第17話 『オレっ娘、参上』
「お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
教育係が淹れてくれた紅茶。
今日もミルクとはちみつがたっぷり。
それを飲みながら、ボクは読書する。
表紙には如何わしいイラスト。
今日もボクは漫画を読まされていた。
「教育係」
「はい、なんでしょう?」
「貴様には兄弟がいるか?」
「いえ、私は一人っ子ですので」
「そうか」
漫画の中で描かれる兄弟の関係。
それがボクにはよくわからない。
教育係にもわからないらしい。
ひとまず読み進めてみる。
そしてその後の展開に驚いた。
「教育係」
「はい。如何しましたか?」
「弟だと思っていたキャラが妹だった」
「ありがちな展開ですね」
「そうなのか?」
「それもまた、自然の摂理です」
また摂理に新たな法則が追加された。
しかし、自然の摂理なら仕方ない。
それにしても驚いた。
弟だと思っていたキャラは髪が短く、喋り口調も男のようで、完全に騙された。
そんなボクに教育係は説明する。
「一般的に『男装女子』と呼ばれます」
「男装女子?」
「はい。男の格好をした女の子です」
なんだそれは意味がわからん。
困惑するボクを見かねて教育係が提案する。
「殿下のお妃候補にも該当者がいます」
「そうなのか?」
「お呼びしますか?」
ふむ。
百聞は一見に如かずと言うしな。
とりあえず、会ってみるか。
「呼んでくれ」
「かしこまりました」
そして『男装女子』が召喚された。
「よっ!来てやったぜ!!」
……なんか違う。
これはただの無礼者じゃないか?
そう訝しんで教育係に視線を送る。
「あれはあれで有りかと」
有りなのか。そういうものなのか。
気を取り直して、男装女子に向き合う。
まず最初にこれは聞いておかねば。
「お前は本当に女なのか?」
「そーだぜ!オレは女だぜい!」
ちょっと待ってくれ。
今、『オレ』とか聞こえたぞ?
ボクは教育係に視線で問いただす。
「所謂、『オレっ娘』でございます」
「カフェオレみたいなものか?」
「いえ、全く関係ありません」
「そうか」
なんにせよ、問題はないらしい。
ボクは世俗に疎い。
きっと、これが普通なのだ。
ボクは『オレっ娘』を受け入れた。
「ひとつ聞きたい」
「なになに?」
「どうして一人称が『オレ』なんだ?」
「え、だって可愛くね?」
オレっ娘は当然のように答えた。
吟味した結果、やはりよくわからない。
「お前の可愛いの基準がわからない」
「じゃあ殿下の可愛い基準って何?」
「そうだな。お前の顔は可愛いと思う」
特に何も考えずに口にした言葉。
それがオレっ娘に劇的な変化をもたらした。
「な、な、な……!」
「な?」
「何で、いきなり、そんな……」
「可愛いと思ったからだ」
「あ、ありがとう……嬉しい、です」
なんかしおらしくなった。
これはどういう現象だ?
教育係に視線を向ける。
奴は大きく頷いて親指を立てた。
意味がわからない。
わからないから、質問を再開する。
「そんなことよりオレっ娘」
「は、はい。なんですか?」
「お前が女である証拠を見せろ」
「……えっ?」
「ちょっとその場で脱いでみろ」
「ええーっ!?」
絶叫するオレっ娘。
やかましくてかなわん。
だが、愉快な奴だった。
「殿下、私にお任せを」
「は?」
ここで教育係がでしゃばった。
頼んでないのに、いつも通り邪魔をする。
「ちょっと失礼しますね」
「へ?ちょっと!どこ触ってんだ!?」
「ふむふむ。確かに付いてませんね」
「ふあっ……んっ……あんっ」
オレっ娘の身体を弄る教育係。
背を向ける形でボクの視線を遮る。
奴の手は下腹部に伸びている。
ボクは今日も傍観者。
手を伸ばすも、虚しく空を切る。
「もう……らめ……」
「おや?気を失ってしまいました」
教育係の手にかかり、オレっ娘は気絶した。
銀髪メイドを呼んで、運んで貰う。
ボクは傍観者。
あっという間の出来事だった。
「……教育係」
「はい、なんでしょう?」
「もうオレっ娘には手を出すな」
「それでは『ボクっ子』に専念します」
「それは誰のことだ?」
「さあ? 誰でしょうね?」
ボクが怒っても、教育係はどこ吹く風。
憮然として、冷めた紅茶を飲む。
教育係はそんなボクに耳打ちをする。
「殿下も他の『男装女子』に目移りされることがないよう、お気をつけ下さい」
ボクの教育係は時々こうして意味不明だ。




