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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第1章 【軟禁生活と日常】
37/111

第36話 『久しぶりの父上』

「謁見の間で陛下がお待ちです」

「わ、わかった」


人目を避けるように中に入ったボクら。

教育係に手を引かれ、大階段を登る。


本日の舞踏会の会場は王宮だった。

大広間が開かれ、賑わっている。


ボクは普段、離宮に幽閉されている。

この大階段を登るのも久しぶりだった。


「焦らず、ゆっくりでよろしいですよ」

「ああ、ありがとう」


教育係が転ばぬよう、支えてくれる。

赤い絨毯の敷かれた大階段。

慣れないヒールで一段一段上る。


階下から聞こえる招待客の騒がしい声。

それとは対照的に静かな上階。

やがて、大きな扉の前に辿り着く。


「国王陛下に御目通り願います」


教育係が扉を守る衛兵にそう告げる。

怪訝な顔でボクらを見る衛兵。

そんな彼に奴は一枚の書状を翳す。

すると慌てたように扉が開かれた。


「大変長らくお待たせしました、陛下」


大理石が敷き詰められた謁見の間。

そこにボクらは揃って跪く。

一段高い位置に設置された黄金の玉座。

そこに腰を下ろす、1人の偉丈夫。

教育係の口上に、彼は玉座から答える。


「おおっ!待ちかねたぞ教育係っ!!」


まるでたてがみのような赤髪。

鍛え抜かれた巌のような身体。

赤く燃える双眼がこちらを射抜く。


何を隠そうこの人物こそが、父上だ。


「無事、御世継ぎをお連れしました」

「大義である!して、我が子はいずこに?」

「私のすぐ隣でございます」


教育係の言葉を受け赤眼がボクを向く。

久しぶりの父上に若干緊張してしまう。

そんなボクを見て、父上は目を見開いた。


「なんと!その者が我が子かっ!?」

「はい、どうぞよくご覧下さい」

「うむ。くるしゅうない、面を上げよ」


お許しが出たので、顔を上げる。

そして父上に挨拶を述べる。


「お、お久しぶりです……父上」

「こ、これは……!」


すると、父上は驚愕の表情を浮かべた。


やっぱり、この格好に驚いた様子。

ボクは失望されることを覚悟した。


しかし……父上は意外な反応を見せた。


「なんと!妻の生き写しではないか!」

「お気に召されたようで何よりです」

「よくやった!教育係!余は満足だ!」


あれっ?

なんかめちゃくちゃ感動してる!?

しかも、母上の生き写しだって?

父上ってば、どうしちゃったんだ?


困惑するボクをよそに盛り上がる2人。


「それにしても驚いたぞ、教育係!」

「殿下は普段から可愛らしいですよ」

「そうか!それも貴様のおかげだろう!」

「元々の素材がよろしいのです」

「嬉しいことを言ってくれる!」

「ありのままの感想を述べたまでです」

「そうかそうか!幸甚の至りである!」


とても嬉しそうな父上。

ボクが褒められて鼻高々な教育係。

そんな2人についていけないボク。


いや、そりゃあボクも嬉しいけどね?


「我が子よ、近う寄れ」

「は、はいっ!」


散々ボクを褒めちぎって満悦な父上。

呼ばれたので慌てて傍に寄る。

すると、改めてしげしげと観察された。

いかに父上と言えども少々恥ずかしい。


「ふむ……見れば見るほどそっくりだ」

「そ、そんなに母上と似ていますか?」

「ああ、妻の若かりし頃にな」


ボクは母上をおぼろげにしか覚えてない。

しかも、若かりし頃ではわかる筈もない。

父上がそう言うなら似ているのだろう。


「よく来たな、我が子よ」

「あ、ありがとうございます、父上」


父上が優しい目をして頭を撫でてきた。

その大きな手の平が心地いい。

されるがまま、しばらく撫でられた。

すると父上は申し訳なさそうな顔をする。


どうしたのかと思っていると謝られた。


「監禁するような真似をしてすまんな」


心底済まなそうにそう言う父上。

ボクの軟禁生活のことを謝っているのだ。

そんな父上に努めて明るく答える。


「いえ、ボクは恵まれていますので」


ボクには『必要な物』が揃っている。

そして、『必要な者』も揃っている。


それにちゃんとわかっている。


父上がボクを守ろうとしていることを。


だから、我儘なんて言えなかった。


「……教育係よ」

「はい。なんでしょう、陛下」

「しばらく見ぬ間に我が子は成長した」

「はい、目を見張るご成長です」

「これなら、会わせてもよかろう」

「仰せのままに」


父上が教育係を見やって何かを命じた。

会わせるとは、一体誰にだろうか?

そう言えば『試す』とか言っていた。

誰かに会わせてボクを試すようだ。


「それでは、我が子よ」

「はい」

「広間で会おう。下がるがよい」

「わかりました。待っています」


それだけ交わして謁見の間を後にした。


そして、大広間へとボクらは向かう。


「さて、いよいよですね、殿下」

「……き、緊張してきた」

「また太ももをお触りしましょうか?」

「父上の前でボクが叫んでもいいのか?」

「かまいません。見せつけましょう」

「人の親の前で何を見せつける気だ」


そんなやり取りを交わして気をほぐす。

実に阿呆らしいやり取りだ。

それでも、ボクの気持ちは楽になる。

教育係の冗談はまるで魔法みたいだ。


その時、尻に衝撃が走る。


「うひゃっ!?」

「失礼。お尻に埃が付いてましたので」


こいつは本気で尻を触る奴だった。

本当に油断も隙もない奴だ。

ボクはその手を払って忠告する。


「教育係」

「はい、なんでしょう?」

「今日は絶対に酒は飲むなよ」

「は、はあ。職務中ですので」


会場に入る前にこれだけは言っておく。

酒が入るとこいつは駄目になる。

頼みの綱にはしっかりして貰いたい。


「よし、それじゃあ行くか」

「はい。その前に、殿下」

「ん?」

「会場の誰よりも、殿下が可愛いですよ」


まだ入ってもないのにそう言われた。

こいつの自信はどこから来るのだろう。

とはいえ、言われっぱなしは癪である。


「教育係」

「はい、なんですか?」

「会場の誰よりも、お前は素敵だ」

「おや? それは気合いを入れませんと」


飄々としたようで教育係の顔は赤い。


きっと、ボクの顔も真っ赤だろう。


顔の赤い奴が顔の赤いボクに手を伸ばす。


「レディ、舞踏会の時間でございます」


ボクの教育係はその気にさせる名人だ。

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