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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第1章 【軟禁生活と日常】
25/111

第24話 『鯉の鼻と恋愛観』

「コイバナをしましょう」


就寝前に教育係がおかしなことをほざく。

コイバナってなんだ?

鯉の鼻のことだろうか。


「鯉に鼻なんてあるのか?」

「鯉にも鼻孔があり、匂いを感じ取れます」


それは初めて知った。勉強になる。

初めて教育係らしい仕事をしたな。


「そうか。それじゃあ、おやすみ」

「お待ち下さい、殿下」

「なんだ? コイバナは終わったぞ?」

「まだ始まってもいません」


始まる前に終わらせたかった。

しかし、終わらせてくれそうにない。

ボクは諦めて右隣の教育係に向き直る。


「コイバナとはなんだ?」

「恋のお話でございます」

「それはさっき済んだ」

「魚の鯉ではなく、恋愛の方です」


つまり、教育係は恋愛の話がしたいのか。

とはいえ、話すことなど見当たらない。


「何を話せばいい?」

「殿下の恋愛観についてお聞かせ下さい」


そんなこと言われても困る。

恋愛などしたこともないのだから。

ボクは仕方なくこう答える。


「ボクにとっての恋愛とは義務だ」

「義務、ですか?」

「ああ。世継ぎを確保する為のな」


たった1人の王位継承者の義務。

世継ぎを残し、王家を存続させる。

それが、ボクに課せられた使命である。


「ならば、誰でもよろしいと?」

「……そうは思いたくない」


はっきり言われると、へこむ。

ボクはそれを受け入れたくなかった。


「ならば、私の恋愛観をお話しましょう」

「聞こうじゃないか」


教育係の恋愛観。

なんとなく、興味があった。


「恋愛とは互いが互いを求め合うことです」

「求め合う?」

「はい。互いに必要とする関係です」

「それは所有欲のようなものか?」

「似て非なるものです」


ボクにはよくわからない。

だけど、わかることもある。


例えば現在。

ボクは教育係のパジャマを着ていない。

衛生上の理由から洗濯したのだ。

今は自分のパジャマを着ている。


洗濯をすれば当然、匂いはなくなる。

ボクらはパジャマに匂いを付け直す。

そして、また明日交換する。


そうやって、やり取りする。

互いの必要性を。


それと、似て非なるものだろう。


「それは……喪うのが、怖いな」


ポツリと呟く。

すると、教育係は手を握ってきた。


「恋愛とは怖いものです」

「ボクは怖い目に遭いたくない」

「だから恋愛を義務だと?」

「……そうかもしれない」


ボクは無意識に自己防衛していた。

教育係に指摘されて初めて気づく。

そして思い出したくない過去が蘇る。


「殿下は臆病ですね」

「ああ……ボクは、臆病者だ」


前にも似たような恐怖を覚えたことがある。


物心つく前の、幼少時の記憶。


今は忘れた、過去の記憶。


今日は教育係のパジャマを着ていない。


だからだろう。


ボクはその晩、悪夢を見ることになる。

次回前半までシリアスです。

物語進行にご協力下さい。

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