第12話 『殿下のお肌とストレッチ』
「そう言えば、殿下はお肌が白いですね」
「そうか?」
「ええ。まるで雪のようです」
教育係の肌の白さも、相当なものだ。
漆黒の瞳と黒髪によく映える。
ボクとは大違いだ。
「温室育ちだからな。貧弱だろう?」
自嘲気味にそう説明する。
ボクはあまり外に出ない。
出ることを、許されていない。
何かがあっては大変だから。
「外に出たいですか?」
こちらの心中を見透かして、問われる。
外に出たいかだって?
出たくないと言えば、嘘になる。
だが、余りにも危険すぎる。
「殿下は臆病ですね」
ボクは臆病だ。
取り囲む環境もまた、常に怯えている。
ボクの我儘で周りに迷惑を掛けたくない。
「私が守ります」
「……守れるのか、貴様に」
つい、縋り付きたくなる。
しかし、それはただの甘えだ。
自分の身は、自分で守りたい。
そして、出来るなら、周りの者達も。
「殿下は強い御方です」
「ボクは弱い」
「言い換えましょう。強く、なられる」
教育係にそう言われると、心強い。
本当に強くなれる気がしてくる。
ちょっぴり、やる気が出た。
「そうと決まれば筋トレです」
「は?」
あれっ?
シリアスな空気、どこ行った?
「まずは腕立て伏せから始めましょう」
「わ、わかった」
促されて、床に這い蹲る。
あれっ?おかしいな。
身体が上がって来ないぞ?
「踏まれたいんですか?」
「違う。断じて、違う」
「ふざけてるんですか?」
「違う。断じて、本気だ」
呆れた教育係が溜息を吐く。
失望されただろうか。悲しくなる。
ずずっと鼻をすすると、起こしてくれた。
「まずは柔軟からですね」
「柔軟か……それならいけそうだ」
「その意気です。御背を押しますよ?」
「ああ。思いっきりやってくれ」
「せーのっ!」
「ぐへっ!ギブギブギブッ!!」
死ぬかと思った。
バリバリボリボリって音が聞こえた。
全身の骨が砕け散ったかと思った。
柔軟、怖い。
「だらしないですね」
「だ、黙れっ!そう言う貴様はどうなんだ!?」
鼻で笑われたので、ムキになって突っかかる。
すると教育係はその場で開脚して……
ペタンと股を床につけた。
「お、おおお前!大丈夫なのかっ!?」
慌てて無事を確認する。
教育係の股を本気で心配する。
しかし、教育係はけろっとしていた。
「大丈夫です。まだ裂けてませんよ」
「まだってなんだ」
「さあ? なんでしょう?」
何やら意味深な笑みを向けてくる。
なんだか知らないけど、むかつく。
そんなボクを教育係は揶揄う。
「殿下も裂けないようにお気をつけて」
「お前に裂かれそうで怖い」
「ご所望ならば、いつでも」
非常に不愉快な会話だ。
なんのことだかわからないけど。
だからちょっと反撃してみた。
「いつかお前の股を裂いてやる」
「その日を心待ちにしております」
くそっ。
あー言えば、こー言う奴だ。
まったく、口さえ開かなければ……
いや、それはそれで、退屈か。
「なんでしたら今すぐにでも」
……前言撤回だ。
ボクの教育係は一言も二言も多過ぎる。




