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10・漆黒の神狼

 ったく、厄介事はまとめて襲い掛かってくるってのか?


 ウインド・ウルフを回収して獣車に戻ろうと思ってたんだが、何か嫌な予感がしてウインド・ウルフが来た方角にドルフィン・アイを発動させると、デカい黒い狼がこっちに向かってきてるのが見えた。おいおい、なんだよあれは。グリーン・ファングなら緑のはずだろ。

 そう思ってたら今度は遠吠えが聞こえてきた。例の黒い狼が吠えたのは確認してるが、もしかしなくてもこれって仲間を呼んでるんじゃないだろうか?厄介なことをしてくれるな。


「大和!」


 突然プリムが大声で俺を呼んだから振り返ると、そこにはグラス・ウルフ、グリーン・ウルフ、ウインド・ウルフの群れがこっちに向かってきていた。多いな。パッと見でも30匹はいるぞ。


「またけっこうな数だな。プリム、こっちからも多分やってくる。しかもボスはグリーン・ファングじゃない」

「ど、どういうことよ!?」


 アプリコットさんの顔が驚愕に染まり、プリムが大声を上げる。それでも群れから目を離さないのは流石だ。


「ドルフィン・アイでこの先を見てみたんだが、こっちに向かってきてるのはやたらデカい黒い狼だ。グリーン・ファングは緑だって話だろ?」

「黒?ま、まさか!」


 プリムの声に若干だが怯えの色が混じった。けっこう嫌な予感がするな。もうすぐ視界に入るし、これだけの数のウルフ種に囲まれてるんだから、逃げるのも無理だし、覚悟を決めるしかないんだが。

 お、見えた。やっぱデカい黒狼だな。


「や、やっぱり……ブラック・フェンリルだわ!」

「フェンリル!?」


 現れた黒い狼は、全長5メートル以上は確定の巨狼だった。闇色の体毛に覆われ、鋭く尖った漆黒の牙と爪を持ち、黒い宝石と見間違う程黒い瞳に怒りを込めて俺を睨んでいる。

 って、北欧神話の神喰狼様の名前がついてるのかよ!グリーン・ファングより格上決定じゃねえか!


「ウルフ種の頂点と言われる異常種の、さらに上位の存在……。一匹で街一つを簡単に落とせる力を持った災害種よ!」


 異常種のさらに上かよ。ウルフの数も数だし、こりゃ本気でいかないとあっという間に飲み込まれるな。

 ブラック・フェンリルが射程距離に入ったことを確認すると、俺はマルチ・エッジとミラー・リングを生成し、水性A級広域対象系術式ニブルヘイムと風性A級広域対象系術式アルフヘイムの積層結界を発動させ、先手必勝とばかりに先程ウインド・ウルフを倒した時より強力な氷の刃を纏った竜巻を、ウルフ種の群れに向けて放った。


 積層結界とは二種以上の広域系術式による結界で、積層術とも呼ばれている。俺は半径150メートルまでならなんとか展開することができるから、ブラック・フェンリルがそこまで来たことを確認してから発動させたんだが何匹か漏れてしまった。まあ漏れることは最初からわかってたから、結界に入るだけならそんなに手間じゃない調整をしてるけどな。実際そのウルフ達は、結界に侵入すると同時に氷の竜巻で首と胴体がさよならしたし。


 チラリとプリムの方を見ると、ウルフの半分近くがニブルヘイムとアルフヘイムで作られた氷の竜巻によって宙を舞っていて、明らかに怯んでいるのが見て取れる。そこにプリムのフレイム・アローが命中してるし、オネストもファイア・ブレスを吐いている。


「ありがとう、大和!こっちは急いで何とかするから、大和はなんとか時間を稼いどいて!」


 災害種って話だし、俺一人じゃ勝つのも一苦労な相手だからな。プリムが加勢してくれるんならありがたい。


 だけどその時間を稼ぐってのが大変だぞ。俺が一番近いわけだから、それは仕方ないんだけどさ。


 俺はマルチ・エッジを左手に持ち替え、右手にザックで購入したアイアンソードを構え、それぞれの刀身に水性B級対象干渉系術式ブラッド・シェイキングを発動させた。

 するとそれを合図にしたかのようにブラック・フェンリルが吠え、周囲のグリーン・ウルフが襲い掛かってきた。


「せえ……のっ!」


 そのグリーン・ウルフは、ブラッド・シェイキングを発動させたアイアンソードとマルチ・エッジの刃であっさりと切り捨てられるが、剣を振り切った隙をついて今度はウインド・ウルフが牙を剥いてきた。さすが狼だけあって連携はお手の物かよ。


 フィジカリングで身体能力を上げたおかげもあって、その場から一歩後ろに引いたつもりが5メートル近くも離れてしまった。慣れないと力加減が難しいが、間合いを取ることができたから今は良しとしよう。


 俺は着地と同時にウインド・ウルフに向かっていき、アイアンソードを真横に薙ぎ払い、ウインド・ウルフの左前脚を切り落とした。その程度、っていうのも変だが致命傷には遠いのはわかってる。だが左の前脚を切り落とされたウインド・ウルフは一瞬怒りの表情を浮かべるものの、アイアンソードに発動させているブラッド・シェイキングによって体内の血液を激しく振動させられた結果、すぐに体中から血を噴き出して絶命した。

 それを確認する間もなく別のウインド・ウルフに、今度はマルチ・エッジを投擲する。こっちは掠り傷程度しかつけられなかったが、それでもブラッド・シェイキングが発動したことによって動きが鈍った。俺はその隙を見逃さず、再びアイアンソードを振り下ろして、今度は首を切断した。


「開幕にニブルヘイムとアルフヘイムを使ったことが功を奏したな」


 プリムの方も含めて、結界内のウルフ種の数は50を超えていた。だけどニブルヘイムとアルフヘイムの積層結界によって、30匹近くのウルフ種が氷の竜巻に飲み込まれてその命を落としている。さらにプリムとオネストも攻撃してるし、チラっと見たらアプリコットさんも援護してたみたいだからさらに数は減っている。というか今も氷の竜巻は健在だから、まだまだ数は減っている。

 マジで開幕でニブルヘイムとアルフヘイムの積層結界使っといてよかった。50匹以上のウルフ種の連携攻撃なんて、正面から受けたら命がいくつあっても足りねえ。


「っとおっ!危ねえな!」


 一瞬プリムやアプリコットさんの様子を確認しただけだが、その僅かな時間でブラック・フェンリルは右前脚で俺を切り付けてきた。間一髪で交わした俺は、がら空きの胴体に向かってアイシクル・ランスを発動させた。

 だがほぼゼロ距離で発動した氷の槍は、ブラック・フェンリルに直撃こそしたものの体を貫通することなく砕けて消えてしまった。


「思ったより硬いな。無傷じゃないってのが救いだけど、なっ!」


 距離を取ったブラック・フェンリルに向かって、俺は水性B級広域干渉系術式ミスト・アルケミストを、半径5メートルで発動させた。ブラック・フェンリルは全長5メートル以上の巨体だし動きも早いから、これでも捕捉しきれるかどうかは不安が残る。だから同時に水性D級支援系拘束術式ウォーター・チェーンも発動させ、水の鎖でブラック・フェンリルの足を絡めとって動きを鈍らせることも忘れない。


 ウォーター・チェーンに気を取られたブラック・フェンリルだが、さすがに災害種と呼ばれるだけあってすぐに振り解いた。というか無理やり引き千切りやがった。水の鎖を引き千切るって、常識ってもんがねえのかよ。


 だがその一瞬がブラック・フェンリルにとっては命取りとなった。なにせ直後にミスト・アルケミストの結界内の温度はマイナス100度まで低下させたんだからな。


 水属性に適性を持ってる俺だが、それでも一気に温度を下げられるわけじゃない。最大でマイナス200度ぐらいまでなら冷気を操れるんだが、そこまでの低温になると少し時間がかかっちまう。なのに父さんや師匠は、普通に絶対零度を、しかもほとんど瞬間的に使いこなしてるからダメ出しが半端じゃない。特に師匠なんて火属性に適正持ってるのにだぞ。どんな化け物だよって話だろ。

 俺の同級生を例に出すと、マイナス30度~50度ぐらいがせいぜいで、俺がマイナス100度にまで温度を低下させるより時間かかってるんだから、俺もけっこうすごい方なんだぞ?まあそれで調子に乗れば、担任であり師匠の一人でもある女教師に殺されるだけだから、絶対に調子に乗らないけどな!


 それはともかくとして、さすがにマイナス100度まで急激に冷却されたわけだから、さすがのブラック・フェンリルも完全に氷り付いてしまっている。ここが寒冷地だったりしたら万が一があったかもしれないが、血液も氷らせたつもりだからさすがに死んだだろう。


 だけど念には念を入れておくか。

 苦手な属性だが火性B級支援干渉系術式ファイアリング・エッジをアイアンソードに発動させ、一気にブラック・フェンリルの首を切り落とす。これで完全に終わった。

 首を切り落とされても生きていられる生物なんて、地球にもヘリオスオーブにもいないだろうからな。ゴーレム?そもそも生物じゃないでしょ。アンデッド?既に死んでますよ。


 まあ、あとは残ってるウルフ種の始末だが、もうそんなに残ってないし、さほど時間もかからず終わるかな。

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