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01・フィール到着

 あれから魔物の襲撃もなく、俺達は無事にフィールに到着した。まあ着いたって言っても、これから町に入るためにライブラリーを見せて入場税を払わないといけないんだが。


  アミスター王国最北の街フィール。マイライト山脈の麓にあり、多くの魔銀ミスリル鉱山を抱え、魔銀ミスリル鍛冶も盛んなこの街はアミスター王国にとっても重要な拠点となっており、常駐する騎士団も精鋭が多い。湖もあるから王家の避暑地にもなってるらしいし、貴族の多くも別荘や別邸を建ててるそうだ。ちなみにフィールやプラダ村なんかのアミスター北部地方は王家直轄領だから領主はいない。


 一応代官がいて街を治めてるみたいだが、魔銀ミスリル晶銀クリスタイトはヘリオスオーブで使用されている総数の約7割をマイライトから産出してることもあって、不正が起こらないように三人の貴族が同じ権限を持っている。これは監視の意味もあるから、下手な不正なんかしたら最悪一家全員処刑ってこともありえるそうだ。


 ちなみにその貴族さん達、フィールにはあくまでも代官として赴任してきているので滞在するのは3年、毎年一人ずつ新しい貴族と交代する。しかもフィールでは爵位によるゴリ押しはできないし、王家直轄領ってこともあって最終決定権は国王にあるから、余程の事態が起きた場合は必ず王都に報告が行くことにもなっている。


「というわけよ」

「いや余程の事態って、今がその余程の事態だろうに。陸路は自殺行為だから仕方ないにしても、ワイバーンがいるだろ?」

「さすがに連絡は入れてると思うわよ。ただグリーン・ファングを相手にしようと思ったら、騎士団だって相当な準備が必要になるわ」


 そりゃごもっとも。しかもグリーン・ファングは二匹いたし、さらにその上ブラック・フェンリルまでいたんだから、生半可な準備じゃ返り討ちにあうし、犠牲もとんでもないもんになるな。


「ああ、そうか。連絡が行ってるとしても、ブラック・フェンリルのことまでは伝わってないのか」

「そういうことね。まあプリムと大和君が倒したわけだから、その準備も無駄になっちゃうわけだけど」

「どれだけ被害が出るかわかったもんじゃないんだから、その程度で済めば御の字よ。それより並んでる人はいないんだから、早く手続きしましょ」


 どんだけの準備をしてるか知らんが、ブラック・フェンリルにグリーン・ファング2匹ともなれば街の一つや二つは簡単に消し飛ぶらしいから、確かに準備が無駄になるだけで済めば安いもんか。

 それに討伐済みってことはこれから報告するし、ハンター登録と同時に買い取りもしてもらうから、遠くないうちに王都にも伝わるだろう。


 当然だがそんなのがいるって噂があるフィールに来る商人や旅人やハンターはいないから、町の入口には誰も並んでない。俺達はそんなことを話しながら、入口に向かった。


「こんな時期にフィールに来るなんて、無茶をされますね。大丈夫だったんですか?」


 開口一番、門番をしていた女騎士さんに心配された。俺やプリムとそう変わらない年齢っぽいな。まあヘリオスオーブじゃ17歳で成人扱いになるから、俺も立派な大人になるんだが。胸当てに手甲、足甲といった簡素な金属鎧を装備してるが、薄い緑に輝いてる所から見るに魔銀ミスリル製か?


「だな。グリーン・ファングが群れを率いてるってのに、あんた達よく無事だったな」


 さすがにフィールじゃ、グリーン・ファングが出没してる事実は確定してたか。


「ご心配、ありがとうございます。だけど大丈夫ですよ。この二人が倒してくれましたから」


 とてもいい笑顔でアプリコットさんが答えると、騎士さん達がキョトンとした目をして固まった。


「た、倒した?グリーン・ファングを?」

「それとブラック・フェンリルね。そっちは大和が単独でだから、あたしは関与してないけど」

「ブ、ブラック・フェンリルを倒しただとっ!?」


 ちょ、すげえデカい声だな!そんなデカい声出すと、プリムとアプリコットさんの可愛い狐耳にデカいダメージが来るだろ。俺も耳が痛えよ。

 門番さんの驚いた声を聞きつけ、詰所から騎士が、何事かと次々に出てきた。なんか一人豪華な魔銀ミスリルの鎧を着てるが、この人が隊長か?


「すまない、ブラック・フェンリルを倒したと聞こえたんだが、本当に君達が倒したのか?」

「ええ、俺のストレージに入ってますよ。出しましょうか?」

「……お願いする」


 隊長と思しき騎士の要請に従って、俺はストレージからブラック・フェンリルとグリーン・ファング2匹を出した。すると全員が目と口を大きく開いて、驚愕の表情で固まった。顎外れますよ?


「ブラック・フェンリルに……グリーン・ファングが2匹も!?」

「あ、ありえないわ……」

「さすがに死体がある以上、疑いの余地はないが……。誰か領代とハンターズギルドに報告に行ってくれ。急いでハンターズギルドに来るようにと伝えるのも忘れずにな」

「りょ、了解です!」


 何人かの騎士さんが、慌てて馬に乗って行ってしまった。あ、領代ってのは直轄領代行執政官ちょっかつりょうだいこうしっせいかんってのの略称らしいぞ。


 どうでもいいことなんだが、ここにいる騎士さんの半分は女性騎士だな。人口比からしたら当たり前なんだが。


「申し訳ないが、皆さんにもハンターズギルドまでご足労を願いたい。さすがにこんな大物が討伐されたとなれば領代やハンターズギルドはもちろん、王都にも報告をしなければなりませんので」


 当然っちゃ当然だな。というか、なんでハンターズギルドに?


「鑑定室があるからでしょ?けっこう大きい施設だし、外から見られる心配もないし、話が漏れる心配もないしね」

「そういうことです。ああ、今回は入場税はけっこうですが、規則ですので身分証だけは拝見させていただきます」


 緊急の場合なら入場税が免除になることもあるそうだが、身分証だけは絶対に確認する規則になってるらしい。まあ緊急と偽って盗賊とか犯罪者とかが町に侵入したら、それこそ一大事だしな。

 そういうわけで俺が答えるより先にアプリコットさんがライブラリーを出し、隊長さんに掲示した。


「確認しました。ありがとうございます」

「次はあたしね」


 アプリコットさんのライブラリーを確認し終えると、今度はプリムがライブラリーを出した。別に順番は決めてたわけじゃないが、こういう場合は雇用主から掲示するのがマナーらしいので俺が最後になるのはある意味じゃ当然のことだ。


「ハイフォクシー!?しかもレベル51だと!?」


 あれ?ハイフォクシーに進化したのは知ってるけど、確かレベルは49じゃなかったっけか?


「あれ?レベルが上がってる?ああ、あれだけの群れを相手したからね。だけど一気に上がるとは思わなかったわ」


 ああ、そういうことか。そういやレベルって強さっていうより、肉体と魔力の親和性や同調性を表すんだったな。未完成だけど極炎の翼を使ったことも関係してるだろうから、そう考えるとプリムのレベルが上がったのは不思議でも何でもないか。


「あ、ありがとうございました……」


 騎士さん達がさっきから驚いてばっかで申し訳ないんだが、俺のライブラリー見たらまた驚くんだろうな。だからって見せないわけにはいかないから、俺もさっさとライブラリーを出すとするか。


「最後は俺だな。どうぞ」

「では失礼して……!!」


 言葉もないですか、そうですか。というか、立ったまま気絶してるわけじゃないよな?


「に、兄さん?」

「ど、どうしたんですか、団長?」


 おお、門番の女の子はこの人の妹だったのか。それにこの人、隊長じゃなくて団長だったのか。って、それは今はどうでもいいか。


「もしも~し!大丈夫ですかー!」

「はっ!あ、ああ……申し訳ない……。驚きすぎてつい……」


 ついで気絶されても困りますよ。というか後ろから俺のライブラリーを見た騎士さんが数名、さっきの団長さんと同じように声もなく固まってるんですけど。


「レベル57のハイヒューマンか……。いや災害種を倒せる以上、それぐらいあるのは当然なんだが……」


 あれ?俺のレベルも上がってら。魔法は使ってないんだが魔力と印子は同じものだから、その関係でってことなのか。まあ検証は後回しだな。


「申し訳ない、自己紹介が遅れました。アミスター王国第三騎士団団長レックス・フォールハイトです。簡単な挨拶で申し訳ありませんが、私は副団長と共にハンターズギルドに向かいます。皆さんの案内は妹のミーナに任せますので、申し訳ありませんがご了承願います」

「ミ、ミーナ・フォールハイトです。よろしくお願いします!」


 いえいえ、こちらこそ。なんでも副団長は今日は非番らしいので、迎えに行かなきゃいけないそうだ。本来なら部下に呼びに行かせればいいんだが、どこにいるのかは団長しか知らないから団長が迎えに行くしかなくて、代わりに妹を案内に付けるってことらしい。別に気にしなくてもいいのにな。

 あ、ミーナは青い瞳に栗色の髪をショートボブで切り揃えた、可愛いっていうより麗しいって感じの美少女で、身長はプリムより低くて160センチないぐらいか。プリムが160センチ後半ぐらいだから、10センチ近く違うな。


「ということは説明は領代の貴族の方、ハンターズギルドのギルドマスター、そして団長と副団長が揃ってからということになりますか?」

「いえ、申し訳ないのですが、現在ハンターズマスターは王都に行っておられますので、サブマスターが来られることになると思います」


 なんじゃそりゃ。領代の貴族が行くのはわからんでもないが、なんでハンターズマスターが王都に行ってるんだ?


 あ、ハンターズマスターっていうのはハンターズギルドマスターのことだ。ギルドはハンターズギルドだけじゃないから、同じ街に何人もギルドマスターが存在する。だからそう呼ぶことでどこのギルドのギルドマスターなのか判別できるようにそう呼ばれているそうだ。


「緊急の案件だと聞いています。ハンターズギルドはワイバーンを所有していますから、護衛のハンターと共に二日前にフィールを経たれているんです」


 ミーナが答えてくれたが、それでも納得はいかんな。緊急だからこそハンターズマスターが離れることはできないだろうし、それぐらいはどこのハンターズギルドでも理解してくれてるんじゃないか?


「さすがにこの時期にフィールを空けてしまうことになるため、王都への報告も自ら請け負ってくれましたので、今頃は王都でも準備が進んでいると思います」


 フィールでグリーン・ファングの出現が確定したのが三日前だそうだから、レックス団長や領代も急いで王都への報告書を仕上げ、ハンターズギルドのワイバーンを借りて報告に向かう予定だったらしい。

 それをハンターズマスターが王都に用事があるってことで、その役目を買って出てくれたってことか。


「っと、その話は後程。私は急いで副団長を呼んできますので失礼します」


 レックス団長が慌ててこの場を離れるが、確かに終わったことだし、後でもいい話か。


「それじゃあたし達も行きましょうか。ミーナだっけ?あなたも乗って」

「悪いけど案内よろしくな」

「わかりました。こちらこそよろしくお願いします」


 そんなわけでミーナも獣車に乗ってもらって、俺達はハンターズギルドに向かうことになった。


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