表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/105

05・グラバーン

 昨夜はよく眠れなかった。いきなり異世界に転移して、戦闘に巻き込まれて、獣人貴族の護衛を依頼されてと怒涛の展開だったな。ザックまでの道中は護衛ってことで気が張ってたし、お互いに聞きたいことが山ほどあったから、考えるっていうより状況説明、把握で終わった。

 だがザックに到着し、宿に入って飯を食ってから一息つくと、それらの問題が一気に降りかかってきた。プリムとアプリコットさんが風呂に入って俺一人になってしまったことも、考える時間ができてしまった理由だ。


 かつてこの世界へやってきた客人達が例外なくヘリオスオーブで亡くなっていることから考えても、俺が元の世界に戻る方法はない。俺がヘリオスオーブにやってくることになった原因を一晩考えたが、やはりどう考えても元の世界にある。少なくともあれと同等のものを見つけない限りは無理だろう。

 だが探すにしても、無一文じゃまず無理だ。アプリコットさんの依頼でフィールっていう町まで護衛し、ハンター登録もすることになったし、盗賊退治の懸賞金も入ったから当面は問題ないだろうが、だからって何もしないわけにはいかない。

 そのためにザックにある武具屋で、俺とプリムの装備を購入したところだ。


「あれだけ悩んでたのに、結局はオーソドックスな片手用直剣にしたんだ」

「本音を言えば、反りがある片刃の剣が良かったんだけどな。だけどフィールについたら魔銀ミスリルの武器を買うわけだから、このアイアンソードでも十分だと思ったんだよ」


 俺は刻印術やマルチ・エッジを生成できることから、武器はいらないって言ったんだが、護衛として素手というのはマズいと反論された。もっともだし、必要なことだと理解したから、とりあえずアイアンソードを買うことにしたんだが、元の世界で剣術を習っていた身としては、やはり日本刀が欲しかったというのが本音だ。

 だが異世界で日本刀といっても伝わらないだろうし、何より先を急ぐ旅でもあるからじっくりと探すこともできない。それにフィールで魔銀ミスリル製の武具を買うつもりでいるから、間に合わせとしては十分だ。同じ理由で、防具の購入も見合わせてある。


 ちなみにプリムも同じ考えなんだが、俺と違って武器を生成したりはできないから、念のためにと予備にアイアンスピアを購入している。


「まあ間に合わせだし、フィールまでもってくれればそれでいいしね」

「ああ。それに日本刀の製造方法ならある程度は知ってるし説明もできるから、フィールで頼んでみるのも手だと思ってるよ」


 そう、俺の持っている刻印具には、電子書籍や教科書なんかも入ってるし、いくつかゲームもインストールされている。だが刻印具は電子機器だから、当然電池が切れれば使うことができなくなる。と、お思いだろう。


 だがその問題は、何十年も前から既に解決されている。刻印具は刻印術を使うことを大前提に製造されているため、いざというときに電池切れで使えませんでした、ではお話しにならない。つまり印子(魔力)を流すことでも使えるように作られているわけだ。

 さらに俺が持っている多機能情報端末状刻印具は、特別製でもある。印子を電力に変換することで簡易充電ができ、刻印化プログラムをフルスペックで使うことができる。試作品だからということで採算度外視で作られたこともあって、かなり高性能な刻印具になっている。


 その刻印具には、師匠から刀剣に関するデータを入れられてあるから、資料に関しては問題ないと言える。剣術を学ぶためには剣の構造や歴史、製法も知っておく必要があるってことで昔っから叩き込まれてたから、半分ぐらいは覚えちまったが。


「それはそれで面白そうだけど、いきなり頼んでも作ってはくれないんじゃない?」

「だろうな。まあ日本刀は俺の好みというか、趣味っていう部分も多々あるから、焦らずに考えるさ」


 魔力で強化もできるから、実用性も高いとは思う。魔銀ミスリルは軽いそうだから、取り回しも楽にできるだろうな。まあ俺には刻印法具があるから、どうしても欲しいってわけでもないんだが。


「それじゃあ馬を買ってから出発しましょうか」

「そうだな。というか、御者とかはいいのか?」

「うわ、そうだったわ……。馬には乗れるけど獣車なんて操ったことないし、雇ったほうがいいのかしら?」


 まあ、貴族のお嬢様、というかお姫様だったんだからそうだろうな。雇うってのが現実的な選択肢なんだろうが、こっちの事情もあるから簡単に雇うのも問題ある気がするな。


「そのことだけど、いっそのことグラバーンを買おうかと思ってるのよ。従魔契約をすれば、道中の私の護衛にもなるでしょう?」

「ああ、その手があったわね。いいかもしれない」

「グラバーンとか従魔契約とか、それ何だ?」

「グラバーンは地竜の一種ね。獣車を引かせても、騎獣としても優秀だから、従魔契約をする人は多いわよ。力も強いしね」

「従魔契約っていうのは無属性魔法にある従魔魔法を使って、魔物と契約することよ。それを使えば魔物を一匹だけ、自分の従魔にすることができるのよ」


 なるほど、地竜に、それを使い魔にするための魔法か。


 人間が使役しているドラゴンの亜種は地のグラバーン、海のシーバーン、空のワイバーンがいるらしい。聞けばグラバーンはトリケラトプス、シーバーンはプレシオサウルス、ワイバーンはテンプレタイプっていう感じがする。もちろん細かい違いはあるが、どうやらドラゴンは小説とかゲームとかで有名なドラゴンタイプと恐竜タイプがいるようだ。


 従魔契約ってのをすると護衛にもなるし、意思疎通もしやすくなるから、御者がいなくとも獣車を引かせることもできるようになる。まあその分高いし、餌代とかもけっこうかかるらしいが。


「俺は雇われてる身だから、二人がいいならそれでいいと思うぞ」


 盗賊退治の懸賞金のうち半分はプリムの取り分だが、それでも15万エルはある。予定外の出費には予定外の収入で対応するのがいいと思うんだが、プリムもアプリコットさんも頑として受け取ってくれなかった。グラバーンがいくらで買えるのか知らないが、それでも十分足しになると思うから俺としては受け取ってもらいたかったんだがなぁ。


「なら決まりね。母様、獣舎に行きましょう。良い子がいるといいんだけど」

「そうしましょうか」


 まあ生き物だから、性格の良い方が扱いも楽だよな。そんなわけで俺達は獣舎に向かい、そこで一頭のグラバーンを購入した。初めて見たグラバーンは、本当にトリケラトプスだったから驚いたよ。角は二本だったが、見た目に似合わず人懐っこいやつだ。

 グラバーンの相場は10万エルが平均とのことだが、今回購入したグラバーンは7万エルだった。なんでも血統が良くないそうで、グラバーンにしては力が弱いそうだ。そのため買い手が現れなかったらしい。人懐っこくて大人しいのは魅力だが、道中の護衛戦力の一角を担うグラバーンの力が弱いのは貴族や商人からすれば歓迎されないってのが大きな理由みたいだ。つか血統って、競走馬かよ。


「力が弱かろうと、そんなことは見た目で判断できないし、そもそもグラバーンに手を出す盗賊なんて、切羽詰まってるか倒せるだけの実力を持ってるかのどっちかだから、そこはあんまり気にしなくても大丈夫なのよ。大和君やプリムがいるしね」


 とはアプリコットさんの弁だ。確かに切羽詰まってる連中はともかく、倒せるだけの実力を持ってる盗賊に襲われたら、逃げるのも一苦労だ。だが俺とプリムなら、そこら辺の盗賊なら束になって襲ってきても返り討ちにできる。だからグラバーンの強さってのはあまり考慮しなくてもいいだろうってことみたいだし、そもそもグラバーンを倒せる盗賊がいるなら、ハンターとか騎士団とかが討伐に乗り出してるだろう。街道が危険ってのは、国にとってもハンターズギルドにとっても大問題だからな。


「それじゃあ契約してしまいましょうか」


 そう言うとアプリコットさんはナイフを取り出し、掌に傷をつけ、グラバーンの前足にも傷をつけた。そして傷口を合わせることで血を交わらせ、魔力を流しだした。


「『フォロイング』」


 従魔魔法は魔物と契約するための魔法で、契約するためには自分の血と従魔になる魔物の血を交わらせて、魔力を流す必要がある。そうすることで簡単にだが互いの位置を察することができるようになり、魔法陣による召喚も可能となる。あとは意思の疎通もしやすくなるらしい。

 ちなみに同じく魔物と契約する魔法に、召喚魔法っていうのもあるらしい。こっちは固有魔法で契約できる数も多いそうだが、魔物の世話もしなきゃいけないし餌代もかかるから、名のあるハンターや金持ちでもなければ使いにくい魔法だそうだ。その召喚魔法で契約した魔物は召喚獣と呼ばれているんだとか。


「これでよし。あなたの名前はオネストよ。よろしくね」


 アプリコットさんがグラバーンに名前を付けると、それぞれの傷が跡形もなく消えて、オネストと名付けられたグラバーンは一声鳴くとアプリコットさんに甘えるようにすり寄った。


「あとは獣具を付ければ、いつでも出発できるわね」


 契約が終わったことを確認すると、獣舎の人がオネストに獣具を取り付け始めた。獣車を引いてもらうことが前提なわけだから、当然獣具も購入しているぞ。

 おっと、どうやら終わったようだ。宿で昼飯も買ってきてあるから、これでいつでも出発できるな。この世界にはストレージングっていう収納魔法にミラーリングっていう拡張魔法、それらの魔法を付与したマジック・バッグっていう魔導具があるから、出来立ての料理を収納して旅先で食べることも簡単にできる。本当に便利な魔法だよな。

 誤解されがちではあるが、ストレージングやミラーリングは空間に作用する魔法だから、本来は無属性じゃなくて空属性になるそうだ。


「それじゃあ出発しましょうか。よろしくね、オネスト」


 元気よく一声上げたオネストを優しく撫でながら、アプリコットさんが目を細めた。相性もいいみたいだし、問題はなさそうだな。

 オネストの餌を購入し、俺達はザックの町を後にした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ