第31話 『三つ編み眼鏡の素顔』
「教育係」
「はい、なんでしょう?」
その日、ボクは漫画を読んでいた。
教育係が教材として扱う如何わしい漫画。
その中に、興味深い設定を見つけた。
「三つ編み眼鏡は素顔が美人らしい」
「ありがちな設定でございますね」
「これもまた、摂理か?」
「はい。大自然の摂理でございます」
やはり、摂理だったか。
ボクは納得して思案に耽る。
三つ編み眼鏡の素顔が美人。
ボクの知る三つ編み眼鏡は美人だ。
亜麻色の髪を三つ編みに纏め。
垂れ目がちな目に、丸眼鏡。
そしてとても胸が大きい。
三つ編み眼鏡はそのままでも美人だ。
では、彼女が素顔を晒したらどうなるか?
ボクには想像もつかない。
少しばかり、興味があった。
「教育係」
「はい、如何しましたか?」
「三つ編み眼鏡を呼べ」
「かしこまりました」
こうして三つ編み眼鏡が召喚された。
「お、お呼びでしょうか、殿下」
「うむ。まあ、楽にしろ」
「は、はいっ!」
おどおどしながらやって来た三つ編み眼鏡。
部屋に入るなりキョロキョロしている。
何かに怯えている様子だ。
「どうかしたか?」
「い、いえ、なんでもありませぇん!」
尋ねても、堅く口を閉ざしている。
果たして彼女は何に怯えているのだろう?
不審に思っていると教育係が動いた。
「お探しの物はこちらですか?」
「ひ、ひぃっ!?」
奴が手にする搾乳機。
それを見て後ずさる三つ編み眼鏡。
どうやらトラウマになってしまったらしい。
「教育係」
「お待ちを。今搾り取ってみせます」
「やめろ。怖がらせるのはよせ」
虎視眈々と搾り取ろうとする教育係。
三つ編み眼鏡の胸を枯らそうとしている。
「私は彼女の肩の荷を降ろそうと……」
「勝手に降ろすな。勿体無い」
肩の荷を持たない教育係は僻んでいる。
せっかく天から授かった長所なのに。
巨乳は三つ編み眼鏡の優れた個性だ。
ボクは彼女の大きな胸を好ましいと思う。
「三つ編み眼鏡」
「は、はいっ!なんですか?」
「ボクがいる限り教育係に手は出させない」
「あ、ありがとうございますぅ」
そう言ってやると、ほっと安堵した様子。
それを見て、ボクは本題を切り出した。
「時に三つ編み眼鏡」
「なんですか?」
「ちょっと眼鏡を外してみてくれ」
「は、はあ」
素直に眼鏡を外す三つ編み眼鏡。
いや、今はただの三つ編みか。
三つ編みは垂れ目をボクに晒した。
目が良くないらしく、ごしごし擦っている。
「なんだか眠たそうだな」
「よ、よく言われます」
「だが、優しい良い目をしている」
「はひゅっ!?う、うれしいでひゅ……」
なんかとんでもない声が聞こえた。
なかなか面白いリアクションをする。
もっとこいつのことが知りたくなった。
「三つ編みを解いてくれ」
「はあ……これでよろしいですか?」
「かなり癖っ毛なんだな」
「も、申し訳ありません」
「いや、柔らかそうで良い髪だ」
「かひゅっ!?も、勿体無きお言葉です」
おお!
なかなか常人には真似できない声だ。
意外とこいつは面白い娘かも知れない。
ボクはさらに興味を抱いて尋ねる。
「お前は成人しているのか?」
「は、はい。まだ学生ですが……」
「そうだったのか。まだ学生か」
ボクの国の成人年齢は15歳。
年齢においては大人とみなされる。
とはいえ、その歳で自立出来る者は少ない。
だいたいは18歳くらいまで学校に通う。
だが、飛び級制度というものがある。
学力レベルに応じて卒業が早まる。
飛び級した生徒は若くして卒業する。
そして、若くして働き始める。
ボクの教育係もその1人なのだろう。
それは奴の優秀さの表れでもあった。
とはいえ、それは聞いた話だ。
ボクは当然、学校に通ったことがない。
知識としてそのような物だとしか知らない。
ボクはずっと閉じ込められたまま。
なんだか、気持ちが落ち込んできた。
「ど、どうかされましたか?」
そんなセンチなボクを気遣う声。
声の主は、三つ編みを解いた元眼鏡。
ボクは俯いていた顔を上げて答える。
「いや、なんでもない。気にするな」
「それなら、安心しました」
心底ほっとしたような微笑。
元三つ編み眼鏡はとても優しい。
たまにしか優しくない教育係とは大違いだ。
あ、怖い顔された。
めちゃくちゃ睨んでる。
ボクは場を和ませようと口を開く。
「そうだ。もし良ければ夕食を食べていけ」
「よ、よろしいのですか?」
「ああ。遠慮はしなくていい」
「あ、有難き幸せっ!!」
大袈裟に深々と頭を下げる元三つ編み眼鏡。
それを手で制して、席に座らせる。
そこにメイドが食事を運んできた。
「わあっ!美味しそうっ!!」
キラキラと目を輝かせる元三つ編み眼鏡。
目が悪くとも鼻で食べ物がわかるらしい。
ぱくぱく、もぐもぐ。
実に良い食いっぷりだ。
ボクはこいつの食いっぷりが好きだ。
なにせ嚥下するたびに胸が揺れる。
ぱくぱく、ぽよんぽよん。
もぐもぐ、たゆんたゆん。
食事を忘れて思わず見入ってしまう。
それを教育係が見咎めた。
「殿下、箸が止まっています」
「気にするな。放って置いてくれ」
奴の諫言など耳を貸さずボクはニコニコ。
そんなボクに教育係は何故かイライラ。
そして奴は、行動に出た。
「貴女はお酒が飲めますか?」
「へっ? わ、私ですか?」
突然の問いに困惑する元三つ編み眼鏡。
ボクも教育係の意図がわからず困惑する。
未成年のボクを置き去りに会話が進む。
「成人なされているのでしょう?」
「で、でも、まだ学生で……」
「ここは学校ではありません」
「そ、そうですね……はい」
「私の晩酌に付き合いなさい」
「は、はい……わかりました」
すぐにメイドがワインを持ってくる。
こうして、2人は酒を飲む。
未成年のボクはジュースを飲む。
「ふあっ!これ美味しいですぅ!」
「飲みやすいでしょう?」
「はいっ!とっても!」
「ほら、どんどんお飲みなさい」
「はいっ!頂きますぅ!」
カパカパ2人でボトルを開ける。
チビチビボクはジュースを飲む。
しばらくして、異変が現れた。
「殿下ぁ!殿下ぁ〜!!」
「ど、どうした、元三つ編み眼鏡?」
「ろうして私の胸ばっか見てんれすかぁ?」
ろれつが回らない元三つ編み眼鏡。
肩に肘を置かれて顔を近づけられる。
吐息がお酒臭くてボクまで酔いそうだ。
「だ、だって、大きいから……」
「殿下はぁ、大きいのが好きれすか?」
「き、嫌いではない、です」
「触りたいれすかぁ?」
「触りたくないと言えば、嘘になり、ます」
うりうりボクの頬を突く元三つ編み眼鏡。
さっきからこの手の質問ばかりだ。
だが、ボクを助けてくれる者は居ない。
頼みの綱の教育係はと言えば……
「れんかはわらひのものれふぅ……くぅ」
何やら訳のわからない寝言をほざいている。
自分で酒を勧めた癖に先に酔い潰れるとは。
思えば奴が酒を飲む姿を見たことがない。
きっとみくびっていたのだろう。
元三つ編み眼鏡は、底なしだった。
ウワバミであり、ザルだった。
このバージョンを、酒乱娘と名付けよう。
「殿下ぁ!」
「な、なんだ?」
「えへへっ。殿下は可愛いれすねぇ!」
びくつくボクの頭を撫でる酒乱娘。
酔っ払いながらも、その手つきは優しい。
そして、信じられないくらい、いやらしい。
「ど、どこを触っているんだ!?」
「きゃははっ!当たっちゃったれすか?」
突然ボクの胸元を突いた酒乱娘。
それが丁度、どんぴしゃだった。
電流が流れたようにびくりと身が竦む。
「よちよち、怖くないれちゅよ〜」
「こらっ!やめっ!んっ!あんっ!」
「殿下も早く成長するといいれちゅね〜」
執拗に胸を責める酒乱娘。
突いたり、摘んだり、ひねったり。
その度に電流が流れてバカになりそうだ。
「も、もう、やめろっ!!」
「ごめんごめん。怒んないでぇ〜!」
「いいから離れろっ!!」
「大丈夫。怖くなーい、怖くなーい」
「うぷっ!?」
離れろと言ったのに、逆に抱きしめられる。
酒乱娘の豊満な胸で息が出来ない。
柔らかくて、大きくて、苦しい。
「ほら殿下の大好きなお胸でちゅよ〜」
「うっぷ。もがっ。ふがっ」
「あっ。こらっ。殿下ぁ……んっ!」
必死に酸素を求めてもがく。
すると酒乱娘はくすぐったそうに身を捩る。
「きゃははっ!くすぐったいよ殿下ぁ!」
「ぷはっ!」
ようやく拘束が解かれ、新鮮な空気を吸う。
「はあ……はあ……死ぬかと思った」
息も絶え絶えそう呟いた、その直後。
「殿下は死なせませんっ!!」
突然誰かに抱き抱えられた。
そのままベッドに運ばれる。
誰だか知らないが助かった。
「もうおねむれちゅか……?ふあ〜あ」
それを見て酒乱娘が大あくび。
そのままテーブルの上に突っ伏す。
すぐにスースー寝息を立て始めた。
どうやら嵐は去ったようだ。
そう言えば、ボクは助けて貰ったんだった。
とにかく、お礼を言わねば。
「助けてくれてありがとう」
「殿下は……死なせません……」
「もう大丈夫だ。ありがとう、教育係」
ボクと一緒にベッドに寝転がる教育係。
奴は意識がない状態でも助けてくれた。
うわ言のように、死なせないと呟く。
そんな奴を見ていると、鼓動が早くなる。
お礼の意味も込めて、ボクはそっと囁いた。
「……教育係」
「んん……れんかぁ……」
「ボクはやっぱりちっぱいが好きだ」
「れんかはおりこうさんれすぅ……くぅ」
ボクの教育係は酔うと、とても可愛い。




