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03・四大種族

 あれから特に襲撃もなく、俺達は国境を越えてザックの町に入った。


 ザックの街並みは中世ヨーロッパといった感じの街並みで、建物も石造りだ。だが何より驚いたのは、町の入り口に備え付けられている公衆トイレの存在だ。驚いてプリムに聞いてみたんだが、どうやら約百年前にやってきた客人まれびとが、多大なる苦労の果てに完成させた魔導具で、導入のための法整備まで整えられているらしい。


 ヘリオスオーブは過去にも何度か俺の世界から客人が来ていたことがあり、トイレは魔法で、排泄物だけではなく臭いまで分解している。だからアミスター王国では、どこの町でも臭いに悩まされることはない。その客人が暮らしていたというアミスター王国では、かなり早い段階で法律が制定され、国から補助金まで出ている。逆にトイレをちゃんとしていなかったら、処罰の対象になるぐらいだ。

 他国ではそこまでしっかりと法整備がされてはいないが、それでもフィリアス大陸全土で施工されている制度でもあるから、町中でブツや臭いに悩まされたことはないそうだ。俺としてはありがたい限りだが、トイレを作った客人がどれだけ大変だったか、その苦労は察して余りある。ちなみにその客人は女性で、アミスター王家に嫁いだらしい。


 それはともかくとして、元々プリム達はバリエンテ側の国境の町ポルトンを避けてアミスターに入る予定だったが、刺客と盗賊に馬を殺されたこともあって、早急に調達する必要性がでてきた。

 だが俺が魔石に刻印術を刻印化させたことで、馬がいなくとも獣車を動かすことができるようになり、ポルトンで馬を調達する必要がなくなった。いや、調達しなきゃいけないんだけど、危険を冒してバリエンテ内で調達する必要はなくなった。その分俺の魔力は消耗するが、俺としても危険を冒す必要性は感じられなかった。

 というわけで俺達は国境を越え、アミスターに入ることになったわけだ。国境っていっても20世紀にあったらしい国と国を完全に遮断していた壁があるわけでもなく、結界とかが張られているわけでもないから、越えることは簡単だ。旅とかしていると、一番近い町が隣国だったなんて話も、国境付近じゃ珍しい話じゃないらしい。

 ポルトンを避けた理由の一つに、既にハイドランシア公爵処刑の報は伝わっているだろうという推測もある。ポルトンを含むバリエンテ北部はバリエンテ獣王の圧政に反抗しているそうだが、ハイドランシア公爵の処刑によって状況が変わっている可能性があるんだそうだ。


 バリエンテ連合王国は六つの地方から成り立っており、中央の東側を王家が治め、中央西側と東西南北の地方を王爵おうしゃくという公爵に匹敵する地位の貴族が治めている。

 元々バリエンテ獣人連合国は、隣国のアミスター王国から三百年ほど前に割譲されてそれぞれ建国したそうだが、当時は王爵がそれぞれの国の王として治めていたらしい。だが二百年前に王位継承問題や食糧問題、資源問題などによって戦争が起こり、このままではアミスターにも飛び火すると判断した当時のアミスター王が仲裁に乗り出し、七ヶ国の王による会談が行われ、連合国にすべく議論が行われた。

 当然誰が連合国の王になるかということも話し合いが行われたんだが、国の中心は中央に置くべきだとの判断から現バリエンテ王家が治めていた中央東側の国が王家となり、中央西側と東西南北の王達は王爵という貴族になり、さらには地方分権制によって地方を治め、王と王爵の合議制によって運営していくことに決まった。このため王爵は王家の分家である公爵に匹敵する権力を有している。

 とはいっても王爵家は王位継承権を持たず、逆に王位継承権を持つ公爵家との権力差は年々開いてきており、王爵も辺境伯より少し下程度の扱いになり、中央府セントロと地方都市の格差問題が表面化しはじめてきた。


 そのことに問題を感じたのが前獣王で、プリムの祖父に当たるそうだ。前獣王は王爵の地位が侯爵よりも下に見られ始めていること、地方を虐げる中央の貴族が多いことを憂い、連合国の成り立ちを持ち出し、中央西側の王爵とともに王爵の復権に努め、その結果地方都市もセントロ並とはいかないが、以前より発展し、王爵もかつての地位を取り戻すことになった。


 だが中央の貴族達はそれを快く思わず、前獣王の崩御によってついにその不満が爆発した。その結果王位に就いたのが今の獣王ギムノス・バジリウス・バリエンテだ。

 ギムノスは王位継承権第三位だったそうだが、前王と同じく地方へ目を向ける王太子を暗殺し、ハンターとして活動していた第二王子を廃嫡し、さらにはバリエンテ王家初の翼族ということで期待と評判の高かった継承権第四位のプリムを娶ることで、国内外の不満を収めつつも実権を完全に握ろうと企んだ。


 それをプリムの父であるハイドランシア公爵はギムノスを痛烈に批判し、プリムとの婚姻も決して認めなかった。元々プリムは結婚するなら自分より強い男と、って公言してたそうだし、三人の王爵がハイドランシア公爵を支持したこともあって、一時は内戦寸前状態になっていたそうだ。

 状況が変わったのは代替わりした南の王爵がハイドランシア公爵を裏切り、ギムノスに身柄を渡してしまってからだ。ハイドランシア公爵は獣王に身柄を引き渡されてすぐに処刑され、プリムとアプリコットさんは慌ててアミスターに亡命することになり今に至る、ということらしい。


「そういうわけだったのか。ってことはプリムは、ギムノスっていう王様を討ち取ったら女王様になるってことか?」


 プリムもアプリコットさんも、いかにも貴族といったドレスを着ていたが、さすがに目立ちすぎるから、ザックに入る前に着替えている。プリムは関節や急所あたりを鉄板なんかで覆っているバトルドレスと呼ばれるものを、アプリコットさんは装飾を控えめにした、地味だが落ち着いたデザインのドレスだ。


 国によって多少の違いはあるが、町に入るためには身分証を掲示し、税金として100エル支払う必要がある。アミスターだと王都や地方都市、国境の町がその対象で、目的地のフィールも該当する。身分証は国やギルドが発行しているものかライブラリーでいいんだが、俺は身分証なんて持ってないし、プリムとアプリコットさんもバリエンテの身分証を使うわけにはいかないからライブラリー一択だ。見せたくない称号は隠すことができるから、俺が異世界から来たことや、二人がバリエンテの公爵家の関係者だと知られるリスクは減らせる。名前でバレる可能性はあるが、自分の国の貴族の名前だって知らない人は多いってことだし、他国の貴族と同じ名字のハンターもいないわけじゃないから、そこは何とかなりそうだ。


 ついでってわけじゃないが、盗賊達のライブラリーも提出して、査定を行ってもらっている。まあ提出って言っても、実際に出したのは盗賊の死体なんだけどな。あ、ザックまでの道中でストレージングの魔法は使えるようになったから、盗賊どもの死体は俺のボックスに移しましたよ。


 なんでもこいつら、アミスターとバリエンテの国境付近で問題になっているハンター崩れだったそうだ。平均レベルは38、頭目なんて45で進化までしてやがったから既にかなりの被害がでていて、ザックとポルトンでは大きな問題になっていた。事実、討伐して王の発言力を高めようとしたバリエンテが王家直轄騎士団を派遣したが、返り討ちに会い全滅している。

 そんな連中だったとは思わなかったが、おかげでかなりの額の懸賞金がかけられており、しかも今回は名目上は俺一人で討伐したことにしなければならないため、俺に手渡された金額は総額で30万エルを超えている。


 通貨に関しては、エルってのがこの世界の単位だ。貨幣は下から銅貨どうか青銅貨せいどうか銀貨ぎんか魔銀貨まぎんか金貨きんか白金貨はくきんか神金貨しんきんかとなり、銅貨が1エル、あとは10枚単位で上の貨幣に両替可能とのことだ。聞いた話からの推測だが、どうやら1エル=10円ぐらいな感じがしたな。つまり神金貨は100万エル=1千万円というとんでもない大金になる。さすがに白金貨と神金貨はほとんど流通してないそうだが。


 ちなみに魔銀はミスリル、神金はオリハルコンのことで、この世界じゃ実在している。他にも青くて重い金剛鋼アダマンタイト、ミスリルと水晶を足して二で割ったような晶銀クリスタイトっていう鉱石もあるそうだ。


「まさか。そもそもあたしは王位になんて興味はないし、今でもハンターになりたいって思ってるのよ。もちろんギムノスは討ちたいけど、その後はレオナスが王位に就くか、いっそのことバリエンテの地をアミスターに返還してもいいかもしれないわね」


 俺達が今いるのは、ザックで一番高い宿の、一番高い部屋だ。ペントハウスになっていて広いリビングに、バス・トイレ完備、個室が五つあり、ベッドもある。ハウスルームっていうそうだが、どんなランクの宿にも必ずあって、一流の高級宿ともなると十部屋以上あることも珍しくはないそうだ。ちなみに一泊食事つきで一人400エル。そこそこの宿が一泊60エル程度で、5,000エルあれば四人家族が一月は暮らせるそうだから、かなり高いということがわかる。


 で、プリムの話に出てきたレオナス・フォレスト・バリエンテとやらだが、廃嫡された第二王子で当時はハンターとして活動していたため、前獣王崩御の際は国にいなかった。それを廃嫡の理由にされたわけだが、今はギムノスに反抗するために戦力を集めているところらしい。この王子様もプリムと同じく王位に興味はないってことだから、そこがギムノスの付け入る隙になったってことなんだろうな。


「と、お嬢様はおっしゃってますが、お母様としてはどうなんです?」

「いいんじゃないかしら。プリムに向いているとは思ってないし。そもそも自分より強い男でなければ結婚しないと公言してるのだから、後継問題に困るしね」


 ザックまでの旅路で、アプリコットさんもだいぶ言葉遣いが砕けてきた。だけど後継問題か。確かにそれは困るよな。ハイドランシア公爵家としてはそれでも良かったそうなんだが、一国の女王ともなればそうはいかないからな。


 さて、ここで種族の話をしよう。


 ヘリオスオーブには人族ひとぞく獣族けものぞく妖族あやかしぞく竜族りゅうぞくの四種族が暮らしており、その種族もいくつかの種族の総称になっている。


 まずは人族で、ここには俺と同じヒューマンやエルフ、ドワーフが含まれる。


 ヒューマンは黄色人種がほとんどで、他種族の血が入ることで白人種や黒人種になることもあるそうだ。ゲームや小説なんかでもよくあるが、特徴らしい特徴がない種族だな。ちなみに俺はハイヒューマンとやらになっていたが、普通のヒューマンより肌の色が白く、魔力が多く、寿命が長くなってるそうだ。


 次にエルフ。白色人種のライトエルフ、褐色人種のダークエルフからなり、耳の先端が長く尖っている。風や木々、精霊との親和性が非常に高い反面、身体能力はヒューマンに僅かに劣る。ちなみにライトエルフもダークエルフも、肌の色以外明確な違いは一切なく、その呼び方も何百年か前の客人まれびとが広めたっていうだけの理由なんだそうだ。ハイエルフに進化すると、肌の色はライトエルフよりも白くなるらしい。


 そしてドワーフ。これも小説やゲームなんかとほとんど同じで、手先が器用かつ酒飲み種族だ。褐色肌で身長は平均150センチと低いが力が強く、物作りと酒に命を懸けているといっても過言ではないらしい。まあどこにでも例外はいるわけだが。あ、髭は男のドワーフにとって一人前の証らしく、修行中の見習いは生やすことは認められないんだと。ハイドワーフになると肌の色が薄くなるみたいだ。


 獣族。この種族はプリムやアプリコットさんみたいな獣人を指し、フォクシーの他にウルフィー、リクシー、タイガリー、ラビトリー、アルディリーが含まれる。獣の耳と尻尾を持ち、さらには五感が優れている。どの感覚が優れているかは種族によって異なっている。


 フォクシーは狐の獣人で、肌の色はヒューマンに近い。毛色はプリムのような白とアプリコットさんのような黄色のどちらかになるそうだ。あと聴覚と嗅覚が鋭いらしい。


 狼の獣人がウルフィーで、肌の色は白く、毛色は黒か灰色だ。感覚は嗅覚と視覚が鋭い。


 猫の獣人がリクシーで、毛色は白、黒、茶色の単色か混合と、地球の猫と同じく模様なんかも千差万別のようだ。しかも肌の色も白、褐色、黄色のいずれかなので、獣族の中じゃ一番バラエティーに富んだ種族になっている。感覚は視覚と触覚が鋭い。


 タイガリーは虎の獣人で、肌の色は褐色、毛色は白か黄色に黒いトラ縞になっている。感覚は触覚と嗅覚が鋭い。


 兎の獣人ラビトリー。肌の色はヒューマンやフォクシーと同じで、毛色は白か茶色。感覚は聴覚と視覚が鋭い。


 そしてリスの獣人アルディリー。肌の色は白く、毛色は茶色か灰色。感覚は嗅覚と視覚が鋭い。


 獣族共通だが、ハイクラスになると毛色に光沢が現れるそうだ。


 妖族あやかしぞく。この種族は少し特殊で、通常は人間とは異なる姿の人が多い。ヴァンパイア、ピクシー、ラミア、ハーピー、ウンディーネの五種族からなっている。


 ヴァンパイアはまんま吸血鬼で、青白い肌をしている。耳はエルフよりは短く、犬歯が発達しており血を吸うことができる。といっても血は嗜好品だから飲まなくても平気だし、苦手なヴァンパイアもいるとのことだ。今は魔物の血で作ったワインが流行ってて、ヴァンパイア以外にもかなりの人気を誇ってるとか。あ、ハイヴァンパイアになると肌の色が白みがかった青になるらしい。


 フェアリーは妖精で、平均身長130センチとドワーフより小柄な種族だ。見た目は小型化したエルフで、背中には小さな羽が生えているが空を飛ぶことはできない。少し浮くぐらいならできるらしいが、けっこう大変なんだとか。魔力が高く、体系化されている魔法ならほとんど使えるらしい。ハイフェアリーになると肌の色は白くなる。


 ラミアは下半身が蛇で、褐色肌をしている。耳は尖っているが、ヴァンパイアより短い。尻尾、というか下半身は2メートルが平均とけっこう長い。ハイラミアになると赤みがかった褐色肌になり、鱗に光沢が現れる。


 ウンディーネは下半身が魚であり、耳は魚のエラみたいになっている。黄色人種ベースらしいがけっこう白く、ハイウンディーネになると若干青みがかった肌色になり、鱗に光沢が現れる。


 ハーピーは両腕が羽になっており、両足に鈎爪を持っている。腕翼は普通に飛べそうなくらいの大きさだが、できるのは滑空ぐらいで自在に飛ぶことはできない。だが鉤爪で武器を持つこともできるため、唯一空中戦ができる種族とされているそうだ。耳はエルフより短いが、羽毛が生えている。ハイクラスになると羽と鱗に光沢が現れる。


 なおラミア、ウンディーネ、ハーピーは生活のために人化魔法という魔法を使える。その人化魔法も魔力の関係でレベル5~7ぐらいにならないと使いこなせないし、必ず人化魔法を使わなければならないわけではない。実際ラミアは使わなくても生活できるが、ウンディーネとハーピーは使わないと日常生活に支障がでるため、使う人の方が多いらしいが。

 またどれだけ熟練しても下半身の鱗、腕の羽毛を完全に消すことはできない。さらに妖族は、女性だけの種族となっている。ヴァンパイアぐらいは男がいてもいいと思うんだけどな。


 最後に竜族。この種族は数が少ないが、ドラゴニュートとドラゴニアンの二種族からなっている。ドラゴニュートはドラゴンの子孫であるとされ、ドラゴニアンは元ドラゴンだ。

 どちらも竜の角、翼、尻尾を持っているが、ドラゴニアンの方が若干大きい。とは言っても個人差もあるため、見た目での判断はけっこう難しいらしい。ハイクラスになると角、翼、尻尾に光沢が現れる。

 ドラゴニュートは火、土、風、水、雷、氷、光、闇の8属性のいずれかの属性を宿して生まれてくるため、ライブラリーにもしっかりと表示される。


 ドラゴニアンという種族は、ドラゴンが人間とともに生きていくために姿を変えた存在なので、数人しかいないらしい。

 さらにドラゴニアンの場合は元の種族が反映されるため、種族欄には元になったドラゴンの種族もライブラリーに表示されるらしい。


 番外として翼族。翼族は翼を持って生まれた者のことを指すため、厳密に言えば種族ではない。しかもハーピーやフェアリー、竜族のように元々翼を持っている種族は含まれないのがややこしい。なんでもその種族の場合だと、元々の翼の他にもう一対、小さな副翼とでも呼べる翼があるらしく、その副翼があれば翼族ということになるんだそうだ。

 翼は余剰魔力でできてるらしく、たとえ傷ついても魔力を流せばすぐに治るし、その魔力を自在に操ることができるんだそうだ。九尾の狐や猫又のように尻尾が多いほど魔力が強いっていう理屈とほとんど同じで、このヘリオスオーブではそれが翼だというだけのようだ。

 翼族の翼は、多くの場合は天使の翼のようだが、ハーピーやドラゴニアンのように元々翼がある種族の場合はそっちの翼になるし、蝶や妖精の羽って人もいるらしいから、どんな翼かは生まれてこないとわからないそうだ。まあドラゴンに天使の翼や蝶の羽ってのも違和感が半端ないしな。

 その翼族、だいたい千人に一人と言われるぐらいの低確率でしか生まれてこないらしいんだが、魔力がかなり高く、多くの国で優遇されている。翼族というだけで国の重要機関に招き入れる国もあるらしい。


 さらにこの世界には進化という概念があり、レベル41以上になるとハイクラスと呼ばれるクラスに進化することがあるそうで、俺と同じヒューマンはハイヒューマンに、エルフはハイエルフになる。見た目はさほど変わらないが魔力が増大し、寿命が延び、戦闘力も飛躍する。同じレベル41であってもハイクラスとの差は明確で、だいたい5レベルは違うとされているそうだ。もちろん全員が進化しているわけではないが、レベルが上がれば進化しやすくなるそうだし、レベル50になったらほとんど強制的に進化するそうだ。

 今のヘリオスオーブには、一人だけレベル70の壁を越えた人がいるんだが、この人はその上のエンシェントクラスっていうのに進化しているらしい。先祖返りかよと思うが、ゲームとか小説とかでもエンシェントと名の付く種族はシャレにならんぐらい強かった気がするな。


 子供に関してだが、生まれてくる子は片親と同じ種族になることが多いんだが、稀に両方の特徴を持ったハーフが生まれてくる。地球でも有名なのはヒューマンとエルフの間に生まれたハーフエルフだが、ヘリオスオーブだと組み合わせが多すぎるため、ライブラリーの表示も少しややこしいことになっている。

 例としてヒューマンとエルフから生まれたハーフは『ヒューマン・ハーフエルフ』か『エルフ・ハーフヒューマン』、ドラゴニュートとタイガリーから生まれたハーフは『ドラゴニュート・ハーフタイガリー』か『タイガリー・ハーフドラゴニュート』となり、どちらの種族が基本になっているかは生まれてこなければわからない。だからハーフエルフだけじゃなく、ハーフヒューマンやハーフドラゴニュート、ハーフハーピーなんて言葉もある。

 なんともややこしい話だが、さらにややこしい話が妖族やドラゴニアンを親に持つ場合だ。

 妖族は女性だけの種族ということもあり、生まれてくる子はハーフを除くと必ず母親と同じ種族、かつ女の子になるそうだ。

 ドラゴニアンの場合は片親と同じ種族かドラゴニュートになり、ハーフは生まれない。


 さらに一般でも一夫多妻が浸透しているが、これはヘリオスオーブ全土で女性比率が高いことが理由となっている。しかも女性は妊娠、出産、育児で仕事の第一線から離れることがあるが、男はそんなことはないため、騎士や兵士、ハンターみたいな死亡率の高い仕事にも就かなければならないし、盗賊も男がほとんどだ。そのせいもあって男は少ないのに死亡率が高いという事態になっている。

 そういうわけでアミスター王国では平民が貴族と結婚することも、さほど忌避されてはいない。特に跡取りが女性だった場合は婿を取らなければ断絶してしまうし、年の近い男貴族がいないなんて場合もあるんだから、忌避なんてしてられないってことみたいだ。確かにそれで家が滅んだら本末転倒だからな。


 そんなわけでザックに入って一番驚いたのは、町を歩いてる人のほとんどが女性だったことだな。妖族なんて全員女性なんだから、ある意味じゃ当然の結果かもしれんが。

 余談だがハイドランシア公爵もアプリコットさんの他にもう一人奥さんがいたが、五年ぐらい前に病気で亡くなっているそうだ。子供もいなかったから、プリムをすごく可愛がってたって言ってたな。


「さて、もう遅いし、お風呂でも入って寝ましょうか」

「それがいいわね。母様、一緒に入りましょう」


 この世界も一日は24時間で、一週間は7日で、一ヶ月30日、一年は12ヶ月360日と少し短いが、電気はない。そのため就寝時間は早く、遅くとも9時にはほとんどの人が床に入る。灯りの魔導具を使っている繁華街でさえ、日付が変わる前には静かになる。今の時間は7時過ぎだから俺からすればまだ寝るには早いんだが、プリム達にとってはいつも通りの時間になる。

 ちなみに風呂もトイレ同様、百年前の客人がもたらしたらしい。俺も後で入るかな。


「大和、覗いたら殺すわよ?」

「わかってるよ」


 そんな命知らずなことをするつもりはないな。それにようやく現状ってやつが理解できてきたから、落ち着いて整理しておきたい。それに道中で教えてもらったのはギルドや種族、通貨のことだけじゃなく、魔法もある。残念ながら刻印術みたいに明確に体系化されてるわけじゃなく、空間魔法や聖魔法、無属性魔法がいくつか体系化されてるだけだったが。まあストレージングやライブラリング、回復魔法に強化魔法なんかは便利だけどな。


 魔法は火、土、風、水、木、石、雷、氷、光、闇、聖、空、無の13属性からなっているんだが、聖、空、無属性以外の魔法は体系化されていない。そのため火魔法は火の球を投げたり火炎放射みたいに使ったり、水魔法は放水、光魔法は目眩ましっていう使い方がほとんどだ。威力はレベルによって差はでるが、そこまで大きなものではない。その点じゃ刻印術の方が体系化されてて使いやすいな。

 あとは固有魔法っていう魔法があるらしいんだが、そこまではまだ聞けてないんだよな。まあ個人専用魔法ってことなんだろうが。俺にもあるのかねぇ。

 まあそれはさておき、ここで使っても問題ない魔法もいくつかあるし、少し練習でもしときますかね。

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