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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第3章 【奴の居ない日々】
103/111

第102話 『馴れ初めと最後通告』

「お、お前こそ、何をしてるんだ?」

「俺は仕事から帰って来たとこだよ」


突然壁をよじ登ってきた召使い。

驚愕を禁じえないボクに説明した。

どうやら仕事帰りらしい。でもなんで?


「なんで壁を登ってきたんだ?」

「正門は監視されてるからよ」

「監視?」

「ああ、あんたのことを探してやがる」


鉤縄を回収しながら召使いが解説。

なんでも青髪のスパイが監視中らしい。

恐らくボクを捕らえようとしている。

だから彼は壁をよじ登ってきたようだ。


「そうか……迷惑をかけてすまない」

「いや、それはいいんだけどよ」

「どうかしたのか?」

「あんた今、死のうとしてただろ?」


ヘラヘラしながら見透かす召使い。

返答に窮していると、寄ってくる。

じっと彼の黒眼に見つめられ、動揺。


教育係と同じ瞳だ。当たり前か。

彼は教育係といとこ同士。

普段は似ても似つかないが。

こんな時だけは、妙に鋭い男だ。


「なんで、わかったの……?」

「前にも似たようことがあったからな」

「前にも……?」

「ああ、姫さんと初めて会った時だ」


召使いは語る。姫君との馴れ初めを。


「俺は母ちゃんの仇を討ちにきたんだ」


バルコニーの手すりにもたれる召使い。

チャラチャラと首輪の鎖が風に揺れる。

城下町の夜景を眺めながら耳を傾ける。


「俺の母ちゃんは暗部の人間だった」


彼の母親は暗部を統率していた。

彼女の子供の召使いも訓練を積んだ。

父親は定かではない。奔放な母親。

父について尋ねると、誤魔化された。


時には、酒場の店主。

時には、傭兵崩れのチンピラ。

時には、暗殺対象の要人。


母親が語る父親は二転三転していた。


「暗殺対象の要人ってのが怪しいな」


なんとなく、そう思ったらしい。

その話だけ、妙にリアルだったと。

一晩共に過ごした暗殺対象。

その後、任務は遂行したらしい。


つまり、父親はすでにこの世にいない。


「ま、それも嘘かも知れないけどな」


彼の母親はそんな嘘ばかりついていた。

息子としては、辟易としていたらしい。

酒を飲むと卑猥な話ばかりだったそう。


「だけどよ、たった1人の母親だった」


ある日、仕事に行ってくると告げた母。

いつも通りに、軽い感じだったようだ。

けれど、いつまで経っても、戻らない。

その仕事は女王の夫の暗殺任務だった。


暗部の連中に尋ねると、戦死したと。


「だから俺はその夜、復讐しにきた」


当時まだ幼かった召使い。

しかし、そこは暗部の人間の子供。

子供ということあり、容易に潜入。

女王を狙い、王宮の壁をよじ登った。


「ところが、登った先に姫さんがいた」


そこで彼は姫君と出会った。

召使いよりも年下の可憐な少女。

幼い姫君はまさにこの場で佇んでいた。


「びっくりしたぜ。ヘマしたってな」


召使いは驚愕しつつも、冷静に対応。

騒がれたら終わり。速攻で処理をする。

忍ばせたナイフを片手に、にじり寄る。

すると姫君は、暗殺者に対して尋ねた。


『死んだら、お父様に会えるかしら?』


無邪気な問いかけ。召使いは困惑した。

そもそも夜中のバルコニーで何を?

考えるまでもない。死のうとしていた。


死んだ父親に会いたくて、自殺をする。


そのタイミングで、鉢合わせたらしい。


「何て返したらいいかわかんなくてよ」


死んでも父親には会えない。当然だ。

死んだら終わりだ。なにもかも。

召使いは死後の世界を信じてなかった。


姫君は戸惑う彼に別な問いかけをした。


『お母様を殺しにきたの?』

『ああ、俺の母ちゃんを殺したからな』

『それであなたの母親は生き返るの?』


それはあの日ボクが父上に言った言葉。

仇を殺しても、どれだけ苦しめたって。

死んだ者は蘇らない。絶対に。永遠に。


「それに気づいて馬鹿らしくなってな」


召使いはナイフを仕舞い、暗殺を中断。

よく見ると姫君は可愛い女の子だった。

持ち前の女好きを発揮してヘラヘラと。


『自殺なんかやめて俺と結婚してくれ』

『嫌よ。あんたみたいな男』

『命の恩人になんて言い草だ』

『とりあえず私の召使いになりなさい』

『なんで?』

『少しはマシになるように飼うためよ』


画して彼は、姫君の召使いとなった。


「その日のうちに首輪をつけられた」

「とんでもないお姫様だな」

「だけど、おかげで生きていられた」


本来ならば処刑対象だった黒髪の一族。

姫君に拾われたことにより無罪放免。

姫君の命を彼が救い、そして救われた。


「仇の女王に対しては複雑だけどよ」


面倒臭そうにため息を吐き、前向きに。


「過ぎたことだ。今はどうでもいい」


さっぱりとした表情を浮かべる召使い。

彼は乗り越えたのだ。過去は過去だと。

誰しもそんな風に思えるならどんなに。


青髪や教育係とも、そうなりたかった。


「だが、皆がそう思えるとは限らない」

「そうだな。押し付けるのは良くない」


だけどよ、と。召使いは楽観的に語る。


「あんたの過ちで救われた奴もいる」


慰められた。素直には受け取れない。

だって、その過ちで父上は死んだのだ。

ボクが罪を揉み消した青髪の手により。


気持ちが沈んだボクに、彼はにやり。


「あんたは教育係も救っただろう?」


言われて気づく。そういうことになる。

終戦後、処刑されかけていた教育係。

鬼人と成り果てた父上を止めたボク。


けれどその結果父上が殺されるなんて。


あの時、皆殺しにしていれば。

父上は死なずに済んだのかもしれない。

けれどそれでは教育係も死んでしまう。


なんともならない。酷いシナリオだ。


けれど、教育係は今現在、生きている。

それだけが、救いだった。死んでない。

なんとか気を持ち直すと、姫君の声が。


「召使い、帰ったのね」

「ああ、ただいま。覗きは良くないぜ」

「その子が心配で、見張ってたのよ」


王宮から桃髪を靡かせ姫君が歩み寄る。

どうやら見張られていたらしい。

その後ろから銀髪メイドもついてきた。


「ごめんなさい。殿下が心配で……」


きっと部屋から抜け出したのを知って。

メイドは姫君に助けを求めたのだろう。

その前に、召使いに助けられたのだが。


「それはそうと姫さん、報告がある」

「良いニュース? 悪いニュース?」

「どっちもだ」

「なら、良いニュースから教えて」

「人質は全員無事みたいだ」


ニュースを持ってきた召使い。

人質は全員無事。良かった。

召使いはボクの国に潜入してい様子。


「人質の拘留場所は王立学園だった」

「子供を監禁するには絶好の施設ね」

「ああ、子を攫われた親は言いなりだ」


舞踏会に参加した子供たち。

それを学園に監禁しているらしい。

子供の親は権力を持った貴族たちだ。

彼らが言いなりになればどうなるか。


悪いニュースとやらを聞くのが怖い。


「それで、悪いニュースは?」

「新しい王様が決まった」

「そう。誰が玉座に着いたの?」

「俺のいとこの……教育係だ」


耳を疑う。なんだそれ。どういう事だ。


「まあ、青髪が王になるよりはマシね」

「だが、あいつの考えが読めねぇ」

「敵対してくるかしら?」

「今のところは不気味な程に大人しい」


新たな王となった教育係。

国民には前王は病死と告げたそう。

そして後継者は失踪と、発表された。

それによって王家の血は途絶えたと。

帝の血を引く黒髪の末裔が後釜に。

もっともらしく血すじを宣伝した様子。


「敵国の帝の血筋ってのは伏せてな」

「ええ、夢にも思わないでしょうね」


戦後、存在を抹消された黒髪の一族。

ボクの国の国民にも知られていない。

それを利用して縁があると吹聴。

国民の信を問うために議会を解散。


新たに当選した腹心を従えて。

無人の玉座に教育係が座った。

気になるその腹心を召使いが報告する。


「議長の名代として娘が後釜になった」

「み、三つ編み眼鏡が……?」

「ああ、強力な発言権を持っている」


それをバックアップする青髪の一族。

黒髪ロングとその父親が王の側近に。

三つ編み眼鏡と共に、新体制を樹立。


「厄介なのは青髪のクソガキだ」

「どんな役職についたのかしら?」

「新しい将軍様におなりになったよ」


吐き捨てるように告げる召使い。

ボクの父上を殺した青髪が将軍に。

それはとても危険だ。恐ろしい。


「暴走するのは時間の問題ね」

「その前に、手を打つ必要があるな」


そう締めくくり、2人の視線がボクに。


「さて、ゆっくりもしていられないわ」

「ボクに……どうしろと?」

「最後通告よ。私と結婚しなさい」


腕を組んで姫君はボクに命じた。

結婚しろと。三度目にして最後通告。

有無も言わさぬ鳶色の視線が射抜く。


「私と結婚すればあなたを守れる」

「守るとは……どうやって?」

「私の夫に手を出すなら……戦争よ」


戦争。それが物語の行き着く先。終焉。


「私はうつけが好き。それはたしかよ」


姫君は前置きする。召使いへの好意を。


「けれど、あなたの子も産んであげる」


姫君は確約する。ボクの子も産むと。

正統な王の血を引いた子供を残す。

その上で、堂々と世間に公表すると。


「そして、いずれ玉座を取り戻すのよ」


当然、戦争になるだろう。そして勝つ。

その後、ボクを復権させる計画らしい。

それこそが残された唯一の道であると。


だけど、そこまでして、何になる。


「ボクは……教育係と、戦いたくない」

「青髪が暴走したら結局戦争になるわ」

「だったらボクを差し出せばいい!!」

「ふん……死にたがり屋は、嫌いだわ」

「なんとでも言え。ボクは嫌だっ!!」


駄々を捏ねるように、嫌だと叫ぶ。


嫌だ。もう嫌だ、何もかも嫌だった。

戦争は嫌だ。偽装結婚も嫌だ。そして。

教育係と戦うのが嫌だ。それならば。


「ボクはやっぱり、死ぬべきだ」


悟った。理解した。把握した。絶望だ。

どうにもならない。どうしようもない。

教育係を敵に回した時点で詰んだのだ。


「情けないわね。こっちから願い下げよ」


冷たく言い放ち、提案を破棄した姫君。

大股でこちらに歩み寄り、頬を張った。

目がくらみそうな一撃。その場に蹲る。


「悲劇のヒロインを気取るのは勝手よ」


ボクを見下して、姫君は言い捨てる。


「だけど、世の中は悲劇で満ちてるわ」


自分だけが特別だと思うなと。

自惚れるなと、彼女は言う。

けれど、今の状況が自分の現実で。

ボクはこの現状を受け止められない。


「私と結婚しないなら、出て行って」


こうしてボクは王宮から追い出された。


「さてと、準備は出来たか?」

「ああ……世話になったな」

「姫さんのこと、悪く思わないでくれ」


数日後、ボクは人目を忍んで外へ出た。

半年ほど滞在した王宮を見上げる。

バルコニーに姫君の姿があった。

ぷいっと顔を逸らして、城の中へ。


女王陛下はやるせない顔で見送りに。


「妾の娘は頑固じゃからのう」

「ボクが、悪いんです」

「やっぱり妾から取りなして……」

「いえ、ここに居たら迷惑ですので」


青髪の狙いはボクだ。

ボクさえいなければ戦争は起きない。

王宮に滞在することはもう出来ない。

女王陛下は諦めたように首をふり。


「そなたもそなたで頑固じゃのう」

「……すみません」

「そんなところは父親に似ておる」


優しく頭を撫でて、別れを告げる。


「そなたに死なれたら、妾は悲しい」

「……陛下」

「娘もきっと悲しむ。だから生きよ」


その言葉に頷いておく。しかし無理だ。

王宮を離れれば、格好の暗殺の的だ。

この赤い髪と赤い瞳はとても目立つ。

今夜には殺されるだろう。間違いなく。


だからボクは、最後の別れを交わした。


「今まで、お世話になりました」


深々と頭を下げて、身を翻す。

召使いの運転で城下町へと向かう。

その間際、王宮から1人の少女が。


「ま、待って下さい、殿下っ!!」

「メイド、どうしたんだその髪は?」

「えへへ、バッサリ切っちゃいました」


あの夜以降姿を見かけなかったメイド。

その美しく長い銀髪が短くなっていた。

肩口あたりで切り揃えた、おかっぱに。


「どうして切ったんだ?」

「だって、ウィッグが必要でしょう?」


そう言って銀色のウィッグを差し出す。

それは紛れもなく、彼女の銀髪で。

自らの切った髪で作ったのだとわかる。


「職人に大急ぎで作って貰いました」

「そうか……ありがとう。大事にする」

「よーし!それじゃあ行きましょう!」

「えっ?」


ポカンとする。何を言ってるんだ?


「メイド、何を言ってるんだ?」

「私は殿下についていきます!」


青ざめる。メイドはついてくる気だ。


「だ、駄目だっ!危険だから残れ!!」

「私は教育係様に頼まれましたから!」


慌てて却下すると、食いさがってきた。


「殿下をよろしくと、頼まれました!」

「し、しかし……」

「ずっとお傍に居ると約束しました!」


目尻に涙を浮かべて、ボクの肩を掴む。


「ボクの傍にいると危険なんだぞ?」

「構いません」

「ボクはメイドを死なせたくない」

「私も殿下を死なせたくありません!」


メイドは諦めない。ボクは怒鳴った。


「どうしてわかってくれないんだ!!」

「殿下だって分からず屋です!!」

「ボクは自分の立場をわかってる!!」

「殿下はちっともわかっていません!」


メイドとの口喧嘩なんて、初めてだ。

互いに息が上がって、顔が真っ赤だ。

それを見かねた召使いと女王陛下が。


「まったく、なんて鈍感なんだ」

「そうじゃな、嘆かわしいのう」

「とりあえず、2人とも落ちつけって」


2人に呆れられて、冷静になる。

銀髪メイドも我に返ったようで。

ぺこりとおかっぱ頭を下げてきた。


「失礼なことを言って、ごめんなさい」

「ボクも言い過ぎた。すまなかった」


互いに謝罪。なんとも気まずい。

ボクは話題を逸らす為に。

彼女がくれたウィッグを被ってみる。

瞳は赤いが、銀髪ならば誤魔化せる。


「ど、どうかな……?」

「はい、とっても可愛いです!」

「これをメイドだと思って大事にする」

「私のことも末長く大事にして下さい」


駄目だ。押しても引いても無理そうだ。

なんか召使いと女王がにやにやしてる。

こんな状況でも何故か楽しそうな2人。


その時、バルコニーから怒鳴り声が。


「痴話喧嘩は他所でやりなさいっ!!」


そこにはカンカンになった姫君が。

それを見てびびってると召使いが動く。

彼はボクら2人を車に押し込んだ。


「姫さんがお怒りなんで早くしな」


そうしてボクとメイドは、城下町へ。


「……メイドの分からず屋」

「……殿下の鈍感女ったらし」


車内で言い合いを続けるボクら。


「ほら、もうそろそろ着くぜ」


召使いに言われて、窓の外を見る。

そこには活気溢れる城下町が。

そんな街中の一角で、降ろされた。


「ここがあんたらの下宿先だ」


こじんまりとした一件の建物。

どうやら喫茶店らしい。

そこに入ると、店主が出迎えた。


「これはこれは、ようこそ我が店へ」


恰幅の良い商人風の男。見覚えがある。

思い出した。彼は宝石商だ。

ボクにピアスを売ってくれた商人だ。

髪の色は違えど瞳の色でボクを認識。


「殿下のおかげで喫茶店を開けました」


彼は喫茶店を開くのが夢だったらしい。

ボクが買ったピアスの売り上げで開店。

それにしてもまさかこの国の商人とは。


「あんたに感謝してるって聞いてな」

「そうだったのか」

「ここならスパイ共にもバレないだろ」


青髪の間者に気づかれずに王宮を脱出。

ボクを見失えば戦争は起こらない。

召使いはこれを姫君の計らいと言った。

なんだかんだで、心配してくれた。

思わず目頭が熱くなり胸のうちで感謝。

ひとまずここでひっそりと暮らそう。


商人が申し訳なさそうに謝罪する。


「狭苦しい場所ですみません」

「いや、助かる。何か仕事はないか?」


ただで住まわせて貰うのは気が引けた。


「いえ! お手を煩わせる訳には……」

「何かしていないと落ちつかないのだ」

「ああ、なんとおいたわしや……」


これまでの経緯を聞かされたようで。

涙ぐんで同情する商人。優しい男だ。

それならばと、ボクの気持ちを汲んだ。


「実は開店まもなくて人手不足でして」

「だったらボクとメイドで手伝おう」

「本当に申し訳ありません、殿下」


恐縮する商人に手伝いを申し出た。

一応、給仕は王宮にて仕込まれた。

師匠たる銀髪メイドも乗り気なようで。


「城下町一番の喫茶店にしますっ!!」


鼻息荒く、やる気満々で、快諾した。


こうして、なし崩し的に。


ボクとメイドのバイト生活が始まった。

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