第20話 『両手に湯たんぽ』
「すっかり寝てしまい申し訳ありません」
銀髪メイドが覚醒した。
丁度、寝る準備をしていたところだ。
教育係のパジャマを着ながら応答する。
「いや、気にするな。体調はどうだ?」
「もう平気です。御気遣い感謝致します」
「それなら良かった」
体調を気遣うと平気とのことだ。
ボクは安堵して、胸を撫で下ろす。
すると、メイドはキョトンとした。
まじまじとこちらを見つめてくる。
一体どうしたのだろう?
「あ、あの、殿下……」
「どうした?」
「その御髪は……?」
言われて気づく。
教育係に前髪を上げられたままだった。
ボクは照れながら誤魔化した。
「ああ、ちょっと気分転換にな」
「気分転換でございますか?」
「ああ、似合わんか?」
「め、滅相もありません!似合ってます!」
「そうか……お前も変わっているな」
全面肯定してくれたメイド。
ベッドメイキングしてる教育係も得意げだ。
変わり者は奴だけではないらしい。
半ば呆れながらも微笑む。
すると、メイドの顔が真っ赤になった。
どうやらまだ体調が万全ではないらしい。
ふむ。
少しばかり心配だな。
「どうせ寝る時間だ。ここで寝ろ」
「はい?」
「ボクのベッドで寝ろと言っている」
「……マジですか?」
ボクの提案にメイドの素が出た。
咎めるのも気が引けたので乗っておく。
「ああ、マジだ」
「あ、有難き幸せ!!」
メイドは平伏して頭を下げる。
そんな彼女に思わず苦笑いしてしまう。
「大袈裟だな」
「と、当然でございます!」
「まあ、そう固くなるな」
「ず、随分手慣れてらっしゃいますね」
「最近は教育係と毎日寝てるからな」
「ま、毎日っ!?」
仰天するメイドに教育係は鼻高々。
偉そうに腕を組み、えへんと胸を張る。
ピチピチのボクのパジャマが破れそうだ。
「そう言えば、着るものはあるか?」
「あ、言われてみれば……どうしましょう?」
流石にメイド服で寝せる訳にはいかない。
ボクは考えて、名案を思いついた。
「このワンピースを着るといい」
「こ、これは先程殿下が……?」
「そうだ。ボクが着ていた物だ」
ひらひらのワンピースを差し出す。
何故かメイドは生唾をごくんと飲んだ。
「よ、よろしいのですか?」
「ああ。不服か?」
「と、とんでもごさいません!!」
慌ててメイドはワンピースを受け取る。
そしてそれを広げて何やら迷っている。
何か不都合でもあるのだろうか?
「どうかしたのか?」
「あの……着替えたいのですが……」
「何か問題でもあるのか?」
赤い顔でこちらを見つめるメイド。
首を傾げていると教育係が動いた。
「殿下、失礼致します」
「うわっ!何をする!!」
「ほら、今のうちに着替えなさい」
「わ、わかりました!」
教育係に背後から目を塞がれた。
室内に衣擦れの音が響く。
どうやってもボクは教育係に邪魔される。
「サイズは平気でしたか?」
「ちょっと小さいですが、平気です」
「それは良かった」
着替えが完了してしまったらしい。
ボクが教育係の手で目を塞がれている間に。
失望しつつ、ひんやりとしたその手を叩く。
「おい、いい加減手を離せ」
「はい、見てもよろしいですよ」
視界を取り戻したボクの目にメイドが映る。
ひらひらとしたワンピースが似合っていた。
まるで初めからこの為に作られたように。
「い、如何でしょうか?」
「とても良く似合っている」
「マジですか?」
「マジだ」
頬を赤らめるメイドの素に乗ってやる。
すると銀髪メイドは嬉しそうに微笑んだ。
そしてくんくん袖口を嗅ぐ。
「……殿下の匂いがします」
「お前も匂いを嗅ぐのか……」
そんなに気になるだろうか?
パジャマからは教育係の匂いしかしない。
元は奴の物だから当然だった。
「ベッドのご用意が出来ましたよ」
教育係に促されてベッドに寝転がる。
ボクの右に教育係。左に銀髪メイド。
これだけ湯たんぽがあれば極寒でも平気だ。
「まったく、殿下は女ったらしですね」
「人聞きの悪いことを言うな」
「メイドと同衾なんて悪い子です」
ネチネチ教育係にいびられる。
堪らず余計なことを口走ってしまう。
「ボクはただ、湯たんぽをだな……」
「湯たんぽ……ですか?」
「いや、何でもない。気にするな」
メイドに首を傾げられ、反論を断念した。
恐らく、言ってもわかって貰えまい。
失望されるのがオチだろう。
だから黙って目を閉じることにする。
「すぅ……すぅ……」
しばらくするとメイドが寝息を立て始めた。
教育係も寝ただろうか?
気になって右隣を見ると……目が合った。
「殿下は悪い子です」
初めて見る、じとっとした半眼。
何を責められているかわからず困惑する。
そんなボクの手を、教育係が握って来た。
「毎日メイドと同衾するおつもりですか?」
「……えっ? いや、今日はたまたまだ」
「それならよろしい」
呆気に取られるボク。
何故だか、繋いだ手が異様に熱い。
そんなボクを放置して教育係は目を閉じる。
繋いだ手を離さずに。
ボクの指に絡まる教育係の細い指。
その日、ボクはなかなか寝れなかった。




