第32話 『二日酔い』
「おい。起きろ、三つ編み眼鏡」
「んん〜むにゃむにゃ……んん?」
三つ編み眼鏡の酒乱事件から一夜明け。
結局朝まで寝ていた彼女を起こす。
何度か肩を揺すると、目が覚めた。
「で、殿下っ!?」
「おはよう。体調は悪くないか?」
一応、肩には昨夜毛布をかけていた。
しかし、風邪を引いてないか心配だ。
それにあれだけ飲んだのだ。
二日酔いという面でも心配だった。
もっとも、その苦しみをボクは知らない。
「体調ですか?ええと、特に何も……」
「なんともないのか?」
「は、はいっ。ただ、少し記憶が……」
「まさか、覚えてないのか?」
「はい。な、何があったのですか?」
これは驚いた。二重の意味で。
あれほど飲んでもなんともないとは。
しかも、昨夜のことを覚えていない。
風邪を引いてないのは幸いだが……
ボクは苦言を呈さずにはいられない。
「あと僅かで貴様の子を産むところだった」
「へぶわっ!? わ、私の子……?」
「ああ、ものすごい豹変ぶりだった」
「はわわわわわわ……!」
「まだちょっと痛みが残っている」
まだチクチク胸が痛む。
三つ編み眼鏡につねられたところだ。
ボクの言葉を受けて、彼女は真っ青。
ふらふらと立ち上がり、平伏した。
「も、申し訳ありませんでしたぁ!!」
「いや、気にするな」
「でも、殿下の初めてを……!」
「初めて? まあ、いい経験になったよ」
「け、経験って、やっぱり!?」
「ああ、初体験だった」
初めて酒乱にからまれた。
お酒はとても怖い飲み物だと知った。
ボクはまた一つ賢くなった。
だから、罪は問わないと彼女に告げる。
「今度は痛くしないでくれると助かる」
「き、肝に銘じておきますぅ!!」
「ああ、優しくしてくれ」
「はいっ!次は必ず!!」
「痛いのは嫌いだが気持ちいいのは好きだ」
「ぶっふぉっ!?」
今度は優しく胸を触るように厳命する。
すると、何やら吹き出す三つ編み眼鏡。
やはり体調が悪いのだろうか?
「ボクのベッドで寝ていくか?」
「いえっ!今日はもうこれでっ!!」
「そうか……なら、また来い」
「はいっ!し、失礼しますぅ〜!!」
何やら最敬礼して駆け足で退室した。
それを呆気に取られて見送るボク。
三つ編み眼鏡の顔は何故か真っ赤だった。
昨夜の酒が残っていたのだろうか?
まあ、あれほど元気なら問題あるまい。
「さてと、次はお前だな」
「うぅ……頭が痛いです……!」
ボクのベッドで呻く、主犯者。
昨夜の事件の引き金となった教育係。
自分で酒を勧めておいて二日酔いとは。
ボクは呆れて、教育係に歩み寄る。
「大丈夫か?」
「は、はい……なんとか」
「何か飲むか?」
「つ、冷たいお水を……」
「わかった。待ってろ」
ボクは水さしからコップに水を注ぐ。
ついでにハンカチを濡らして冷やす。
「ほら、飲めるか?」
「は、はい。頂きます……」
教育係に水を手渡してやる。
奴はそれをくぴくぴ控えめに飲む。
額に濡らしたハンカチをそっと置く。
すると奴は気持ち良さげに目を細めた。
「あ、ありがとうございます、殿下」
「いや、昨夜は世話になったからな」
「はい?」
「覚えてないなら、気にするな」
どうやらこいつも記憶喪失のようだ。
まったく、酒というのは本当に恐ろしい。
ボクはハンカチを裏返してやる。
すると、その手をぎゅっと握られた。
「何をする」
「殿下の御手に触りたくて」
「ハンカチが取り替えられない」
「しばらく、このままで」
そのままぐいっと引っ張られる。
ボクはベッドに引きずり込まれた。
そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。
かすかなお酒の匂いで酔っ払いそうだ。
「体調はもう平気なのか?」
「はい。だいぶ楽になりました」
「そうか……それならいい」
ボクは安心して奴の胸に顔を埋める。
ここまで弱った教育係は初めて見た。
奴にも弱点があることをボクは知った。
「教育係」
「はい、どうしましたか?」
「昨晩は可愛いかったぞ」
「ふえっ!?」
「今日もとても可愛い」
「ふっふぉっ!?」
褒めてやると教育係は変な悲鳴をあげる。
それがおかしくて、くすくす笑う。
奴の意外な一面が知れて、嬉かった。
「ずっとそのままでいろ」
「うぅ……殿下は意地悪です」
ボクの教育係は弱ると、とても可愛い。




