時代3 彼女
初夏が過ぎた頃。まだ夏には程遠く、気温はもう夏真っ盛りの雰囲気であった。
扇立高校の学生音楽バンド祭。今年は2学年の代表、春河玲夜をリーダーにしたギターバンド『レイヤーズ』が取り仕切った。
一般参加型の音楽イベントなので、兄の誘いで同行した長女の悠良。
小学生で高校の音楽祭に参加したことが、胸をときめかせた。
玲夜のギター演奏が絵になっていたからか、学園内の女子は玲夜の演奏アピールに酷く熱狂的だった。
「玲夜さんのファンってあんなにいるんだ。イケメンだし……そうよねぇ~。あたしも負けてられないわ」
何とか舞台裏に立ち入れた悠良だった。
「レイ、ほら……午後の部もあるから、休まないと」
女の声が聞こえた。
おそらくは同級生の女子だろう。
「大丈夫だよ。少し気分転換すれば、なんとかなるさ」
「レイ、おまじないしてあげるわ。ほら、コッチ……」
悠良の視界にはコッチの場所が判らなかった。少しドアの向こうに頭を突っ込んでみた。
その二人のやり取りは、キスであった。
初めてのジェラシーを感じた純粋無垢な乙女。
彼女の心境はゴタゴタになり、気持ちの整理がつかなかった。
「アレが……大人のキス!?」
午後の公演すら見に行けずに、帰途の地図を教えてもらった女子小学生。
保護者なしでまっすぐ帰れても、危険なのだから単独行動は避けねばならない。
でも、保護者なんたらの問題じゃない。
複雑な思いの悠良は、カレにどんな顔して向ければ良いのか判らなくなった。