第2話 『三つ編み眼鏡』 その2
「お、お初にお目にかかります、殿下」
「苦しゅうない、面を上げよ」
「は、はい」
三つ編み眼鏡が呼び出された。
ボクが指名をすればすぐに召喚される。
いつでもどこでも妃候補が駆けつける。
そんな仕組みになっていた。
「近う寄れ」
「あ、ありがたき幸せ……」
手招きをすると、しずしず近くに寄る。
おっかなびっくり、ゆっくりと。
びくびくと三つ編みを震わせながら。
……おかしい。
話が違うではないか。
「おい、教育係」
「なんでしょう?」
「話が違うぞ」
「なんのことでしょう?」
「こいつはパンを咥えていない」
さっき見た漫画ではパンを咥えていた。
それに相違点は他にもある。
「それにぶつかって来ないぞ」
近くに来いと言ったのにぶつからない。
これでは自然の摂理に反している。
しかし、教育係はあくまで冷静だ。
「彼女は遅刻をしていませんから」
なるほど。
確かに、一理ある。
三つ編み眼鏡は呼んだら即座に現れた。
だからお約束が発生しなかったのか。
ボクは納得して、仕切り直す。
「おい、お前」
「は、はい」
「もう一度呼ぶからゆっくり来い」
「……えっ?」
「わからん奴だな、遅刻して来い」
「えっ?えっ?」
これは困った。
ボクの命令が伝わらない。
途方に暮れていると教育係が口を開く。
「殿下、私に提案が」
「聞こう」
「その場で転んで貰えばよろしいかと」
「それに何の意味がある?」
「パンツが見えます」
素晴らしい。
その手があった。
早速実行に移すとしよう。
「転べ」
「……へっ?」
「そこで転べと言っている」
「そ、そんなご無体な……」
「出来ないのか?」
「うぅ……わ、わかりました」
三つ編み眼鏡は少し渋ったが、転んだ。
床にぺたりと尻餅をつく。
しかし、思い通りには、いかなかった。
「教育係」
「はい」
「三つ編み眼鏡はズボンを穿いている」
「左様でございますね」
「これではパンツが見えん」
「それもまた、自然の摂理かと」
ふむ。
ならば、致し方あるまい。
ボクは納得して、諦めることにした。
「もうよい。下がれ」
「あぅ……ご期待に沿えず、申し訳ありません。し、失礼しますぅ」
三つ編み眼鏡は涙目で立ち上がる。
すっかり冷めた目をそれを見てると……
「殿下!手を貸しておやりなさいっ!」
教育係に、怒られた。