第18話 『おねだり作戦』
「おやつをお持ちしました」
「ああ、頂く」
銀髪メイドがおやつを持ってきた。
トレイに乗せられたクッキー。
バターの香りが食欲を誘う。
「お茶もお持ちしますね」
「ああ、頼む」
「アイスティーでよろしいですか?」
「うむ。それを貰おう」
「かしこまりました」
パタパタ忙しなく、ボクの世話をする。
どこかの教育係とは違い、従順だ。
しかし、銀髪メイドは……ドジだった。
「うっひゃあっ!?」
「ああっ!?申し訳ありません!!」
「だ、大丈夫だ。気にするな」
持ってきたアイスティーをぶちまける。
頭から冷たいアイスティーを被るボク。
思わずおかしな悲鳴を上げてしまった。
さりげなく、背後の教育係を伺う。
「ぷっ……くくくっ……」
奴は顔を背け、肩を揺らして笑っていた。
「か、風邪を引かれる前に着替えを!」
「ああ、そうする」
銀髪メイドが慌てて着替えを勧める。
ボクは頷いて、着替えようと思った。
それに先んじて、教育係が動く。
「それではこちらにお着替え下さい」
奴が差し出すボクの着替え。
それは何故かひらひらしたワンピース。
なんのつもりだろうか?
「殿下、早くお着替えを」
「教育係、どういうつもりだ?」
「きっとお似合いになるでしょう」
似合う似合わないの問題ではない。
ボクはそういった物を着たくない。
だって、恥ずかしいから。
「貴女も見てみたいと思いませんか?」
「わ、私ですか?」
「ええ。殿下の知られざる一面です」
冷や汗を流すボクをよそに話が進む。
教育係が銀髪メイドを唆していた。
頬を染めた銀髪メイドに見つめられる。
彼女はごくりと喉を鳴らして、頷いた。
「い、嫌だっ!ボクは着ないぞ!!」
「抵抗は無意味です。貴女も手伝って」
「す、すみません、殿下」
結局2人がかりでワンピースを着せられた。
「とってもお似合いですよ、殿下」
「なんて可愛らしい……鼻血が……」
「……ボクは着せ替え人形じゃない」
にっこり微笑む教育係。
何故か鼻血を出す銀髪メイド。
涙目で抗議する可哀想なボク。
ひらひらした裾をぎゅっと掴んで睨む。
「か、可愛すぎますぅ……!」
すると、銀髪メイドが卒倒した。
よくわからないが、なんか倒した。
とりあえず、まずはこれで1人。
しかし、まだ強敵が残っている。
「くふふっ。なかなかやりますね」
不敵な笑みを浮かべる教育係。
だが、その頬には朱が差している。
それを、ボクは勝機ありと見た。
「教育係」
「なんですか?」
「抱っこ」
「ぐはっ!?」
試しに甘えてみると、教育係は呻いた。
どうやらこの手の攻撃は有効らしい。
調子に乗って、畳み掛ける。
「ボクの命令が聞けないの?」
「は、はい。抱っこですね、わかりました」
ひょいと膝に乗せられる。
ボクは教育係を背もたれにする。
すると教育係が幸せそうなため息を漏らす。
「教育係」
「な、なんですか?」
「クッキーが食べたい」
「はいはい。召し上がれ」
教育係は素直にクッキーを差し出す。
ボクはそれを受け取らず、命令する。
「食べさせて」
「……えっ?」
「教育係が、食べさせて」
「よ、よ、喜んでっ!!」
教育係は嬉しそうにクッキーを摘む。
そしてそれをボクの口に持ってくる。
それをボクは、ぱくっと食べた。
教育係の指ごと。
「ふあっ!?」
「どうしたの?」
「わ、私の指が、殿下のお口に……」
「もう1枚食べたい」
「は、はい。どうぞ……」
「はむっ!」
「ふぐぅっ!?」
また教育係の指を噛む。
奴はびくりと身を震わせて悶える。
どうだ、ひと泡ふかせてやったぞ。
胸がすく思いだった。
クッキーを食べるたびに指を噛む。
5枚目あたりで教育係が口を開いた。
「殿下……そろそろ、お許しを」
「でもクッキーまだまだあるよ?」
「これ以上続けるなら考えがあります」
背筋に悪寒が走る。
やばい。やばいやばいやばい。
どうやらボクは、やり過ぎたらしい。
「はむっ!」
「ひゃんっ!?」
教育係がボクの耳を噛んできた。
片手でボクのお腹をしっかり抱えて。
そしてもう片手がひらひらの裾に向かう。
「ま、待てっ!話し合おう!!」
「殿下がその気にさせたんですよ?」
「そ、そんなつもりはなかった!」
「大丈夫です。楽にしてください」
「あっ!こらっ!やめっ!ひぅっ!」
教育係に弄られること数分。
ボクは意識を手放した。
そんな中、床に倒れる銀髪メイド。
「むにゃむにゃ……可愛いです、殿下」
安らかな寝顔のメイドは知らない。
あまりに過激なボクの『教育』のことを。




