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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第3章 【奴の居ない日々】
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第103話 『バイト生活と凶報』

「よお、嬢ちゃん。いい尻してんな!」

「あっ、やめてくださいっ!!」


メイドと喫茶店で働き始めて早数ヶ月。

仕事にはもう慣れた。ミスも減った。

最初は開店まもなくて客が少なかった。

ボクらは懸命に働いて客足を増やした。


すると悪い客が入り浸ることになった。

喫茶店なのに酒を注文して酔っぱらう。

そのまま宴会を始めた。まるで酒場だ。


普段は店主が目を光らせていた。

悪い客に上手く応対していた。

しかし残念ながら現在はいない。

本業である宝石販売に出張中だった。


よってボクとメイドで切り盛りしてた。

そしてメイドは厨房で料理に忙しい。

接客はボクに任されたのが運のつき。

普段からマナーの悪い客が取り囲む。


「なに、別に取って食わねぇよ」

「だからちょっとパンツ見せてくれや」

「げへへ。何色か楽しみだぜ」


めちゃくちゃだ。典型的なチンピラ。

ウェイトレス姿のボクのスカート。

余りにも防御力が低い布切れ。無防備。

捲られないように立ち回るも背後から。


「ほれっ!」

「わあっ!?本当にやめてください!」

「見えたか?」

「駄目だ。あとちょっとだったのによ」


ひょいと捲られて慌てて押さえる。

見えなかったらしく悔しげな変態共。

キッと睨みつけると客達が沸いた。


「おーおー!おっかねぇな、嬢ちゃん」

「綺麗な赤いお目めが台無しだぜ?」

「カラコンで俺たちを誘ってんだろ?」


ボクの赤眼はカラコンと誤解された。

それはこちらとしても都合が良かった。

銀髪のウィッグのおかげでバレてない。

まさか店員が王族だとは思うまい。

それはいい、それはいいのだが。

悪目立ちして、誘っていると思われた。


ボクは完全に、彼らに舐められていた。


「おい、嬢ちゃん。そう怒んなって」

「俺たちは客だぜ? お客様だ」

「金払った分はサービスしろよ」


何がサービスだ。そんな店じゃない。

けれど、留守中に店を預かってる手前。

あまり騒ぎを大きくも出来ない。


どうしよう。ボクは考える。

パンツくらい見せるべきか?

だけど、見せたらつけあがるだろう。

パンツを見せてくれる店員となる。

そうしたら毎回見せろと要求してくる。

そんなの嫌だ。気持ち悪い。


教育係に見られた時は、平気だった。

もちろん恥ずかしかったけど。

それでも不思議と、嫌ではなかった。


あれからどうなったのか。

新たな王となった教育係。

何を考えて玉座に着いたのか。


やはり王位簒奪が目的?

始めからそのつもりで近づいた?

復讐する為に教育係になったの?


ここしばらく考えていた。

それは奴に対する疑念。

けれど、この状況下で吹っ切れた。


あいつの思惑なんて、どうでもいい。

会いたい。とにかく、会いたかった。

切実に。奴に会いたい。好きだから。


じわりと涙を浮かべると、助け船が。


「この変態ども!いい加減にせんか!」


それは常連のおじいさん。叱りつけた。


「うるせぇじじい!」

「ひっこんでろ!」

「俺たちはパンツが見たいんだよ!」


チンピラが怒鳴り返す。すると。


「パンツが見たいならワシのを見ろ!」


突然おじいさんがズボンを脱いだ。

くたびれたトランクスが露わとなる。

これにはチンピラの酔いも醒めた。


「おえっ! なんつーもんを……」

「帰ろうぜ! 白けちまった!」

「覚えてやがれよっ!!」


チンピラが帰った。助かった。


「おじいさん、ありがとう」

「なに、気にするな。当然のことじゃ」

「あの、それで、その……」

「どうかしたかの?」

「そろそろズボンを穿いてください」

「おお!これはうっかりしとったの!」


笑って、ズボンを穿き直すおじいさん。

チンピラが帰って、客はまばら。

緊張が解けて、疲労感に襲われた。


「大変じゃったのう」

「すっかり舐められてしまって……」

「スカートなど穿かない方がいい」

「でも、ウェイトレスだから……」

「どんな格好でもお前さんは可愛いぞ」


おじいさんは口の上手い人だった。

やば。ちょっと、嬉しい。かなり。

いくら年上好きだからといっても。

流石におじいさんにときめかないけど。

それでも嬉しいし、自信がついた。


スカートはやめよう。そうしよう。

では、どんな服が良いだろうか。

いやらしい気持ちが沸かないような。

まったく色気がない服。そうだあれだ。


「ちょっと、着替えてきます!」

「ああ、そうしておいで」


断りを入れて、奥の階段を駆け上がる。

二階は居住スペースだった。

店主の部屋の隣にボクらの部屋。

クローゼットを漁る。そして発見。


元々、荷物はさして多くない。

服だってそれほど数はない。

この服を屋敷から持ち出したメイド。

彼女に感謝しつつ、袖を通す。


着替え終えて、急いで仕事に戻る。


「む? なんと、見違えたのう!」

「あの……どうでしょうか?」

「変わってはいるが、似合っておる!」


おじいさんに太鼓判を押された。

ほっと安堵しつつ、エプロンをする。

これは教育係との思い出の服だ。


それは真っ赤なツナギ。色気は皆無。

いつだか、これを着て洗車をした。

その時はダボダボ、今はぴったりだ。


そこに厨房からメイドが顔を出した。


「お料理出来ましたよ〜って、殿下!」

「ああ、今運ぶよ」

「それよりも、その格好はっ!?」

「気分転換にな。やっぱり変かな?」

「いいえっ!とてもマニアックです!」


褒められたのかよくわからない。

けれど、かなりマニアックらしい。

それを証拠にその日から客足が増えた。

何故か客達には好評だった。不思議だ。


ツナギを着た店員のいる喫茶店。

それは城下町の名所となった。

もちろんいやらしい視線もなくなった。

チンピラ達もツナギには興奮しない。


ボクらは平和にバイト生活を続けた。


とある日の晩。

賄い料理を食べ終えて、就寝。

その間際メイドがこちらに寄ってくる。


「殿下殿下」

「どうした?」


最近ぐっと大人びてきたメイド。

切った髪もいくらか伸びてきた。

銀髪を耳にかけて、モジモジする。

その仕草で成長した胸に谷間が出来た。

なんともうらやまけしからない。


「あの、今日も一緒に寝ましょうか?」

「ああ、助かるよ。……ありがとう」

「いえいえ。それでは、失礼しますね」


ベッドに潜り込んでくるメイド。

最近は毎晩だ。それには理由がある。

毎夜、ボクがうなされるからだ。

それを気遣って添い寝を申し出る。


夜中に飛び起きると、宥めてくれる。

大丈夫だと。自分が傍にいるからと。

メイドはボクを支えてくれた。


彼女がついて来てくれて、助かった。

メイドがいなかったら自殺していた。

それほど酷い悪夢を、毎晩見た。


不安が渦巻いていた。最近は特に。


ボクの国が現在どうなっているのか。

気にならないと言えば、嘘になる。

近頃は客達も物騒な話題を口にする。


風の噂によると、戦争が近いらしい。


けれど、青髪はボクを見失った。

だから開戦に踏み切る大義名分がない。

今のところは、軍事行動には出ない。


大丈夫。大丈夫だ。まだ、平和だ。


自分に言い聞かせる。だが、無意味。

そのうち青髪は仕掛けてくるだろう。

そうなってからでは遅い。死者が出る。


はっきり言ってボクは現実逃避してた。


取り返しのつかないことになる前に。

今すぐ動くべきだろうが、出来ない。

怖い。怖かった。だから目を瞑る。


闇の中で、メイドが口を開いた。


「私の両親はお妃様の使用人でした」

「えっ?」

「殿下のお母様に、仕えていたのです」


突然語り始めたメイド。

寝耳に水で、思わず顔を向ける。

メイドは儚げな表情で、続きを話す。


「あのお屋敷はお妃様の離宮でした」

「あの離宮に、母上が……?」

「はい、国王陛下がお妃様を守る為に」


なるほど。命を狙われていた母上。

それを守る為に、父上が計らった。

母上を離宮に匿ったらしい。

そして、メイドの両親は離宮の使用人。


「お妃様の死で、両親は絶望しました」


母上が殺されてメイドの両親が絶望。

生きる気力を喪い、戦地に赴いた。

そして、そこで戦死したのだという。


「遺言は、殿下に仕えるようにと」

「そうだったのか……」

「はい。それが、私の使命です」


それが、銀髪メイドの生い立ち。

彼女の忠義の根幹だ。悲しい過去。

だからこそ、今も彼女は傍にいる。


絶句していると、メイドは朗らかに。


「まあ、遺言なんてどうでもいいです」

「へっ?」

「私は私の意志で、ここにいるんです」


屈託なく笑う銀髪メイド。

当初の儚げな印象は影を潜めて。

明るく、優しくボクの頭を撫でてくる。


彼女の悲しい生い立ちを聞いて。

どうしようもなく、切なくて。

頭を撫でられ、ときめいてしまう。

銀髪メイドは優しくて、可憐だ。

料理も上手いし、何より癒される。


このままこうして暮らしていけたら。


つい、そんなことを考えてしまう。

青髪も教育係のことも忘れて。

メイドとこの喫茶店で、生きていく。


もしかしたら、そんな未来もあるかも。


しかし、そんな儚い希望は、壊された。


夜中に響き渡る、ノックの音によって。


「誰だ?」

「俺だ。悪い報らせがある」


焦ったような男の声。姫君の召使いだ。


「どうしたんだ?」


ドアに歩み寄り、躊躇いつつも開く。

嫌な予感がしていた。平和が終わる。

もう逃げることは出来ないと感じた。


「青髪が動いた。戦争が始まる」


その凶報で、予感は確信へと変わった。

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