時代4 大団円
極普通のどこにでもいる女子小学生。その彼女の単独帰宅が危なっかしい。でも、途中の帰途で馬鹿面さげた実兄が駆けつけてか、何とか事故や事件もなしに帰宅できた。
「まったくさ、一人で勝手に帰るなよな。保護者追随が義務化されてるんだ。お前にもしものことがあったら僕が親父たちに大目玉だったんだからな」
「すみませんでした。でも、でも……キスはあんまりだわ!!」
自室に駆け込んで閉じ籠った悠良。
寿康は彼女の部屋のドアをノックしだした。
「おいっ、キスってなんなんだ……なんかされたのか?」
「馬鹿アニは消えろ!! あたしは今ダークなの。放っといて!!」
「心配してるのに馬鹿とはないだろ!! もう知るか、お前なんか……」
兄妹間でもギクシャクしてて、重たい空気がのし掛かった。
その晩。寿康が就寝前に布団の上でSNS書き込みトークをやっていた。
トーク相手はブルーレイヤー。そう、春河玲夜のことである。
寿康のハンネは、リグリース。
有名なSNSサイト『リードAZ』で二人の男がトークしていた。
「……なんだブルー、お前の楽屋にギターレッスン講師のミノワさんが応援に来てたんだ」
「そうだけど、何かあったのか?」
「いやな……妹がギター演奏祭に来てな。僕が連れてきたんだが、午後の公演見ないで逃げて帰ったんだ。なんか心当たりないか……お前じゃ判んないよな。キスとかなんたら言ってたが」
「ミノワさんが、おまじないでくれたネックレスなら、心当たりじゃないが……それと誤解されることは……楽屋に入らないと判らないことだけどさ。」
「ネックレスでなんか判るのか?」
「俺一人でも付けられるのにワザワザ抱くようにして首に取り付けるから、楽屋入り口から覗けば、キス疑惑かけられてもおかしくないからさ」
「おそらくそれだな。アイツ、レイにホの字だし、ヤキモチ妬いてそうだったから……」
「そう……か。ユラちゃんは楽屋に来てたんだな。近日中に会って、さりげなく話しかけてみるよ」
ある休日。寿康の誘いで村渡家に遊びに来た玲夜だった。
「こんにちは……玲夜だよ。あっ、声で判るよね」
悠良の部屋のドア前で語りかけてくる玲夜。
悠良は相変わらず誰とも口を開かずに突っ張っていた。
「玲夜さん、放っといて!!」
「こないだ楽屋寄ったんだって? ギター講師の女性が応援に来ていたんだ。公演を成功させるためのおまじないでネックレス、首に付けてもらったんだよ。自分で付けられるのにさ、講師の人、ワザワザ抱くようにして付けるからさぁ……」
「その話……ホント?」
「……俺はユラちゃんに一度もウソはついたことないじゃない。もしや疑ってる?」
「う……ううん……疑ってなんか」
「ちゃんと、顔向けて話したいな。ダメなら良いけど」
静かにドアを開けて、玲夜を迎え入れた悠良。
「玲夜さん……あ、あの……すみませんでした!!」
「ハハハハ……なんだかんだ言って、まだ子供だな。でも、そんなユラちゃん好きだよ。ちゃんと顔向けて話せたじゃないか。もう、部屋に閉じ籠っちゃダメだからね。ユラちゃん、約束しよう。もう……閉じ籠ったり引き籠もったりしちゃダメだよ」
「う……うん、判りました。玲夜お兄さん!!」
「じゃ、約束だからね。また、遊びに行くから……」
こうして、悠良の心の闇は消し去った。
片想いやジェラシーのモヤモヤが自然に解消され、清々しい気持ちに戻れた悠良だった。