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殿下の教育係  作者: 戦乃作為
第3章 【奴の居ない日々】
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第101話 『使用人生活』

「ちょっと、起きなさいっ!!」

「むにゃ? どうしたんだ、姫君」

「心配して来てみれば何してんのよ!」


翌朝、姫君に叩き起こされた。

寝ぼけながら起き上がる。熱はない。

けれど、妙にベッドの中が温かい。

視線を横に向けると、そこには女王が。


そう言えば昨夜、一緒に寝たんだった。


「なんじゃ、朝から騒々しいのう」

「お母様! 何をしてるんですか!?」


のそりと起き上がる女王。

胸元の開いたネグリジェが大変だ。

ぽろんと溢れ落ちそうな爆乳が。

欠伸を一つして、胸元をぽりぽりかく。


「妹の子供と臥所を共にしただけじゃ」

「犯罪だって言ったでしょ!?」

「だって、未亡人の妾は夜は寂しくて」

「完全にアウトよ!お母様の変態!!」


火に油を注ぐ女王陛下。変態らしい。

にやにや傍観していた召使いが耳うち。

彼はよくわからないことを尋ねてきた。


「それで、どうだったよ?」

「ん? 陛下は優しかったぞ」

「ほう。どんな風に?」

「泣いたボクを慰めてくれた」

「へえ、泣かされたのか。ハードだな」


ふむふむと聴取をする召使い。

別に泣かされてもないしソフトだった。

それを聞いてた姫君がゴミを見る目で。


「不潔」


心底軽蔑した口調で吐き捨てた。

いやいや、起きて早々不潔は酷い。

熱を出して汗をかいたからか?

思わず服の匂いを嗅ぐと女王陛下が。


「気になるなら風呂にでも入るか?」

「よろしいのですか?」

「ああ、妾が背中を流してやろう」


にやりと扇情的な笑みを浮かべる女王。

明らかに冗談だ。からかっている。

けれど、姫君はその挑発に乗った。


「私の許嫁に勝手なことしないで!」

「お前には召使いがおるじゃろう?」

「うつけは関係ないでしょ!?」

「聞いたぞ、随分ませておるのじゃな」


したり顔で姫君を小馬鹿にする女王。

姫君がキッと睨んできた。怖いよぅ。

告げ口をしたのがばれてしまった。


「お母様に余計なことを言わないで!」

「ご、ごめんなさい」

「ふん。それで、あなたどうするの?」

「もちろん1人でお風呂に入るよ」

「そうじゃなくて!これからのこと!」


聞かれたのは風呂のことではなかった。

これからのこと。どうするべきか。

一応、考えていた方針を、口に出す。


「しばらく厄介になってもいいか?」


それは時間稼ぎの提案。

亡命した手前、国には帰れない。

状況が好転する好機を待つしかない。


「それじゃあ、私の提案を飲むのね?」

「いや、偽装結婚はしない」

「なら、どうするの?」

「この城で使用人として雇ってくれ」


偽装結婚はしない。はっきりと告げる。

だってボクは教育係が好きだから。

もちろん姫君は家族として好きだ。

召使いも、女王陛下も含めて好きだ。

けれど、それは恋愛ではない。断じて。


提案を拒否したボクは許嫁ではない。

だからこそ、働くつもりだった。

ただ置いてもらうだけでは申し訳ない。


姫君は不満そうに唸ったが、頷いた。


「仕方ないわね。わかったわ」

「ありがとう、姫君」

「でもあなた、仕事なんて出来るの?」

「大丈夫だ。ボクには強い味方がいる」


ベッドからソファに向かう。

強い味方は、騒ぎの中でもどこ吹く風。

すやすやと銀髪を揺らして眠っていた。


「銀髪メイド、起きてくれ」

「むにゃ……? 殿下、おしっこは?」

「おしっこは知らん。頼みがあるんだ」


寝言を聞き流して、メイドに頼む。


「ボクに仕事を教えてくれないか?」


画して、ボクは王宮の使用人となった。


「あっ」

「またお皿を割ったんですか?」

「ご、ごめんなさい」


使用人として働き始めた頃。

ボクはメイドと同じメイド服で仕事。

皿洗いの最中に皿を割ってしまった。

もう3枚目だ。ボクは不器用だった。


メイドはめっと叱りつけて、微笑んだ。


「じゃあ、私もお皿を割りますね」

「えっ?」

「これでよし。2人で怒られましょう」


銀髪メイドは優しいが、本末転倒だ。

その後、姫君に謝りに行った結果。

わざと割ったメイドは本気で叱られた。


「週に一度はお休みをあげるわ」


ある日、姫君に呼び出されたボクら。

週に一度はお休みをくれるらしい。

とはいえ、休みに何をしたらいいのか。


仕事をしていると、考えずに済んだ。

いろいろなことから、目を逸らせた。

慣れない仕事の疲労で悪夢も見ない。


それを目的に、仕事をしていたのだ。

だから、休みと言われて、怖かった。

そんなボクに、召使いが提案をする。


「車の運転でも教えてやろうか?」

「いいの?」

「ああ、なんならバイクも教えてやる」


彼の勧めで、ボクは運転を習った。


「わっ! わっ! 怖い!?」

「今時マニュアルを乗りたいとはねぇ」

「うぅ……やっぱり難しいな」


王宮の敷地内で、車の運転を習う。

マニュアルを希望したが、大苦戦。

ギクシャクして、ガックンガックン。

苦笑しつつも、召使いは教えてくれた。


「一個一個の動作を丁寧にしてみろ」

「わ、わかった」

「そのうち身体に染み付いてくるさ」

「が、頑張る」


言われた通りにゆっくりギアチェンジ。

今度は上手くいった。ほっとする。

しかし、クラッチ操作でスカートが。


「エロい太ももしてるな」

「馬鹿、見るな」

「教官に対して何だその口の利き方は」

「うるさい、姫君に言いつけるぞ」

「なんだよ、減るもんじゃないだろ」


召使いのいやらしい視線が注がれる。

じろりと睨んで、スカートを直した。

召使いはヘラヘラして反省の色なし。


そんな彼に取り合わずもう一度。

メイド服の裾に気をつけてクラッチを。

だいぶ慣れてきた。スムーズだ。


外で見ていたメイドがパチパチと拍手。


「殿下! 私も乗せてください!」


慣れてきたところで、メイドが同乗。

それを聞きつけて、姫君と女王陛下も。


「もっとスピードを出しなさいよ!」

「そうじゃそうじゃ! ぶん回せ!」


無茶苦茶な2人の言葉は気にしない。

マイペースにトロトロ走る。安全運転。

ぎゅうぎゅう詰めの車内で会話が弾む。


「なんじゃ、生徒会長になったのか!」

「ええ、この子は副会長よ」

「懐かしいのう。妾も会長じゃった」

「お母様も会長だったの?」


姫君が生徒会長になったと聞いて。

女王陛下が昔話を語り始めた。

とはいえ、基本的には猥談である。


「時計塔に眺めの良い部屋があってな」

「私達もその部屋を使ってるわ!」

「ほう。妾と夫が初めてした部屋じゃ」

「生徒会室で一体何をしてるのよ……」


あの生徒会室は思い出の部屋らしい。

初めてしたとはキスのことだろうか。

よくわからないが、姫君が気まずそう。

召使いとメイドは熱心にメモを取る。


楽しいと感じた。充実したひと時。


しかし、それは一時的なものだった。


しばらく、使用人として生活して。

数ヶ月も経つと、新鮮さは薄れた。

仕事にも慣れて、余裕ができた。

すると、どうしても考えてしまう。


棚上げした問題が、脳裏をよぎる。


今のところ目立った動きはない。

ボクの国はいつも通りに平穏だ。

舞踏会のことは隠蔽されていた。

それはとても不気味でもあった。


人質は無事だろうか。将軍も議長も。

妃候補達はどうしているだろう。

そして、教育係は、何をしているのか。


その日、久しく見なかった夢を見た。

当然ながら悪夢であり、飛び起きた。

父上の死、母上の死、そしてボクの死。

外はまだ真っ暗で、夜明けには程遠い。


不安定だった。どうしようもなく。


息を整えて、部屋の窓へと歩み寄る。

窓を開いて、外の空気を吸う。

視線が下に向く。眼下には生垣が。


駄目だ。これじゃあ死ねない。


ボクは死ねそうな場所を求めて彷徨う。


王宮のバルコニーに出て、下を確認。

堅そうな石畳が敷き詰められている。

これなら死ねそうだ。間違いなく。


ずっと、目を逸らしてきた。

他に良い方法があるのではと。

けれど、無駄だった。意味がない。


このまま生き続けても、辛いだけだ。


半ば無意識だったと思う。

バルコニーの手すりから身を乗り出し。

そこから投身自殺をしようとして。


近くで物音がして、我に返った。


見ると、そこには鉤縄が。手すりに。

ポカンとしているとよじ登ってきた。

カチャカチャと、首輪の鎖を鳴らして。

黒装束の召使いが、バルコニーへ。


「あん? こんなとこで何してんだ?」


それはこっちの台詞だった。


姫君の召使いは、本当に神出鬼没だ。

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