表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/105

08・ヘリオスオーブの食事事情

 翌日、俺達は朝食を取ってからプラダ村を発った。ハンター志望の幼馴染の男女に、簡単にではあるが魔法はイメージが大切だってことを教えたから、しばらくしたらフィールで会えるだろう。プラダ村からフィールまではエモシオンまでより近いみたいだし、何よりプラダ村も畑を魔物に荒らされてしまったのに、グラス・ウルフの大量発生のせいでフィールやエモシオンに救援を求めに行くことも難しい状況になってしまったから、蓄えが足りるかわからないらしい。だから急場しのぎではあるがハンター登録してる村人が依頼をこなして、村のために食料なんかを買い付けに行くことになったそうだ。

 グリーン・ファングと遭遇する可能性があることは知ってるそうだが、そう長くはもたないかもしれない以上、無理でもしないと村に餓死者が出る可能性もある。俺にできることは少ないが、落ち着いたら力になれることぐらいは力になりたいもんだ。


「ところでプリム、昨日の魔法だけど」

「名称でしょ?とりあえずだけど連発と制圧力に重点を置いたのをアロー、威力と貫通力に特化させたのをランス、武器に纏わせるのをアームズってしておけばいいんじゃないかしら?」


 無難だし、わかりやすいからイメージしやすいな。


 プリムは火魔法と風魔法、雷魔法に適性があるが、昨日の大岩を粉々にした際に使った魔法をベースに、火、風、雷属性の魔法を、自分で使いやすいようにまとめていた。

 俺も同様に、適性のある水、氷、光魔法を同じ系統でまとめてみたから、他の属性でも同じような魔法が放てるはずだ。アロー系、ランス系、アームズ系でまとめてはいるが、他にも防御用や攻撃補助用、制圧用って感じでまとめていくべきだろう。候補としては単体防御のシールド系、広域防御のウォール系、放射攻撃のウェーブ系、そして広域攻撃のストーム系ってとこか。

 刻印術じゃ氷は水属性に分類されてたからな。刻印術とは属性の基準が違うからわからないが、適正のある水、氷、光は普通に使えるだろう。他の属性は試してみないとわからないが、使って使えないことはないと思う。


「それにしても、やけにグラス・ウルフの数が多いな」


 プラダ村を出て2時間ぐらい経っているが、既に20匹以上のグラス・ウルフを退治している。ザック~プラダ村間で倒したグラス・ウルフが30匹ぐらいだったから、いくらなんでも多すぎる。


「ホントにね。この様子じゃグリーン・ファングと出くわすのも、時間の問題な気がするわ」

「だなぁ」


 グリーン・ファングはモンスターランクだとSランクで、プリムはハンターズランクに照らし合わせればSランクに、俺はGランクになる。しかも俺達はハイヒューマン、ハイフォクシーに進化してるから、二人だけとはいえグリーン・ファングと戦うことは可能だと思う。

 だからといって、会いたいかと言われればそんなことはないが。


「またグラス・ウルフか。あれ?なんか違うのも混じってる?」

「グリーン・ウルフね。こんなのまで出てくるってことは、本当にこの近くにグリーン・ファングがいるってことなんでしょうね」


 これがグリーン・ウルフか。グラス・ウルフは緑がかった灰色って感じだったが、グリーン・ウルフは面白いぐらいに真緑だな。ってことはグリーン・ファングも、真緑ってことはないだろうが、緑色の体毛してるってことか。


「そうなるよな。こりゃフィールがどうなってるか、本気でわからなくなってきたな」


 フィールじゃ間違いなく、グリーン・ファングの出現を確認してるはずだ。にも関わらず討伐できてないってことは、討伐できる程の実力者がいないのか、どっかから横やりが入っているのかだろうな。


「本当にね。だけど考えようによっては好都合かもしれないわ」

「どういうことです?」


 アプリコットさんには考えがあるみたいだが、ザックを経ってから三日で50匹以上のグラス・ウルフを狩ってるんだから、さすがにこの状況を都合がいいとは言いにくいんだがな。


「ザックはポルトンとさほど離れていないし、エモシオンはアミスターの要所だから、バリエンテだってこの状況を掴んでいるはずよ。それなら私達がフィールに向かっているとは考えにくいはず。向かったと仮定しても、普通ならフィールに辿り着けるかどうかも怪しい状況なんだから、追手だってフィール方面に偵察を放つのは躊躇われる。何しろここまでグラス・ウルフの数が多いのなら、偵察もままならないんだから」


 確かに。俺達はフィールまでの街道を通っているけど、見通しはけっこう良いし、俺はソナー・ウェーブやドルフィン・アイも使ってるから、半径300メートルぐらいまでなら追手がいても確認することは難しくない。

 何よりこれだけ頻繁に襲われてるわけだから、仮に追手がいたとしても襲われない保証はない。というか、確実に襲われる。しかも異常種が出てくるかもしれないっていうおまけ付きだ。無事にフィールに入ることができたとしても、出られなくなる可能性だって高い。フィールを出られないってことは報告もできないってことだし、同時期にフィールに入った奴がいたら、俺達だって警戒の一つもするしな。


 そう考えると、俺達に追手がついてる可能性は低いし、逆に異常種に襲われて死んでるだろうって考えられててもおかしくはないか。なにせバリエンテは、プリムがハイフォクシーに進化したことを知らないわけだからな。

 となると問題は、俺達二人でグリーン・ファングを倒せるかどうか、だな。


「プリム、俺達二人で、グリーン・ファングを倒せると思うか?」

「倒せるかどうかっていうなら、倒せるでしょうね。だけどウルフ種は群れで暮らしてるからグラス・ウルフやグリーン・ウルフもいるだろうし、高確率でウインド・ウルフもいるから、そっちをどうするか、かしらね」


 ウインド・ウルフってのはグラス・ウルフ、グリーン・ウルフの希少種で、風を操ることができるそうだ。緑は風を意味する色ってのはヘリオスオーブでも変わらないから俺も予想はしていたが、さすがに希少種までいるとは思わなかった。


 異常種が生まれるにはいくつか段階があると考えられてて、その中でも確実だと思われているのが種の異常繁殖と希少種の増大の二つだ。希少種が魔力か何かによって突然変異したのが異常種だとも言われてるから、そう遠い説ってわけでもないだろう。

 ちなみにウインド・ウルフはBランクで、グラス・ウルフ、グリーン・ウルフのどちらからでも生まれる可能性があるそうだ。体毛は白みがかった緑だから、一目でわかると聞いている。


「なるほどな。なら結界でも展開させて、逃げ道をふさいでおくとするか」


 使うとすれば適性属性でもある水のA級術式が無難だな。


「便利よね、刻印術って。あたしも使いたいもんだわ」

「さすがにそれはな」

「そうなのよね。それじゃ、そろそろお昼にしましょうか」


 というかもう昼か。異世界の旅の飯っていえば干し肉とかが定番だが、ヘリオスオーブにはストレージングやミラーリングという空間魔法がある。


 ミラーリングはカバンとか荷台とかの容量を増やすだけだが、詰め込めば重さは消えるから、それだけでも十分重宝する魔法だ。

 ストレージングは虚空に物質を保管する魔法で、しかも収納量は使用者の魔力に左右される。だが最大の特徴は、収納している間は時間が経過しないことだろう。そのおかげでいつでも温かい飯が食えるし、作り置きもできるし、買いだめしておくこともできる。俺も使えるようになったよ。かなり高価だがストレージングを付与させた魔導具もあるらしいから、それなりに使ってる人はいるらしい。


 ちなみに昼飯はパンとグラス・ボアの肉の腸詰め、サラダ、それとスープだ。


「それにしても、昨日も思ったが、この世界の飯って俺の世界の飯と似てるな」

「そうなの?」

「ああ。この腸詰め、俺の世界にあるソーセージっていう食い物とほとんど同じだ。少し味が薄いけど、それぐらいしか違いがわからないな」


 腸詰めは昔からあるポピュラーな食い物らしいけど、塩はもちろん香辛料なんかもけっこう使うから、昔は高価だったんだったか?


「へえ、そうなんだ。でも食事に関しては、大和の世界にも負けてないって思うわよ?」

「なんで?」

「過去の客人まれびと達が、文字通り心血を注いでいたと言われているのよ」


 なるほど、納得した。

 元の世界の歴史とか小説とかだと、食生活は今と比べると質素というか、味気ないものだったそうだが、これはヘリオスオーブでも同じだったらしい。さすがにそれは香辛料をふんだんに使い、様々な味で暮らしてきた客人にはとても辛い。俺でも同じことをする。

 もっともザックだけではなく、今じゃプラダ村でもそれなりに香辛料は手に入るみたいだから、ヘリオスオーブの料理はけっこう発展しているみたいだ。

 というわけで俺は感謝を込めて、客人の血と汗と涙と努力の結晶である料理をいただくことにしよう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ