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05・客人の足跡

Side・マナリース


 エド達をアルカに送った私と大和は、シリウスの背に乗って妹のユーリ一行を探している。今日はハウラ大森林を抜けるぐらいを目処にしてるけど、ハウラ大森林はアマゾネスをはじめとした亜人も生息してるから、できればギリギリまで探したいところね。

 ジェイドはヒポグリフということもあって目立つから、今回はアルカでお留守番をしてもらってるわ。


「アイスロックって名前の割に、氷でできてるわけじゃないんだな」


 ボソッと大和が呟いたけど、アイスロックは氷原に住む鳥型の魔物っていうだけだから、羽毛が氷ってるわけじゃないわよ。寒冷地に住んでるから寒さには強いし、氷魔法も操れるけどね。


「三年前にトラレンシアに訪問したんだけど、その時に女王陛下、っと、当時はまだ王女殿下だったけど、そのお供でゴルド大氷河近くに行ったことがあるのよ。そこで怪我をしたこの子を見つけたんだけど、回復魔法をかけてあがたら懐かれちゃってね。それで契約したの」

「ギャア」


 そうだと言うように鳴くシリウスの背中を撫でてあげると、嬉しそうに目を細めているのがわかる。


 トラレンシアはソレムネの北にある島国で、雪の国とも言われている。アミスターからはけっこう距離があるけど、バレンティアと同じく昔から友好的な付き合いをしている国よ。確かトラレンシア王家も、過去に客人(まれびと)が入り婿になったって記録があったと思う。200年前だったかしら?


「トラレンシアもそうなのか。あれ?でも客人って、記録に残ってるだけでもけっこうな人数がいましたよね?」

「ええ。信用できる記録だけでも十人はいるわ。実際にはその数倍はいたと考えられているから、他国の王家も客人の血を引いていてもおかしくはないかもね」


 記録を信じる限りじゃ、王家に入ったのはアミスターとトラレンシアの二人だけだけど、ヘリオスオーブだと未婚の母も多いし、それが王家でも珍しくないから、客人が男性だった場合に限ればその可能性はけっこう高いと思う。


「なるほどねぇ。あれ?でも客人は昔から現れてたけど、確か多発したのって200年前なんでしたっけ?」

「そう言われてるわね。男女比は半々らしいけど、アバリシアの侵攻やソレムネの暴走のせいで大半が命を落としたって記録があるわ」


 当時の客人はギルドを通じて連絡をしあってたそうだけど、その中でもトラレンシアに入り婿した客人はエンシェントヒューマンに進化していたって記録があるから、その方は当時の客人の纏め役でもあったのかもしれない。

 あ、そういえば当時のバシオン教の巫女と結婚した男性もいたはずだわ。その男性もエンシェントヒューマンだったはずで、今もバシオン教国には子孫がいたはず。その証拠になるかはわからないけど、客人の多くはトラレンシアとバシオンを拠点にしていたそうよ。


「エンシェントヒューマンってことは、その客人って今も生きてるんですか?」

「いえ、残念ながら亡くなられているわ。サユリ様は面識があったみたいだけど」


 サユリ様にとってもヘリオスオーブで会った同郷の人だし、トラレンシアやバシオンと深い関係が築けているのは客人同士の繋がりが大きかったかもしれないわね。

 だけどトラレンシアとバシオンの客人は、何年か前にソレムネの迷宮が氾濫を起こした際、最前線で鎮圧に協力していたんだけど、その時に受けた傷がもとで亡くなられてしまったの。その当時で既に200歳を超えていたこともあって実戦からは遠ざかっていたんだけど、それが負傷した遠因だとも言われている。

 なのにソレムネは、トラレンシアに何度も軍を派遣しているんだから、本当にロクでもない国だわ。


「ここでもソレムネか。そういうことならソレムネで何かあっても、救援に行こうって気にはならないな」


 でしょうね。そのお二人はOランクハンターだったはずだから、ハンターズギルドからの依頼でソレムネに行ったわけじゃない。ソレムネからの要請があったのは間違いないけど、それでもトラレンシアは、それまでにもソレムネから軍を派遣されてたんだから、応える必要すらなかったはずだわ。なんでソレムネに行ったのかしら?


「俺と同じ日本人だったと仮定してだけど、多分一般人には罪がないって考えたんじゃないかな。俺の国にはそういうお人好しが多いですから」


 それは本当にお人好しね。聞けば大和の国は、困ってる人に手を差し伸べる風習があるそう。なんとなくアミスターと似てる気もするけど、そのせいで隣国とかに付け込まれて何度も痛い目を見たそうだから、今はその素晴らしい風習も廃れてきてるそうだけど。


「なるほどね。あれ?ということは今の大和の国は、そんなことはしないの?」

「やってますよ。昔は見返りなんか求めなかったこともあったみたいだけど、恩を仇で返されることが多かったから、自分を犠牲にしてまでってことはあんまりないかな」


 それも悲しい話よね。トラレンシアとバシオンの客人がどこから来たのかはわからないけど、200年前の大和の国は丁度その頃の人って話だから、もし大和の同郷の人なら自分を犠牲にしてソレムネの人を救った可能性が高いわけか。


「まあアミスターのためなら、多少の無理はしますけどね」


 その一言はすごくありがたい。ちょっと心に響いちゃったわ。プリム達にずっと言われ続けてたけど、そろそろ認めてもいいのかしら?


「っと、マナ様、シリウスを止めてください!」

「え?どうかしたの?」


 緊迫した大和の声に慌ててシリウスを止めると、大和がフライ・ウインドを使ってシリウスの背から飛び降りた。ちょっと!何があったのよ!


「下!」


 下?いったい何が……って、獣車が盗賊に襲われてるじゃない!しかもあの獣車は見覚えがある。アミスター王家の紋章も付いてるから間違いないわ!


「シリウス!」

「ギャウ!」


 私を乗せたシリウスもすぐに獣車に向かって降下をはじめた。遠目だし森の中だからわかりにくいけど、何人かが倒れてるから、急がないといけない。


「ユーリ!」

「え?お、お姉様!?」


 そこにいたのは間違いなく私の妹、アミスター王国第三王女ユーリアナ・レイナ・アミスターだった。他にもそっくりな容姿をしたドラゴニュートがいるけど、見た感じはハンターね。護衛の騎士はほとんどが血まみれになって倒れてるから、ここで見つけられなかったら大変なことになってたわ。


「やっぱりマナ様の妹様ですか。王家の紋章がついてたからそうだとは思ってたけど」

「ありがとう、大和」


 思わず大和に抱き着いちゃったけど、妹を助けてくれたんだし、きっかけとしては十分よね?


「あー、いえ、間に合って良かったですよ」


 照れてる大和って、なんか可愛いわね。だけどもう遠慮はしないわよ。

 その前に、こいつらを始末しないとね。


「それで、襲ってきた盗賊は?」

「そこで氷ってますよ。粉々に砕こうと思ったんですけど、ライブラリーを見たら面白いことになってました」


 ユーリを襲っていた盗賊は、大和がニブルヘイムかコールド・プリズンを使って氷らせていた。全員余すところなく氷り付いてるし、ユーリを襲ってたんだから私としても粉々にしたいんだけど、なんでライブラリーなんか確認したのよ?それに面白いものって一体?


「色々と言いたいことはあるけど、そこまで言うなら見てみようかしら。この男よね?」

「ええ」

「『ライブラリング』……なるほど、確かに面白いわね」


 大和がなんでこの男にライブラリングを使ったのかだけど、多分聞いてた特徴と一致したからでしょうね。まさかバリエンテに潜伏してたとは思わなかったわ。なにしろ男のライブラリーには、こう記されてたんだから。


 サーシェス・トレンネル

 33歳

 Lv.47

 人族・ハイヒューマン

 ハンターズギルド:アミスター王国 フィール支部ギルドマスター

 レティセンシア皇国名誉ハンター、レティセンシア皇軍少佐、エビル・ドレイクの主、裏切りのハンターズマスター


 称号はショボいけど、こんなところでサーシェス・トレンネルに会えるとは思わなかったわ。


「ほ、本当にギルドマスターだったんんだ……」

「でも裏切りって、どういうことなんですか?」


 ドラゴニュートの、たぶん双子も驚いてるけど、こんなとこにアミスターのハンターズマスターがいるなんて、普通は思わないわよね。


「色々あったんだよ。というか、君達ってユーリ様の護衛じゃないよな?」

「え?ああ、いや、一応護衛だよ。あたし達はバレンティア出身なんだけど、武者修行を兼ねて旅をしてるとこなんだ」

「そこで何度かお会いしたことのあるユーリ様と再会したから、せっかくだからってことで同行させてもらうことにしたの。あ、私はリディア・ハイウインドといいます」

「あたしは双子の妹でルディア・ハイウインドだよ」


 やっぱり双子だったわね。リディアが薄い青髪を右サイドで、ルディアが薄い赤髪を左サイドでまとめてるけど、それ以外だと竜の翼はルディアの方が大きく、ルディアは小さいから、間違えることはなさそうね。顔立ちだけなら難しいけど。

 二人で武者修行を兼ねて世界を旅してるところだけど、アミスターで魔銀(ミスリル)の武器も買うつもりもあるみたい。バレンティアは金剛鋼(アダマンタイト)の産出国だけど、二人の戦い方には合わないらしいわ。


 それよりも気になるのは、二人の家名ね。


「ハイウインドって、もしかしてあなた達、近衛竜騎士団の?」

「はい。私達の父は近衛竜騎士団の副団長をしています」


 やっぱりか。私もその副団長には会ったことがあって娘がいるとは聞いてたけど、双子だったとは思わなかったわ。しかもハンターだったなんてね。


「俺はヤマト・ミカミだ。アミスターでハンターをやってる」

「私はマナリース・レイナ・アミスターよ。ユーリの姉でもあるわ」

「ユーリアナ・レイナ・アミスターです!よろしくお願いします、大和様!」


 私達も自己紹介をしたら、ユーリが割り込んできて、強引に大和の腕を取った。ちょっと!何してるのよ!


「すごいです、大和様!リディアやルディアだってあのままじゃ殺されてたかもしれないのに、あっという間に氷らせてしまうなんて!」

「あ~、まあ初めてじゃないんで。というかそんなにくっつかなくても……」

「そうよ、ユーリ。離れなさい。大和は私の婚約者なんだからね!」


 思わず口を挟んじゃったけど、さっき抱き着いたのは見てたはずだし、プリム達にも私次第だって言われてたんだから、別に構わないわよ。


「こ、婚約者!?え?アミスターのお姫様が?」

「マナリース様のことはバレンティアでも狩人姫(ハンタープリンセス)として有名ですけど、ハンターとご結婚されるんですか!?」


 リディアとルディアも驚いてるけど、今はそこまで気に掛ける余裕がない。


「あの、ユーリ様……申し訳ないのですが先に彼らの治療をお願いできないでしょうか?何人かはまだ息がありますから」


 ユーリ付きの侍女、タイガリーのヴィオラが申し訳なさそうに口を挟んでくるけど、確かにそっちが優先だわ。特にユーリはBランクヒーラーになったはずだから、ブラッド・ヒーリングまで使えたはず。


「あ、ごめんなさい。すぐに治療します」

「私も手伝います」


 リディアがユーリの護衛について、倒れてる騎士に駆け寄っていく。既に事切れている騎士もいるけど、大和がいてくれるから彼らの遺体を家族の下に返すことができるのは不幸中の幸いかもしれないわ。


「きゃあっ!」

「ユーリ様!」

「動くな!」


 そう思ってたら、突然森の中から何人かの男が飛び出してきて、リディアを捕まえて顔に剣を突き付けていた。まだいたの!?

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