ」


教育係の同意を得て、ボクは動く。

奴に手を引かれて進む。

すると、人混みをすいすい躱せた。


そして、すぐに辿り着いた。


「黒髪ロング」


ボクは躊躇なく、声をかける。

すると彼女はとても驚いた。


「で、殿下……!」


黒髪ロングの泣きそうな声。

人差し指を口に添えて、黙らせる。

一応、正体は秘密なのだ。

そしてそのまま、手を差し出した。


「ボクと踊ってくれないか?」


そう言うと、彼女の頬に涙が伝う。

それを拭って、ボクの手を取った。


「はいっ。よろこんで」


そうしてボクらは踊り始める。

周囲の視線を跳ね返すように。

彼女に教わったステップを踏む。


しばらくすると、客達の怒りは収まった。


「これでもう大丈夫だな」

「あ、ありがとうございます」

「気にするな。世話になっている礼だ」


踊り終えたボクらはそんな会話を交わす。

黒髪ロングには世話になっている。

彼女に散々無茶を言ったこともあった。

それを思えば、大したことではない。


黒髪ロングは悪夢なんかより大事だった。


「あ、あなた様は……!」


そんなボクに声が掛かる。

見ると、黒髪ロングの傍にいた老人だ。

いや、よくよく見ると、老人ではない。

目は落ち窪んで、肌つやも良くない。

しかし、年齢的にはそこまでいってない。

きっとボクの父上と同じくらいだろう。


そんな彼はボクを見て何やら驚いている。

彼の白髪交じりの青い髪。

それを見ると、ちくりと何かが疼く。


やはり、事件の関係者なのだろう。


それを前提に、ボクは口を開く。


「あなたが何をしたかは知らない」


青髪の男は蒼白な顔で唇を震わせている。


「だけど、彼女は大切だ」


黒髪ロングを見やってそう告げる。


「だから、助けた。それだけだ」


そう締めくくると、男は平伏した。


それを見届けた教育係が口を開く。


「ご立派でした、殿下」


褒められたのは……嬉しいけど。

なんだか、どっと疲れた。

今日はもう帰りたい。


それを察して、教育係がボクの手を取る。


「それでは、そろそろ帰りましょう」

「ああ、帰ろう」


一応、帰る前に黒髪ロングに声を掛ける。


「黒髪ロング」

「は、はいっ!な、なんでしょう?」

「また離宮で会おう」

「はいっ!お待ちしておりますっ!」


彼女は泣きながら深々と頭を下げた。

それを手で制して、ボクらは帰る。

青髪の男は平伏したままだった。


その間際、教育係はちらりと視線を送る。

その先には、父上がいた。

父上は、それに大きく頷いて応えた。


それにどんな意味があるかは知らない。

ただ、きっと、試されたのだろう。

それだけは、なんとなくわかった。


「ちょっと、妬けちゃいました」

「ん?」

「あんなに格好良く助けるなんて」


帰り道、車内でそんなことを言われた。

つんと口を尖らせる教育係。

奴が何を言っているのか意味不明だ。


「ああする他なかっただろう」

「ええ、それはそうですね」

「それに、お前だって、その……」

「なんですか?」

「普段から、格好良いから……」

「ほう?」


つい、本音が漏れてしまう。

ボクがあんな大それたことが出来た訳。

それはきっと、こいつの影響だろう。


「だから、ちょっとカッコつけてみた」


なんだか言ってて恥ずかしい。

もう憤死してしまいそうだ。


そんなボクの太ももを突然奴がつねる。


「ひぅっ!?」

「私の真似なんて100年早いです」


そう言う割に、今度は優しく撫でてくる。

行きも帰りも、ボクは奴に撫でられる。


だけど、そんなに……嫌じゃない。


そう思ってしまう自分が、悔しい。


「殿下」

「な、なんだ?」

「今日の殿下を見て、ドキドキしました」

「……それはボクの台詞だ」


ボクの教育係はたまに直接的で困る。

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