第26話 『オレっ娘、襲来』
シリアスから一転、コメディ全開です!
「よっ!また会ったなっ!!」
「お前が勝手に来たのだろう」
呼んでもないのにオレっ娘が現れた。
勝手にやって来たのはこいつが初めてだ。
軽く驚きつつ、突っ込みを入れる。
すると、来訪者は嬉しそうに微笑んだ。
「今日はこの前の仕返しに来たぜっ!」
怪しく八重歯を光らせ仕返し宣言。
大変物騒だが、害意は身受けられない。
ボクは首を傾げて尋ねる。
「仕返しとはなんのことだ?」
「スパッツのことっ!!」
言われて思い出す。
そう言えばそんなこともあった。
しかし、仕返しされる覚えはない。
「ボクはただの傍観者だ」
「見たんだから同罪だっつーの!」
なんてことだ。
下手人たる教育係と同罪にされてしまった。
恨みを込めた視線を下手人に向ける。
すると奴は口笛を吹いて誤魔化した。
「今日のオレは一味違うぜい!」
オレっ娘は何やら自信満々だ。
何をするつもりかは知らんが身構える。
「何をするつもりだ?」
「とにかくこれを見ろ!!」
そう言って、くるりと後ろを向く。
彼女の尻には今日もパンツラインがない。
「また懲りずにスパッツを穿いてるのか?」
「ちげーよ!今日は穿いてない!!」
スパッツを穿いてない……だと?
衝撃を受け、もう一度尻をよく見る。
しかし、やはりパンツラインがない。
おかしい。
これは一体どういうことだ?
困惑して、教育係に視線を向ける。
「ふむ……なるほど。なかなかやりますね」
奴は何やら得心がいった様子だ。
ボクは堪らずオレっ娘に問う。
「なぜパンツラインがないんだ?」
すると、彼女は八重歯を光らせ、答えた。
「オレは今日穿いてないからだ!!」
「は?」
オレっ娘の言ってる意味がわからない。
先程、スパッツを穿いてないと証言した。
それを再び口にしたわけではないだろう。
つまり、穿いてないとは、そのままの意味。
ボクは全てを察して、口を開く。
「お前……今日、ノーパンなのか?」
「ぴんぽんぴんぽん大正解だぜっ!!」
大正解だった。
馬鹿なのか、こいつは?
「早くスパッツを穿いてこい」
「嫌だね!また脱がされたくねーし!」
ボクの正論も効果がない。
これほど馬鹿者だとは思わなかった。
頭を抱えていると教育係が動いた。
「実は……私も下着を穿いていません」
室内に静寂が訪れる。
ボクも、オレっ娘も、固まっていた。
そんなボクらに不敵な笑みを向ける教育係。
そして、さらなる爆弾発言を投下した。
「しかも、チャック全開です」
な、なんだってーっ!?
ボクの視線が奴の股間に向かう。
オレっ娘も身を乗り出して凝視する。
確かに……奴のチャックは全開だった。
何も見えなかったけど。
「ち、ちくしょー!負けたぜ!!」
「くふっ。私に勝つなど100年早いです」
悔しそうなオレっ娘。
得意げな教育係。
完全に蚊帳の外なボク。
なんか2人に負けている気がする。
このままではいけない。
ボクは行動に出る決意を固めた。
「じ、実はボクもノーパンなんだ」
「嘘ですね」
「ああ、嘘だな」
即座に嘘を見抜かれた。
くそっ!何故だっ!?
途轍もなく悔しい!!
このまま、終われるかっ!!
「……チャ、チャックを開けてやる」
「ほう?」
「マジでっ!?見たい見たい!!」
……なんでそんなに興味津々なんだ?
冗談に決まってるだろう!
何なんだこいつらは!?
ボクはとりあえず、話を逸らすことにした。
「そ、それはそうと、オレっ娘」
「あん? どーかしたか?」
「ス、スパッツのことなんだが……」
「はあ? スパッツがどーかしたのか?」
「もう穿かないのなら……くれないか?」
なんかおかしなことを口走ってしまった。
あれ?本当におかしい。
これではまるで変態のようだ。
誰が?……ボクが?
いやいやいや、勘弁してくれ頼むからぁ!
「……ほ、欲しいのかよ?」
「……えっ?」
ん?
んん?
なんだこの展開は。
信じられない。
天は我に味方したっ!!
「ああ。貰えるならくれ」
「わ、わかった。その代わり、条件がある」
条件……だと?
スパッツの提供に条件を付けるだと?
そんなの前代未聞だ。
これはよくない流れだ。
ボクの危機感知センサーが反応している。
何やら雲行きが怪しくなってきた。
天運もここまでか……と、思いきや。
「殿下が、穿いてくれるなら……あげる」
「は?」
びっくりした。
意味がわからなすぎて。
ボクは必死に頭脳を回転させる。
オレっ娘はボクに穿けと言った。
それは何のことだ?
言わずもがな、スパッツだろう。
ボクがオレっ娘のスパッツを穿く。
すると、どうなる?
……妊娠してしまうかも知れない。
誰が妊娠するかって?
それはもちろんボクだ。
何せオレっ娘のスパッツを穿くのだ。
それは彼女の素肌に直に触れるに等しい。
完全に、完璧に、間違いなく……妊娠する。
ボクは想像する。
オレっ娘の子供を妊娠した自分の姿を。
お腹がパンパンのボク。
そのボクのお腹をオレっ娘が撫でる。
ボクは幸せそうにスパッツを穿いている。
……これはこれで、ありかも知れない。
そこまで考えを巡らせた、その時。
「殿下、どうされましたか?」
教育係の声で現実世界へと帰還する。
ボクは思わず奴の胸に飛び込んだ。
「ど、どうしよう教育係っ!?」
「何をそんなに怯えているのですか?」
「スパッツを穿いたら妊娠するっ!!」
室内に再び静寂が訪れる。
流石の教育係もショックだったのだろう。
ボクを抱き留めながら固まっていた。
そんな奴がボクを胸元から引き離す。
「殿下、よく聞いて下さい」
「な、なんだ?」
「スパッツを穿いても妊娠しません」
「……それは本当か?」
「ええ、本当です。ご心配なさらずに」
なんだ……そうか。
うむ。それなら、結構。
目尻に浮かんだ涙をごしごし拭く。
ボクは冷静さを取り戻した。
「オレっ娘」
「は、はいっ!?」
ボクが向き直るとオレっ娘は緊張した様子。
まだ何も言っていないのに素が出ている。
そんなオレっ娘に厳粛に告げる。
「スパッツをもらい受けよう」
「は、はいっ!有難き幸せっ!!」
恐れ慄いたオレっ娘が深々と頭を下げる。
それをボクは手で制す。
そして後日持ってくるよう約束を交わした。
「そ、それでは失礼しますっ!!」
「ああ、待ってるからな」
怯えたように腰が引けたオレっ娘。
彼女が帰った後、室内が急に静かになる。
「……殿下」
教育係の普段よりも数段低い声が響く。
室温が一気に下がったように感じた。
「ど、どうかしたのか?」
ボクは恐る恐る尋ねる。
すると奴は烈火のごとく怒り狂った。
「ご自分の愚かさ加減を反省なさいっ!!」
「な、何をそんなに怒ってるんだ?」
「スパッツで妊娠する訳ないでしょう!?」
その後、小一時間近く説教された。
項垂れつつ、正座して反省するボク。
奴はこんな言葉で説教を締めくくった。
「殿下を妊娠させるのはこの私ですからっ!」
ボクの教育係は怒るとすごく怖い。




