第34話 『ダンスのレッスンと朗報』
「失礼致します」
「黒髪ロングか。どうしたんだ?」
「ダンスのレッスンを言付かっております」
突然やって来た黒髪ロング。
ダンスのレッスンをしに来たらしい。
いつもの和服姿ではなく、洋装だ。
白のブラウスに藍色のロングスカート。
そんな彼女に言付けたのは誰か。
恐らく、教育係の仕業だろう。
そんな教育係だが、今日は留守だ。
メイドと一緒に王宮へ向かった。
ボクのことを父上に報告するようだ。
その為、ボクは少々暇だった。
今も奴から貰った『宝物』を眺めていた。
メイドがお茶をこぼしたボクの雑誌。
冷凍庫に一晩入れたら少しマシになった。
教育係は本当に博識である。
そんな奴が……今日はいない。
「あの……殿下……?」
「ん? あ、ああ、ダンスのレッスンか」
「はい。如何しましょう?」
「どうせ暇だ。レッスンを受けよう」
「はいっ!頑張りましょう!」
黒髪ロングとダンスのレッスン。
一応、基本は知っている。
滞りなく、練習は進んだ。
しかし、問題があった。
「はあ……はあ……疲れた」
「だ、大丈夫でございますか?」
「す、少し、休憩しよう」
「わ、わかりました」
ボクはあまりに体力不足だった。
ちょっと動いただけですぐ息が上がる。
堪らず、その場にへたり込むボク。
それを見て黒髪ロングがこんな提案をした。
「も、もし、よろしければ……」
「どうした?」
「ひ、膝枕など、如何でしょうか?」
これは驚いた。
黒髪ロングが膝枕を提案してきた。
断る理由など、なかった。
「ああ、頼む」
「そ、それでは、こちらに」
言われるがまま、膝に頭を乗せる。
黒髪ロングの膝は極めて柔らかだ。
そしてそこから見上げる景色は新鮮だ。
「お前は、少し髪が青いのだな」
「は、はい。光に翳すとそう見えます」
黒髪ロングの毛先が少し青い。
彼女の黒髪は深い青髪だったようだ。
瞳も、ほんの少し青みがかっている。
だから、教育係より印象が薄いのか。
ボクはぼんやりとそう納得した。
奴の髪はもっと黒い。
漆黒と呼ぶに相応しい、真っ黒。
だから、奴の方が印象が強いのだろう。
そんな考察をしてると、尋ねられた。
「殿下は教育係様と仲がよろしいですね」
「そうか?」
「はい、とっても」
ボクと奴は仲が良いように見えるらしい。
そうか。そう見えるのか。
なんとなく、気恥ずかしい。
ふんっと鼻を鳴らすと、笑われた。
「こ、こら、笑うな」
「すみません。つい、可愛いらしくて」
注意してもコロコロ笑う黒髪ロング。
それに合わせて、黒髪がサラサラ。
今日の彼女はポニーテールだった。
「お前も可愛い」
「えっ?」
「ポニーテールが似合っている」
そう言ってやると顔が真っ赤になった。
先程の仕返しに笑ってやる。
すると、黒髪ロングがムキになった。
「殿下は意地悪でございますね」
「ああ、ボクは意地が悪いらしい」
「どなたに似たのでしょうね」
「もちろん教育係の悪影響だろう」
受け答えをしながら自分で納得する。
奴の意地悪にボクは影響されていると。
しかし、それはボクだけではないようだ。
「実は今……私は下着を穿いていません」
「はあ!?」
黒髪ロングの突然のノーパン宣言。
慌てて膝の上から身を起こすボク。
意地の悪い笑みを浮かべる黒髪ロング。
「もちろん、冗談でございます」
どうやらノーパンではないらしい。
清楚な彼女がこんな冗談を言うとは。
教育係の悪影響はかなり深刻だった。
「殿下はおませさんでございますね」
「お前は少し恥じらいを学べ」
「ですから、冗談と言ったでしょう?」
「……普段ノーパンの癖に」
「あ、あれは着物の時だけですっ!」
ボクの会心の一撃が決まった。
再び顔が真っ赤になる黒髪ロング。
そんな彼女にボクは追撃する。
「ちなみに、ボクもノーパンだ」
「冗談で、ございますよね?」
「さあ? どうだろうな」
動揺を隠せない黒髪ロング。
視線がボクの下半身へと向かう。
それを受け、ボクは片膝を立てる。
半ズボンの裾が際どく見えるように。
「……お行儀が悪いですよ」
「休憩中なんだ。気にするな」
「それならこちらにも考えがあります」
そう言って、彼女は立ち上がる。
そして、ロングスカートに手をかけた。
それをおもむろにたくし上げていく。
「お、おいっ!何をするつもりだ!?」
「殿下には、負けませんからっ!!」
そう言って、膝上までスカートを上げる。
柔らかそうな太ももに目を奪われる。
その状態で裾を結ぶ黒髪ロング。
即席ミニスカートが完成した。
「殿下」
「な、なんだ……?」
「また膝枕をして差し上げます」
「……お前、本気か?」
「ええ、早くこちらへ」
すっかり目の据わった黒髪ロング。
その場にぺたんと女の子座り。
ミニスカートがかなり際どい。
下着の有無に関わらず、魅力的だった。
ボクはふらふら引き寄せられる。
黒髪ロングは微笑を浮かべて手招き。
おいでおいでと、ボクを呼び寄せる。
そしてその膝に頭を乗せようとした。
その時。
「殿下!ただいま戻りました!!」
バーン!と部屋の扉が開かれる。
現れたのは燕尾服の教育係。
息が荒いところを見るに、走って来たのか。
そんな乱入者に黒髪ロングが悲鳴を上げた。
「きゃあああああああああっ!?!!」
「おや? なんですか、その格好は?」
「きゃあっ!きゃあっ!見ないでっ!」
「うるさい痴女ですね。この泥棒猫が!」
「ご、ごめんなさぁーいっ!!!!」
教育係に痴女呼ばわりされた黒髪ロング。
慌てて立ち上がり、スカートを直す。
そしてそのまま逃げ出した。
ボクは傍観者。
唖然として、黒髪ロングを見送った。
「まったく、少し目を離すとすぐこれです」
「だったらもう目を離すな」
「おや? 寂しかったですか?」
「うるさいっ!そんなこと聞くなっ!」
「殿下は寂しがりやですね」
帰って来た教育係に思わず飛びつくボク。
教育係は愛おしそうに背を撫でる。
ついでに尻も撫でられた。
だけど、今日だけは許してやる。
ボクはこいつが居なくて……寂しかった。
「殿下、朗報があります」
「……ん。なんだ?」
「舞踏会に出席出来る運びとなりました」
「そ、それは本当かっ!?」
その朗報とやらに仰天するボク。
『舞踏会』への出席。
そんな許可が下りるなんて信じられない。
「殿下の成長をお試しになるそうです」
「父上がそう言ったのか?」
「はい。お会い出来るのが楽しみだと」
そうか。父上がいらっしゃるのか。
なら、恥ずかしいところは見せられない。
久しぶりの父上。
恥をかかせる訳にはいかなかった。
「教育係」
「はい、なんでしょう?」
「ダンスの練習に付き合え」
「かしこまりました」
とにかく練習をしなければ。
そう思ったボクの申し出。
「そうそう、これをお渡ししておきます」
教育係は快諾して、何かを手渡してきた。
紙袋に入ったそれを覗き込むボク。
すると中には……真っ赤なドレスが。
「……教育係」
「はい、如何しましたか?」
「これをボクに着ろと?」
「はい、それが条件でございます」
ニッコリ笑顔で条件を突きつける教育係。
ボクを変装させて会場に潜り込ませる気だ。
なるほど。だから許可が下りたのか。
「……わかった。着よう」
「聞き分けが良くて、何よりです」
ボクは仕方なく、条件を受け入れた。
置いてけぼりは……御免だった。
「ひとつ聞きたい」
「なんですか?」
「これはお前の趣味じゃなかろうな?」
「私だけの趣味ではございません」
「は?」
「そのうちお分かりになるでしょう」
何やら意味深な教育係。
怪訝な顔のボクの手を取り、練習開始。
ボクは慌ててステップを踏む。
「も、もう少しゆっくり……」
「駄目でございます」
「随分スパルタだな」
「黒髪ロングと浮気していた罰です」
「浮気なんかしていない」
「殿下はガードが甘すぎです」
くるりとボクを回して抱き留める教育係。
漆黒の視線でボクを射抜く。
金縛りに遭ったように動けないボク。
奴は舌舐めずりをするとこう言った。
「私は独占欲が強い方なので」
ボクの教育係は独占欲が強いらしい。




