時代7 勉強会
村渡悠良、小学6年生。始めての勉強会を体験します。
――と言っても悠良は中学年の時に2度は勉強会したことがあった。
村渡家での集まりは6年になってから初めてのことである。
一番仲良しのカヤコは、クラスは違えど悠良の家の中は初めてであった。
6-3で知り合って友達を増やしたカヤコは、その相手を誘って勉強会に参加させた。
難関問題の『実の兄』が心配の種だ。だいたい帰宅時間がほぼ定期的である。
勉強会の場の悠良部屋を行くのに兄部屋を通りすぎる。どうしても鉢合わせの確率はありえそうな展開にある。
会わないように気を付けることを事前に言ってあろうが、寿康は別に顔見られても構わないと吐き出す。
悠良は、そんな風貌の悪い理想的兄像でない寿康を会わせまいと必死になり、春河玲夜を実の兄設定にさせることを依頼したらしい。
国語と社会の抜き打ち必修試験が近いので、今から念入りに学力強化のために生徒間で集まって出題範囲を復習しておく。その内容が勉強会を行う目的だ。
どうやら、寿康はその友達Bを演じる側として自分んチに「上がる」という設定になった。
「ただいま」
玲夜の声で村渡家に入ってきた。
「お邪魔します」
実の兄が意図的にぎこちなく振る舞った。
シナリオ通りに設定上の芝居をしてみせる高校生の二人。多忙の柔道部を仮病したのは、今回が初めての玲夜だった。
もちろんこのシナリオには母も参加してもらっているのだ。
「あ、トイレ借りるね。どこだっけ?」
6-3クラスメイトの田沼が悠良の部屋を出、ドアを締めたその時に隣室の兄部屋から玲夜が入る場面に差し掛かった。
「あっ、どうも……はじめまして。悠良さんのクラスメイトの田沼です。お兄さん……ですか?」
「うん、どうもはじめまして。妹がお世話になってるね。よろしく。勉強、捗ってる?」
「え……ええ、まあ……」
顔を赤らめて照れる田沼。早くトイレまで直行しにいった。
数分後。勉強会がスムーズに捗り、試験対策など既に完了した。
先ほどトイレ休憩の時の感想を述べてみた田沼。
「やっと、終わったね。ああ、トイレに行く時に、悠良さんのお兄さんにあったわ。イケメンで惚れたワ~」
早速、悠良シナリオの効果が表れた。これはうまくいけると思った悠良。
「ちょっと、外に出て風に当たってくるよ」
カヤコが言い、村渡家の庭に出た。
「レイヤーズのギター担当リーダー?レイヤーさんでしょう?」
カヤコが見たままの言葉を率直に玲夜に語ってきた。
「妹が……」
「嘘よ。その声、MCの時の声と同じだもの。ホントは兄っていないんじゃ……」
「ああ、知ってるようじゃ、ごまかせないな……このこと、ユラちゃんには内緒にしてくれないかな?」
「兄は架空上のサンブツだったんだぁ……」
「お兄さんは、ちゃんといるよ。僕のその隣のカレさ」
「ああ……アイツのシナリオがバレちゃったね。ホント、お友達には申し訳ない」
「そんな事かと思った。何となくだけど」
カヤコは、一つ悠良の秘密を知った。
実の兄に扮した男子が彼女の恋の相手なんだと。