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01・マジック・サークレット

ストックが尽きてきたので、更新は数日おきになります。

Side・マリーナ


「これはここだね。って言っても家具なんかはほとんど備え付けだから、持ってきたのってクラフター関連の本ぐらいだけどさ」

「ですね。ここにも本はありますけどほとんどが100年前、新しくても20年ぐらい前の物ですから」

「それは仕方ねえって。それに本なら買えばいいんだからな。逆に100年の間に廃れちまった技術なんかもあるから、それを知れるのはありがたい」


 あたしとエド、フィーナは先日結婚の儀式を終えて、アルカに引っ越してきた。引っ越しの荷物はそれぞれの工具と本ぐらいだけどね。あたし達が住むことになる深志殿もだけど、この日乃本屋敷には家具が備え付けられているから、新しく買わなくていいのはありがたいよ。だから浮いたお金で新しい工具と本を増やしたんだ。


「うっし、終わりだな。まあ荷物なんてあってないようなもんだから、引っ越ししたって感じじゃねえけど」

「そうですね。でもこんな家具を揃えようと思ったら、多分白金貨はしますよ。私じゃまだ作れないですから」


 フィーナはSランククラフターだから、これぐらいは作れるんじゃないかと思うけどね。


 さて、それじゃあ本殿に行って、引っ越し完了の挨拶といこう。既に大和達は本殿で、ラウスとレベッカは金鯱殿で暮らしてるし、ゲート・クリスタルを使ってフィールとアルカを往復してる。フレデリカ侯爵は執務があるからたまにしか来れないみたいだけど、領代だから仕方ないよね。


「お、終わったのか?」

「ああ。荷物なんてあってないようなもんだからな。せいぜい本を棚に並べるぐらいだ」

「普通引っ越しって、こんな簡単に終わるもんじゃないんだけどね」

「気持ちはわかりますよ。私達だって身一つで来てますからね」


 普通拠点といったら、家具どころか家から買わないといけない。だけどここには何でも揃ってるって言っても過言じゃない。貴族の屋敷よりずっと立派だし、温泉まである。広すぎるから移動とかが面倒くさいけど、そんなことは気にならないぐらいだよ。


「これがゲート・クリスタルだ。使い方は簡単で、魔力を流せば転移用の魔法陣が展開される。基本的に一人用だが魔力を多めに流せば最大で三人までなら連れてこれるそうだから、家族ぐらいならいつ連れてきてもいいぞ」


 大和から渡されたゲート・クリスタルは、六角形で両端が尖ってる綺麗な結晶だった。大きさはあたしの親指と同じぐらいだから、2センチぐらいかな。晶銀クリスタイトを加工してるとは聞いてたけど、ここまで綺麗に加工された物は久しぶりに見たよ。昔リチャードじいさんが作ってくれたけど、それと比べても遜色がないなんて、本当にすごいな。


「なるほど。で、俺達の魔力にしか反応しないから、仮に盗まれたとしてもここに来られる心配はないってことか」

「それもあるけど、いざって時には魔法陣を通ってここに逃げ込むこともできるわよ」


 ああ、確かにそういう使い方もできるね。特にエドは狙われる可能性があるんだから、いざという時に逃げられるのはありがたいよ。リチャードじいさんやタロスさんが狙われる可能性はあるけど、リチャードじいさんは陛下の師匠だしアミスター一の鍛冶師とも言われてるから、もし狙われたりなんかしたらアミスターが動くし、それ以前に大和やプリムが許すはずがない。むしろあたし達の方が狙われるんじゃないかって思う。


「それは助かるんだが、これって装飾を施したりするのはダメなのか?」

「どういうことだ?」

「大丈夫だと思うが、いざって時に取り出す余裕はないかもしれないだろ?それなら最初からアクセサリーみたいに身に着けておいた方がいい。瑠璃色銀ルリイロカネで覆えばこのクリスタルが壊れることもないだろうし、いざって時にもすぐに使えるだろ?」


 ミーナやフラム達は納得してるけど、大和とプリムはすごく感心している。そりゃあんた達はエンシェントクラスに進化してるし、異常種や災害種も簡単に倒してるんだから、大抵のことは脅威でも何でもないだろうけど、あたし達はハンターじゃないんだから、Iランクの魔物だって十分過ぎる程の脅威なんだよ?


「いい考えですね。コンルさんに聞いてみないとわかりませんけど、できるなら是非やってもらいたいです」

「俺も賛成です。ゲート・クリスタルはそんなに大きくないですから、腕輪かネックレスがいいかもしれないですね」


 あたしもそれが無難だと思うけど、大和達は普段手甲を着けてるから、ネックレスがいいかな。鎖も瑠璃色銀ルリイロカネで作ればちょっとやそっとじゃ切れないし、ファッションとしてもいいんじゃないかって思う。


「それもいいと思うんですけど、私はサークレットなんかどうかなって思うんです」

「ああ、それもいいな。お前らは兜は使わないから、何かの魔法を付与をすれば代わりにもなる」


 あー、そっちもあったか。言われてみればウイング・クレストは、重装備のミーナとラウスでさえも兜は使ってない。兜はどうしても視界が悪くなるから、ハンターだけじゃなく騎士もあまり使わないんだ。その代わりに人気なのが魔法を付与させたマジック・サークレットっていう魔導具で、アミスターの騎士団でも正式採用されている。付与される魔法はサークレットが金属製ってこともあって石属性が多くて、さらにマナリングと一緒に付与させることで兜と同じような効果を出してくれるんだ。


 実はこのマジック・サークレット、市場に広まったのはここ20年ぐらいで、発案者はエドの父さんなんだ。熟練の鍛冶師なら比較的簡単にできることもあって、瞬く間にヘリオスオーブ中に広まって、今じゃ兜に完全に取って代わっちゃったんだよ。今じゃ兜は騎馬戦ぐらいにしか使われないから、注文がない限りは誰も作らなくなってるよ。このマジック・サークレットでエドのお父さん、アルフレッド義父さんはAランクに昇格して、二年前にグランド・クラフターズマスターになったんだ。


「マジック・サークレットのことはあたしも知ってるけど、エドのお父さんが開発してたんだ」

「厳密に言えば親父だけで開発したわけじゃなくて、母さん達も手伝ったらしい。なにせそれが縁で結婚したって言ってたからな」


 アルフレッド義父さんも奥さんが二人いて、一人がエドの実のお母さんになるフェアリーのエリアス義母さん。もう一人がラミアのキャサリン義母さん。キャサリン義母さんとの間にも女の子がいたんだけど、子供の頃に病気で死んじゃったんだ。あたしにも懐いてくれてたから、あの時は思いっきり泣いちゃったなぁ。


「それにしましょうよ!サークレットなら大和さんの刻印具に色んなのがありましたから、選び放題です!」


 そんなにほしかったんだね、レベッカ。気持ちはわかるけど少しは落ち着きなよ。今まであんた達がマジック・サークレットを買わなかったのって、単に大和が忘れてただけなんだもんね。レイド活動資金の大半を大和とプリムが稼ぎ出してるから、レベッカも言い出しにくかったんだろうね。


「……よくわかったな?」

「やっぱりかよ。つかプリムは知ってたんなら、教えてやれよ?」

「ごめん、あたしも今言われるまで忘れてたの」


 プリムまで忘れてたのか。どうりでマジック・サークレットの製作依頼が無かったわけだよ。


「仕方ない、フィーナの村から帰ってきたら頼もう。レベッカもそれでいいか?」

「はい!」


 そうしてくれると助かるよ。なにせマジック・サークレットは魔法付与があるから、作るだけでも一週間はかかるんだよ。グランティングっていう魔法付与のための工芸魔法クラフターズマジックを使うんだけど、しっかりと効果をイメージしないと中途半端な物になっちゃうし、しかも付与し直すこともできないから、クラフターとしては失敗作ができやすい。

 だけど失敗作でもそれなりの効果はあるし、安価で手軽に手に入れることができる防具でもあるから、ハンターに限らずトレーダーや旅人にとっても使い勝手はいい。クラフターとしては甚だ遺憾だけど需要があるから、クラフターズギルドとしてもクラフターに経験を積ませるためにSランクまでは必ず製作することを義務にしている。

 ちなみに鉄製のマジック・サークレットで100エル、魔銀ミスリル製だと500エルだよ。これじゃ材料費にもならないから赤字だけど、この義務をこなさないと昇格できないどころか降格、最悪の場合除名されることもあるから、クラフターなら一度はマジック・サークレットを作ったことがあるよ。それに完成品は数万エルで取引されるから、成功すれば赤字は回収できるんだ。


 それにしても嬉しそうだね、レベッカ。そんなに欲しかったんなら、ダメ元で大和に聞いてみたらよかったのに。


「それじゃあデザインを選ぶと言いたいんだが、俺達がバリエンテに行くのは明日だからな。デザイン選びも含めて帰ってからでいいか?」

「それでいいわよ」

「もちろんです」

「私も大丈夫です」


 それも決まったね。


 あたし達が行くバリエンテの村はロリエ村っていって、トライアル王爵領にある。このトライアル王爵っていうのは昔から獣王とつながりが深くて、プリムのお父さんの処刑にも賛成の立場をとってたらしい。なのにプリムを嫁として娶ることでさらに発言力を高めようとしたそうだから、正直頭がおかしいと思う。


「ロリエ村は森の中で道もあまりよくありませんから、セルカからでも三日はかかりますから、トライアル王爵に話が伝わったとしてもどうすることもできないと思います」

「伝わったところで、連中には何もできないけどな」

「だな。仮に文句を言ってきたとしても、物理的に潰すだけだ」


 エドも大和も容赦ないね。まあエンシェントヒューマンにケンカ売るなんて自殺行為と同じだから、大和が関与してるってわかったら黙るしかないだろうね。


「夜には帰ってくるんですよね?」

「ああ。極力行動を悟られないようにザックはもちろん、バリエンテの町にも寄らないから、夜はアルカに戻ってくるよ」

「そして明後日ロリエ村に行って、フィーナの家族を連れてアルカに来るわけね」

「そうなるな。もちろんすぐにフィールに連れて行くのは難しいから、何日かはアルカで過ごしてもらうことになると思うが」


 それは仕方ないね。家を買うにしろ借りるにしろ、けっこうなお金がかかる。フィーナを身請け奴隷にしなきゃ家族が路頭に迷ってたんだから、貯えもそんなにないと思う。もちろん少しぐらいならあたし達が融通することもできるし、フィーナ自身も大和達の獣車を作った報酬が入ってるから大丈夫だと思うよ。


「じゃああたし達は……そうね、レイク・ラビットとかブルーレイク・ブルとかの食材になる魔物を狩るとしましょうか」

「いいですね」


 プリム達は披露宴に使う食材集めか。この辺りだとホーン・ラビットやグラス・ボアもいるけど、レイク・ラビットやブルーレイク・ブルの方が美味しいから人気がある。多分依頼も出てるんじゃないかな?

 まあプリムがいるから必要以上に狩るだろうし、ハンターなんだから素材収集依頼があったら受けるか。


 それじゃあ明日は大和、マナ様、エド、フィーナ、そしてあたしの五人でバリエンテ行きだね。フィーナの家族を迎えた後もマナ様の妹を探すつもりだから、しばらくはバリエンテにいることになりそうだよ。

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