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06・魔物の進化

 ザックからフィールまでは、獣車を使えば三日ほどだが、徒歩だと四日から五日ぐらいかかる。徒歩だと場合によっては野宿をせざるをえないが、獣車だとエモシオンという大きな街、北にあるプラダ村に宿泊することができる。進路上にあるエモシオンと違ってプラダ村は少し寄り道することになってしまうが、宿で一泊することができるため、フィールに向かう人達はほとんどがプラダ村に宿泊するそうだ。

 俺達としても野宿は避けたい事情があるから、エモシオンの街を出た俺達はそのプラダ村に向かっているところだ。


 あ、今は真夏で、ヘリオスオーブの暦だと7月15日ってことになってるぞ。夏は日が長く、冬は短いってのは地球と変わらないみたいだな。


 そういうわけでエモシオンを出発してから三時間程は、特に問題もなく進めていた。だけど森が見えてきた辺りから、こっちにはグラバーンがいるのに魔物の襲撃頻度が激増しているんだよな。


「またグラス・ウルフか。この辺りに多く生息してるとはいえ、こうも頻度が多いとうんざりするわね」

「気持ちはわかるな。確かグラス・ウルフって、皮は鎧の素材になるけど、他は使えないんだったよな?」

「無理ね。肉も硬くて不味いし、牙だって脆いから使い道は皆無。その皮だって何枚も重ねてやっと鎧として使えるようになるんだから、ハンター用っていうよりクラフターズギルドの入門用って意味合いの方が強いわね」


 魔物にもランクがある。ランクはギルドと同じ鉱物名になっていて、グラス・ウルフは下から二番目のIランクだ。

 魔物のランクとハンターランクはイコールではないが、同じランクならばレイド、ヘリオスオーブじゃパーティーのことをレイドっていうんだが、それを組めば倒すことは難しくはない。

 だが魔物にも個体差があるし、何より群れを組む魔物の場合だと多数を相手取らなければならない可能性が高いため、少数レイドでの討伐は推奨されていない。数の暴力も怖いが稀に上位種っていう1ランク上の魔物、希少種や異常種っていう2ランクや3ランク以上も危険度が跳ね上がるのが出てくることもあるそうだ。


「ということは、別に皮はいらんな。かといって、このまま捨て置くわけにもいかないんだろうが」

「ええ。面倒だけど回収して、フィールのハンターズギルドで売っぱらうしかないわね」


 既にグラス・ウルフは、俺の水性B級広域対象系術式コールド・プリズンで倒し終わっている。皮が素材になるって聞いてたから頭だけ氷らせたらそれだけで終わっちまったんだが、プリムの話を聞いてると回収するのも面倒になる。


 だが魔物の死体は回収するか、体内の魔石を取り出さないと、アンデットとして再生することがあるらしい。そうなったらそうなったで面倒なことになるから、基本的に魔物の死体は放置しないか、しても魔石だけは取り出すことを義務付けられている。


 とは言ってもIランクの魔石は小さすぎて、Tランクの魔石ともども魔導具の触媒にもなりにくい。一応電池みたいな感じで使うことができるから対応してる魔導具には使えるんだが、当然使い捨てなわけだから単価は安く設定されてて、買い取り価格も安い。

 そのくせグラス・ウルフは雑食で畑とかを荒らす害獣でもあるから、討伐依頼は常に出ている。報酬も安いくせに新人ハンターには荷が重いから、毎年犠牲になるハンターは後を絶たないっていうのも頭が痛い問題だ。しかもIランクじゃ最上位になる魔物だから、好き好んで討伐するハンターは少ない。

 そもそもIランクやTランク魔石を狙うなら、グラス・ボアっていうイノシシみたいな魔獣の方が弱いし、肉もそこそこ美味いから人気がある。あと人気があるのは、同じく肉目的でホーン・ラビットか。角もグラス・ウルフの皮より高値で売れるんだったかな。まあグラス・ボアもホーン・ラビットもグラス・ウルフの餌でもあるから、かち合う可能性も低くはないんだが。


「回収終わり。行くか」


 魔物を回収する際、どちらかは必ずアプリコットさんと一緒に獣車に乗ったままでいることにしている。グラバーンが獣車を引いているとはいえ、もともと草食で大人しい魔物だから怒らせなければ危険は少ないってことは魔物も知っていることだ。基本的に獣車の牽引や騎乗の調教しか受けてないから、あまり無茶はさせたくないしな。


 ちなみにグラバーンはBランクだそうだから、盗賊達は迂闊に手を出しては来ない。

 盗賊にもピンからキリまでいるがグラバーンを単独討伐できるような盗賊は数えるほどしかいないらしいし、ドラゴンの亜種だけあってブレスを吐くこともできるから、たとえSランクハンターであっても進化してなければ危険だと言われているそうだ。


 グラバーンはドラゴン系バーン種っていう魔物でドラゴンの亜種になる。バーン種ってのはシーバーン、ワイバーン含めてほぼ全種が人間に飼われてるらしい。もちろん野生種もいるが生息地が限られているし、あんまり人間に警戒心を持ってない上に餌を与えれば簡単に捕まえたり従魔契約ができたりするし、中には子育てのためにあえて人間の村や町に出向くやつもいるって話だから、小さな村でもバーン種を飼ってる所は少なくないそうだ。


「それにしても、やけに魔物が多いわね。まだ半分も進んでないっていうのに、4回も襲われるとは思わなかったわ」

「同感だが、確かザックでグラス・ウルフが大量発生まではいかないが、そこそこ増えてるって話は聞いた覚えがあるな」

「その噂なら私も聞いたわ。なんでも上位種のグリーン・ファングを見た人がいるとか」

「グリーン・ファングって普通に異常種じゃない。そんなのがいるんなら、確かにグラス・ウルフが増えててもおかしくはないわね」


 異常種ってのは体がデカく、力も魔力も桁違いに強い魔物のことで、突然変異みたいなもんだ。生まれてくる理由としては、魔力溜まりみたいなとこから受けた魔力によって進化しただとか、該当の魔物の数が増えすぎたせいで生態系が乱れないようにまとめ役として進化しただとかけっこう色々と言われているが、進化していること以外はっきりとしたことはわかっていない。


 グリーン・ファングってのはウルフ種の異常種で、風属性ウルフの異常種ってことになるそうだ。

 グラス・ウルフはIランク、グリーン・ウルフはCランクの魔物で、その異常種になるグリーン・ファングはSランクに該当し、群れのことを考えるとハイクラスに進化しているSランクハンターでも少数では危険度が高いんだったか。そんな魔物がいたら、おちおち町の外に出ることもできないよな。


「となると道中は、盗賊よりそっちの方を警戒しとかないとマズいか」

「そうね。ハイクラスハンターでも単独討伐は無理って言われてるし、そんな魔物がいたんじゃ盗賊だって逃げ出してるでしょうからね」


 異常種は好戦的だって話だから、見つかったら確実に襲われる。そして盗賊は町に入ることはできないから、森や洞窟なんかにアジトを作っている。そのアジトは常に魔物に襲われる可能性があるから、危険な魔物が出没したら盗賊だって逃げるのが普通だ。


 町や村も危険なことに変わりはないが、魔物除けの結界が円状に張られている。どんな原理かはわからないが、その結界には一部の例外を除いて魔物は近寄らないため、結界内の町や村は外に比べれば安全に過ごせる。一部の例外っていうのは稀に起こるっていう魔物の氾濫や従魔、召喚獣、そしてグラバーンみたいに大人しい魔物だな。どうやって見分けてるのかはわからんが、敵意でも見分けてるんじゃないだろうか。


「そういや気になってたんだが、人間はレベルが上がれば進化するが、魔物は進化しないのか?」

「するわよ。話に出たグリーン・ファングだって、グリーン・ウルフから進化した魔物だって言われてるわ」


 やっぱりかよ。人間が進化するんだから魔物だって進化するだろうと予想はしてたが、そうなると異常種ってのは人間でいうハイクラスか、ひょっとしたらエンシェントクラスに該当するのかもしれないな。


「その考えで間違ってないと思うわ。実際、そんな説があったはずだから」

「ん?それってつまり、例えばそのグリーン・ファングやグリーン・ウルフは元々はグラス・ウルフとして生まれてきて、狩りとかしてる間に進化してそれらになったってことか?」


 ウルフ種はグラス・ウルフ、グリーン・ウルフの他にもシルバー・ウルフ、ブラック・ウルフなんてのもいるし、砂漠に生息するデザート・ウルフや雪原に生息しているスノー・ウルフ、ホワイト・ウルフなんてのもいる。グラス・ウルフは草原に、ウッド・ウルフは森に、そしてグリーン・ウルフはその両方に生息しているからその2種の上位種ってことになっているが、普通に考えれば上位種は生まれた時から上位種のはずだ。


「希少種や異常種はそうみたいね。ただ元の種族がわかるような名前を付けられることが多いから、今回のグリーン・ファングも元はグリーン・ウルフ系だってことは間違いないはずよ」


 またややこしいな。つまり上位種は生まれた時から上位種だが、希少種や異常種は進化してその姿になったってことだから、全ての個体が希少種や異常種に進化する可能性があるってことか。ますますもって希少種=ハイクラス、異常種=エンシェントクラスって説が正しいような気がしてくる。


 あれ?ってことはもしかして、従魔なんかも進化する可能性があるってことか?


「なあ、ってことは従魔だって進化する可能性があるってことだよな?」

「ええ。数は少ないけど、そんな話は聞いたことがあるわ。だけどそれが……あっ!」

「どうかしたの?」

「ええ。オネストが進化すれば、戦力に不安があるって言われたオネストだって十二分に戦力になるんじゃないかなと思って」


 従魔だって魔物に分類されるんだから、進化しないわけがない。そう思ってたらやっぱり前例があった。とは言ってもさすがに従魔を進化させるのは大変だし、何より条件がわかっていないから、今までは偶発的に進化したものだったらしい。やっぱ簡単じゃないか。

 ちなみに進化して希少種になったグラバーンは、グラバーンロードっていう種族になるそうだ。

 ま、急いでるわけじゃないし、フィールに到着するまでに進化できるわけもないから、オネストを進化させるにしてもゆっくり気長にやっていくとしますかね。


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