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11・羽纏魔法の可能性

Side・プリム


 あたしは襲い掛かってくるウルフ種を、フレイム・アローやフレイム・ランス、フレイム・アームズを纏わせたロングスピアで次々と貫いていく。ザックで買ったアイアンスピアも悪くはない、どころかむしろいい槍なんだけど、さすがに使い慣れない武器でウルフ種の大群を相手するのは厳しいし、癖でロングスピアを出しちゃったからストレージの中にあるわよ。


 母様と従魔契約をしたグラバーンのオネストもファイア・ブレスを吐きながらグラス・ウルフやグリーン・ウルフを倒しているけど、流石にウインド・ウルフが相手だと厳しい。母様が上手く援護してるから接近されてはいないけど、様子を見る限りじゃ時間の問題だと思う。


 だから大和がブラック・フェンリルを抑えてくれてる間に、急いでウインド・ウルフだけでも倒さなけりゃいけない。

 この数は厳しいけど大和の結界でかなり数を減らし、何より怯んでる個体がけっこういるから、今なら押し返せるしね!


「大和の結界で数は減ってるけど、だからってなにもしないわけにはいかないのよね!」


 だからあたしは、切り札でもある羽纏魔法はてんまほう灼熱しゃくねつつばさを使うことにした。


 羽纏魔法は翼族が翼に魔法属性を纏わせる魔法で、フィジカリングとマナリング、そして纏わせた魔法属性を強化する特性を持っている。あたしは火属性が得意だから火属性を纏わせてるけど、やろうと思えば他の属性もできると思う。今はそんな余裕はないからしないけど。


「『フレイム・アームズ』!」


 道中で大和とも話し合ったんだけど、イメージを形にするには言葉に出すのが一番。だからあたしが使ったフレイム・アームズは、あたしのイメージ通りにロングスピアの穂先に集中している。マナリングでロングスピアを強化して、灼熱の翼でさらに底上げをして、さらにフレイム・アームズで覆ったから、攻撃力はかなり上がったはず。


 あたしは自分自身が槍になったイメージを頭に思い浮かべて、フィジカリングで強化された身体能力をフルに使って一気に群れに突っ込んだ。

 するとあたしの予想通りに、グラス・ウルフとグリーン・ウルフはあっさりと体を燃やしながら息絶えた。風魔法を使うことでスピードを上げているウインド・ウルフの何匹かも避けきれずに被弾して、致命傷を負っている。距離が開いちゃったからフレイム・ランスで追撃すると、そのウインド・ウルフ達もすぐに炎に包まれる。これでだいぶ数は減ったわね。


 チラリと大和の方を見ると、驚いたことにブラック・フェンリルの体を氷らせて、首を切り落とすところだった。まさか単独で災害種を倒すなんて、思ってもいなかったわ。


 災害種は異常種のさらに上とされていて、単独で倒すのはエンシェントクラスでも難しいって言われている。しかもエンシェントクラスでも無傷で勝つのは無理なのに、大和はどこも怪我をした様子が見られない。凄いんだけど、ここまでくると逆に呆れちゃうわね。


 統率を取っていたブラック・フェンリルがいなくなった以上、ウルフ達が戦意を喪失して逃げ出すことになるはずよ。


「って思ってたんだけど、なんでまだやる気満々なのよ!」


 だけどあたしの予想は見事に外れた。

 驚いたことにウルフ達の統率は乱れないし、何より明らかに怒っている。これって何かおかしいんじゃない?


「プリム!」


 怯えたような母様の声に振り返ると、その理由がわかった。あたしが倒したウルフ達の後ろから、大きな緑色の体毛をした狼が姿を見せたんだから。


「グリーン・ファング!しかも2匹もいるなんて!」


 これはさすがに想定外だわ。ブラック・フェンリルがボスだってことは間違いないけど、まさか本来なら群れのボスでもあるグリーン・ファングまで支配下に置いてて、しかもそれが複数いるなんて、そんな話は聞いたことがない。

 さすがにこれは厄介だわ。


「さて、どうしたもんかしらね」

「お互い1匹ずつやるしかないだろう。幸いウインド・ウルフはプリムが倒したので全部みたいだし、グリーン・ウルフやグラス・ウルフもかなり数が減ってる」


 母様の声に大和も反応してたみたい。気が付いたらあたしの隣に立ってたけど、災害種を倒したばかりなのに息も乱れてないとか、普通にありえないんですけど?


 今はそれどころじゃないから文句は後で言わせてもらうけど、確かにそれしかないわね。オネストには母様を守ってもらわないといけない。元々グラバーンなのに力が弱いし臆病だからってことで売れ残ってたんだから、これ以上の無理はさせられないわ。


 残る問題は、大和じゃなくてあたしの方ね。ブラック・フェンリルを単独で倒した大和なら、グリーン・ファングにも問題なく勝てる。だけどあたしは、勝てるとは思うけど無傷でというわけにはいかないと思う。


 だけどここで躊躇している余裕はないし、覚悟を決めるしかないわ。


Side・大和


 ったく、まさか本当にグリーン・ファングがいたとはな。この辺りに生息してるのはグラス・ウルフとグリーン・ウルフだから、その先入観から暗い所で見たブラック・フェンリルをグリーン・ファングと見間違えたとばかり思ってたんだけどな。

 とは言っても、いるものは仕方がない。だけど俺は何とでもなると思うが、プリムは今のままじゃ決定力に欠けてる気がするんだよな。

 プリムの戦いは何度か見てるが、翼を上手く使うことでヒット&アウェイを繰り返す高速戦闘型とでもいうべきスタイルだな。翼族だけあって魔力はすごいんだが、その魔力も持て余し気味だから上手く使えてるとは言えない。ただ格下相手じゃ何も問題ないはないんだが、同等以上の相手だとパワー不足が感じられる戦い方だったな。せめて刻印術みたいに魔法がしっかりと体系化されてればよかったんだが。


 だがこれは、あくまでも刻印術師、生成者としての俺の意見であって、一般人やヘリオスオーブ目線じゃない。本当に違う世界の、戦いに慣れた人間の意見とも言える。プリムを含めたヘリオスオーブの人達は、個人差はあれどプリムと似たような戦い方をする人だって多いんだからな。

 身体強化と魔力強化を行い、魔法を使って隙を作ることで決定力不足をわずかでも補う。これがヘリオスオーブの戦い方の基本だ。魔力が多い翼族なら強化の幅も大きくなるが、基本は変わらないからな。

 まあ翼族が普通かと言われれば、ほぼ間違いなく違うんだろうが。


 ん?翼族?


「大和!ボーっとしてないでよ!」

「っと、悪い!」


 ボーっとしてたわけじゃないが、一瞬意識を取られてたのは間違いない。まだ戦闘中だってのに、何やってんだかな。それよりも思いついたことを、プリムに聞いてみないと。


「プリム、灼熱の翼に風か雷を、さらに追加させることってできるか?」

「できるわけないでしょう!」


 即答されてしまった。刻印術じゃ雷は火属性に分類されてるし、火と風も相性いいからできるんじゃないかと思ったんだけどな。

 そんなことを考えながら、ブラッド・シェイキングを発動させたマルチ・エッジをグリーン・ファングに投げつけ、避けて態勢が崩れた所を、同じくブラッド・シェイキングを発動させてあるアイアンソードで胴体から真っ二つにする。グラス・ウルフとグリーン・ウルフはニブルヘイムとアルフヘイムの積層術で氷らせて終わりだ。群れ相手だからかもしれないが、広域系がかつてない利便性を発揮してくれて助かるな。


「なら俺がそいつを止めとくから、一度試してみるってのはどうだ?」

「……簡単に言ってくれるけど、そんなこと考えたこともないからできるかわからないわよ?仮にできたとしても、どれだけ魔力を消耗するかわからないし」


 簡単にってわけじゃないんだけどな。俺からすれば積層術っていう、異なる属性や系統の刻印術の同時使用は基本だから、魔法でもできるんじゃないかって思っただけだし。


「あんたにとっては普通でも、あたし達にとっては見たことも聞いたこともないのよ。何よりどうやってイメージすればいいのか、まったく想像できないしね!」


 グリーン・ファングの攻撃を避けながら説明すると、そんなことを言われた。なるほど、イメージか。


「それならプリム、強風で火事が大きくなることってあるだろ?そんな感じのイメージをしてみろ」

「風で……ああ、なるほどね!やってはみるけど時間はかかるだろうから、その間グリーン・ファングはしっかりと相手しといてよね?」

「当然だ」


 俺が提案したことなんだから、足止めは最低限だ。

 俺はコールド・プリズンを発動させ、グリーン・ファングの足を氷らせた。これが火を操るフレイム・ウルフやフレイム・ファング、あるいはレッド・フェンリルだったら厳しかったが、グリーン・ファングは風を操るから、氷で固めてしまえば簡単には動けない。なにせマイナス200度と、俺の使える最高の冷気を使ったからな。いくら異常種特有の身体能力があっても、短時間で氷の拘束を壊すのは無理だろ。あとは苦し紛れの風魔法による遠距離攻撃だが、そっちは普通に警戒しとけばいい。


「……風で火を煽って大火に。風を送り込んで炎に……。難しいわよ!」


 さっきからプリムは灼熱の翼に風を送り込もうとしてるが、上手くいっていない。イメージはできてるんだろうが、なんで風で火が強くなるのかってのがいまいち理解できてないって感じだな。


「プリム、多分それじゃ風が吹くイメージしかできてないんじゃないか?もっと火が大きくなるような、そんなイメージをしながら翼に取り込ませてみたらどうだ?」


 理論や理屈なんかより、感覚で理解した方が魔法には有利な気がするしな。もちろん理論や理屈でも問題はないだろうが、理解するのに時間がかかる。理論なんかがしっかりしてる刻印術だって感覚で使うことが多いんだから、魔法だって問題はないと思う。


「イメージ……火が風で大きくなって、燃え盛るイメージ……」


 お、なんか灼熱の翼の勢いが強くなってきたな。これは成功したか?


「イメージって本当に大切なのね。魔力の消耗は激しいけど、今までの灼熱の翼より炎の勢いが強いわ……」

「みたいだな。いけそうか?」

「魔力の消耗が激しいけど、これぐらいなら大丈夫よ!」


 そう言うとプリムは、勢いを増した灼熱の翼を広げ、グリーン・ファングに向けて数十本ものフレイム・アローを放った。同時にフレイム・アームズをロングスピアに纏わせ、昨日大岩を破壊した時と同じようにフィジカル・ブースターで強化された身体能力をフル活用して突っ込んだ。

 俺のコールド・プリズンで足を氷らされていたグリーン・ファングも身の危険を感じて風魔法を鎌鼬のようにして放ってきたが、プリムの放ったフレイム・アローの前では無力だった。

 そしてグリーン・ファングは、成す術もなくプリムによって体を貫かれて息絶えた。


「お見事」

「あり……がと……」


 魔力を使いすぎたのかプリムの息が荒いし、少し足元がおぼつかない。だけどその顔は満足そうに笑っていた。うん、とっても可愛いわ。思わずドキッとしたね。


「け、結構消耗してるみたいだから、回収は俺がやるよ。プリムはアプリコットさんと獣車の中でゆっくりしててくれ」

「お言葉に甘えさせてもらうわ。魔法を使ってこんなに疲れたのって、実は初めてなのよ」

「無理させて悪かったな」

「いいえ、私もまた一つ強くなることができたんだから、大和には感謝してるわ」


 俺今、すっごくニヤけた面してんだろうな。とてもじゃないが、こんな面をプリムに見られたくねえぞ。


「プリムならそのうち考え付いたと思うけどな」


 満面の笑みで尻尾を振りながら感謝を述べてくるプリムにそっぽを向きながらそっけなく返すと、俺はそのままブラック・フェンリルやグリーン・ファングをはじめとしたウルフ種達の回収に向かった。照れてるってバレてないよな?


「もしかして照れ……まあいいわ。それじゃ悪いけど、回収お願いね」

「あいよ~」


 プリムが何か言おうとしてたけど、大丈夫だよな?気づかれてないよな?

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