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05・アルベルト工房

 まさかいきなり領代から指名依頼がくるとは思わなかったが、聞けば納得だった。亜種とはいえドラゴンの異常種とか、とんでもなさすぎだろ。


 例のエビル・ドレイクはGランクらしいが、ランクだけで言えばGランクの災害種ブラック・フェンリルと同じになる。しかもフェザー・ドレイクやエビル・ドレイクは空を飛んでるから、ある意味じゃブラック・フェンリルよりも厄介だ。救いがあるとすればエビル・ドレイクはデカいし森に棲んでるから、動きを制限されてる可能性があるってことだな。


 だけどドラゴンの亜種だけあって攻撃力も防御力も高く、しかもフェザー・ドレイクは体中に羽毛が生えていて、その羽毛がまた硬いって話だ。その羽毛、滅多に出回らない高級素材って話だから、余裕があったら確保しときたいな。


 今からミーナの案内で、そのアルベルト工房ってとこに行くことにはなったんだが、それでも明日は一日フリーにしてもらったぞ。なにせ今日フィールに着いたばかりだし、ブラック・フェンリルやグリーン・ファングを狩ったのだって今日なんだからな。一日ぐらいはゆっくりさせてもらわんと疲れがとれないし、エビル・ドレイクの討伐に向かったら最低でも一泊、下手したら数日はマイライトに篭りっきりになるわけだから準備だって必要だ。

 アーキライト子爵もそれは理解してくれてたから、明日は準備が終わったらゆっくりさせてもらう予定になっている。話の分かる貴族で助かったわ。


 あの後俺とプリムは、正式にアーキライト子爵の依頼を受け、ブラック・フェンリルとかの買い取り額と報酬を受け取ってからハンターズギルドを出た。

 災害種に異常種の買い取りと報酬だから総額で137万6,700エルとかなり高額になってしまったんだが、それはまたしてもプリムに受け取りを拒否されてしまった。だがレイドを組んだわけだし、これから武器を買いに行くわけだから、俺はレイドとしてのルールを決めることで、ようやくプリムにも受け取ってもらうことができた。


 そのルールは依頼の報酬や買い取り額の半分をレイドの活動資金とし、残り半分を山分けする、といったものだ。依頼の報酬は依頼を受けた者だけが対象だが、買い取り額に関しては倒した者の人数割りとした。最初プリムは、自分一人で倒したのはウインド・ウルフやグラス・ウルフ、グリーン・ウルフが数匹だと言って受け取ろうとしなかったんだが、プリムが足止めをしてくれてたからブラック・フェンリルを倒すことができたってことで押し切った。軽くケンカになってしまったがアプリコットさんに何かを言われてから落ち着いてくれなけりゃ、今もまだケンカしてたかもしれないな。


 今回は計算が面倒だったこともあるから互いに30万エルずつを受け取って、残りの77万6,700エルをレイドの活動資金に回すことにしてある。今後も計算が面倒な場合はレイド資金に回すようにしとくか。

 それと武器の購入費は、自費で出すことにした。いずれは武器だけじゃなく防具も注文してみたいが、どうなるかはわからないからとりあえず保留にした感じだな。さらに活動資金にはザックで受け取った盗賊の報酬もあるから、現時点で100万エルを超えている。


 だからエビル・ドレイクの討伐が終わったら獣車を注文する予定だ。今回は緊急依頼でもあるから獣車を借りているが、元々はハイドランシア公爵家の物だからいつまでも俺達が使うわけにはいかないんだよ。オネストもいるし、アプリコットさんだって使うことだってあるだろうしな。


 アプリコットさんはオネストを連れてフレデリカ侯爵邸へ向かい、獣車はプリムが借りてボックスに入れている。アプリコットさんはオネストの食費ぐらいは払うつもりだったんだが、フレデリカ侯爵もソフィア伯爵もアーキライト子爵も、誰一人として受け取ろうとはしなかった。フレデリカ侯爵もグラバーンを所有してるし、アーキライト子爵はワイバーンを所有していた。ソフィア伯爵なんてバトル・ホースっていう馬型の魔物を何頭も持ってるから、食費や維持費がとんでもないことぐらいは知ってるはずなんだがな。


 バトル・ホースってのは見た目は馬だが蹄が三つに割れてて、そこから爪を伸ばすことができる魔物だ。鬣も長くて見た目もいいんだが、恐ろしいことに馬の三倍は食べるし、しかも肉も食う。

 ソフィア伯爵は伯爵家で使う馬を全てバトル・ホースにしてるから、どれだけ維持費がかかってるのか想像するだけでも恐ろしい。それだけバトル・ホースに愛情を注いでるってことだが、その証拠にソフィア伯爵の愛馬はウォー・ホースっていう希少種に進化してるそうだ。これはかなり有名な話で、ソフィア伯爵はバトル・ホース育成のスペシャリストとして、クラフターズギルドからPランク育成師に認定されている。


「ここがアルベルト工房です」


 そんなことを思い出していると、目的地のアルベルト工房に到着した。アルベルト工房は中央通りからさらに北に進んだ突き当りにあった。

 案内は引き続きミーナが引き受けてくれている。


「へえ。裏はベール湖なのね」

「はい。私も憧れています。こういう家に住んでみたいですよね」


 気持ちはわかるな。いずれは拠点として家を買うつもりでいるから、そん時はこんな感じの家を探すか建てるかしてみるか。


「やっぱりもう閉まってますね」


 入り口に掛けられたクローズの札を見て、ミーナが呟いた。アルベルト工房は武器、防具の販売、修理も行ってるそうだが、ここ数ヶ月は来店するハンターも少ないと聞いている。

 そりゃそうだろ。狩りにも行かないで街の人に迷惑しかかけてないハンターしかいないんだから、武器や防具なんて売れるわけがないし、中にはハンターには売らないって断言してる店まであるそうだ。本当に今フィールにいるハンターどもは、何をやらかしてんだよ。


「ハンターズマスターがフィールのクラフターズギルドに、ハンターの武具を無償で提供するように圧力をかけているんです。ですがクラフターズギルドとしても到底受け入れられないことですから、武器がないことを理由にハンターが狩りに出ないことを正当化してるんです。ですから今フィールにいるハンターは武具店に押しかけては武器を奪っていく始末で、騎士団と何度も衝突しています」


 またハンターズマスターかよ。ハンターズギルドとアミスターの関係を悪化させたいってのは確定だろうが、一体何の目的でそんなことしてやがんだ?


 クラフターズギルドってのは鍛冶師とか工芸師とかの職人組合みたいなもんで、ヘリオスオーブで一番最初に設立されたギルドになる。当初はスミスギルドといって鍛冶とかが中心だったらしいが、武器にしても防具にしても生活に使う道具にしても、鍛冶師だけが作ってるわけじゃないってことで他の徐々に他の職人も集まってきたため、クラフターズギルドと改名した経緯がある。そのため裁縫師や彫金師、育成師、調理師なんかも含まれるそうだ。そういったクラフターズギルドに登録してる職人の総称がクラフターなんだとか。

 ハンターズランクもそうだが、ギルドのランクが鉱物名になっている理由は、最初に設立されたのがスミスギルドだからだと聞いている。


「ハンターズマスターの目的についてはまた考えるとして、問題はハンターどもね。というかここまで来ると盗賊と同じだわ。全員捕縛して拷問にでもかけた方がいいんじゃない?」


 俺もプリムに賛成だな。今フィールにいるハンターどもは百害あって一利なしだ。まだフィールにハンターがいなくなるリスクを負った方がいい気がする。俺とプリムの二人だけじゃできることは少ないが、それでも今いるハンター崩れよりは役に立てると断言できるぞ。


「最終手段としてはそれもやむを得ないと判断されています。ですが今のフィールは騎士団がハンターに代わって依頼をこなすことが珍しくない状態ですから、騎士団を動かすのが難しいんです。素材収集依頼や護衛依頼なら多少は融通を利かせてもらえますが、緊急依頼となるとどうしてもそちらを優先しなければいけませんから」


 騎士団が依頼こなしてるのかよ。第三騎士団が何人いるのか知らないが、ハンター崩れより多いってことはないはずだ。その上治安維持なんかも請け負ってるんだから、どう考えても人手が足りんだろ。


「明日は準備ができたらフリーの予定だけど、少しぐらい依頼を受けといた方がいいかもしれないわね」


 プリムも同じ考えか。まあ武器の試し切りに魔法の練習もあるから、ゴブリンぐらいは狩っとくべきか。


「ありがとうございます」

「礼を言われるようなことじゃないだろ。ハンターは魔物を狩ってこそハンターなんだからな」

「そうよ。それよりミーナ、もう閉まっちゃってるけど、明日また来る?」

「いえ、呼んでみます。多分皆さんいらっしゃるでしょうから」


 そう言うとミーナは、店側ではなく家側と思われるドアのノッカーを鳴らした。なんでもあのノッカーは魔導具で、家の中ならどこでも音が聞こえるから来客が来てもすぐにわかるんだそうだ。


「はいよー、ってミーナさんか。こんな時間にどうしたんだよ?」


 出てきたのは俺より年上に見える男だった。耳が尖ってるからエルフかと思ったが、肌はエルフ程白くはない。ということはドワーフか。ミーナより少し背が高いからドワーフにしちゃノッポになるんだろうか?


「こんばんは、エドワードさん。今日ってもうお店は閉めちゃってますよね?」

「客も来ねえしな。最近じゃ昼間に数時間開けるぐらいで、もっぱらクラフターズギルドから依頼されたもんばっか作ってるよ。って、そいつらは?」


 エドワードと呼ばれた男が俺とプリムに気が付いた。訝しげな視線を向けてきてやがるな。


「ヤマト・ミカミさんとプリムローズ・ハイドランシアさんで、お二人ともGランクのハンターです」


 その目も、ミーナの紹介で大きく見開かれた。


「Gランク!?ちょっと待てよ!今フィールに、Gランクのハンターなんていなかったはずだぞ!?」


 そうらしいな。トップレイドって言われてるのがハンターズマスターについていった連中で、Sランクが七人、内五人がハイクラスに進化してるって聞いてる。こいつらが、フィールじゃ一番レベルの高いハンターだな。俺達が来るまでは、だが。


「俺達は今日フィールに着いたばかりなんだよ」

「ああ、来たばっかなのか。って待てよ!外にゃグリーン・ファングがいるだろ!それぐらいなら他の町にも噂が広まっててもおかしくねえってのに、まさか知らなかったのか!?」

「そのグリーン・ファングなんですけど、お二人が退治してくださったんですよ。しかもブラック・フェンリルまで」

「ブラックッ!!」


 絶句しやがったか。まあレックス団長もライナスのおっさんも領代の貴族もそうだったから、この反応は予想できた。


「エド、何を玄関で叫んで……おお、ミーナ嬢ちゃんか。今日はどうしたんじゃ?」


 さすがに声がでかすぎたようで、家の奥から一人のドワーフが姿を見せた。


「こんばんは、リチャードさん。今日はこの方達の付き添いと、アーキライト子爵からの依頼について説明に来たんです」

「アーキライト子爵じゃと?」

「はい。ですけどそれを伝える前に、エドワードさんが固まってしまって……」

「仕方ない奴じゃな。とりあえず入ってくれ」


 固まったままのエドワードを放置したまま、俺達はリチャードという名のドワーフに招かれて家に入ることになった。

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